OVER ROAD〜すべてが〇〇だったはず〜   作:ニコラス―NICORUTH―

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すべてが闘争だった竜人

 

「 オレの勝ちでいいな? 」

 

 初めてこの世界で超位魔法を使ってみたが、これほどなのかとその威力、恐ろしさを実感させられる。ここに飛ばされてから、色んな感覚に触れて来た。その度にここはゲームではない、現実であることを思い知らされてきた。今回もそうだ。この実感は生まれて初めて感じたものだろう。

DQイベントにて初登場した、炎系信仰魔法、メラシリーズ。その最上位に位置する魔法だ。

ユグドラシルでは感じることがなかった焦熱が、オレの身体を火照らせていた。その生命を焼き焦がす火炎は、まさにこの世界で自分が大地に足をつけて生きている証拠そのものだろう。

 

 〈 メラガイアー 〉の残り火が、雑草は勿論、砂すらも焼いている。この辺りは一応、海岸が近くにあるというのに熱風が吹き荒れて、潮風を掻き消してしまう。オレが〈最終戦争・竜 〉で呼んだドラゴンたちはあの一撃に巻き込まれてみな焼死んだらしい。周囲を見渡せば、かなりの距離まで同じように火の海の跡が燻っている。なるほど、大虐殺が大惨事になるのも頷ける。〈 黒き豊穣への貢 〉もこの規模ならば、そりゃうん十数万の軍に撃てば黒子山羊もゲームより多くなり、被害は馬鹿にならない。

王国の農民兵も帝国の騎士たちも、恐怖に怯えるのは無理らしからぬというわけだ。

 

 仮にこの〈 メラガイアー 〉を同程度の軍隊に放ったとすれば、それほどとまではいかないまでも、全体の5、6割は持っていけるだろう。

戦争において、軍は損害が6割を超えればほぼ負けであることを考えれば、決まれば勝利は確実といえるだろう。

最も、アイツなら、アイツの〈 大厄災 〉ならば、10割きっちり持っていけるだろうが。

 

 そして今眼前には、その魔法によって大地に仰向けに倒れた稀人、いや稀竜がいる。

オレが死力を尽くして立ち合った、異界の猛者。

第九位階クラスの攻撃50発以上にも、ドラゴンの冷凍ブレスにも耐えて見せた彼であるが、その上での超位魔法には流石に堪えきれなかったらしい。

 

 その側には、彼の愛刀、これまでいくつもの修羅場を潜り抜けてきた業物が、未だ怪しき光を発していた。

その刃の傷の多くが、これまでの激しい闘いを幾度となく繰り広げて来たのだという、説得力をよく強めている。

 

 そのもはや動くことすらかなわないような竜人は、辛うじて言葉を発することができた。

 

「 見事だ。お前ほどの強者、できればもっとはやくに逢いたかった。 」

 

 それは、怨恨など全く感じさせない、称賛だった。アレだけ群れを斬って、斬ってもオレに届かない。斬れど斬れど新手が湧き出て攻撃を仕掛ける。こいつの立場からすれば、理不尽極まりないであろうに。

 

「 オレを恨まないのか? 」

 

「 恨む必要が、何処にある? 」

 

「 あんな負け方、お前にとって納得のいくものだったのか? 」

 

「 似た手合の者など、いくらでも相手してきた。お前とて、勝負を挑んだつもりであろう。

オレが懐に入り、お前を斬るが先か。それともお前が、オレを殺し切るが先かの。結果は、お前の勝ちだ。それだけのこと。 」

 

 なるほど。コイツも分かっていたらしい。その潔さ、オレには、22世紀を生きる機械に支配された人間たちには真似できない。二世紀以上前に喪われた、武士道や、大和魂に近いものを感じられた。人が遥か昔に歴史の闇に葬ったものを、このデジモンは持っていた。

 

「 オレの人生とは、闘争だった。生まれたその時より、争うことを義務付けられ、その中で力を蓄え、成長していく。オレも、そうしてきた。X抗体を持つがためにそれを得ようと幾度となく敵はオレに襲いかかる。その度に死力を尽くし、爪を突き立て牙で喰らい、尾で薙いで技を撃ち続けて戦い続けた。泥水を啜りながらも、生き永らえたかったからだ。だがな・・・ 」

 

「 だが? 」

 

「 やがて目的は、戦いそのものに取って代わっていった。そして、それこそが、オレの生きる意味になった。戦い、勝って、また戦う。これの繰り返しだ。これが命あるもののあるべき姿なのだ。 」

 

「 平穏を考えたことはあるか? 」

 

「 平穏か。そんなもの考えたくもない。戦いとは、生命の根本的な在り方だ。小うるさい天使どもも、下劣な悪魔もその目的を果たすためには武力を振るう。我らの、デジモンの在り様は修羅道ぞ。鉄火場に、死中に活を見出す時こそ、命は輝くのだ。

争いなき世など、ありえん。我らから戦いを取り上げようならば、オレがその者を叩き斬る。そして、次なる強者と斬り結ぶまで。 」

 

「 お前たちの神に、抗うことになってもか? 」

 

「 そうだな。ホストコンピューター、ユグドラシル。我らにとっては煩わしいことこの上ない存在。奴がいなければ、Xデジモンが生まれる事などなかったろう。此度この世界に飛ばされたのも、奴のようななにかの、戯れか。 」

 

 やはり、ガイオウモンはデジモンの世界から、デジタルワールドからこの世界に飛ばされてきたようだ。

彼にとってユグドラシルといえば、彼らにとっての「 神 」に等しい存在を意味する。そして口ぶりからするに、この神は、増えすぎたデジモンの間引きを測り、それが生存競争を激化させたのだろう。その果ての進化こそ、今目の前にいるこのデジモンなのだ。

どうりで硬いわけである。生への渇望、執念が、あれほどまでの力を発揮したのだ。生命とはなんとも素晴らしいものだ。

 

「 だが、今となっては詮無きこと。 」

 

 ガイオウモンの身体がひかり、細かいポリゴンが剥げるように分解されていく。それはデータの生命体であるデジモンの、その命の終わりだった。

 

 

「 消えるのか? 」

 

「 無になるのではない。我らは輪廻転生の理にある。

また巡り会えたなら、その時は・・・ 」

 

 竜人は、データの本流となって何処かへと消えていった。主を失った「 菊燐 」も、その後を追うように消滅した。焦土の中、一人残されたオレは、どこか物悲しさを感じた。

激しい戦乱の中に身を置き、ひたすらに戦い続け、生き続けた男の大往生。それはなんとも誇らしいものだが、同時に寂しいものでもある。

しかし、ここまで他者を認めることは、プレイヤーはともかく、NPCには到底理解できないだろう。いくら強かろうと彼らは環境の中で成長するデジモンとは違う。所詮、薄っぺらいデータなのだから。

かくあれかしとやらに縛られ、それ以上の進化を果たすことはない。

そんなプレイヤーのオナニーの産物に比べればガイオウモン、お前は確かに高潔な、真の武人だろう。

彼にまた、会えるだろうか。それはわからない。

しかしだ。もし、また巡り会えたのなら、その時も、オレは全力で果たし合おう。

 

 

 次の瞬間には、魔導トランシーバーを取り出して、口元に充てていた。

 

「 終わったよ、スネークさん。ヴリヒルドリアに戻るぞ。竜王国にいる奴らにも伝達してくれ。 」

 

 楽しくも切ない時間は終わりか。またあのつまらん骸骨と、デジモンと違って思想もクソも、生きようとする意思もなく、ただ主人を崇める他ない人形どものことを考えねばならんか。

 

 ・・・それと、オレが今、魔導国への対処とは別にやらねばならない事があるしな。

 

「 まったく、気持ちの良い奴だったな。魔導王とやらとは大違いだ。

・・・お前もそう思うだろう? 」

 

 オレの向けた視線の先、アイツがいた。

緑色の蛇体。烈空の竜王だ。

飛竜騎兵部族の里以来だな、コイツを見るのは。

敵意を感じない。オレと戦いに来たわけではないらしい。

 

「 ―――――! 」

 

 なにか思うところがあったのか、その龍は高く吼えた後、また何処かへと去っていった。

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