OVER ROAD〜すべてが〇〇だったはず〜 作:ニコラス―NICORUTH―
廃棄都市ヴリヒルドリア公民館。会議室には見知った顔がオレたちを待っていてくれていた。
タダノさんと烈怒さん、そしてタドコロだ。
そして彼の連れ、ホモの団の魔法詠唱者、KMRさんと参謀のMURさんもいる。
「 待ったか? 」
「 大丈夫すよ。んじゃホモと学ぶ地理解説、やりますよ、やるやる・・・ 」
「 なんでホモと学ぶ必要があるんですか? 」
「 あっおい、待てぃ(江戸っ子)。オレたちはホモじゃないかゾ?オレたちの方が長い期間この世界にいるし、地理も詳しいゾ。タドコロだけじゃ大雑把すぎるしな。 」
「 言われてみれば、そう、ですね。 」
そう、今回はタドコロから、彼が知りうる限りの、この世界の地理を教えてもらうのだ。
コイツが都市国家連合という集合国家を制圧しようとしてるのは分かるが、オレたちの街が飛ばされたここが何処なのか、他にはどのような土地があるのか。
まずはそれらを知らねばならなかった。
「 それよりもKMRァ、あれが例の? 」
MURはオレの隣にいるフィースを物珍しそうにみていた。彼女は今回、オレの付き添いとして控えてくれている。今の彼女は多くの人物の興味の的であるようだ。
「 そうですね。彼女こそ、NPCの悪魔合体、その初のケースです。 」
「 確か、見たことないスキルを持ってたって聞いたゾ。 」
「 ええ、そのとおりです。先輩の言を借りれば・・・ 」
「 そうだよ(肯定) 」
「 ですね。例えば・・・ 」
「 MURはん、話脱線しそう・・・しそうじゃない? 」
「 あ、そっかぁ・・・ 」
タドコロに咎められ、MURは一旦フィースから離れて、本題に移ることにした。テーブルには、この世界のものであろう地図が広げられている。
「 んじゃ、まずはこの地が何処なのかというところから説明するゾ。ここは大陸の西側、つまりユーラシア大陸くらいのサイズの一番左端ゾ。 」
「 てことは、東にも国や村がたくさんあるってことか? 」
タダノさんの問いかけに、MURはお決まりの言葉で返した。
「 そうだよ。そっち方面がどうなっているのかはまだ分からないが、現状はまずこの西側の地理を頭に叩き込むのがいいぞ、コレ。 」
彼も淫夢厨なのだろう。独特な言い回しが目立つ。一見間が抜けて見えるが、その愛嬌の中に、知性を感じるんでしたよね?
「 まず、あるじぇんとが戦った絶死絶命。彼女はスレイン法国の鬼札だったな。 」
「 そうだよ。この廃棄都市があるのはここぞ。
竜王国っていう国の近く。カッツェ平野もすぐそこにあるからか、ここらも比較的平らだゾ。
スレイン法国はここから西。ビーストマンて亜人種の勢力から竜王国を保護してる都合上、法国の人間がこの辺りを立ち寄る頻度は多いゾ。 」
「 なるほど。ということは、あの晩にオレがやったのは・・・ 」
「 連中の斥候かなんかだと思うゾ。それで奴らが虎の子を即座に送りこんだ辺り、法国はお前が思っているより、そちらのドラゴンを怖がっていると考えられるゾ。 」
「 虎の子?あぁ、そういえば。 」
ここでアンティリーネがいっていたことを一つ思い出す。この世界には、真なる竜王なる高位のドラゴンが存在し、彼らはこの世界に転移したプレイヤーには基本的に敵対的な姿勢を取る。勿論、その血を色濃く受け継ぐアンティリーネのような、神人と呼ばれるものたちも、例外ではない。
そのため彼女は、普段は籠もって、六大神の遺産を守っているそうだ。
「 真なる竜王、か。 」
「 おお、知ってたとは流石は竜の求道者ゾ。 」
「 そんなふうに呼ばれたの、久し振りだ。 」
竜の求道者とは、オレの通り名。あの紺色の魔法詠唱者にとっての、「雷帝」と似たようなものだ。
常軌を逸したドラゴン狂い故に、そうよばれるようになったらしい。
オレが狂ってるか。否定はしない。常人ならばNPCを拉致して、合体素材になどしないからな。
前もいったが、憧れは止められん。
この真なる竜王なるドラゴン、一度見てみたくなった。
「 実際、法国とエルフ国のあるエイヴァーシャー大森林より上、アーグランド評議国には、この真なる竜王がいると聞いているゾ。が、どうも国からでられなくなってるらしい。 」
「 なぜだ?プレイヤーを敵視してるんじゃないのか?特に目に見えて害意を振りまくモモンガなんかは。 」
「 詳しい事情はまだ分からないが、おそらくは八欲王絡みだと思うゾ。竜王が魔導王に直接手をだせない、だしにいけない理由といえば、こいつらくらいしか見当たらないゾ。 」
八欲王。かつて多くの竜王を屠ったといわれる猛者たちか。アンティリーネはこのうち一人の孫にあたるといっていたな。
「 奴らはとっくの昔に、仲間割れを起こして自滅したと聞いたが。 」
「 だが今の時代でも、その遺産が残ってるゾ。その最たるものといえば、やはり南に位置する空中都市ゾ。 」
「 MURはん、ナザリックやこのヴリヒルドリアが転移してるのを考えると、この空中都市ってやっぱり・・・ 」
「 連中のギルド拠点だと思ってるゾ。いや、だった、が正しいか。 」
「 とすれば、やっぱりNPCがいるんじゃないすかね? 」
「 オレも同じことを考えていたゾ。そして、これが件の竜王が動けない理由だと思ってるゾ。 」
空中都市に、NPC。あのアルベドやパンドラズ・アクターのようなのが、そこにもいるわけか。
おそらくはナザリックと同じ上限3000くらい。
とすれば、レベル100が最大30体いることになる、か。
如何に竜王といえど、迂闊に手は出せんな。
「 つまり、そいつはそのNPCたちにビビってるってことすかね? 」
「 タドコロ、お前が前のギルドにいた時、メンバー全員が死ぬほど大事にしてたものがあるはずだゾ。 」
「 ・・・あっ(察し)! 」
「 そうだよ。ギルドアイテムゾ。ヤツは何らかの経緯で空中都市のギルドアイテムを手元に置いている。そしてそれを守っているから、でてこれない。 」
うーんギルドアイテムか。うちのも大事に囲っているが、そうやすやすと奪われるものなのか?
・・・ん?なんか可笑しいな?
「 待った、MURさん。 」
「 何故これを守る必要があるんですか? 」
お、KMRさんがオレの疑問をいってくれたようだ。どうやら、同じことを考えていたらしい。
「 理由は簡単ゾ。ギルドアイテムが破壊されることがあれば空中都市のNPCたちが野放しになるからゾ。 」
これに反応を示したのは、烈怒さんだった。そうか、竜王ほどのドラゴンとやりあえる連中なのだ。奴らがNPCだって危険視するのは自明の理か。
「 なるほどな。アイテムがあるということは、まだギルドとしての機能自体は生きてるということ。ギルドアイテムの破壊は、そのままギルドの崩壊を意味する。そうするとNPCは持ち場についている理由がなくなり、自立行動を始める。勝手にどこかに行ってしまうんだ。竜王はこれを恐れている。 」
「 そうだよ。(肯定)こうして100レベルが野に放たれたらどれだけの脅威かは、魔導国が教えてくれてるゾ。シャルティアやアウラとその弟は首都リ・エスティーゼの国民を一人残らず皆殺しにした。同様レベルの規模の惨事が、大陸中で起こることになるゾ。そうなったら、連中にも収拾がつかなくなる。空中都市のギルドアイテムは、まさしくパンドラの箱ゾ。 」
確かに面倒だ。NPCとはいえ、最大レベル。それが如何に手強いかはこれまでの経験からわかる。
それに、ポルンガが幅を利かせられるのは、同格の相手とでくわしてないからだというのなら、アイツに抵抗できないレベルの人間や亜人種たちでは、空中都市のNPCたちには到底太刀打ちできないだろう。それが30もいる。直接手を下さない時点で、竜王たちにすら、手に余る相手だとわかるのだ。
「 で、ヤツはギルドアイテムを隠し持っていて、それを守っている。と考えたが、どうかゾ? 」
「 なるほど。確かに合点がいく。でも、竜王は多分一体だけじゃないんだろ? 」
「 そうだよ。その多くは八欲王に狩り尽くされたが、生き残りが評議国のほかにも潜んでいる可能性がある。警戒はしておくに限るゾ。 」
MURの言う通り、この真なる竜王というドラゴンたちがプレイヤーとやりあえる存在であるなら、まだ何体かが生き延びている可能性は極めて高い。
おそらくはプレイヤーが来るまではこの世界の生態系の頂点であったのだろう。ただ強いだけが優れた生命ではない。真に優れているのは、生き残れる生命だ。ヘジンマールなる聡明なドラゴンがいるくらいだ。竜王もまた知能が高いに違いない。それゆえに当時八欲王と戦わず、逃げに徹するという手段をとった、或いは取らざるを得なかった個体だっているはず。そいつらは勿論、煮え湯を飲まされたことを忘れてはいないだろうし、その当時よりも力を増しているだろう。
危険だが、益々興味が沸いてくる。そんなに強いドラゴンが、この世界にいるのか――
「 ALJNT、お前もしかして竜王って聞いて舞い上がってる・・・舞い上がってない? 」
「 あぁ、すまんタドコロ。やはりな、これは性分なんだ。 」
ユグドラシルでも他のゲームでも、この世界でも、オレはドラゴンに恋焦がれた、すべてがドラゴンだった男であることに変わりない。それだけだが、プレイヤーを敵視するドラゴンの話を耳にしても、危機感よりも、憧れが来る。
どんなやつなのだろう。鱗の色は?翼長は?
角は生えているのか、どんな形なのだ?
どんな属性のブレスを吐くのか。
魔法は使えるのか。
どれをとってもまるで見当がつかない。が、オレはその存在に、ひどく惹かれている。
出逢えば、戦い、殺し合うことになるだろう。そうなったのなら、どのように戦えばよいのだろうか。
「 話を戻すぞ。カッツェ平野は法国を含めた三つの国に囲まれるように存在している。
その一つがここ、バハルス帝国ゾ。
魔導国成立後、何処よりも早く属国になった国ゾ。その近くにあるのが、オラたちの本拠のある、都市国家連合ゾ。 」
MURは平野から東の国に指を差した。
「 あの大虐殺を目の当たりにした連中、だったな。 」
「 超位魔法一発で、17万人が蹂躙される様など見れば、正気でいられるものなど限られるだろう。 」
「 オレ、一ついっていいか? 」
「 いいぜ、タドコロ。 」
「 いいすかぁ?オレ思うんだけど、この時多分MMNGさんって、プレイヤーを探す意図があったんじゃないすかね?(名推理) 」
「 ん・・・?ああ、なるほど、確かに。 」
「 そうか。だからわざわざ。 」
オレもKMRさんも、タドコロの推測に、そうかと納得してしまう。
この時モモンガが撃ったであろう〈黒き豊穣への貢〉は超位魔法。この超位魔法というのは、ユグドラシルでも最上位のランクに位置する魔法であり、MPは消費しない代わりに、発動までのタイムラグが存在する。砂時計型の課金アイテムを使えば、それを軽減できるものの、魔法陣がわかりやすく展開され、さらに発動までの間術者はその場から離れられないので、良い的になって、注意を引きつけてしまう。
そのためユグドラシルプレイヤーがこの時の王国軍に紛れていれば、モモンガに矢なり魔法なり撃って妨害するのだが、結果的に超位魔法発動を許した。そう、この時プレイヤーがいれば、〈黒き豊穣への貢〉は発動しなかった可能性が高いのだ。
「 魔導王もオラたちを探してたかゾ? 」
「 MURはんたちをというよりは、オレとかPRRNとかじゃないすかね?ナザリックが残ってるってことは多分そういうことなんだってはっきりわかんだね。 」
「 あっそっかぁ・・・ 」
タドコロは、元ギルドアインズ・ウール・ゴウンのメンバー。パンドラズ・アクターのいう至高の御方々とやらの一人だ。オレより長いことモモンガと接している。今となってはほとんどがギルドを去っていったらしく、コイツも例外ではなかったのだが、なにか思うところはあるらしい。
「 そして平野を挟んで帝国に隣接してるのが・・・ 」
次にMURが指差した先は、オレにとっては複雑な感情を抱かせる、あの名だ。
「 アインズ・ウール・ゴウン魔導国。 」
「 大虐殺で王国に完勝して、エ・ランテルという街を領土として割譲されたことで、成立した国。
主産業は農業で、アンデッドを労力として使ってるらしい。ちなみに一番売れてるのはスケルトンゾ。 」
「 属国の軍にはデスナイトをぶち込んでるらしいな。 」
「 でもよぉMMNGさんよぉ・・・
マッチポンプだらけじゃねぇかおま国ィ! 」
タドコロの言う通りだった。アルベドの記憶を覗いたKMRさんによると、魔導国の仕事のいくつかはこのマッチポンプが行われていたらしく、特に顕著なのが、聖王国での魔皇ヤルダバオトの襲来だった。
カルカ女王殺害や国家乗っ取り、その殆どが魔導国、ひいてはナザリックの手引きだった。オレ的にはこのヤルダバオトというのが気に入らなかった。
こいつはウルベルトのNPCらしいが、こんなもん見てアイツが喜ぶわけがない。
アレは弱者の痛みを良く知っている。それを強いれば自分が嫌いな連中と同じになることくらいわかる筈だから。ベルリバーが死んだ時、誰よりも憤ったのはアイツだ。
モモンガよ、やはりお前は人の心が分からないようだ。何故コイツにこんな真似をさせた。
竜王への情景の次は、奴への怒りが込み上がってきた。ヤルダバオト、お前は父親の顔に泥を塗っていることが分からないのか?
「 地理説明は概ねこんな感じかゾ。聖王国やアベリオン丘陵はハブにしとくゾ。 」
「 わかった。で、オレたちはこれからどうすべきと思う? 」
烈怒さんの質問にも、MURは丁寧に応対する。やはり彼は、智将である。
「 先ず、このヴリヒルドリアを都市国家連合の管轄として組み込み、ナザリック側の勢力を表立って介入できなくさせるゾ。その為にはこの近くにある、飛竜騎兵部族の里を掌握するところから始めるゾ。 」
「 ワイバーンライダー・・・! 」
これまた興味の的がでてきたではないか。
ワイバーンに乗る戦士たちとは。ぜひ会いたい。
「 ALJNT気が速いっすね・・・! 」
「 それくらい積極的な方がいいぞ、コレ。竜王国の奴らは魔導国から高レベルアンデッドを買ったらしいから、このままだと奴らに先をこされるから先手を打つべきゾ。TDNさんにはトロールの国をどうにかしてもらう。
タドコロ、お前はビーストマンの国ゾ。連中の悩みのタネは奴らだからなぁ。ゆえにビーストマンは死ゾ。 」
「 ウッス・・・ 」
「 ん、おかのした。 」
「 あっそうだ。それと悪魔合体のことだが、FISちゃんたち三バカをぶち込んだらものの見事に強くなったんだってな。 」
オレに話を振るMUR。フィースは意味が分かっていないのか、そんなオレの顔をみて、ハトが豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべる。
「 お前の今のレベルは84、だったな。 」
「 はい。フォアイルは86、リュミエールは83です。 」
「 だ、そうだ。1レベルがここまで化けるとは、想定外だ。 」
「 おし、じゃあ死んだ連中もぶち込んでやるぜ! 」
どうやらMURは、殺したトロールやビーストマンの死体も素材として使う気のようだ。
「 MURはん、その心はなんすかね? 」
「 ナザリックに忍び込んで捕らえたNPCたちは皆生きてた状態ゾ。死んだ状態なら、果たして合体できるのか。この知見が欲しいゾ。それに・・・ 」
「 ん? 」
「 おそらく魔導王は配下を誘拐されて気が立ってる状態ゾ。これ以上のNPC鹵獲は難しいと判断したゾ。 」
モモンガにとって、NPCはプレイヤーの子。ゆえにそいつらがいなくなった今、必死こいて探そうとするなど想像するに難くない。
・・・どこまでも過去に囚われるか。哀れな奴だ。