OVER ROAD〜すべてが〇〇だったはず〜 作:ニコラス―NICORUTH―
都市国家連合が竜王国と関係を結び始めたその間も、世界の異変は続いた。
大陸西側。エイヴァーシャー大森林。
「 グオォォオォォオオオッ!? 」
木々が、そこに住まう生物が炎に焼かれたその上空に、それはいた。明るい緑、エメラルド色の体表をしたドラゴンである。下の火災は彼が齎した。
その理由とはなにか?世界の為、もとい自分たちの為である。
彼、「
彼自身は、あの竜王や、「 深闇の竜王 」よりは力は劣るが、それでも真なる竜王が一体である為、始原の魔法を行使可能。そして八欲王がいた当時よりも、歳を重ねたことで、力も増している。
―――これならば、勝てる。
件のプレイヤー以外は、所詮エルフ。自分たちには敵わない非力な存在である。
そう高を括っていた彼は今、こうして手痛いしっぺ返しを喰らうこととなった。
エルフから?そのプレイヤーから?
違う。
答えは、蟲だ。
無数の蟲。巨大なハチ、トンボ、羽アリ、ゴキブリは勿論、そうそれこそこの竜王が見たことのないような種も混じった複数種もの蟲が、群れを為して彼に襲いかかっていた。
ボールのように丸まって飛翔するゴキブリも、自己増殖するゴキブリも、単純にそれらよりデカいゴキブリも、彼は初めてみる蟲である。
そしてそれが、一辺に自分に飛びかかってくる。想像するだけなんと悍ましい光景か。人間にとってはこの世の終わりであろう。
その数は数え切れないが、少なくとも真なる竜王の巨体を覆い尽くさんばかりの規模であることは確かである。
塵も積もれば山となる。この言葉の通りに、一体一体小さい蟲たちは、竜王というそらとぶ肉に群がり、さながらバイキングにでも来たがごとく食らいついていた。
「 おのれ、これはまさか・・・!? 」
全身を喰われ、裂かれる中、竜王は、あることに気づく。
この明らかに別種の蟲たちが群れるなど、普通ではあり得ない。魔法か。魔法の類だとすれば、近くに術者がいる筈。
―――何処だ?何処に・・・あ、いた!
竜王は視認する。東方の地でみる服装の、杖を持ったナニカを。あのなりは魔法詠唱者か。ならば、合点がいく。
アレが本体。直接叩けば、こちらの勝ちだ。
即座に、始原の魔法を発動し、その魔法詠唱者ごと森の一部分を吹き飛ばした。黒煙が立ち上り、その辺りからはやはり自然は破壊される。
この破壊力。ワールドアイテムがなければ防げないというのも、かつては竜王が世界を統べていたというのも納得の威力である。
しかし・・・
「 ・・・ん? 」
彼は、その吹き飛ばしたはずの位置から、何かが飛んでくるのを確認する。
「 な、なんだと・・・!? 」
それをみて、竜王は身の毛がよだつ感覚をおぼえる。
そこにいたすべての生命を、消し飛ばした筈の場所から、それらが這い出てきたのだ。
そう――――
――――自身に纏わりつく倍以上の、蟲だ。
「 うわぁぁぁぁぁあああ!! 」
新たな蟲たちは、群生相のバッタたちはやはりドラゴンに群がり、その血肉を貪り食う。彼はただ、先ほどと比べて大きく増したその苦痛に悶えるばかりだ。
「 ふぅ。危なかった。〈上位転移〉が間に合って良かったよ。 」
竜王は目を疑った。先ほど消し炭にしたはずのあの魔法詠唱者が、羽虫のような翅を羽ばたかせて、目の前にいるのだ。
どうやら、先の始原の魔法は躱されたらしい。
そればかりか、魂、つまりHPを無駄に消費する結果となり、自分の首を絞める事となったようだ。
これだけの術、やはりプレイヤーであるようだ。
「 ボクはねぇ、蟲使いなんだ。だからこうやって蟲を呼び出して、攻撃するのが得意なんだ。
さっきお前が始原の魔法を撃ち込んだとこからでた蟲たちも、ボクが呼び出して、〈上位魔法防御〉で封じていた子たちさ。
最も、お前が始原の魔法で蟲たちを消し飛ばしたあとに、この子たちをけしかけるつもりだったんだけど、バカ正直にボクを狙ってくれたおかげで予想以上の結果になったねぇ♪ 」
真なる竜王は知り得ないだろうが、この男、源次郎はかつて、魔導王と肩を並べた四十人の一人。
ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの元メンバーだ。
ユグドラシル最盛期において、当ギルドは全体でのランキング9位を記録しており、そこから上はすべて、連合を組んだギルドである。
つまり、単体での力では、このAOGはユグドラシル中屈指であったのだ。
彼はその一人だった。弱いはずがない。
「 おの、れ、汚物ども・・・! 」
「 悪かったねぇ、汚くて。でも安心してよ。今に終わらせてやっから。 」
竜王の前方、さっきまで源次郎のいた位置から幾らか離れた後方から、何かが飛翔し、太陽を覆うが如く、天高く舞い上がるではないか。
「 なんだと!? 」
再び目を疑ったドラゴンの目の前に現れたのは、恐ろしく巨大な蛾だ。
ユグドラシルに於いては、最高位クラスの虫型モンスターであるが、単体では中々に使いように難のあることでも知られていた。
それこそ、源次郎のような玄人には、そこそこ愛用されたが。
低位の召喚魔法で召喚可能な幼虫型モンスター、プチモス。それが成長しきったのが、この蛾である。
「 やれ、グレート・モス!! 」
巨大蛾、究極完全態グレート・モスは、竜巻を発生させて、竜王を攻撃した。その威力たるや、計り知れない。
その純粋な破壊力、そして毒鱗粉のダブルパンチにより魂を削られ切ったドラゴンはついぞ力尽き、緑の大地へと、その身を墜落させていった。
今際の際の竜王。思うことは、この百年の揺り返しが発生する元凶のことだ。
彼さえいなければ、仲間たちが八欲王に狩られる事などなかった。自分も、永く洞窟に隠れ住むことなく、プライドに傷をつけられずに済んだのかもしれない。
復讐したくとも、彼はもういない。そして今、自分はプレイヤーに敗れ、殺されようとしている。それが現実だった。
「 竜、帝め・・・余計・・・置き・・・を・・・ 」
プレイヤーが来るようになったきっかけを作った、今は亡き竜王の長への恨みごとが、彼の最後の言葉となった。
―――緑光の竜王、死亡。
「 ふぅ、害獣駆除完了、と。しかしこれどうすっか? 」
グレート・モスを引っ込めた源次郎は、眷属のディナーになった竜王の死体の処遇に難儀することとなる。この分ではそのうち骨だけ残って地面の肥やしになるだろうが、それでは途方もない時間、これを放置することになる。
近くにエルフ王国やダークエルフの村がある以上は、これをなんとか処分したいところ。
荒らされた木々はある程度ドルイドたちがなんとかしてくれるので、そちらは問題ないが。
そんな時に脳裏に浮かぶは、この世界にいると聞いたドラゴン狂いの元クランメンバーのことだった。
「 そうだ。アイツに押し付けよう。 」
ちょうど彼に顔を見せる機会でもあるとして、つい最近、魔導国と縁切りを表明した竜王国に赴くことにした源次郎だった。
「 糞がぁ!竜帝の汚物がぁ!! 」
「 クソクソいってんじゃねぇよ女の子によ。失礼だろ?
それとも何?ドラゴンってそんなに異性に興味ないの?
ま、アタシは歳いってっけどね。 」
海上都市付近の海域。ここでも真なる竜王とプレイヤーの戦いが繰り広げられていた。
今回のプレイヤーは、女性だ。
えらく垢抜けたような、大人びたダウナー調な少女、お冷めな子といった外見である。
・・・後ろに、サメのような尾がなければ、であるが。
彼女もまた異形種である。
ドラゴニュートの亜種だ。
「 ないな。貴様のような痴れ者、目に映すことすら憚られるわ。 」
「 あっそ。嫌うばかりで学ぼうとしないんだ。なんでおたくらってそんななの? 」
「 この世界が我らのものであったからだ。貴様らが、あの忌まわしい八欲王どもが来るまではな!! 」
この竜王は、時折八欲王が現れる前の、自分たちの時代を思い返しては、その栄華を奪ったプレイヤーへの憎しみを募らせていた。今回のこの女も当然、憎悪の対象だ。
「 つまり、過去の栄光にすがりついてるわけ?ダッサ。 」
えらく挑発的な発音で、女は竜王を愚弄した。
「 黙れぇえ!!貴様ァ、消し去ってくれるわ!!
始原の魔・・・ 」
「 〈 魔法最強化大顎台風 〉!! 」
青白い竜王〈
この〈
相手を竜巻の中に閉じ込め、その中の無数のサメに襲わせる。その規模は〈 大顎竜巻 〉を優に超える。
その昔にあった、サメがトルネードに巻き込まれて飛来する映画のようである。
実際にサメたちはこのドラゴンに喰らいついていく。身体全身を激痛が襲う。この竜王もやはり八欲王を避けて生きてきた。それまでに始原の魔法を修めてきたが、こんな魔法は初めてである。
しかし、対処できないわけではない。
始原の魔法を発動し、嵐ごとこの小魚どもを凍てつかせてみせる。
氷属性は、このドラゴンの得意分野だ。彼ほど、この属性に精通した真なる竜王も存在しない。竜王としての名も、これが由来だ。
それに比べれば、魔導王にあっさり処された霜の竜王など、所詮は竜王を名乗っているだけのトカゲである。
だが、所詮このサメたちは魔法である。その対処に魂を消費する始原の魔法を使用するのは、あまりにも非効率的であった。
カードゲームなんかで、一枚の強力なモンスターカードを除去する為に、二枚三枚と手札を消費するようなものだといえば良いか。
ここで彼の、同格以上の相手との交戦経験の不足が裏目に出始める。
八欲王と戦っていないということは、それまでにプレイヤーの使う魔法のことは、仲間からある程度教えられても、それそのものはよく知らない、ほぼ無知であるということだ。
百聞は一見にしかず。この言葉の通りである。
「 なるほどね。HP消費なんだ。んじゃ、ガリガリ削ってやるかな。鮫肌に触れるみたいに。 」
一方のプレイヤーは、直にみた始原の魔法の性質を、事前に唱えていた〈生命の精髄〉によって知ることとなる。
〈 大顎台風 〉を喰らっている以上に、HPが減っているという事実から、彼女も始原の魔法の資源は魂、つまり体力であることを理解する。
その上での彼女の戦法も、タドコロと同じだった。いや、それよりも狡猾だ。
「 〈 魔法三重化異形サメ召喚 〉!! 」
彼女の唱えた召喚魔法、それはサメと呼ぶには、あまりにも個性的なモンスターを召喚する魔法である。
彼女、エレン・フォルネウス・ジョー・ステイサムは信仰系魔法詠唱者である。それもあるじぇんとやタドコロ、そして源次郎と同じ召喚魔法に精通したシャーマンであり、その中でも水生生物の召喚に特化した、「 シーシャーマン 」だ。
なのだが、彼女は特に、呼び出したがるモンスターが一種いる。
サメだ。スピルバーグの「 ジョーズ 」以降、様々な映画で引っ張りだこの、あのサメである。
そのため、此度彼女が呼び出したのも、その類だ。
「 なんだ、アレは!? 」
竜王は、召喚されたそのモンスターたちに困惑した。やはり未知の生命、いやアレを生き物と呼んでいいのか。
魚らしい流体に、鰭と鰓を備えた、原始的な姿。そう、透き通るまでに美しいフォルムであろう。
そこらの映画や水族館で見るような、原始的な軟骨魚類らしさ、獰猛さ、そしてその中の愛嬌が滲み出ている。
・・・なのだが、プラスアルファ的に霊的な要素が、それを不気味に仕上げている。
サメだ。まるでゴーストのように、透明な、アストラル体の巨大なサメ。それが三体である。
「 いけぇ!
かくして呼び出されしサメたちは、真なる竜王にも牙を剥く。空を舞い、口から、〈火球〉など比にもならない火炎弾を発射し、着実にダメージを与えていく。
なんでサメが空飛んで火を吐いてるのかって?
そういう生き物だからだ。
「 グゥ!? 」
「 へぇ、見た目通り、炎に弱いんだ。 」
「 ほざけぇ!始原の魔法!! 」
〈 凍灼の竜王 〉は、このわけのわからぬ魚を始末すべく、さらなる始原の魔法を放った。凄まじい威力の氷属性ブレスである。しかし・・・
「 なに!? 」
サメにはまるで効いていないようだ。竜王は自身の魔法が通じない事実に、動揺している。
「 ああ、無理無理。そいつら神聖以外の属性と物理効かないから。んじゃ、もういっぺん、〈 大顎台風 〉! 」
エレンは再び、サメの台風を呼び起こし、竜王に差し向ける。だが、今回はそれにもう一つ魔法を加える事とした。
「 さらに、〈 炎の嵐 〉! 」
第八位階の炎系信仰魔法。それが〈 大顎台風 〉と合わさることで、このサメの竜巻は、紅蓮の炎に包まれる。
「 があぁぁぁぁあああ!! 」
サメと弱点属性である炎の嵐が、ドラゴンを襲う。なんなら噛み付いてダメージを与えてくるサメたちは魔法でありながら生物であるからかその身を焼かれ、炎属性がエンチャントされている。
これが竜王をさらに苦しめ、その魂は削れていく。
この炎を纏うサメは〈 大顎竜巻 〉やこの魔法の元ネタともいえようサメ映画の一場面の再現でもあるようだった。
こんな芸当は、ユグドラシル時代にはできなかった。彼女らが転移したこの世界ならではの応用だ。
さらに、そこに悪霊鮫の目から放たれた無属性の光線が追い打ちをかける。何故こんな芸当がサメにできるのか?
そんな生き物だからである。
「 なんだと・・・たかが、魚風情に・・・!? 」
「 サメ舐めんなよ。いたるところにいるんだから。 」
とにかく竜王がするべきことは、この紅蓮の炎の嵐から逃れることだった。
「 始原の魔法!! 」
自身の周囲を氷結させて、炎を相殺しようとする。しかし、その時彼が想定していなかった現象に見舞われた。
爆発だ。
それによって、さらに魂を消費することとなる。
「 がああああああああ!! 」
「 うわぁ。寒暖差やば。ていうかそうなるって知らなかったの? 」
「 おのれ、おのれぇぇぇ・・・! 」
「 さっきから恨み節ばっかじゃん。そんなに嫌いなら、関わらないようにしてあげるから。お前を殺して。 」
悪霊鮫たちのうち一体が、ドラゴンの喉元に喰らいつく。
映画で見るような、ショッキングなシーンそのものの迫力である。もう2体は目からの光線でそれを援護していた。
血反吐を吐く竜王。薄れゆく意識の中、最後に見たのは、その丸鋸のついたような杖を構えて迫りくるプレイヤーだった。
―――凍灼の竜王、死亡。