OVER ROAD〜すべてが〇〇だったはず〜 作:ニコラス―NICORUTH―
転移して一日しか経ってないが、どうやら、今日は火と縁が深い日らしく、ドラゴンのブレスやら火球でも、する匂いは大して変わらないようだ。
街の中、焼けるような香りとともに黒煙が漂う。
オレが隣の黒い竜に撃たせた火球からでたものだ。
真紅眼の黒竜。これまたコラボで実装されたドラゴンだ。
青眼の白龍と起源を同じくし、また対として扱われることもあるという。
圧倒的な力を誇るブルーアイズが勝利を与えるならば、このレッドアイズは可能性を齎すとも言われている。
実際、コイツはブルーアイズよりも、バリエーションに富んでいる。
コラボ元では、主人公の親友のパートナーとして活躍しているらしい。その辺もライバルのしもべであるブルーアイズとは対照的に見える。
その紅き眼の見据える先に、オレの敵がいる。
うん十数万の生命をいっぺんに奪った男の創った異形が。
その時、トランシーバーに仲間からの〈伝言〉が届く。
『 お~い、テメェら息災か? 』
「 クックル。戦況は? 」
『 良ろしいとはいえねぇな。概ね敵のモンスターは殲滅できたんだが、一体だけ恐ろしく手強いのがいる。NPCだな。動きに人間味を感じない。
さしならワールドチャンピオンでも敵わねぇだろうな、こりゃ。先輩がご機嫌ナナメだぜ。 』
あのウォーモンガー伯爵が喜ばんとは相当だな。連中はペロロンチーノ一人消す為にここまでやるのか。アイツはなにかしでかしたのか?
「 どうにかなりそうか? 」
『 数で攻めりゃな。だが、この分じゃ押し切られるかもしれねぇ。人手が必要だ。 』
「 分かった。援護に向かおう。誰か向こうに行けないか? 」
「 ここはオレが抑えるから、烈怒さんたち向こういって。 」
「 あるじぇんと!お前だけ残るのか!? 」
「 あぁ、スネークさん。ヤツはどうも、オレのことをご存じのようだからな。骨身にまでみっちり教えてやりたい。特機戦力がいるなら、そっちにリソースを割くべきだ。
特にペロロン、お前はその化け物を知ってるはず。 」
「 あるじぇんとさん・・・ 」
「 お喋りは終わったかい?あるじぇんとさん。 」
煙が晴れると、あの痛々しいモモンガの工作の立っていた場所に、別のなにかがいた。
オレンジ色の粘体。おいおい、ずいぶん懐かしい面がでてきたじゃないか。
「 いけ! 」
「 分かった!さぁ、こっちだ!! 」
烈怒さんに連れられ、四人は仲間の援軍に向かった。その場にはオレと呼び出したレッドアイズ、そしてスライムが残った。
「 ドッペルゲンガーの性質か。にしてもさっきのでびくともしないとはよく出来てるな。 」
目の前のそれが、本人でないとは分かっていた。が、本物の彼女も、この程度の攻撃は余裕で耐えられるだろうことくらい、想像するに難くなかった。
「 あるじぇんとさん、どうして私たちの下からでてっちゃったの? 」
「 さすがにその事情までは知らんか。が、お前に話すことじゃない。詳しいことはお前のパパにでも聞くんだな。それと・・・ 」
「 ? 」
「 ぶくぶく茶釜さんはオレのことを、アルちゃんて呼ぶんだ。覚えとけ。 」
レッドアイズの〈黒炎弾〉、第七位階相当の炎属性の弾丸が二発、三発と乱れ撃たれる。
「〈イージス〉!さらに〈ウォールオブジェリコ〉!」
ダメージを軽減し、防壁を展開し、それらを防いでみせる。ぶくぶく茶釜はタンクだった。これくらい凌ぐなどわけないか。
ならば次なにを呼び出すか。スライムは状態異常が効かないので、悪名高いエグズキスの腐敗ブレスも、パンデミックドラゴンも効かない。素直にブルーアイズでいい気がするが、それでは芸がない。
ここはコイツかな。
「〈レベル8ドラゴン召喚〉!」
レッドアイズを引っ込め、新たにドラゴンを召喚する。召喚モンスターはでている間、MPを食うから、タンクにでもせんかぎりはとっかえ引っ変えするのが一番良い。
こうして呼び出されたのは、ティラノサウルスと飛竜とトラをミキシングしたような、ナイスなデザインのドラゴン。コイツを考えた奴は天才だろうな。
「 轟竜ティガレックス! 」
MHイベントで初登場した、ワイバーンと呼ぶには独特すぎるドラゴン。その筋力の発達した前腕の威力は勿論、最大の武器は・・・
「 グガアァァァァァア!! 」
凄まじい衝撃波を伴った雄叫び、〈バインドボイス〉だ。実装当時はもっとやばいドラゴン、腐りゆくエグズキスや破壊竜ガンドラがいて、なかなかお呼びがかからなかったが、コイツらがあまりにもヤバすぎてナーフされるや否や、一気に一線級にまで上り詰めた。
主に〈魔法三重化〉で呼び出し、広範囲にこの〈バインドボイス〉を叩き込んで、突撃させるというのが、主な運用法だった。
そんなコイツはジェリコの壁を軽々と破壊し、定石通りに突っ込んでいくが、その首を一閃の下に斬り落とされ消滅した。
ぶくぶく茶釜の姿が消え、入れ替わるように歯並びの良い半魔巨人がそこに立っていた。
「 武人武御雷。ならコレだ。 」
これまた懐かしいのがでたが、たしか彼、防御が薄かったよな。
「〈LV7ドラゴン召喚〉!」
レッドアイズと同格のドラゴン、黒い猫のような飛竜を呼び出す。尻尾から手裏剣やくないのように鱗を飛ばして攻撃する様は、さながら忍者を思わせる。
「 迅竜ナルガクルガ! 」
その俊敏な動きに、ヤツは避けや防御で精一杯だ。ユグドラシルではレベル差は勿論だが、同じく意識せねばならないものがある。
相性だ。相性が悪ければ、例えば10レベルの差があっても、勝敗が覆る可能性が大きくなる。
100レベルのアイツが、補正込みで69レベルのナルガクルガの動きについていけぬように。が可笑しいな。さすがに31レベルも差があれば、返り討ちにできるだろうに。オレはそこに〈メラゾーマ〉でさらに削りを入れるつもりだったがこの分ではこのまま撃つより、別のドラゴン召喚にMPリソースを割り振るべきか。
武人武御雷の姿がまたしても溶け出す。コイツさっきから懐かしい連中にばかり変身してるが、もしかしてギルドAOGのメンバー全員になれるのか?
だとしたら次は誰がでるか。オレの知ってるやつか知らないやつか。
身体を回転させ、その槍のように鋭利な尾をスイングさせるナルガクルガ。ヤツはそれを軽々と躱してみせた。なるほど、たしかにその姿なら、そんな動きもできるわな。
そのザ・ニンジャ!の姿なら。
「 紺色の雷帝 」がみたのなら、真っ先に雷魔法撃って来そうな、黒い忍び装束の男は、ナルガクルガが飛びかかって来るのを見て跳躍、二刀の双剣、「 天照と月詠 」で両断してみせる。
そしてそのままオレに素早く接近。なるほど、近距離で行こうということか。
「〈スカラ〉!〈ピオラ〉!」
即座にバフをかけ、杖で刃を受け止める。さらにそこから攻撃強化のバフだ。
「〈バイキルト〉!」
全身に力が漲るのがわかる。今朝アンティリーネとやった時にもそうだったが、やはりバフがかかっているのは体感でわかるらしいな。
「 弐式炎雷か。これまた懐かしい顔だ。オレにはなれるかい? 」
「 残念ながら、慣れませんね。形だけです。 」
「 そうか。 」
受け止めた双剣を弾いて、オレはひたすら杖で殴りかかる。パンドラズ・アクターはそれを回避したり、受け止めたりしている。
思ったがコイツ、本気で殺る気はないんじゃないのか?
そう思ってると、またまた懐いのがでてきた。
「 ゲェッ!? 」
その黒紫の粘体はユグドラシルにおいては非常に嫌われた。強い酸性を帯びた「旧き黒い粘体」。
これまでに多くのプレイヤーの装備を破壊していった男だ。
それを見るや、翼をだして飛翔し、再び遠距離戦に持ち込んだ。
「〈灼熱の息〉!」
炎属性のブレス攻撃が、街ごとヘロヘロの粘体を燃やす。思いっきり周囲に被害がでてしまったが、このまま魔導国の侵略を受けさせるよりはマシだろう。
「 〈フバーハ〉! 」
懐かしい声が聞こえると、炎の中から黄色い法衣を纏った半魔巨人が姿を現す。
やまいこさんだ。
使えたのか、〈フバーハ〉。あの人DQイベントにそこまで食いついてなさそうだったんだが。
彼女ならば、酷い真似をした魔導王に、誰よりも義憤を示すだろうな。そう、アイツと同じく。
「 魔法三重化LV4ドラゴン召喚! 」
ここで一つ茶を濁そうと第四位階の召喚魔法。
補正込みでもレベルは30が精々だが、この仮面を被った赤いドラゴンたちはだいぶ面白いモンスターだ。
「仮面竜!」
こうして呼び出された三体のドラゴンが、やまいこさんに襲いかかる。
三体まとめて殴り飛ばす様をみて、その再現度の高さに感心を受ける。
が、こいつの真価はここからだ。
「 !? 」
驚いたか、パンドラズ・アクター?
召喚魔法を唱えてもいないのに、倒した筈の仮面竜がまたでてきたことに。
これぞ、このドラゴンの真価。倒されると、同じモンスターをニ回までリポップさせることができる。
さらにそこから仮面竜三体の火球が直撃する。
〈フバーハ〉では防げない攻撃だが、ダメージはスズメの涙だ。
が、鬱陶しいことに変わりあるまい。
更にさらにぃ、
「 魔法三重化LV4ドラゴン召喚! 」
もう三体追加だ。これでお前は雑魚とは言え、実質LV30くらいのモンスター15体を相手取ることになる。手間取ってれば、別のドラゴンを呼ばれるぞ。さぁ、どうする?
おや、またしても変身するか。恐ろしい形相の黒い法衣の骸骨。手には金色の錫杖が握られている。
だよなぁ。コイツラをいっぺんに潰すには、彼になるのが手っ取り早い。が、忘れてねぇか?
この魔法を。
「 〈絶望のオーラレベルⅤ〉! 」
「 〈魔法最強化メラゾーマ〉! 」
恐るべき圧で以て仮面竜を即死させるそのオーバーロードに、炎系信仰魔法を最強化でお届けだ。
炎や神聖属性はアンデッド共通の弱点である。スキルで補うという手もあるが、どうやら効いてくれたらしい。〈ギガデイン〉の方が望ましいかもしれないが、オレはクレリックじゃないからな。
爆炎が消えると、あのアンデッドの立っていた場所に、軍服姿の埴輪ヅラがブッ倒れていて、仮面竜は数が減っていた。
〈絶望のオーラレベルⅤ〉で前の個体が死に、リポップする前に〈メラゾーマ〉を喰らわせたのを顧みるに、パンドラズ・アクターに当たったあとの〈メラゾーマ〉の余波に巻き込まれたか?
フレンドリーファイアがあるのか。やはり、ここはゲームではないというわけだ。
「 まだやるか?モモンガの息子。 」
「 ・・・ 」
手前まで歩いてきたオレの問いかけに、二重の影はまたしてもだんまりを決め込んだ。
その制服は焦げているようにはみえない。これは神話級装備か。
「 おい、なんかいったらどうだ? 」
「 お見事です。 」
ブッ倒れていたまま、パンドラは言葉を発した。
「 やはり、貴方は至高の御方々に名を連ねるだけの力をお持ちのようだ。 」
「 そりゃどうも。 」
「 だからこそ、お聞かせください。 」
「 お前の親父のとこから消えた理由かい? 」
「 お分かりいただけるなら話は早い。何故貴方は、父上の、至高の御方々の下を去ったのです? 」
話してやる義理など本来はない。こいつらは土足でうちのギルド拠点に許しなく入ったのだから。だが楽しませてもらったのだ。断片的にだが、教えてやってもいいかもな。
「 なに、取るに足らん揉め事が元さ。それでオレは、たっち・みーに、うんざりしてな。 」
「 たっち・みー様に、ですか? 」
「 そうさ。アイツが、アイツラがボイコットしやがったせいで、オレは痛い目をみてな。やんなってでてっいったのさ。 」
「 ボイコットとは? 」
「 誰かが困っていたら、助けるのは当たり前。そういってたアイツは、他の仲間ともどもオレとは別のクエストを受けた。一緒に来てくれたのは、ウルベルトと獣王メコン川だけだったよ。 」
「 しかし、貴方は現にここにいる。それなら良いでは・・・ 」
「 あの時はお前の親父も似たようなことをいった。弁償する、高レベルのドラゴンを寄越すといってな。
まったく、金の問題じゃないというのに。
いくらアイツが課金しようが、あの日あの場でオレがテイムし、アドライグと名付けたドラゴンは戻ってこない。メリュジーナと名付けたドラゴンは戻ってこない。
コアトルスも、グレンデルもみんなだ。
ヤツはデータだからと、オレの、他者の心を度外視しやがったのさ。 」
「 ・・・ 」
そういう意味では、オレはたっち・みーよりも、モモンガを恨んでるのかもしれない。一緒んなってボイコットしやがったペロロンチーノも。今となっては過去でしかない。
その頃から、彼は魔王になる資質はあったのかもな。
「 オレにとってドラゴンとは人生だ。それをあのスケルトンは、蔑ろにして、踏み躙った。オレは心底、お前の親父に、あの骸骨野郎に失望したのを覚えている。今は昔ほど引き摺っちゃいない。が、それでもオレは、戻るつもりはない。アイツやたっち・みーの顔もみたくない。 」
それに、今が楽しいし、魔導国も窮屈そうだしな。ウルベルトもメコン川ももういないし。
「 話がつまらないか?パンドラズ・アクター。 」
「 ええ。実につまらない話です。 」
「 それは失敬。話さない方が良かったな。 」
「 ドラゴン数頭の為に、貴方がナザリックに君臨されなかったのは、悔やまれますが。
・・・なにかにこだわりを持ったり、大事に思うこと自体は、理解致しますが。 」
最初の痛ましい茶目っ気を感じさせない、ひんやりとしたそのトーンで、パンドラはつまらないと答えた。やはり、こいつらは化け物か。生まれついでの。コイツの冷淡さ、他への無関心さはまさしく父親譲りであるようだった。が、コイツをこの場で殺すには惜しい。
「 だが、お前自体は気に入った。今日のところは見逃してやりたいがどうだ? 」
「 その御慈悲に甘んじたいところですが、彼女はお気に召さないでしょう。 」
「 その通り。 」
後ろから、女の声が聞こえる。振り向くと彼女は黒く禍々しい鎧を纏い、手には漆黒のバルディッシュを握ってその場にいた。
角や黒い翼をみるに、これは悪魔か。
気品のある声に、その本性をうかがい知る事ができた。
「 アルベド殿。 」
「 貴方が遅れを取るなんて、珍しいこともあるものね、パンドラズ・アクター。それと・・・ 」
女は横になってるパンドラズ・アクターからオレに視線を向ける。
「 なんだ?オレの顔になんかついてんの? 」
「 そんなんではありません。ただ・・・ 」
「 ただ? 」
「 早くその顔を死肉にして差し上げたいと思ったまで。 」
えらく好戦的だな。ギルドの障害になり得るとオレを始末しに掛かるのは分かるが、何故ペロロンチーノまで狙うか。まぁ、それはコイツを黙らせてから、ゆっくり聞くとしようか。
「 やれるもんならやってみな。 」
装備をみるに、ビルドはタンクか。だいぶMPを消費してしまったが、どうにかする他あるまい。
杖を構えた、その時だ。
『 おいドラゴンの旦那! 』
「 クックル、どうした? 」
『 そっちに誰か近づいてきてやがる。魔獣を引き連れてやがる。ビーストテイマーか?これは。 』
「 魔獣。何の種類か分かるか? 」
『 煉獄天馬だ。 』
「 れんごく天馬・・・DQの時にでて来たやつだな? 」
『 あぁ、もうすぐそこまで来てるぜ。おっとぉ!? 』
「 どうした!? 」
『 よく見りゃコイツ、見知った顔だぜ。 』
クックルの〈伝言〉が切れると、アルベドは間近にまで迫り、その得物を振り下ろそうとしていた。
「 オラァ・・・ 」
「 オォン!! 」
飛びかかる女に、色なにかが突進、吹き飛ばす。
「 な、なにが・・・? 」
突然のことに呆然とするアルベド。彼女とオレの視線を向ける先に、その魔獣は佇んでいた。
黄色と赤の鬣をした、青緑と黒の馬。その宙を浮く姿は天馬と呼ぶに相応しいものだ。
このれんごく天馬も、ドランゴらバトルレックスやヤッチェのようなガメゴンロードと同じイベント以降に実装されたモンスターだ。
そして、その背に誰かが跨っている。
「 お前さALBDさ、この場はPNDRくんを連れて引き下がった方がいいんじゃないすかね? 」
「 相も変わらず、クッソ汚い面ですね・・・ 」
オレは、この獣の耳の生えた異形種な彼のことを良く知っている。クランを抜けてからも、ウルベルトともども彼とやりとりを続けていたし、彼がギルドを抜けてからも、交流を続けたからな。
「 獣王メコン川様? 」
敬意もなにも感じさせない声色で話すアルベドを他所に、獣王メコン川、現在の名は野獣王タドコロだが。彼はオレを見て、一言。
「 おまたせ。 」
この男の顔を、ここまで頼もしく感じたのも、久しぶりだ。