異世界勇者ロボ~勇者として異世界に召喚されたら勇者ロボも一緒だったんだが!?~ 作:オレの「自動追尾弾」
異世界勇者ロボ 第24話
燃えよ、白虎
この街の黒い空を見上げてアタシが思い出したのは、師匠と出会う前の、ろくでもなかった頃。
母の再婚相手の連れ子と『ちょっとしたトラブル』があって母と口論になり、家出をして辿り着いた、あのゴミゴミしたスラム街。
手持ちの金は直ぐに尽きて、食いつなぐために元々いた浮浪者みたいなガラの悪い連中や、マフィアの使い走りみたいな連中を叩きのめして目を着けられていた時、命からがら逃げた先で真っ黒な空を見上げる度に、憂鬱な気分になった。
そんなある日、下手をして追い詰められて、連中にリンチか、それよりも最悪な目にあいそうになった時、いきなり現れた老人。
一目で『余所者』と分かった。スラムで見ない顔だし、服は妙に小綺麗だった。
どういう訳かアタシを助けようとした。当然連中は許さなかった。だけど、そいつらのボスがその老人を見た瞬間、顔色を変えて撤収を命じてきた。納得のいかない奴が1人、老人に襲い掛かったら、まるでノーブレーキのトラックに轢かれたみたいに吹っ飛んだ。
「わしが用があるのはその子じゃ。退いてくれるかの?」
老人が低い声でそう言うと、連中は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「災難じゃったな、お嬢ちゃん。」
老人は、呆気に取られるアタシに話しかけてきた。
「噂は聞いていた。この街で結構やんちゃをしている娘がいるとな。実際見たら、まるで獣じゃな。」
「んだと?」
反射的に、アタシは老人に殴り掛かった。だけど、あっさりと捌かれて地面に転がされた。
「今のおぬしは、「内なる獣」に振り回されておる。そういう獣は、いずれおぬしの身を突き破り、やがて取り返しのつかない事になろう………」
そう言って、アタシに手を差し伸べてきた。その目は、黒い空のこの街からは見えない、太陽のようにも見えた。
「どうする?このまま獣に喰われるか?わしと一緒に来て、獣を屈服させるか?」
「……アタシは………」
いつの間にか、アタシはその手を取っていた。立ち上がったアタシに、老人は聞いてきた。
「あ、そー言えばおぬしの名前、聞いとらんかったの?」
「………レイェン。」
†
「―――始まったようですね………」
修道院のベッドの上で、窓から見える魔導障壁を見た院長は城壁の外で戦闘が始まったのを感じ取っていた。傍にいたリサーナも、少し不安そうにしていた。
「院長………」
「ええ、彼を例の場所へ。」
「は、はい………」
院長に促され、リサーナは院長の部屋から出た。しかし、ドアを開けた先にトッタたち3人が待ち構えるようにして立っていた。
「あ、あなたたち………!」
「シスター、院長、大丈夫なの?」
「ここの所、2人ともずっと不安そうだし………」
「最近ちゃんと寝てないみたいだし………」
「え、ええっと………」
トッタたち3人が心底心配そうに言う様子に、リサーナは困った。どうやら、昼間のデュランたちと会話している様子を見て、不安が増してしまったようであった。院長や自分の不安を察してくれたのは嬉しいが、彼らを巻き込む訳には行かなかった。
「だ………大丈夫、だよ………」
「?」
その時、廊下の奥から声がした。見てみれば、シャスティの手を借りながら、デュランがこちらに向かって来ていた。
「デュランさん!」
「い、今、私の仲間たちが………頑張っている………シスターや院長が、ぐっすり眠れるように………」
「デュランさん!」
「無理はしないで……」
リサーナが慌てて駆け寄ると、シャスティに変わって今にも倒れそうなデュランを支えた。
「トッタ、ギッタ、スッタ、ベッドとお水を用意して。」
「「「は、はい!」」」
リサーナに言われて、3人は駆け出した。
「デュ、デュランさん、大丈夫だか………?」
「何とか、ね………こんな状態で情けないが………城壁外の敵は、ニールたちに任せるんだ………」
「ん、んだ………!」
デュランは心配そうなシャスティに、何とか笑顔を作って見せた。デュランは、廊下の窓から魔導障壁を見つめた。
(トライヤーズ、ニールさんがいるとはいえ、私がいない状況で連中を打破できるとしたら、君たちにかかっている………頼んだぞ………!)
†
城壁の外は、危機的状況にあった。
バトルパンサーたちマシンメイルが拘束され、パイルコーンC1が城壁を破壊せんと自慢の角を突き刺していたのだ!
「次弾装填!」
「了解!まったく、いちいち装填が必要なんて、面倒な機体ダスな………」
ボルグがボヤキながらもコンソールを操作すると、パイルコーンの後頭部に当たる部分がオートマチック銃のようにスライドし、2m近いサイズの薬莢が排出された。それを見た草介は、次の攻撃のために火薬を装填していると直ぐに察した。
「マズいぞ!早くあいつを何とかしないと!」
「だが、どうすれば………!?」
草介が慌てるが、ロンとフェイは機怪魔獣相手にどうすればいいか迷った。周囲を見てみれば、トライトータスとトライフェニックスはポーラダイトとシャークダイトに噛みつかれ、バトルパンサーはティラノダイトの尻尾で抑えつけられて動けず、カルキザースD3にビャッコロッドを掴まれたトライタイガーは何とか抜け出そうとしているが、まだ時間はかかりそうだ。
草介は少し考えてから、フェイに指示を出した。
「フェイ、あいつの脚の関節だ!脚の関節を狙って、バランスを崩させるんだ!」
「あ、なるほど………!」
指摘を受けたフェイは、ハッとしたように弓を手にすると、パイルコーンの脚の関節に狙いを定めた。その間に、パイルコーンは薬莢を装填して追撃の準備を整えていた。
「よし、もう1発ダス!」
[待って!]
「ダス?」
引き金を引こうとしたボルグだが、キアラからの通信を受けて中断をする。切り替わったモニターには、こちらを狙うフェイと、その後ろで会話をする草介とロンの姿だ。
「あ!いつものあのガキ!」
「あいつが何かやらかすと、作戦が失敗すると姫様も警戒されていたな………」
[ええ、何かされる前に手を打つのよ!]
「了解ダス!」
キアラの指示を受けてボルグが返答をする。
「………と言っても、この機体パイルバンカー以外の装備ないからな、私が出るか………」
カラは愛用の杖を手にパイルコーンの『目』に当たるキャノピーを開けてコックピットから外に出ると、目下の草介たちに狙いを定めた。
(さて、この状況………あんたならどう切る抜けるかしら、ソウスケ?)
内心、キアラは草介がどんな手に出てくるのか、少しだけ興味があった。だからこそ、カラたちに草介の事を伝えたのだ。
「
『!?あれはマズそうネ!!』
パイルコーンからカラが出てきて呪文の詠唱を始めたのを見たトライタイガーは、草介たちが危ないと察した。咄嗟に両肩のクローバルカンを発射するが、カルキザースの堅い装甲の前では豆鉄砲に等しいのかあまりダメージはない様子であった。
「ぐっ、こいつ………!」
しかし、それでも怯ませるには十分だったのか、カルキザース内のキアラはその弾みで操作を誤り、ビャッコロッドを手放してしまった。
「あ、しまった!?」
『ソウスケ!!』
「
「「!?」」
「くっ!!」
カルキザースから解放されたトライタイガーが叫ぶと、草介たちはパイルコーンの上のカラに気付いた。しかし、すでにカラは詠唱を終えており、風の刃が草介たちに迫って来た!フェイは下を撃ちながらも弓を放つと、風の刃と正面からぶつかり合って周囲に突風が吹き荒れた!
「うわッ!」
「きゃあ!?」
『みんな!?』
草介たちが突風に飛ばされないように屈んで踏ん張ると、トライタイガーは思わず声を上げる。3人は何とか耐えたものの、その隙にカラはコックピットに戻り、ハッチを閉じた。
[と、トライタイガー、策がある………]
『ヌ?』
その時、トライタイガーに草介からの通信が入った。その間に、パイルコーンはパイルバンカーの発射体制に入っていた。
「今度こそ、次弾点火だ!」
「ダス!」
ボルグが引き金を引くと、再びパイルバンカーが発射され、城壁と魔導障壁に強い衝撃が再び襲う!その衝撃に障壁は一瞬点滅すると、先ほどよりも弱々しく光る。
「マズい、後1発も喰らえば、障壁は消えてしまうぞ!!」
障壁の様子を見たロンが、悲痛な叫びを上げる。草介は冷や汗をかいて、城壁の向こうを見た。
「頼むぜシャスティ、いざとなったらお前が頼りだぜ………!」
漏洩の危険性があるため、通信はできない中、修道院に残るシャスティに草介は祈るように呟いた。
†
その頃、修道院地下に向かったシャスティとリサーナ。しかし、魔力結晶はさながら蛍の光のように弱々しく点滅し始めていた。
「ああ!もうこれだけしか………!」
「は、はやくこめねぇと………!」
シャスティは慌てて魔力結晶の前に行き、魔力を込めようと詠唱を始めた。
「テ、てちきちっ………テチキチモにっ………あうう………」
しかし、緊張をしているせいか何度も噛んでしまい、シャスティはうまく詠唱できない。そのせいでさらに焦ってしまい、余計に詠唱を失敗してしまう。
「どうしよう……このままじゃ……!」
自分が頑張らなければ、街の人たちが危ない。その重圧がシャスティに圧し掛かり、緊張や焦りとなってシャスティを襲い、詠唱をさらに失敗させてしまう。
「シャスくん………」
シャスティを心配そうに見つめるリサーナであったが、直ぐに意を決した顔になり、シャスティの後ろに立つと、その肩に手を置いた。
「り、リサーナ……さん?」
突然触れられて驚くシャスティだったが、リサーナは優しく微笑んで見せた。そして、そのまま背後から抱きしめるように手を回してきた。
「え?あ………」
「ごめんなさい、あなたにこんなこと、任せてしまって……私がもっと、しっかりしていれば……」
「ね………リサーナさん………」
リサーナはシャスティの耳元でそう囁くと、優しく頭を撫でた。その感触に、シャスティは少しだけ落ち着いたように感じた。
「だけど、お願い………あの子たちを………」
「リサーナさん!?」
囁くようにそう言うと、リサーナはその場に倒れこんでしまった。シャスティは様子を見るが、眠っているだけの様子でホッとした。ここにきて、疲労が限界に来たのだ。
「リサーナさん……」
シャスティは眠っているリサーナをゆっくりと床に寝かせると、再び魔力結晶の前に立つ。その目には、もう迷いはなかった。手にした杖を魔力結晶に向けると、シャスティは詠唱を始めた。
「
呪文を唱えたその瞬間、杖の先端から光る魔力の奔流が放たれて、魔力結晶に注がれた。
すると、それまで弱々しく点滅していた魔力結晶は、息を吹き返したかのように一気に力強く輝き出した!
†
時間はほんの数分遡り、城壁外での戦闘場面。
「よし、障壁を回復される前に、もう1発だ!」
「おう!」
『させないアル!』
パイルコーン内でカラとボルグが言い合うと、トライタイガーは駆け出した。
[ヤツはパイルバンカーを1回使うと、次の攻撃には薬莢を排出して次の火薬を装填する必要がある。排出の瞬間を攻撃して弾詰まりさせれば、簡単には直せないはずだ!]
先ほどの草介との通信を思い出しながら、トライタイガーはパイルコーンに向かって行く!
「させないのは、こっちのセリフよ!」
『むむ!?』
しかし、行く手を阻むようにカルキザースが横移動でトライタイガーの目の前に現れた。カニ型だけあって、横歩きは得意らしい。カルキザースは両腕のハサミで斬りかかるとトライタイガーはビャッコロッドで防ぐが、先ほど同様にハサミで掴まれてしまう。
「このまま!」
『アイヤ!?』
その時、カルキザースのハサミが根本から外れると、ロケットブースターが点火!トライタイガーはその勢いに押されて、パイルコーンから離れてしまった!
『な、なんとぉーーー!?』
「ろ、ロケットパンチかよ!?」
「あのハサミ、外して発射できるのか!?」
まさかハサミを発射可能とは思ってもみなかった一同は驚愕するが、このままではパイルコーンの次の攻撃に間に合わない!カルキザースの外れたハサミの根本から3本指の手が出現する中、トライタイガーはビャッコロッドから手を放して着地するが、パイルコーンから結構離れてしまった。
『あの距離なら、間に合うまい。障壁を破壊して、目的を果たす!』
『貴様………!』
ティラノダイトは勝利を確信して、ほくそ笑んでいた。しかし、トライタイガーはカルキザースの後ろのパイルコーンをキッと睨むと、何か思いついたのか口角を釣り上げた。
『頭を使ったアルネ………それならこっちも!』
そう言って、トライタイガーが駆けだした。キアラはカルキザースの腰から短剣を抜いて構え、トライタイガーとの距離が詰まったその時、
『頭を使うアル!!ヘッドアタック!!』
「ええ!?」
トライタイガーの右肩に装着されていた虎の頭が射出されると、カルキザースの横を通り抜けてパイルコーンに向けて飛んで行った!
『何ィイ!?』
『『あ、
ティラノたち六魔獣将が呆気に取られている間に、パイルコーンは薬莢を排出、その瞬間に虎の頭が直撃し、その衝撃で角が城壁から角が外れ、排出中の薬莢が排出口に詰まってしまった!
「な、何だと!?」
突然の衝撃にカラとボルグは戸惑う。ボルグは排出レバーを何度も倒すが、固く動かすことができない!
「は、排出不能ダス!?」
「ば、バカな!?」
パイルコーン内で混乱が生じる。その時、虎の頭がトライタイガーの元に戻ってきて、再度右肩に合体するのを見たキアラが、ベロースリット領での戦いを思い出した。
「し、しまった!コイツの動物の頭部は、発射できるんだった………!」
「変形機構を有効活用しているのか………」
「あの頭、飾りじゃないんだ………」
「だが、これでパイルバンカーは使用不能になった!」
地上の草介たちは、パイルコーンの武器を無力化したことに喜びを見せていた。
一方で、トライタイガーの奇策を見たトライフェニックスとトライトータスは、あっ、と声を出した。
『そうか!その手があったか!』
『拙者としたことが、この機能を忘れていたとは!』
『え!?』『まさか!?』
そう、トライフェニックスとトライトータスも、トライメイルである。つまり、トライタイガーと同じ機能が搭載されているのだ!
『『ヘッドアタック!!』』
2人が叫んだ瞬間、右肩の鳥とリクガメの頭部が発射され、Uターンするようにシャークダイトとポーラダイトに突撃をした!
『ぐげっ!?』『きゃあ!?』
ヘッドアタックの直撃を受けたシャークとポーラは、その衝撃で捉えていたトライフェニックスとトライトータスを放してしまった!解放された2機が着地をすると、トライタイガーが声をかけた。
『2人とも、大丈夫アルか!?』
『何とかな。』
『しかし、このダメージでは………』
トライフェニックスとトライトータスは笑って返すが、先ほどまで噛みつかれていた肩や腕を庇うように押さえていた。
―――その時だった。街を覆っていた魔力障壁が光り輝いたのだ!
「っ、これは!?」
「し、しまった!?」
「魔力障壁が復活!?」
「間に合わなかったか!?」
「やったな、シャス、ティ………!?」
魔力障壁の復活にキアラたちは驚き、草介たちは喜びから笑みがこぼれる。しかし、周囲を昼間かと見紛うほど照らす障壁の輝きに、その笑みは歓喜から困惑へと移行した。
「………いや、光りすぎだろこれ!?どんだけ魔力注入したんだよシャスティのやつ!?」
「回復どころか強化されてる………」
草介が思わずツッコミを入れて、フェイも顔を引きつらせていた。一方で、ティラノやキアラたちは障壁の光を唖然とした顔で見上げていた。
『な、何だよこの光……!?』
「この光………相当強化されているダスな………」
「目算だが、おそらくは通常時の2割以上は強化されているぞ………どんな魔導師がやったのだ………!?」
その光量から、カラは相当腕の立つ魔導師の仕業であると推測をした。そういえば連中の中に魔導師の小娘がいたと思い出し、そいつの仕業では、と考えていると、バトルパンサーを拘束していたティラノダイトが、唾を飛ばすように口から火の粉を撒き散らせ、イラついたように叫んだ。
『クソッ!やってくれたな原住民ども!!』
『グアッ………!!』
『バトルパンサー!?』
ティラノダイトはバトルパンサーを蹴り飛ばすと、バトルパンサーがトライタイガーの足元に転がって来た。トライタイガーがティラノダイトの方を睨むと、彼の周囲にシャークダイト、ポーラダイトが集まって来た。
『あんだけ強化されてたら、俺らの総攻撃でも破れるかどうか分かんねーぞ?』
『どうする、ティラノ?』
『作戦は失敗か………仕方ない、ここにいる連中だけでも始末するぞ!』
「ヤケクソね………」
忌々しそうに叫ぶティラノダイトを見たキアラが、呆れたようにため息をつく。しかし、相手を見ると、トライフェニックスとトライトータスはダメージからあまり戦える状況ではなく、倒れたバトルパンサーも直ぐに立てそうにない。残ったトライタイガーは武器であるビャッコロッドは先ほど遠くに飛んで行ってしまい、残っているのはクローバルカンのみである。
トライタイガーは、こちらに迫るビーストメイル3機と機怪魔獣2機の合計5機を前に、考えを巡らせていた。
(高パワーと火力のために頑丈なはずのバトルパンサーを蹴り飛ばして、ここまでダメージを与えるなんて……あのティラノダイト、総大将だけあって相当なパワーを持ってるみたいネ………倒せなくても退けさせるには、アタシも全力出さないと………でも、そのためには………)
トライタイガーが迷いを見せていたその時、ティラノダイトの口に炎が燃え、それは巨大な火の玉となって吐き出された!
『ティラノフレイム!!』
『危ねぇ!!』
火の玉が吐かれた瞬間、トライトータスがキッコウシールドを手に飛び出すと、草介たちを庇うように立ちはだかる!火球がシールドに直撃した瞬間、爆発を起こしてトライトータスは後ろに吹き飛び、城壁に打ち付けてしまった!
『ぐあッ………!!』
『トライトータス!!』
「防御ごと吹き飛ばした!?」
『こ、これほどとは………!?』
吹き飛んだトライトータスにトライタイガーが信じられない様子で叫ぶ。それ程ティラノダイトの火球の威力が凄まじいと知り、一同は戦慄した。
「さてソウスケ、魔力障壁は復活したけど、この後はどうする?」
「完全にノープランだよ………」
「だよね………」
「敵戦力が予想以上………」
口調は軽いものの、その顔を引きつらせながら草介たちは話し合う。草介は、口から火を散らすティラノダイトを睨んだ。
「くそっ、せっかくシャスティが頑張りすぎるくらい頑張ってくれたってのに………!!」
『………』
足元で毒づく草介の言葉が耳に入ったトライタイガー。振り返り見上げれば、城壁の中を包むように光る、ドーム状の魔力障壁。その中にいるトッタ、ギッタ、スッタの3人の顔が頭をよぎる。
『………』
トライタイガーの、レイェンの胸が吠えるように高鳴り、その目には燃えるような強い「決意」が宿っていた。
「レイェン?」
「?何………?」
トライタイガーの纏う雰囲気が変わった事に草介と、そしてキアラは気が付くが、その時、パイルコーンがトライタイガーに目掛けて、一気に突っ込んできた!
「パイルバンカーが使えないなら、突っ込んで突き刺してやる!」
「おう!」
「待って!」
突っ込んで行くパイルコーン内でカラとボルグが叫ぶが、トライタイガーの異様な雰囲気を警戒したキアラが止めに入る。しかし、フルスロットルのパイルコーンは急には止まれない。キアラの制止空しく、トライタイガーに向けて馬なのに猪突猛進に突っ込んで行く!
「危ない、レイェン!」
草介は思わず叫ぶが、トライタイガーは突っ込んでくるパイルコーンを一瞥すると、両掌を前に突き出した、拳法の構えを取った。
「な、何だ、あの構えは………!?」
草介がトライタイガーの構えに戸惑うが、その間にパイルコーンはトライタイガーに迫り、その角の先端が掌に接触する!
『フゥッ―――』
その瞬間、物凄い勢いで突っ込んで来たパイルコーンはピタッと停止、その衝撃は凄まじいはずなのに、トライタイガーはびくともしない………!?
「え………?」
何が起こったのか分からず、周囲の思考も停止しかけたその時、トライタイガーの足元が重低音と共に大きく陥没した!
「な、何だ………!?」
「何を、されたんダス………!?」
『『王道寺拳法』十三奥義、『
何をされたのか分からないカラとボルグが戸惑っていると、トライタイガーが静かにその名と事象を口にした。
「王道寺拳法?宇宙カンフーじゃなくてか?」
草介が思わず疑問を口に出す。トライトータスとバトルパンサーが驚愕の顔になっている中、トライフェニックスはその名前に聞き覚えがあるのか、信じられないという表情になっていた。
『ま、まさか………今のが世に聞く、王道寺拳法だというのか………!?』
『知っているのか、トライフェニックス!?』
『うむ。宇宙のどこかにある『王道寺』で開発されたという、門外不出の宇宙拳法!「使い手一人で百万の戦力となる」と言われている………拙者も文献と噂程度にしか知らなかったが………!』
「それをトライタイガーが、レイェンが使い手だっていうのか………!?」
トライフェニックスからの情報に、草介たちは驚愕しトライタイガーを見上げた。トライタイガーは、ため息を一つついた。
『あーあ、アタシちょっと訳アリだから、なるべく『本流』の技は使いたくなかったんだけどネェ………』
でも、と、トライタイガーは目の前のパイルコーンを睨むと、左手で角を掴み、拳を握った右手をまるで弓を引くかのように、後ろに目いっぱい引いた。
『シャスティが頑張って、ソウスケが知恵を出してくれて間に合ったのに、アタシが本気出さない訳にはいかないよネェーーー!!』
「い、いかん!?」
カラが慌てて引こうとしたが間に合わず、トライタイガーの右拳は目にもとまらぬ速さで、真っ直ぐに叩きつけられた!
『奥義『
「「!?」」
瞬間、正拳突きを受けたパイルコーンは破壊音と共にボディが砕け、握られていた角を残して吹き飛び、100m以上離れた地点で爆散した!
「こ、こいつ!?」
爆炎の中から脱出ポットが飛び出したのを確認したキアラは、冷や汗まみれでトライタイガーを見た。トライタイガーはパイルコーンの残骸である角を投げ捨てると、不敵な笑みを浮かべると、右手で手招きをしてきた。
『かかってくるネ、もう容赦はできないアルよ?』
『な、嘗めるなぁ!!』
シャークダイトが叫ぶと、ポーラダイトと共に水弾とツララ弾を連射する!トライタイガーは飛び上がって回避するが、そこにシャークダイトが吻を突き刺さんと突っ込んで来た!
『おっと!』
『何!?』
しかし、トライタイガーは空中でブリッジ姿勢で回避すると、両足でシャークダイトの頭を掴むと、ムーンサルトの要領で回転し、地面に落下していった!
『ぐおおお!?』
回転しながら地面に叩きつけられたシャークダイトが悲鳴を上げるが、トライタイガーは回転を止めず、車輪のように城壁に向かって進みながら、何度も地面に叩きつける!
『『
『またかよ!?』
シャークダイトは城壁に叩きつけられると、その自慢の吻が城壁に突き刺さってしまった!ホパクに続いて吻が原因で動けなくなってしまったことに、シャークダイトは嘆きにも似た声を上げた。
『シャーク!?このぉ!』
ポーラダイトは口からツララを連射で吐き出して攻撃をするが、トライタイガーは慌てるどころか一切避けず、両手で弾いてしまう!
『なっ………!?』
ポーラが驚く前で、トライタイガーは飛んでくるツララを、まるでしなやかに舞うかのように受け流しながらポーラに接近、すれ違いざまに打撃を何度も打ち付けた!
『奥義、『
『きゃあ!?』
ポーラダイトが悲鳴を上げて地に伏したのを見たティラノダイトは、わなわなと震えながらトライタイガーを睨んだ。
『こ、コイツ………!調子に乗んな!!』
ティラノダイトはそう言うと口を開いて火球を生成、『ティラノフレイム』の発射体制に入った!
『ティラノフレイ―――』
ザッ
『ムぅガ!?』
『ン?』
しかし、必殺の火球が放たれようとしたその瞬間、ティラノダイトの右膝の裏に鋭い痛みが走り、ティラノダイトはバランスを崩してしまう。その直後、バランスを崩して頭を上に向けてしまったティラノダイトの口から、ティラノフレイムが明後日の方向に飛んで行ってしまった!
『い、今のは!?』
『隙ありアル!』
『!?』
痛みの原因をティラノダイトが探ろうとするが、トライタイガーはティラノの目前まで急接近、その喉笛目掛けて突き上げるように貫き手を突き刺した!
『『
『グゲ………ッ!?』
喉を潰されて情けない声を上げ仰向けに倒れるティラノダイト!トライタイガーは倒れたティラノを見下ろした。
『キミ、フェイと同じで予想外の事態に弱いタイプみたいアルなー』
「あー………」
「何か分かるかも………」
「まことに遺憾。」
トライタイガーの言葉にちょっと納得する草介とロン。対して、自分と同類扱いされたフェイは、不服そうに頬を膨らませていた。
「な、何てヤツなのよ………!」
残されたカルキザースで、キアラは戦慄していた。彼女の言う通り、焦りと油断があったのだろうが、ビーストメイル3体をあっという間に下してしまったトライタイガー、つまりはレイェンの真の実力がここまでとは想像以上であった。
『残るは、キミだけアル!』
「くっ、ここで退くわけには………!」
カルキザースは短剣を持った両手を上げると、折りたたまれていたカニの脚に似た4本のパーツを展開、その先端をミサイルの様に発射した!トライタイガーはそれを払いのけるが、その隙にカルキザースは短剣を振り降ろして斬りかかって来た!
ガキンッ
「何!?」
しかし、その剣は頭上で何かに弾き飛ばされて宙を舞う!何事かと思って目を向ければ、そこにはフェザーガンを手にしたトライフェニックスと、弓を構えたフェイの姿があった!
『みんな!』
「今だ、トライタイガー!」
『!おう!!』
トライタイガーは返答をすると、両拳を強く握って腕を直角に構え、クラウチングスタートのような姿勢でカルキザースに狙いを定めた。
「ぅう!?」
キアラはその気迫に気圧されて後退ってしまう。その瞬間、一気にダッシュしたトライタイガーはカルキザースの腹部に両拳を叩きつけた!
『奥義!『
「なあ!?」
牛の角に見立てた拳は、堅いはずのその装甲を突き破り、スパークを起こした!トライタイガーが飛び退いて数拍、カルキザースは爆発四散した!
「くぅ~!4度ならず5度までも………!!でも、ミュールを留守番させておいてよかったわ………」
『あ、キアラちゃん!?』
城壁からシャークダイトを引き抜いたポーラダイトは、爆炎の中から飛んで行った脱出ポットを見て、慌てて飛び出すと空中で受け止めた。ティラノダイトも起き上がるが、かなりのダメージを受けたためかもう戦えそうになかった。
『ティラノ、ここは退こうぜ!?』
『く、くそう……こんな三下なセリフ言いたかないが………覚えてやがれ!』
飛んできたシャークに促されると、ティラノは悔しそうに捨て台詞を吐いて梯子消防車形態のティラノラダーに変形、同じくライナー形態になったポーラとシャークと共に、その場から逃げ去った。
「逃げたか………」
「お、おーい姫様~~~!?」
「置いてかないでダス~~~!!」
「「「あ………」」」
逃げ去ったティラノたちを見て、息を吐く草介。が、脱出ポットから出てきたらしいカラとボルグが慌てて走って行く様子を見て、双方とも忘れていた事に気付いたのだった………
「ま、まあ………とにかく、街が守れて良かった、ってことで。」
『そうだな。みんな、よくやってくれた。特にトライタイガー、レイェンはな………』
『どうも~………あ!』
『どうした?』
立ち上がったバトルパンサーから称賛されて照れるトライタイガーであったが、何か思い出したのか、森の方に走り出した。
『ビャッコロッド、どっか飛んでっちゃったから探してくるアル~~!』
「あー、そう言えば………」
トライタイガーが走って行った後ろ姿を見て、草介も思い出して呟いた。ふと、トライフェニックスも気になる事があるのか、口を開いた。
『それにしても………』
『ティラノダイトが、バランス崩したことか?』
『ああ。』
トライトータスも、先の戦闘での出来事について思うところがあったらしく、同意した。草介やロンも気になっていたのか頷いた。
『最初はフェイの矢かと思ったけど………』
「私じゃない。あの魔王の姫の剣を弾いただけ。」
『じゃあ、だれが………』
『確かに、気にはなるな。だが………』
2人が首を傾げる中、バトルパンサーは上を見上げた。それにつられて草介たちも見上げてみれば、魔力障壁が青い光を輝かせる、ゾミクノーチの街。
遠くでようやくビャッコロッドを拾ったトライタイガーも振り返って見てみれば、夜空の黒が、青い光に照らされる、何とも幻想的な光景が、そこに広がっていた。
『今は、この街を守れたことに、安心しようじゃないか。』
『………そうっスね。』
バトルパンサーの言葉に、トライトータスが頷いた。
†
「―――その日、夜空が輝いた。
いつもはモクモク黒ケムリ、吐き出す煙突眠る夜、
星も少ない黒い夜、青く綺麗に輝いた。
大人も子供も見上げれば、夜の黒に青い光、
魔法みたいな奇跡の夜、
誰がこんなに光らせた?
誰が奇跡の立役者?」
「ああ………や、やりすぎちまっただぁ………」
修道院の前で綺麗に光る空を見上げるトッタたちの後ろで半べそをかくシャスティをアルスが宥めていた。
「………半べそかいてる立役者、
それは誰も知りません☆」べべん♪
それを修道院からほど近い工場の屋根の上で人知れず見ていた吟遊詩人は、おどけたように歌ってみせると、手にした三味線を鳴らして、その場を後にした。
【つづく】
ゾミクノーチ編完結。
読み返したらカラが魔法を使う場面が少なかったので、今回迎撃に出てもらいました。
シャスティは引っ込み思案だけどいざって時には勇気を出せるタイプ。でも、今回は張り切りすぎました。
ヘッドアタックは、トライメイル共通装備。ジャムらせる展開は当初樹木とかの予定でしたが、そういえばこれあるじゃんって思って。
書いている内にレイェンの過去が結構荒んだものに………
王道寺拳法は、王道+黄道十二宮+少林寺拳法で、技名も黄道十二宮に由来しています。
ラストに登場した吟遊詩人。実は、第1話の時点で三味線持った人物がクリファート公国にいることが示唆されていました。本格的な登場はいずれまた。