OVER ROAD〜すべてが〇〇だったはず〜 作:ニコラス―NICORUTH―
「 さて、行くか。 」
地理解説の翌日、オレは早速飛竜騎兵部族の里に向かうこととした。いつもの身なりに杖、剣、ポーションいくつかと蘇生アイテム。そして、彼女から奪った、アレ。一通りの支度が済んでいる。曰く、タドコロもMURも当初からオレを行かせるつもりだったらしい。
飛竜はドラゴンの一種なので、専門家のオレが行くのは理にかなっている。ユグドラシルでもドラゴン系のモンスターとしてカウントされていた分、運営はよくわかっていたよなと思い返す。
現在では単純にドラゴンの下位種という扱いの多いワイバーン。なにかしらの伝承にでてくる、名だたる英雄と戦ったという訳ではなく、紋章学から生まれたドラゴンなのだ。王族の紋章として使われることの多くなったオーソドックスなドラゴンの下位番兼代用品として、二足に翼を備えた、あのフォルムの竜が使われるようになったのが始まりだ。名の元はフランスの旧きドラゴン、ヴィーヴル。
メスしかいないドラゴンで、その名はラテン語で、「マムシ」を意味する。
ヘビとドラゴンの関係が深い証左の一つだな。
ワイバーンがドラゴンとしてより強く認知されるようになったのは、今より100と36年ほど前からだ。
2002年に公開された、米英合同制作映画、
「 サラマンダー 」。この映画がそもそものきっかけだった。この中では、かつて恐竜を絶滅に追いやった生物として、ドラゴンが大量発生。人類も滅亡寸前まで追い詰められるのだが、このドラゴンというのが、まさしくワイバーン体系だった。
曰く学説的に無理がないのだという。ブレスの原理も、口の中に高熱ガスを発射する機関があるという、ミイデラゴミムシを参考にした独自の生態として組み込まれたしな。
この「 サラマンダー 」自体はそんなに振るわなかったんだが、今作が、その後の映像作品におけるドラゴンを定義づけたといってもかごんではなかった。
なにせ映像化すると、みんなワイバーンになったからな。
「 ホビット 」のスマウグも、「 ハリー・ポッター 」のハンガリー・ホーンテールも。
両者とも、原作ではオーソドックスな四足歩行のドラゴンなのだ。それがワイバーンの体系として映画で描かれる事が多々ある。
「 サラマンダー 」のミームがここで活きてくるわけだ。
ゲームにおいても、MHの看板モンスター、リオレウスが不動の人気を誇り、飛竜という言語の知名度向上に一躍買った。
こうしてワイバーンは、よく知られるドラゴンとしての側面を持つに至る。
あと、何故か佐々木小次郎がワイバーン狩りに名手として名を馳せたこともあるらしいが、あれはなんだったんだろうな?
・・・で、だ。この近くに、これを用いる、共生してきた部族の里があるらしく、今よりそこへお邪魔しに行くわけだ。タドコロの本拠、都市国家連合の者だ〜ってね。
この飛竜騎兵部族の里を傘下に置くことで、魔導国の影響を遮断する、という意図がある。
そして、今日が楽しみで一晩寝付けなくなっていたオレだ。
そんなところがあると聞いたとき、飛竜に乗ってるライダーたちの姿を想像した。天を舞う雄々しきワイバーン。それを友とし風に髪を靡かせる、勇ましき戦士たち。全員男だ。女はいらん。悶絶ものだった。ペロロンはシャルティアが動き話しているのを初めて見たとき、悶えたようであるが、同じような、それでいて素晴らしいものの一つと巡り会えた、知れた時のような感覚だ。流石に誰かがモナリザの手を見た時のように勃ちはしなかったが、是非とも見たい、直に目の当たりにしたいといても経ってもいられなくなった。そう、他の誰かに汚されるよりも前に。
魔導国の連中になどくれてはやらん。奴らはワイバーンを、そこに住まう者たちを資源としか、ゴミとしか見なさぬであろう。それは、あのアルベドや戦闘メイドを見れば一目瞭然だ。他をひたすら見下し、踏みつけにするしか能がない。己等の欲望によって飛竜たちの住まう里を滅ぼす、支配し奴隷のように扱うなど愚の骨頂。ましてアンデッドをばら撒いてインフラ整備なんぞして、テメェの悪辣さを誤魔化そうなぞ許すわけねぇだろ。なぁ、ポルンガ様?
「 さてと。では誰を連れてくかね? 」
あちらがドラゴンに乗っている以上、こちらもドラゴンを伴っていかねばならん。竜とともに生きている部族なのだ。オレのもみせてやりたいし。
しかし、悩むものだ。
流石にドランゴやヤッチェではいかんな。わかりやすい奴がいいが、いかんせんファヴニールが法国に知られたせいで駆り出しづらい。
うーん・・・
よし、アイツにしよう。アイツなら一目でドラゴンだとわかる。いかんせん目立つが。
「 来い、シーザー! 」
オレが杖を振るうと、その場に1体の竜が現れる。王道なフォルムに、金色のシルエットが特徴的なそのドラゴンは、DQイベント初のモンスターの中でも特に人気があった。
グレイトドラゴン。それがこいつの種族名だ。
「 今回はお前を連れて行く。よろしくな。 」
「 グオォン! 」
シーザーは短く鳴いた後に、オレを背に乗せその立派な翼をはためかせて、飛び始める。
さぁ、行こうぜ。金の龍の背に乗ってぇ〜♪
空色が近くなり、それに反比例してヴリヒルドリアが、平野が小さくなっていく。龍の背の上で、オレの身体が心地よい風に晒される。
あの大気が汚染された世界ではこんな体験はできなかったろう。
オレは今ドラゴンに乗り、空を飛んでいる。
ユグドラシルでもできたことだが、ゲームの中ではないということが、この光景に新鮮味を与えてくれている。この感覚は間違いなく作り物ではない、本物なのだ。
シーザーが思ったより飛ぶ速度が速かったのか、それとも思いのほか近かったのか、それらしき集落が段々と見えてきた。何処ぞの遊牧民族のそれのような、独特な構造の建物群。普段ならば、人々の活気に満ちた賑わいの声が聞こえてくるようなものだが、初めてくるこの日は何処か違った。妙に静かな上、火の手が上がっている。
部族というくらいなので、祭事とかであれば、太鼓などの楽器の音がなっていそうだが、あるシルエットを見たことでのっぴきならない事態が起こっているという確信を持つに至る。
「 あれは・・・ 」
なにかが横たわっている。ここからでもよく見える。あれはまさか・・・!
「 急げシーザー! 」
「 グゥゥウン!! 」
鬼気迫るオレの気を察してくれたか、シーザーはそれに向かって高度を落としながら、翼を急がせる。風を切る音がごうっと大きくなるにつれ、それの実態がより鮮明になっていった。
その巨体はそこに横たわっていた。大きな蜥蜴。
そう形容できる赤い姿。頑強な鱗は、その生命の逞しさを表すよう。
そしてやはり、目を引くのは、この大っぴらい翼膜を備えた前腕であろう。
シーザーから降りたオレは、より近くでそれを目の当たりにする。間違いない。
「 火炎の飛竜。ユグドラシルにもいた種だ。 」
かつては多くのドラゴンライダーが、こいつのスピードを買って愛用したワイバーンだ。
MHイベント実装の際、リオレウスやティガレックスをはじめとした飛竜種たちにお株を取られるかと懸念されていたが、実際のところ、MHのモンスターたちは、鳥竜種や低位の牙獣種などを除いては、召喚魔法によってしか運用できなかった。
ビーストテイマーもテイムが出来ず、ドラゴンライダーたちはリオレウスを使役することはできなかった。
その為、コイツはその後も現役であり続け、多くのテイマーやライダーたちに愛された。
それが今、物言わぬ骸と化してしまっている。
「 また、赤い竜か。それに・・・ 」
その一体だけではなかった。その周囲には同じ飛竜や、革鎧を着た人間の死体。この人間たちはおそらく飛竜たちの乗り手たちか。
臭いからして、肉の腐敗が進んでいないようだ。とすると、一手早く誰かが来て、このような惨事を起こしたか。
その正体を、すぐに知ることとなった。シーザーがなにかが近づいてくるのを感じ取り、唸り声を上げた方向から、それはいた。
巨大な生物が、飛来する。ワイバーンだ。鱗の青い氷結の飛竜だ。
だが、なにかに纏わりつかれているのだろうか、それを振り払おうと必死に暴れている。しかし、抵抗虚しくソレにうなじを切られ、地面に落下した。
「 ・・・! 」
動かなくなったワイバーンの上に、それは佇んでいた。女性だ。気品を感じさせる顔立ちと十束のロールされた金髪。黒いメイド服と、エレガントさを感じさせる脚甲。
彼女と会うのは、これが初めてではない。
大人の時間を過ごしているところを、オレは目の当たりにしている。
「 子どもの股間のお世話を済んだのか? 」
「 ・・・マーレ様は、お戯れになる気にはなれないご様子ですので。 」
「 そうか・・・で、これはお前らのボスの差し金か? 」
「 デミウルゴス様のご提案です。アインズ様にな伝えられていないでしょうが、あの御方はご存知でいらっしゃるでしょう。 」
デミウルゴス。またヤツか。つくづく不愉快なヤツだ。それにしても、ポルンガはこれを知らないか。おいおい部下の管理がなってねぇな、魔導王屁以下よ。
「 これをやる事への意義は? 」
「 我々の威を示すと同時に、竜王国への早期の属国化を促すこと。 」
ほぉ、ちゃんといえるのか。そこは仕事のできるヘロヘロのNPCといったところか。
だがよ・・・
「 だが主人の断りなしに、このような真似をしでかして良いのかよ? 」
「 先ほどもいったでしょう?あの御方は全知全能であらせられ・・・ 」
「 お前らはホモンガを過大評価しすぎだ。 」
「 あの御方は名を改められたので・・・ 」
「 知るか。確かにPVP5割をワールドディザスターでもない魔力系の死霊術師という、あの味噌ッカスのようなビルドで叩き出した猛者ではある。だが、所詮は小卒のサラリーマンだ。お前らのような化け物を統べるに相応しい全知全能の能力とやらがある訳が無い。虚飾に塗れ、ナザリックに籠るしか能のなく、ユグドラシルにしか居場所のなかった、いや出ようともしなかった弱き者。それがアイツだ。 」
「 貴方・・・ 」
「 文句があるなら、いってみろ。 」
ソリュシャンは、その粘体が形作った顔をプルプルと震わせ、怒気を顕にする。手に握られたダガーはまるで彼女の殺意を表すが如く、鋭利な切っ先が光を反射した。
「 アインズ様を愚弄するか・・・! 」
「 するさ。なんたってあの野郎が嫌いで嫌いでたまらないからな。あのマッチポンプばっかのハゲ髑髏がよ。そうそう、アイツはギルドのメンバーを探しているようだが、お前の主人はとっくに荼毘に伏してるからな。 」
「 !? 」
悪いな、ヘロヘロ。多分、タドコロの話を聞くに、お前は恐らく長くない筈だ。が、ここでお前まで愚弄することになってしまったこと、許して欲しい。
「 貴様ァァァァァァァア!! 」
主人が死んだという根も葉もない嘘に唆されたソリュシャンは、短剣でオレを斬りつけようと飛びかかってきた。が、だ。
「 〈メラミ〉! 」
お前忘れてねぇか?オレは一応、プレイヤーだって事。お前程度、〈メラミ〉で十分だ。
彼女は火球を喰らって、その場に力なく倒れた。
ま、43レベルも差があれば、こんなものだろう。
「 バカなヤツだ。もう少し冷静になって考えろ。お前ら如き相手になると思うんじゃねぇ。
・・・が、ちと言い過ぎたか。な、ペロロン? 」
オレの後ろから、金の鎧のバードマンが飛来する。ペロロンチーノはオレがモモンガや階層守護者と会敵した場合のバックアップとして同行することにしていた。
そんなペロロンは苦々しく口を開いた。
「 さっきのは言い過ぎだぜ、あるじぇんとさん。生みの親をずっと待ってたのに、死んだなんてのは酷だよ。しかし・・・ 」
意識を失ったソリュシャンを見て、なにか思うところがあるようだ。
「 どうした? 」
「 ヘロヘロさんはさ、最後のあの日には来てたらしいんだ。 」
「 ほう?転職してから殆ど会ってないってタドコロがいってたが、アイツいたのか。 」
「 ナザリックにいたみたいでさ、モモンガさんと話をしたらしいんだ。あの日にログをみたらサービス終了の少し前にログアウトしてた。 」
「 なるほど。アイツのことだから、仕事が忙しすぎたんだろうな。それも長くサーバーに残れない程に。 」
「 ・・・ヘロヘロさん、どうしてるかな? 」
「 生きてるといいがな。絶望的だろう。
あのご時世だ。過労死なんて珍しくもない。
が、だ。もしも・・・ 」
「 もしも? 」
「 もしも、ヘロヘロがもう少し長くナザリックに留まったのなら、モモンガもここまでのことはしなかったろう。アルベドもギルドメンバーの抹殺に動くことはなかったやもしれん。 」
「 そう、かな? 」
「 アレの異常性は重々承知のうえだが、それを助長したのは、アイツ自身が、ナザリックという絶対肯定の地獄に囚われたことだ。 」
「 地獄?ナザリックが? 」
「 そうだ。さっきのソリュシャンや、アウラ、シャルティア、そしてアルベドを見ればわかるが、共通してNPCは主人であるモモンガを絶対の存在として神聖視し、その行動になんの疑念も抱かない。
至高の御方とか大層な呼び名で神格化すらして、同じNPC以外の物を、基本下に見ている。 」
「 至高の御方々なんて、オレそんなに凄い奴だったのかな、て思うが、もしかして・・・ 」
ペロロン、お前も察しがついたか。
「 そう。モモンガは唯一、最後まで残ったギルドメンバー。だからNPCどもはみなアイツに縋る。アイツ自身これまでご律儀にナザリックを守ってきたのだ。今さら、その期待に反することが出来ず、支配者面をせざるを得なくなった。
それが、魔導王アインズ・ウール・ゴウンの実態だ。一人ぼっちの玉座で、自分を疑いもしない下僕共に囲まれる。こんなの、アンデッドじゃなきゃ気が滅入るなんて話じゃない。 」
「 ・・・オレのせいか?オレが躊躇せずナザリックに行ってたら・・・ 」
深刻そうな声色のペロロン。そういえば、コイツはモモンガと仲が良かった。だから、ここまで深く考えてしまうのか。
友人に、業を背負わせてしまったと。
だがな、距離をとっていたとはいえ、オレにとってもお前は友だちなんだぞ?
「 お前が自分を責めることはない。オレがお前だったら、同じように躊躇ったろう。
お前は悪くないよ、ペロロン。オレのいえた義理じゃないかも知れんが。 」
「 なら、どうすればいいんだ? 」
「 まずは、タドコロの言う通り、連中の勢いを削ぐ。でなければ、モモンガの知らないところでこんな事が繰り返されるし、アイツ自身も自発的に大虐殺以上の殺戮行為にでるかもしれない。少しはアイツも、痛い目に遭わねばならん。 」
「 その後は? 」
「 追って話し合いだろうさ。長い目でみようぜ。 」
「 なぁ、追加のご注文が来たみたいだぜ? 」
前方から、五つの影。相違はあるが、格好は共通していた。メイドだ。メイドがこの飛竜騎兵部族の里を練り歩いている。中には前捕らえたはずの顔もあるようだ。
「 5人?ナーベラルもいるのか!? 」
どういうわけかは分からんが、恐らく前捕まえたのは偽物かなにかとかなんだろう。
戦闘メイドプレアデス。第八階層が突破された場合の時間稼ぎを旨としたそこそこの強さのNPC。
が、最大レベルは63。所詮は雑魚だが、この世界の基準でいえば、恐ろしい脅威であることに変わりないだろう。
裏にこれを企てたデミウルゴスが潜んでいる可能性もあるが、同時にアイツは人間を下に見ている。
そこまでの戦力を割いていない可能性もある。
如何に飛竜といえども、プレアデスに手も足も出ないのが、何よりの証拠だ。
が、用心しておくに越したことはない。
「 ペロロン、後方に下がって周囲を警戒してくれ。デミウルゴスがいるかもしれない。 」
「 わかった。でも、殺るのか、あるじぇんとさん? 」
「 あぁ、殺る。奴らはこの里を荒らし、飛竜との戯れの時間を台無しにした。
より苦しんでもらわねば、釣り合うまい。 」
「 でも、あの中の一人は、タドコロさんの・・・ 」
「 タドコロは手前のNPCもやってよしといっていた。アイツは腹を括ったんだ。お前もそうしろ。オレも、そうする。 」
ペロロンはコクリと頭を縦に振ると、その場から飛び去っていった。