OVER ROAD〜すべてが〇〇だったはず〜 作:ニコラス―NICORUTH―
かつてのリ・エスティーゼ王国、その南東。流砂で満ちた大地。南方の砂漠と呼ばれるこの地には、二百年もの前、七色の瞳を持つと呼ばれる人間種の治める国が栄えていた。
彼らは精霊属性魔法を強化する能力を有していたが、ある日、突如として住民たちは一人残らずアンデットに成り果ててしまう。そう、英雄の域を逸脱していたとされる当時の王も、その后も。
今日まで砂漠の中を彷徨うゾンビたちは、その成れの果てだ。彼らは死することなく、二百年以上もの間、ずっとこうである。最早彼らは生前のことなど覚えていない。自我などそうなってしまった時に、とうの昔に喪われた。
今となってはアルコバーノの国、インベリアとその辺境の国々が滅びて久しい。表向きはその元凶は国堕としと呼ばれる怪物であるらしいが、実際にそうなのかは誰も知らない。
ただ一種、「 真なる竜王 」を除いて。
その動く死体たちに溢れた、灼熱の世界に、彼はいた。
おおよそこの大陸の風情には似つかわしくない、それこそここよりはるか東、「 白金の竜王 」の本拠とされる島国なんかでみるような、男物の着物姿。エラく光沢のある、蟲の甲殻を思わせる錫杖をついて、熱砂の中を歩いている。
その周囲には、おびただしい無数の蟲たち。
まるで彼を守るように羽音を立てて飛翔している彼ら。
これらを従え、彼は一体なぜここに来たのか。
それはすぐに分かることだ。
「 おい。こんなところに何のようだ? 」
男を呼び止める声。その目を向けた先には、筋骨隆々の男、いや、赤紫の鎧の形状から、かろうじて女と分かる。そんな彼女が、巨大なハンマーを担いでいた。
その表情からは、この女性が自信を警戒していること、そしてこんなところにいることから、彼はこの女性が、リ・エスティーゼ王国滅亡の際に逃げ遂せた、冒険者チーム「青の薔薇」の一人であることを悟った。
警戒するなど無理もないだろう。魔導王の魔の手から、最後まで国民を守ろうとするバカなリーダーを無理やり黙らせて、ここに潜伏しているのだ。
こんな蟲を引き連れた奇妙な格好の男など、怪しくてならないだろう。
「 人を探している。ニンジャの双子なんだ。 」
男は、丁寧にそう答えた。彼はある事情から、彼女の仲間を探している。それは、その二人の故郷のある性質から来るものだった。
「 あいつらをどうするつもりだい? 」
「 さぁ。ただ悪いようには扱わないよ。 」
「 信用ならないね。前にアンタみたいなのを見たもんでな。 」
「 オレみたいなの? 」
この女は口ぶりからするに、今の男のような人物と会ったことがあるらしい。そしてそれは、少なくとも彼女にとっては、良い縁ではなかったようだ。
「 そうさ。人間に化けた虫の化け物。人間の肉まで食ってたよ。イビルアイがいなけりゃ、アタシも食われてたかもな。ちょうどアンタみたいな服も着てた。 」
このとき、男に込み上がる物があった。以前に、古巣が如何なることをしていたのかは、ある人物から聞かされている。その時に出くわしたのが、目の前の女のいる、蒼の薔薇であることも。彼は目の前の女とその仲間は、大切なものを痛めつけたのだと知ったのだ。
「 そうか。ではお前たちだな。エントマをいじめたのは!! 」
声色から怒りを顕にする男の気迫に、女ことガガーランは圧倒される。
男の率いる虫たちは、一斉に彼女に襲いかかった。
抵抗することもできずに一瞬のうちに包囲され、身体中を貪り食われる感覚を覚える。
イビルアイであれば、あの蟲の化け物と同様に〈殺虫魔法〉でどうにかできたのかもしれない。一人で外に出るべきじゃなかったと後悔するが、もう遅い。
虫たちはこの彼女の肉という肉を喰らいつくし、死に至らしめるだろう。
逃げなかった時点で、詰みなのだ。
そこら中から血が噴き出て、さらにその傷口に虫たちが殺到する中、ガガーランは男の顔をみた。
人間に似ている。が、ところどころ違う。
眼は瞳こそあるが、複眼のようになっていて、口も動いておらず、頬まで裂けている。
その男の異形の姿こそが、冒険者ガガーランのみた最後の光景であった。
「 筋肉のある肉は身体にいいが、どうもこんなのは食う気になれんな。 」
男は、ものいわぬ死肉となった彼女が眷属の蟲たちの宴の舞台となった様に、そう呟いていた。
「 道案内をさせたほうがよかったかもしれんが、オレ的には自分で探すのが好きだからな。このまま、例のニンジャを探すか・・・ん? 」
男は、なにか大きなものを見つけた。みればそれは建物だった。廃墟のようだが、アンデットが寄り付いた形跡がない。いや、厳密にはなくなっているが正しいか。それに経年劣化してる割には小綺麗だ。
誰かが住んでいるのか?
行ってみれば分かることだが、彼はそこに目当ての人物がいるだろうことを察していた。
「 さっそく当たりだな。エントマの御礼参りも兼ねて、お邪魔しようかな。 」
男はその清められたような建物に足を進める。彼の蟲たちも、それに続いた。
哀れな冒険者の残骸はその場に残された。先の逞しさを感じさせない、骨のみえる有り様だ。
その末路は、ゾンビたちの餌であろう。
男が近づいてみると、建物の中から人影が出てきた。
四人の女性。先の女の仲間だろう。とすれば、彼女たちこそが蒼の薔薇というわけだ。
あの女がやられたというのは、目の前の男をみれば一目瞭然である。
「 貴様あ!よくもガガーランを!! 」
仮面をつけた赤いフードの女は凄い剣幕で怒るが、男はさして気にもしない。脅威として見なしていないのだ。
「 ニンジャの双子ってのは、君たちだね? 」
フードの女ともう一人の気品ある女性をまるで意にも介さず、男は残りの二人、忍び装束の互いに瓜二つなくノ一に目を向けた。
「 なんの用? 」
片方、青い方が彼に殺気を飛ばす。仲間を殺されて怒り心頭なのは、彼女も、もう片方も同じようだ。
が、やはりこの男は気にしない。用があるのは彼女たちだけだ。
「 オレの、仲間というかなんというかがね、君たちに用事があるらしい。ご一緒してもらえないかな? 」
「 断る。 」
「 タイプじゃない。 」
二人揃って、即答である。答えは、ノーだった。が、彼にとって、彼女たちの意思など、何の意味も為さない。ただ、力づくで連れて行くだけだ。
「 あっそう。んじゃ死ね。 」
男の率いる虫の数体が、二人の身体を引き裂いた。鮮血を流して、ニンジャたちがその場に倒れる。
「 ティア!ティナ! 」
「 イビルアイってのはお前だね? 」
「 ・・・私にもなにかようか!? 」
「 オレの娘というかなんというかを、虐めたんだろ? 」
「 お前、ヤルダバオトの仲間か!? 」
「 ヤルダバオト?なにいってんだ? 」
ヤルダバオトなる人物のことは知らされていなかった男は頭がこんがらがりそうになるも、その後ろでもう一人の女がニンジャたちを回復しようとしてるのを視認する。
男は蟲を彼女、ラキュースに向かって飛ばそうとした。
ガガーランを殺したように。先ほどティナとティアを戦闘不能にしたように。
「 ・・・!〈殺虫魔法〉!! 」
イビルアイは咄嗟に彼女だけのオリジナル魔法を放ち、男の眷属を殺そうとした。
しかし、あまり効果はなく、ラキュースは身体中を食われ、力なく倒れる。
「 ニンジャもそうだが、この女も、なかなか良いじゃないか。これも連れてこう。だが・・・ 」
男は、改めてイビルアイと相対した。
「 さっきの魔法、ユグドラシルにはなかったな。
ヴァーミンベインといったか。聞く分には、蟲に特攻のある魔法なんだね。それでエントマをいじめたわけだ。 」
彼は、自身の娘と呼べよう蜘蛛人が、目の前の馬の骨に遅れをとってしまった理由を知ることとなる。彼女は蟲使いである。男のように、蟲を活用して戦う。故に、イビルアイのオリジナルの魔法は、エントマによく効いたのだ。
相性がとことん悪い。それ故に、彼女は死ぬ寸前まで痛めつけられたわけである。
「 お前、あの化け物の本当の主人か。 」
「 化け物。あの子のことか? 」
「 それ以外他に何がいる?私はアレの主はヤルダバオトだと思っていた。だが納得がいくな。 」
「 何がだ? 」
「 主人がそのなりならば、従者も従者というわけだ。
人間の肉を貪る、蜘蛛の化け物。
蟲を従える異形にはお誂え向きというわけだ。 」
イビルアイのこの侮蔑の言葉に、男は最早怒りを越えていた。
彼には、この娘を生かして帰す気は失せていた。
「 そうか。では死んでくれ。 」
無数の蟲の群れが、イビルアイに襲いかかる。
彼女は魔法を行使して抵抗するが、物量に押されていった。
装備ごと肉が引き裂かれ、身体中から赤い血が噴き出る。
仮面も打ち砕かれた。金髪のロングヘアーの少女。
そして、その眼は赤く、彼女が人間ではないことを示していた。
「 君、吸血鬼だったんだね。だとしたら、少し、話が違ってくるかな。色々活用できそうだ。 」
イビルアイにとって、男の真意は判りかねるし、それどころではなく、いままさに命が尽きようとしている。
死を目の当たりにし、走馬灯のように思い出されるのは、今は見る影もない、故郷のことと、仲間のことだった。
冒険者、イビルアイ。
本名、キーノ・ファスリス・インベルン。
アルコバーノの国、インベリア王朝最後の姫。
幸せだった彼女の日常は突如として奪われ、そして今、かつての国民たちは、アンデットと化してしまっていた。
キーノ自身も含めて。
気付いた時には、父も母もゾンビになってしまっており、正気を保っていたのは、彼女唯一人だけだった。
最初は皆をなんとかもとに戻そうと奮闘したが、それは叶わず、気づけば外にでて、十三英雄の一人に数えられるに至っていた。
そして彼女は、同じ十三英雄の死者使いと呼ばれる魔法詠唱者の老婆の後任として、蒼の薔薇の一員となって、今がある。
最後に浮かんだのは、あの強くかっこいい、彼女の恋した漆黒の英雄だった。
「 モ、モン、様・・・! 」
できれば、もう一度会いたかったが、それがかなわないのは余りにも惜しい幕引きであった。
哀れな彼女の長い一生は、こうして終わりを迎えた。
「 モモン?確か、モモンガさんの冒険者としての名義だったか。」
男こと、源次郎は訝しんだ。どこかで、古巣であるギルド
「 アインズ・ウール・ゴウン 」のギルドマスターと、この女は縁があったらしい。
が、それはそれ。これはこれだ。
こうしてイビルアイを殺すことで、エントマの仇を取れたわけだ。これでひとまず溜飲が下がる。
そして、本命である、ニンジャの二人の身の上の確保だが・・・
「 予想以上に収穫があったな。 」
当初より、二人分の成果が増えた。ニンジャの双子はもちろん、このレアアイテム持ちの女も、そしてこの吸血鬼の死体も、彼の仲間の進める研究の良い材料になるだろう。
ガガーランは知らん。
「 うーん、全部運ぶとなると手間だが、持ってくか。
〈転移門〉! 」
闇の門が開き、蟲たちが四人を掴んでその中に入っていくのをみると、源次郎もその中に消えていった。
こうしてこの日、冒険者チーム蒼の薔薇は、全滅した。
後日のことだ。
「 お、源次郎じゃん。珍しいね。 」
「 どうだいガーネット?オレが持ってきた女どもは。 」
「 まずあのくノ一は身体を調べることにした。この世界の基準値で、ニンジャのスキルを持っているというのは興味深いからね。
一通り調べた後、都合よく再教育と改造だよ。 」
「 奴らのリーダーは? 」
「 ラキュースかい?アレも再教育だ。人間やめれば、良い戦力になるだろう。 」
「 イビルアイは? 」
「 彼女は大変興味深い。どうも通常の吸血鬼とは違うらしい。アレも研究の価値ありだ。 」
「 そうか。それは良かった。わざわざ四人持ってきた甲斐があった。 」
「 だが、よくもまぁ、彼女を持ってきたな。
エントマの仇だったろう?オレだったらシズが同じ目に遭ったら、彼女たちを殺しにかかる自信がある。 」
「 仮面が外れたとき、吸血鬼だとわかってな。
この世界では思ったよりも吸血鬼は少ない。
君の研究の一助になればとおもってね。 」
「 そうか。気が利くねぇ。エルフ国の王様も喜ぶよ。
これで戦力拡大の目処がつく。法国に付け入らせる隙を見せずに済むかもね。 」
「 前の八欲王の倅ってのよりもよっぽど良君だよな、彼。 」
「 頭の回転も速い。実に頼りになる。 」
「 前に彼から聞いたが、アイツ、ユグドラシルを辞めてなかったらしい。 」
「 アイツ? 」
「 ああ。クラン辞めた後、ムスペルヘイムに戻ってたらしくって、今は千年王国に身を置いて、ヴリヒルドリアにいるって。相変わらずドラゴンに目が無いらしくて、メコン川も、近くにいるらしい。 」
「 へぇ。会うかもな。 」
「 あぁ。そのうち、顔をあわせるかもね。 」
「 ・・・元気にしてるかな、あるじぇんと。 」
「 してそうだよ。ここには真なる竜王とかいうのと、また見たことないドラゴンがいるらしいから、彼にとってまごうことなく新天地だよ。 」
「 その方がアイツらしいよ。
・・・そうそう。ガガーランってメスゴリラ、骨だけになってたけど回収したよ。 」
「 ・・・え?アレを取りに行ったの? 」
「 彼女の骨格は中々屈強そうでね。近々るし★ふぁーさんがあれを骨組みにしてメカガガーランを作るらしい。
レベルは通常のガガーランの三倍になるとのことだ。 」
「 ・・・あの人も変わんないな。 」
「 お前もオレも大概だよ。 」
男たちは笑い合った。
源次郎
種族 昆虫の森祭司 lv10
蟲の王 lv10
職業 インセクトシャーマン lv10
ムシツカイ lv5 など
元ギルドアインズ・ウール・ゴウン。宝物庫整理担当のシャーマン。
なのだが、リアルでの自室が汚いこともあって、整理はそんなに得意なわけではない。ガーネットやるし★ふぁーとは仲が良い。
戦闘メイドプレアデスの一人、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータの生みの親。和風な物が好きで、エントマにもその趣向が反映されている。
戦闘面では無数に眷属を呼び出す、恐怖公のそれよりも苛烈な物量でのゴリ押しを得意とする他、シャーマンらしく召喚魔法によって、高レベルの蟲モンスターを召喚、使役する。
ゴリゴリの物理戦もいけるので、やはり信仰系は魔法詠唱者にて最強である。