OVER ROAD〜すべてが〇〇だったはず〜 作:ニコラス―NICORUTH―
MURさんたちと一度別れた後、オレとタドコロはヴリヒルドリアのある施設の前にいた。
そこらの建物よりもそこそこデカい、やはり堅牢で台風なんかじゃびくともしなそうな印象のそれは、この世界に来るまではあまり意味のないものだった。が、以前のナザリックのNPCの襲来を受けてその意義を見直され、現在は厳重な警備が置かれつつ、運営されていた。
内部はクックルの拵えた探知妨害魔導オブジェクトにより、探知魔法を寄せ付けなくなっており、〈転移門〉などによる転移もできない。確認するには、直接入るほかない。
「 はえ~、すっごい大きい。こ↑こ↓に例の冒険者がいるんすかね? 」
「 そうらしい。入るぞ。中でアウラが待ってる。 」
監獄「アルカトラズ」。この施設の名前だ。由来は米国有数の監獄島からだ。
その名の違わぬ難攻不落の牢獄に、オレたちは足を踏み入れる事となった。
「 入って、どうぞ。 」
「 オッスお邪魔しまーす。 」
正面玄関を開けた後に広がっていたのは、外装通りの無骨ともいえる、石造りの廊下である。
そのど真ん中、ちょうどオレたち2人の前に、彼女は立っていた。
それも、いつもとはまるで違う身なりで。
この歳の少女の格好にしては、あまりにも露出の多い、身体を締め付けるような黒のファッション。
いわゆる、ボンテージという服装に、看守のそれのような帽子を被っている。
仮に人目につけば、そういう趣向のあるものには当然受けるし、そうでないものの目も惹くだろう。
AOGでいえば、やまいこさんがこれを着せたもの、というかこんなもの持たせた者を凄い形相で問いただすのが想像につく。
そう思えるほどに、今のこのボーイッシュなダークエルフの少女は、余人には発せられぬなにかを放っているようだった。
「 待ってたよ。 」
アウラは気前よく挨拶をしてくれた。カルマ値-100なので、本拠であるナザリックの外部の存在には基本的に興味を示さないらしいが、コミュニケーション自体はこうして普通に取れる。
変な凝りのない人種なのも影響しているのだろうか。
「 その格好、茶釜さんの趣味じゃないな? 」
「 ペロロンチーノ様がこっそり持たせてくれてた装備だよ。 」
「 アイツか・・・ 」
いたずらのつもりか、それともモモンガがアルベドの設定を弄ったように、どうせ多忙でサービス終了まで来れなくなったであろう茶釜の目には入るまいとでも思ったのか、いずれにせよアイツも大概だな。
前にシャルティアが持っていたアイツのユグペディアを見せて貰ったが、だいぶ中身が抜け落ちていた。アレはあられもないことを書いてたんだろうな。そして次はこれか。
人種のなかでも、エルフやダークエルフは長命で知られる種族だ。アウラもこの十代前半みたいな見た目に反して、76歳という設定であるらしい。とはいえ子どもにこんな格好させるとは。
「 なに?そんなにエッチな目で見て。 」
アウラはその青と緑の目でニヤけながら、オレをからかう。やはりというべきか元がゲームのデータだったとは思えぬほどに人間的だ。
「 オレはロリコンじゃない。 」
「 ホントぉ?実はドキドキしちゃってるんじゃないの? 」
コイツ、妙にあざといな。そのテカテカのラバースーツを着たその姿に、
なにか感じるものがあるのは否定しない。が、今はそれどころではない。
このヴリヒルドリアに忍び寄った侵入者が如何なるものかを確認しておかなければ。
「 ネズミの顔を拝みたい。お前とペロロンの変態性癖の話は後だ。行くぞ、タドコロ。 」
「 あ待ってくださいよぉ! 」
「 ちょっと!女の子にそれはないんじゃないの!? 」
二人を尻目に、オレは廊下を歩き始めた。薄暗いが昼間ということもあり、中はどうなってるのか分かりづらい。風通しが良いのか、心地よい風が吹いて、涼しくなっていた。
しかし、昼でこれならば、夜はもっと暗くなる。明かりが必要になるな。
足を進めるたびに、ガラリと並んだ部屋のドアが一つ、また一つと過ぎていく。
この中はその殆どが空き部屋だ。ここにきてまだ一週間と少し程だ。ここに収容されているのは、件の冒険者どもの他には、彼女くらいだろう。
「 牢獄デカいっすね。 」
「 ああ。なぜか不必要にデカく作ってしまった。ギルドマスターが雰囲気を出さなければな、とか抜かしてな。 」
「 はえ~、拗らせようはMMNGといい勝負ッスね。 」
「 あれと同じにするな。少なくともアイツは、楽しかった過去にそこまで執着する男ではない。どちらかといえば・・・ 」
「 ウルベルトはんに近い、か? 」
「 そうだな。妙ににてるんだ、アイツラ。だからギルドマスターの扱いも、なんとなくわかってな。 」
「 それで、仲良くなったのか。 」
「 そうなるかな・・・着いた。ここだな。」
一室の前で止まったオレは、その部屋の中から人の気配を感じ取る。ロリコン冒険者はこの先か。
「 さて、どんな顔か見てやろうじゃないか。 」
ドアを開け、部屋の内部に入る。中は別段暗いというわけではなく、そこそこ明るいので、廊下よりは様子がわかりやすかった。
部屋の真ん中には、大柄の男。長髪を垂らして手足を鎖で拘束されている。
コイツが冒険者チームのリーダーでいいのだろうか。
猿轡、いわゆるボールギャグという、SMもののアダルトビデオによくでてくるタイプをつけられており、なにを話したいかが分からない。ので、強引にであるが、外してやる事にした。
外してやったというのに、過呼吸気味の彼はこちらを睨みつけ、敵意を隠さない。長年ビーストマンと殺りあい、死線を生き延びてきたという自負ゆえか。
なるほど、その根性は見習うべきだな。
「 お前は誰だ?なんというチームだ? 」
「 アンタにいわなきゃだめか、オッサン? 」
ほう、オレをオッサン呼ばわりか。コイツ、自分の置かれた立場がわかってないらしい。
しょうがねぇなぁ。じゃあ分からせてやるか。
「 オッサンとは失礼な奴だ。人様の家に勝手に忍び込み、名を名乗れといわれても名乗らない。
冒険者ってのは無法者なのか? 」
「 悪いな。正確にはアンタには名乗りたくない、だ。か弱い女の子にしか、名前を覚えていて貰いたくない。そこのエルフのお嬢ちゃんとか、あとはうちの女王様とか。 」
やはり筋金入りのロリコンか。プロではあるのだろうが、この人を舐め腐ったような態度、なんかイラッと来る。
「 お前、この状況わかってるのか? 」
「 分かりたくないね。それともう少し離れてくれないか?臭いがきつくて鼻が曲がりそうだ・・・ 」
この身の程知らずが言い切りかけたその瞬間、室内にズドンという鈍い音が鳴り響いた。
同時にその男の顔から余裕が消えていく。なにが起きたか分からないという表情の顔からは、鮮血が流れでた。何処から溢れているのかというと、目である。
それは男の視界が、狭まっているであろうことからも、本人も察することが出来たらしい。
「 ああ嗚呼あああああああああ!! 」
なにをされたのか理解した男の身体は、魂は、激痛と恐怖に悶え、まるで獣のように叫んだ。特に片方潰された残った目玉は、くりくりと震えているように血を流していた。オレはただ、それがおもしろ可笑しく見えていた。手には、大凡ファンタジーな世界には似つかわしくないものが握られている。
後ろにいたアウラも、なにかを感じ取っているのか凄まじい表情を浮かべていた。ろくでもない感情を抱いているのだろう。流石はこの世の地獄、ナザリックの住民か。
一方のタドコロは至って冷静だ。何一つ顔を乱さずに、叫び声をあげる男を尻目に、オレの手の武器を見ている。
「 これ、魔導銃すかね? 」
「 ああ、威力は低いが扱いやすいハンドガン型だ。烈怒さんが持たせてくれた。レベルとは別に経験や技能で武器を使えるかもしれないって射撃訓練もやらされてな。楽しかったぜ。 」
さっきのはこれの銃声だ。いかんせんレベル差があるものだから、いつもの杖なんかで殴ろうとでもしたらコイツが死んでしまう。オレが直接殴っても同じ。なので、コイツを使うことにした。
オレはガンナーのスキルを持ってない。だからこの冒険者へのダメージも最小限にすませる事ができた。
といってもコイツは片目をやられたので、粗相の代償は高くついたが。
ま、命があるだけマシだろう。なんならこれからより酷い目にも遭うからな。
「 コイツ、MURが調べてくれてたらしいッスよ。名前はセラブレイト。"閃烈"の異名を持つくらいの名うてで冒険者チームクリスタル・ティアのリーダーらしいッスね。なんでも王女もターゲットなんだとか。 」
「 なんだ、知ってたのかよ。 」
「 身に覚えはあるだけど、確認はしないといけないから、多少はね? 」
「 コイツがここに来た動機というのは? 」
「 やっぱり、ヴリヒルドリアを調べに来たんじゃないすかね?それであわよくばお宝を・・・ってところかな? 」
ならばそのまま帰してやるわけにはいかないか。しかしだからといって殺すのも忍びない。現状はこの牢にぶち込んでいた方がいいか。
『 あるじぇんと、少しいいか? 』
魔導トランシーバーから烈怒さんの声が聞こえた。オレはそれを手を取って、通話を始めた。
「 どうかしたのか? 」
『 相談したい事がある。一度武器庫に来てくれないか? 』
「 わかった。 」
通信を切ると、オレは牢をでようとドアに足を進めた。
「 どうしたんすかね? 」
「 相談したい事があるらしい。武器庫に来いってさ。タドコロ、お前も来い。 」
「 あ、いいっすよ。 」
「 では、行くか。 」
「 んじゃ私はどうするのよ。このロリコンと二人きり? 」
「 お前はそいつで遊んでろ。殺さぬ程度に。
死ぬ寸前まで痛めつけておけ。 」
「 はーい。 」
割とすんなりをいうことを聞いてくれたアウラを尻目に、オレとタドコロは部屋を後にした。
「 それじゃ、フ○ストフ○ックってした事ある? 」
「 え? 」
「 私はね、弟でよくやってるんだ〜。 」
あのダークエルフが、なにか悍ましいことをいっていた気がするが、気に止めぬようにしておこう。
「 あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!! 」
セラブレイトの絶叫が、牢獄中に響き渡った。