ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ 作:カイテン・マテナカータ
街灯が夜を照らしている。
人気もほとんどなくなった公園に、マミは独りで立っていた。
周囲を確認し、ソウルジェムを指輪の形へと変える。普段から宝石の形のまま持ち歩いていると、目立つことこの上ないのだ。
だから指輪にして、目立たないよう身に着ける。
街灯に蛾や蝶がたむろしていた。
「分かってるの」
暁美Mほむらがそこにいた。
いつの間にか、マミは背後を取られていた。
ちらりとマミが目を向ける。
「あなたは無関係な一般人を危険に巻き込んでいる」
すらすらと流れるように、ほむらはマミの非を問う。マミは振り返り、毅然として言い返した。
その声音には、少しだがほむらと良い関係を築きたいといった余裕さえ込められているのだった。
「彼女達はキュゥべえに選ばれたのよ?もう無関係じゃないわ」
「あなたは二人を魔法少女に誘導している」
「それが面白くないわけ?」
「ええ、迷惑よ」
はっきりとした言葉は、それまでとは明らかにこもる意志の強さが違うような気がした。
「……特に鹿目まどか」
ぼそりと付け加えられた言葉に、マミは微笑んだ。
それは敵を値踏みする笑みだ。
「貴方も気付いていたのね、あの子の素質に」
「彼女だけは、契約させるわけにはいかない」
「自分より強い相手は邪魔者ってわけ?いじめられっ子の発想ね」
ぎち、と空気が軋む音がする。
二人の魔法少女がぶつかれば、それだけ無駄な消耗が増える。ほむらは、目を閉じた。
いつのまにか癖になっていたようだ。
「耳にタコができるほど聞いた言葉ね。強いことがそんなにも偉いのかしら」
ほむらは眉を寄せ、その黒い髪を払った。
煽った割に手ごたえが薄く、マミとしては少々拍子抜けする。しかしそれと同時に、帰ってきた言葉も無視できるものではなかった。
強い、と言われたことにあの時と同じ言いようのない不安と焦りを感じつつ、マミは言う。
本当ならこれくらいで止めておくつもりだったのに、緊張に反発するように言葉を強めた。
「二度も同じことを言うのね。強いことは大事よ。私は強いからあなたと話し合いができる。そうでしょう?それにたこができるほど今みたいな言葉を聞くって、よほどコミュニケーションが下手なのね。まぁ、構わないわ。どうせもう次は協力なんてしないと言ったから。敵同士だもの」
「……随分と饒舌ね。感情を制御できないことも、あなたが弱い理由」
「あなたがっ!私の何を、知って……!」
ほむらは変わらず、冷たい瞳でマミを見やる。
おもむろに、ほむらはソウルジェムを取り出した。その不可解な行動と言動に、マミの混乱はさらに深まっていく。
「知っているわ。あなたが挙げそうな事柄程度なら、なんでも」
「なっ……」
「あぁ。でも、そうね」
そう言って、ほむらは初めてマミを正面から見据えた。
その目は、冷たささえも感じられなかった。
にこ、とほむらは笑う。マミの背に怖気が走った。これを野放しにしていて、いいのか?
「あなたの名前を知らないわ。巴マミ」
「何を……苗字も、言ったことはないはずよ……」
「どうでもいいわ」
「あなたの、魔法少女としての名前よ。減るものではないわよね。だから、私のも教えてあげる」
マミは沈黙した。
ほむらは黙ってマミを見つめた。
やがて根負けしたように、マミが喋り始める。
「マミ・T・スグシヌワ……それも、知っているの?」
「……さぁ、どうかしら。予想はしていたけれど」
いつの間にか戻っていた仏頂面で、ほむらは言う。
ほむらのソウルジェムが、彼女の手の中にあった。魔女の姿も見えないのに、うっすらとだけだが灯っている。燐光は、一瞬だけ見えたかと思えばすぐに消えた。
「私はほむら・A・マドカスキー……もっとも、鹿目まどかと美樹さやかに聞いていれば、あなたも既に知っていることだと思うけれど」
「あら、そこまで分かっていたのね」
警戒はしていた。
しかし、ここまで頭が回るとは思っていなかった。
マミは少しだけ本当に驚いた顔をして、指輪に魔力を込める。
不確定要素が大きい相手だ。
どうして名前を呼ぶのにミドルネームを省略するのだろう。とても気になるというほどではないにしろ、名前がバレているのもあり、何らかの力は使っているようねとマミは考えた。
魔法少女と戦うのなら、変身までの時間は出来る限り短い方がいい。それができなければ、先に動かれた時点で負けが決まっている。
だからこそこんな無駄な争いに使っている暇はないのだ。
「ところで、一つだけいいかしら。単に興味を基に聞くわ。裏の意図などないから、自分の考えを答えて」
「なあに?」
ほむらはどうでもよさそうに言った。
聞きたいと言う割にはそれへの執着を全く感じられなかった。先程までの雰囲気とも違う、小さな綻びがあった。
マミは続きを促す。あまり聞きたくはないのだが、あなたの事をなんでも知っていると言われた後の問いがマミは怖かった。だって、ここで聞かなかったら後で絶対に良くないことが起こっちゃうじゃない。
ほむらは言う。
「あなたはネタバレを許せる?それとも、許せないかしら。答えはどちらか一つよ」
病院の中、エレベーターを出る。さやかはため息をついて待合室で座っているまどかとキュゥべえに近寄った。
「よ、お待たせ」
「あれ?上条くん、会えなかったの?」
「なんか今日は都合悪いみたいでさ」
病院を出て、さやかとまどかは駐輪場の近くを歩いていた。
さやかは軽口を叩く。
「わざわざ来てやったのに、失礼しちゃうわよね〜」
まどかが立ち止まった。
病院の柱の一本に、妙に目を取られた。
さやかが「どうしたの?」と尋ねる。まどかは「あそこ、何か……」と目を凝らした。キュゥべえの目が同じく柱を捉え、切羽詰まった声で言った。
「F・グリーフシードだ!孵化しかかってる……!」
「う、嘘!なんでこんなところに!?」
「まずいよ、早く逃げないと……もうすぐ結界ができあがる!」
またあの迷路が、とさやかはデパートの時を思い出す。
そして何かに気づき、まどかに尋ねた。
「まどか!マミさんの携帯聞いてる?」
「えっ、ううん……」
「マズったなぁ……まどか、先に帰ってマミさんを呼んできて。あたしはこいつを見張ってる」
「そんな……!」
「無茶だよ!」
まどかとキュゥべえは否定的だ。
「中の魔女が出てくるにはまだ時間があるけど、結界が閉じたら君は外に出られなくなる!マミの助けが間に合うかどうか……」
「あの迷路が出来上がったら、こいつの居場所もわかんなくなっちゃうんでしょ?」
さやかは病室を想起する。
供えられた花、風に揺れるカーテン。部屋の音が途切れるのは、さやかにとって何よりも嫌なことだった。
「放っておけないよ……こんな場所で」
さやかの決意のこもった目がまどかを射抜く。
まどかは不安そうにさやかを見つめた。キュゥべえがまどかの肩を降りてまどかに向き合う。
「まどか、先に行ってくれ。さやかにはボクが付いてる。マミならここまでくればテレパシーでボクの位置がわかる。ここでさやかと一緒にグリーフシードを見張っていれば、最短距離で結界を抜けられるようマミを誘導できるから」
「キュゥべえ……ありがとう」
「わたし……すぐにマミさんを連れてくるから!」
バッグをその場に置き、まどかは走り出す。そして病院のグリーフシードからは黒いもやと亀裂が広がっていた。
さやかとキュゥべえはそっと近づいた。
光が溢れると、そこにはもう二人分のスクールバッグがあるだけだった。