ネタバレが激しすぎる魔法少女まどか☆マギカ   作:カイテン・マテナカータ

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七話より先に八話を更新してました…まだ原作沿いの展開ですので、読み飛ばしてもらってもたぶん問題ないです (ある)
詫びの定期更新


第九話 本当に?

 魔女の結界内には、魔女には満たない小さな異形がそこかしこにいる。

飴頭の看護師や、飴玉の体を持つネズミなどがそうだ。風景もまるで、お菓子の家か、あるいはお菓子の洞窟とでも呼ぶべき形をしていた。

 黒がベースであるため、全体的に雰囲気は暗い。

 しかし、お菓子の毒々しい色味で強引に中和されている。これまで同様、歪な風景だった。

 その結界の中を、さやかがキュゥべえを抱きかかえて歩く。

 

「怖いかい、さやか」

「そりゃ、まぁ……当然でしょ」

「願い事さえ決めてくれれば、この場で君を魔法少女にしてあげることも可能なんだけど……」

 

 手術中の赤い光が点っている。

 檻のような扉の先に、内側の光脈動するグリーフシードがあった。

 

「いざとなったら、頼むかも。でも今はやめとく」

 

「あたしにとっても大事なことだから……。できることなら、いい加減な気持ちで決めたくない」

 

 夕焼けに染まる病院。

 まどかが連れてきたマミが、グリーフシードの痕跡に左手をかざす。その中指には、ソウルジェムが変化した指輪が嵌っていた。魔力が込められ、輝く。

 結界との繋がりができた。目を瞑ってキュゥべえに問いかけた。

 

(キュゥべえ、状況は?)

(まだ大丈夫。すぐに孵化する様子はないよ)

(さやかちゃん、大丈夫?)

(へーきへーき。退屈すぎて居眠りしちゃいそう)

 

 軽口を叩く余裕があることにまどかはとりあえず安心した。

 

(むしろ迂闊に大きな魔力を使って、魔女を刺激する方がまずい。急がなくていいから、なるべく静かに来てくれるかい?)

(ええ、わかったわ)

 

 マミとまどかは、できた入り口から結界に足を踏み入れた。

 自転車に、夕焼けの光が反射した。

 

 異常な空気の中をマミとまどかは歩いていく。まどかの手は、マミに大事そうに握られていた。

 

「間に合ってよかった」

「無茶しすぎ。って怒りたいところだけど……今回に限っては冴えた手だったわ。これなら魔女を取り逃す心配も……」

 

 マミは喋りながら、まどかを見ようと振り返る。まどかも振り返り、あっと声を上げた。

 あまり見たくなかったものがそこに写り込んでいた。

 

「言ったはずよね。もう二度と会いたくないって」

「今回の獲物は私が狩る。あなたたちは手を引いて」

「そうもいかないわ。美樹さんとキュゥべえを迎えにいかないと……」

「その二人の安全は保証するわ」

 

「信用するとでも思って?」

 

 マミは指輪から魔力を解放する。光がほむらを向けて動いた。ほむらは目を閉じる。

 ほむらは顔色を変えず逃れようとするが、地中から飛び出した2本のリボンであっという間に拘束された。

 鎖の模様がついたリボンが、花形の錠で留められる。

 空中で縛り付けられ、ほむらは何かをする自由を奪われたのだった。

 

「ふう……昨日のことを、警戒しているのでしょう?」

 

 冷たい声色でほむらはこぼす。

 ここまでされてなお冷静なほむらに、流石のマミも違和感を感じたようだった。

 

「……それはね。私たちの心を読む力を持っていても特段驚かないわ。喋らせ続けるのは危険だと判断しただけ。怪我させるつもりはないけど、あんまり暴れたら保証しかねるわ」

「今度の魔女は、これまでの魔女とは訳が違う」

 

 ほむらは淡々と事実を告げるような口調で言った。

 その言葉を無視して、マミは言葉を投げかける。

 

「大人しくしていたら、ちゃんと帰りに解放してあげる……行きましょう?鹿目さん」

「ねぇ、鹿目まどか」

 

 唇を噛み締め、ほむらはまどかを見る。その目には、歪な色が浮かんでいた。

 まどかを見ているようで、何も見ない目。そんな虚とは対照的に、口元はへらりと笑っている。どうしようもない壁にぶつかって望みを逸したような顔だった。ほむらはまどかに媚びるような目をしていた。

 聞いたことのない声色で言う。

 

「あなたは、他人からのネタバレを許せる?」

「えっ、わたし?わたしは……」

「鹿目さん」

 

 場違いな質問、と一瞬よぎりつつも後ろ髪を引かれていたまどかは、呼び止められて律儀に考えた。

 その先を取るように、マミがまどかを見た。普段ならありえないほど、凍るような低温を持った瞳をしている。

 しかし、ほむらは止まらない。マミの視線はそちらを向き、リボンの拘束が強まった。それでもなおほむらは苦しみ喘ぎながら、声を絞り出す。

 

「例えばっ、ひゅ……もうすぐ誰かが死んでしまう。それを、知っていて……あなたは言うっ、か、しら?答えはどちらか一つ、だけ……」

「そんな……わたしが、知ってるの……?」

「違う、わ……し────」

「黙りなさい」

 

 ほむらの口にリボンが巻き付く。まどかがあっと声を上げる間に、拘束はそれまでと比べ物にならないほど強固に、頑丈になされた。空いているのは鼻、吸気口だけだ。

 やりすぎなほどの拘束に、若干まどかはマミさんに引く。

 けれどもそれより、まどかを見つめ続けたほむらの表情がいやに気になった。

 

「瞬間移動のような、あれ以外にも魔法を……いえ、有り得ないわ。つまりあれは彼女自身の話術……もっと警戒すべきだったかしら」

「マ、マミさん……?」

 

 マミはまどかの不安そうな声を聞いて、こちらに微笑みかけてくれた。

 それを嘘だとは思えなかった。

 

 ワッフルの壁の前を、二匹の飴鼠がひょこひょこ走っていく。

 それを確認して、マミとまどかは壁の裏から出た。不自然なほど綺麗な扉を、マミが躊躇せずに開けて入った。

 瓶に入った何かがある以外、道すらない道をマミがまどかの手を取って歩く。

 

「あのっ、……マミさん」

「なぁに?」

「願い事、私なりに考えてみたんですけど」

「決まりそうなの?」

「はい。でも、あの……もしかしたらマミさんには考え方が甘いって怒られそうで」

「どんな夢を叶えるつもり?」

「私って、昔から得意な学科とか、人に自慢できる才能とか、何もなくて。きっとこれから先ずっと、誰の役にも立てないまま、迷惑ばかりかけていくのかなって。それが嫌でしょうがなかったんです」

 

 新たな扉があった。マミはそれを開き、危険を確認する。

 元の洞窟と同じような場所だった。飴看護師や飴鼠に見つからないよう歩く。

 橋を二人だけで歩いた。

 

「でもマミさんと会って、誰かを助けるために戦っているのを見せてもらって。同じことが、私にもできるかもしれないって言われて。何よりも嬉しかったのはそのことで……」

 

 マミは唇を引き結ぶ。

 まどかは決心した顔で言った。

 

「だから私、魔法少女になれたらそれで願い事は叶っちゃうんです!」

「こんな自分でも、誰かの役に立てるんだって胸を張って生きていけたら、それがいちばんの夢だから……」

 

 マミがまどかから手を離す。

 

「大変だよ?怪我もするし、恋したり遊んだりしてる暇もなくなっちゃうよ」

「でも、それでも頑張っているマミさんに、私、憧れているんです!」

 

 前を行くマミが立ち止まった。

 

「憧れるほどのものじゃないわよ、私」

 

 まどかは、空気の変化を感じた。

 

「カッコつけてるだけで、怖くても辛くても誰にも相談できないし。ひとりぼっちで泣いてばかり……良いものじゃないわよ、魔法少女なんて」

 

 心細そうな背中だった。まどかは、慈しむように微笑む。

 

「マミさんはもう、ひとりぼっちなんかじゃないです」

「っ、そうね……そうなんだよね」

 

 マミは振り返ってまどかの両手を取った。

 その瞳の縁には、今にもこぼれ落ちそうな不安がゆらめいている。

 

「本当に、これから私と一緒に戦ってくれるの?」

 

 目を閉じて、マミは深呼吸した。

 

「そばにいてくれるの?」

「はい。私なんかで良かったら」

 

 マミは泣き笑いの表情で瞳の縁を拭う。

 マミの本心を、その不安を見せてもらえたような気持ちだった。

 

「まいったなぁ。まだまだ先輩ぶってなきゃいけないのになぁ……やっぱり私、ダメな子だ」

「マミさん……」

「でもさ、せっかくなんだし……願い事は何か考えておきなさい!」

 

 マミが言うと、まんざらでもなさそうにまどかが返答する。

 

「せっかく、ですかねぇやっぱり……」

「契約は契約なんだから、物はついでだと思っておこうよ。億万長者とか、素敵な彼氏とか!なんだっていいじゃない!」

「いやぁ、その……」

 

 決められなさそうなまどかに、先んじてマミが提案する。

 

「じゃあ、こうしましょう。この魔女をやっつけるまでに願い事が決まらなかったら、その時はキュゥべえにご馳走とケーキを頼みましょう!」

「け、ケーキ!?」

「そ!最高におっきくて贅沢なお祝いのケーキ!それで、みんなでパーティするの!私と鹿目さんの、魔法少女コンビ結成記念よ」

「わたし、ケーキで魔法少女に!?」

「嫌ならちゃんと自分で考える!」

 

 厳しくも思いやりある言葉に、まどかははいぃ……と悩むことしかできなかった。

 なんとなく、それまでよりもマミとまどかの距離は近づいていた。

 

(マミ!)

 

 テレパシーが届く。マミはそちらに意識を向けた。

 キュゥべえを抱えるさやかの前で、グリーフシードの中からぐにゃぐにゃとした塊が這い出してくる。

 

(F・グリーフシードが動き始めた!孵化が始まる!急いで!)

 

「分かったわ。今日という今日は速攻で片付けるわよ!」

 

 マミがソウルジェムを体の前にかざし、一瞬で変身する。橋の下にいた鼠の群れが、一斉にマミを見た。

 巨大ケーキの籠が生まれ、その中に飴鼠が群れている。マミはまどかの周りにリボンで結界を作り、手出しできないようにしてからケーキの籠に降りた。

 いつものように単発式の銃を取り出し周囲に差しておく。

 胸から取り出した銃をバトンのように振り回し、銃口を定めた。

 

 正面の一匹を撃つ。背後の一匹を銃身で撫でる。足で二丁の銃をカチ上げ前後四匹、叩いて撃つ。

 側面二匹を捨てる銃でまず一匹、足で蹴り飛ばし二匹目。次の両手に取った銃で二匹殴りつける。両側から来る飴顔の真正面に銃口を置いた。捨ててすぐ地面に跳ねる銃を蹴り抜いて一匹、残った最後の二丁も外れなく。

 廻りながら踊りながら舞いながら仰け反る。仰け反り、マミの腹部から銃が飛び出た。

 視界を塞ぐマスケット銃に、飴鼠は怯えて動かない。そうしてまごついている鼠を一掃していった。

 鼠を穿った場所から、糸が伸びた。

 束ねた糸を垂らし、それに捕まってマミは飛び回る。

 マカロンの高塔の上で、両手の砲を発射した。

 

「体が軽い……こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて」

 

「もう何も怖くない」

 

 まどかのそばに降り、マミは思う。可愛らしい後輩を連れて、共に歩くことができる。

 これ以上の幸福などどこにあるというのか。

 もう私は、ひとりぼっちじゃないもの!

 

 一瞬だけ、その感情の奔流を妨げるものがあった。

 

『あなたは────』

 

 暁美・マドカスキー・ほむら、彼女の言葉が頭をよぎる。……あなたの思い通りにはならないわ。私がさせない。

 扉を開き、マミはまどかを連れてキュゥべえのところへと走った。

 そこには甘ったるい香りだけが残った。

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