異世界勇者ロボ~勇者として異世界に召喚されたら勇者ロボも一緒だったんだが!?~   作:オレの「自動追尾弾」

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第34話 魔法使いの心の内

異世界勇者ロボ 第34話

魔法使いの心の内

 

 

 

 

 

ビュニーの引き渡しから2日後。草介、デュラン、シャスティの3人は冒険者ギルドで受け取った薬草集めの依頼を受けて、王都から徒歩で2時間ほどの森を歩いていた。

 

「シャスティ、案内してもらって悪いな?」

「ええだよ。この森は、オラも時々お師匠様と一緒に来てるだよ。」

 

先頭を歩いていたシャスティに草介が話しかけると、彼は振り返って笑顔で答えた。草介の隣では、デュランが物珍しそうに森の木々や、枝の上に止まる緑や紫色の小鳥や額に角らしきものを生やしたリスのような小動物を見ながら歩いていた。

 

「デュラン、そんなに珍しいのか?」

「ああ。他の星にも似たような動物や植物はあったけれど、大分特有のものが多いな。この星に満ちる『マナ』の影響かもしれないな。」

「それはあるかもなー」

「あ、このへんだよ。」

 

草介とデュランが話していると、先頭のシャスティが声をかけてきた。前方に目線を戻してみれば、そこは少し木々が開けた場所になっており、細長い楕円形の葉と太い茎を持った植物が群生していた。

 

「お、あれが傷薬になる「キズスラン」って薬草か?」

「んだ。」

 

草介が群生している植物を見てシャスティは頷いて見せた。すると、デュランは肩に下げたバッグから1冊の本を取り出すと、ページをめくって目の前の植物と見比べ始めた。

 

「えーと………うん、このティルヴィ出版刊『役立つ薬草約百種』に載っているものとも一致するな。」

「じゃあさっそく………」

「待て、ソウスケ。」

「え?」

 

早速薬草を採取しようとする草介であったが、それをデュランが止めた。デュランは閉じた本を手に言った。

 

「『薬草採取の心得その1、群生している薬草は取りすぎないこと。採取のし過ぎでその地の生態系を乱し、二度と生えない環境にしてしまう可能性がある。』これを忘れないでくれよ?」

「ああ、分かってるって………流石は冒険者向けのハウツー本、そういう注意点もしっかりしてるんだなー」

 

草介は苦笑気味に答えると、3人は薬草の採取に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、依頼を終えて集めた薬草を依頼主である魔法薬薬剤師に引き渡した草介たちは、冒険者ギルド『シルバー・ジョーンズ』を訪れていた。

 

「はい、薬草集めの依頼完了報告書を受け取りました。お疲れ様でした、ソウスケさん。こちら、報酬の30Gになります。」

「ありがとうございます。」

 

草介は受付嬢のケティに報告書を手渡すと、それと引き換えに報酬の入った小さな袋を草介に手渡した。草介が中身の金貨を確かめていると、ケティが笑みを浮かべながらデュランに問いかけてきた。

 

「でも、薬草集めの依頼なんて、勇者であるデュランさんたちからしたら退屈だったんじゃないですか?」

「いや、そんなことはないよ。」

 

デュランは答えながら、肩に下げたバッグから先ほどの本を取り出した。

 

「騎士団のカールくんから勧められたこの本で見た薬草を、実際に探してみたいと思っていたからね。いい勉強になったよ。」

「なるほど、そういう事でしたか。」

 

納得したように頷くケティ。横で聞いていたマスターも「勉強熱心だなぁ」と感心したように頷いた。

 

(デュランさん、「この星の自然を間近に見れて楽しい。」って言ってただなぁ………)

(ああ。何か異星の文化を体験し学ぶのが好きって言ってたもんな………)

 

デュランの後ろで草介とシャスティが小声で話していた。宇宙人であるデュランからすれば、この星の自然や文化を体験するのは新鮮なのだろうと思えた。

 

「いやぁ、そうやって活用してくれるなんて、うれしいですねぇ~」

「ん?」

 

ふと、草介たちの背後から声がした。振り返ってみれば、そこにはエルフの男性の姿があった。

背丈はデュランと同じくらいだろうか。肩にかかる程度の銀髪ストレートで丸眼鏡をかけ、黒を中心とした動きやすい服装をしており、背中には大きなリュックサックを背負っていた。

 

「なかなか良い心がけだと思いますし、ビギナー冒険者向けに本を手にした実施系講習会を開くのもいいかもしれませんね。早速、この件を持ち帰った後に冒険者ギルド本部とも打診して………」

「えっと………?」

「ああ、失礼。私としたことが………」

 

エルフの男性はメモを取り出して書き込みながらぺらぺらと話していたが、草介が戸惑っているに気づくと少し恥ずかし気に軽く頭を下げた。デュランも首を傾げていると、そこでシャスティが驚いたように声を上げた。

 

「ティ、ティルヴィさん………!?」

「やあシャスティ君、久しぶりだね!少し背が伸びたかな?」

「お、お久しぶり、です………」

 

ティルヴィと呼ばれたエルフの男性はシャスティと仲が良さそうに挨拶を交わす。草介とデュランは困惑をしていたが、ふと、デュランは『ティルヴィ』という名前に聞き覚えがある事に気が付いた。

 

「ん?ティルヴィ?ティルヴィ………あれ?」

 

そこでデュランは、ティルヴィという名前が今自分の持っている本『役立つ薬草約百種』を出版している『ティルヴィ出版』と同じであることに気が付いた。デュランが本とティルヴィを交互に見つめていると、ティルヴィは笑いながら挨拶をしてきた。

 

「ああ、自己紹介が遅れてしまいましたね。私はティルヴィと申します。シャスティの師匠であるレヴァンティは私の姉で、『ティルヴィ出版』の社長兼冒険記者をしています。」

「しゃ、社長!?」

「レヴァンティさんの弟さんでしたか………」

 

自己紹介をしてきたティルヴィに、草介たちは驚きながらもどこかレヴァンティと面影のある彼の顔立ちと髪色を見て、納得したように頷いた。しかし、そこで草介は彼に問いかけた。

 

「けど、冒険記者っていうのは………?」

「冒険記者というのは、国内外問わず様々な場所や人を訪れて、その様子を記事にして本にする冒険者の事です。たまに誰かの依頼を受けて、調査をすることもありますね。」

「なるほど、冒険者なら様々な場所に行く手続きが割と楽だから、調査や取材へ向かうのに最適という事か………」

 

ティルヴィの説明を聞いて納得する2人。ここで、ティルヴィは思い出したのか「あ!」と声を出した。

 

「いけないいけない、私としたことがまた話し込んでしまって………今日は姉上の元を訪ねようと思い、その前に何か情報がないか思ってギルドに寄ったのでした………」

「あ、そうだったんだ………」

「良ければ、一緒に行きますか?」

「ええ、ありがとうございます。」

 

デュランの提案を受けたティルヴィは礼を言うと、草介たちはギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、北の果てのレイヴン魔帝国のリブアン城。

会議室に向かう廊下を歩きながら、魔王姫キアラは鬼族長ガラバーと話していた。

 

「今日の会議、キアラちゃんも参加するのか?」

「はい。わたしは何度か、例の勇者と交戦をしていますから、報告をするように言われましたので。」

「なるほどなー………」

 

キアラの説明を聞いたガラバーがふーんと2,3回頷く。2人が大きな両開きのドアを開き会議室に入ると、すでに席に着いている者があった。

 

「あ!キアラちゃんだーっ!」

「あら、もう来ていたのね、ヌボコ。」

「うんー!」

 

巨大なテーブルが中央に配置され、いくつも椅子が並ぶ会議室。席についていたのは、一言でいえば『人型のスライムの少女』であった。水色の半透明の体の仲には濃い青色の核のような物が見え、頭からは青紫の触手のようなものがショートボブの髪のように生え、白目のない緑色の大きな目を幼い子供のように輝かせた、無邪気な笑みを浮かべて手を振っている。

 

だが、彼女の見た目で特に目を引くのは、その大きさだ。身長2m(角を含めると2.5m)のガラバーですら見上げるほど大きく、目の前のテーブルがミニチュアのように見えてしまうほどの巨体を誇っていた。

 

「ヌーちゃんねー、アルラウネさんが花粉飛ばしたらケンタウロスさんがくしゃみと涙止まらなくってたいへんーって聞いてねー!」

「あー、うん、それは会議で話してね?」

「あ、そっかー!分かった!」

 

無邪気に話すスライム・ヌボコが無邪気に答えると、キアラはまるで年下に相手するように優しく笑いかけた。

 

(こんだけデカくてこの無邪気さ………これで精族長を務められているんだから、大したもんだよなー………)

「お、おみゃーらもう来とったんだみゃー」

 

ヌボコとキアラのどこか微笑ましいやり取りを見ながらガラバーがため息を吐くと、入り口からバルベエとミスティルも入ってきた。すると、ミスティルに気づいたヌボコが声をかけた。

 

「あ、ミスティルさん!アルラウネさんたちがごめんねー!」

「ああ、それはええわ。うちのケンタウロスも、アルラウネの縄張り近くに村作って移住したんが悪かったんやし、お互い様や。」

「そっかー」

 

謝るヌボコにミスティルがそう答える。ミスティルもヌボコの無邪気な言動に毒気を抜かれたのか、少し苦笑いしていた。

 

「ふむ、揃ったようだな諸君。」

 

すると、再度会議室のドアが開き、魔王ダインズ・レイヴンと、側近である人狼族のグンフィが入室してきた。彼が入って来た瞬間、室内の空気が引き締まった。

 

「ふ、そこまで緊張することもあるまい。よく来たな、霊族長 “髑髏(ドクロ)(キング)”バルベエ、」

「うむ。」

「獣族長 “凶美刃(きょうびじん)ミスティル、」

「ええ。」

「鬼族長 “魔千鬼(ませんき)ガラバー、」

「おう!」

「そして精族長 “泡妖姫(ほうようき)”ヌボコ、」

「はぁーい!」

 

ダインズがそれぞれに名前を呼ぶと、4人の族長は応える。ダインズはそれを見渡すと、満足そうに頷いた。

 

「レイヴン魔帝国四族長、今日はよろしく頼むぞ。キアラもな。」

「はい。」

 

キアラも頷くと、ダインズとグンフィはテーブルの上座に、四族長は左右に、そしてキアラは末席に座った。全員が座ったのを見ると、グンフィが口を開いた。

 

「では今回の会議、進行は私がさせていただきます。」

「うむ、頼むぞ。」

 

グンフィが話し始めると、会議が始まった。

 

「では、まずは―――」

 

 

 

 

 

「―――ちゅうわけで、モルホン基地周辺の居住問題は、人間側と話し合って解決したがや。」

「分かった。ご苦労であったな。」

 

ミスティルの人魚族の漁場のサメ被害対策、ヌボコのケンタウロス族のラフレシアの花粉被害、ガラバーのリグーン王国を管理しているオーク族の捕虜への性被害の処理と対策並びにそれに伴うオークの夫婦3組の喧嘩の仲裁に続き、バルベエからの報告を聞いたダインズが頷く。同じく聞いていたガラバーは、彼からの報告書を大きな音が鳴るようにわざとらしくテーブルに放り投げた。

 

「ケッ!まどろっこしいことしやがって………んなもん、基地ごと吹っ飛ばしちまえばよかったんだよ!」

「そうは言うがにゃー、戦争とは言え戦いは少ないほうがええと思わんがや?」

「そうだな。無理に奪えば人間達が報復に現れ、それこそその地に住む霊族が安心して住まう事が出来ないだろう。ワシは、バルベエの判断を正しいと評価する。」

「それはどうも。」

「ふん………」

 

ダインズの言葉を聞いたバルベエがお辞儀をすると、ガラバーは鼻を鳴らした。そこで、グンフィが口を開いた。

 

「では、次の議題に。人間側で『勇者』と呼ばれる者が機怪魔獣を破壊し、こちらの作戦行動を妨害している件について、キアラ姫様より報告があります。」

「はい。」

 

グンフィに促されて、キアラが席を立つ。キアラが手にしたタブレット端末を操作すると、テーブルの上に置かれたホログラム装置が起動し、そこに映像が映し出された。

 

(流石はキアラ様、ワルンダイツ(れんちゅう)の技術を使いこなしてはる………)

「私が『勇者』と呼ばれる者、デュランと最初に戦闘をしたのは―――」

 

 

 

 

 

そこから、キアラによる勇者、デュランダー、デュランブレイバー、バトルパンサー、トライフェニックス、トライトータス、トライタイガーらの説明をしていく。

 

「ふーむ………話を聞く限りでは、その『勇者』って連中はワルンダイツの連中を追って来たんだろ?」

「ああ。連中は「対処は任せろ」とは言っていたが………」

「対処しきれてへんみたいやなぁ?」

「キアラちゃん、ずっとボロ負けだねー」

「ぐっ!?」

「ヌボコ、言ってやんなや………」

 

戦闘データとキアラの報告を聞いて、ガラバー、ダインズ、ミスティル、ヌボコが口々に感想を言う。ヌボコの言葉にキアラは顔を赤くしてしまい、バルベエがヌボコに注意をするが、当の本人はキョトンとしていた。

 

「だが、デスダイトの話では事故とはいえ 木っ端みじんに吹き飛んだとのことですが………」

「いや、連中は勇者の死骸もマシンメイルの残骸も見ていない。危険だからといって、確認する前に帰還してしまったそうだ。油断は禁物だろう。」

「自分可愛さに確認を怠るとは、大した幹部さんですなぁ………」

 

グンフィの言葉に、ダインズは釘を刺すように答える。グンフィが頷く中、ミスティル皮肉交じりに呟いた。そこで、気を取り直したらしいキアラが頷いて続けた。

 

「それに、たとえデュランが本当に死んでいたとしても、厄介な男がいるわ。」

 

キアラはそう言うと、ホログラムが黒い髪の少年を映し出した。それを見て、バルベエが「コイツか。」と小さく呟いた。

 

「彼は、仲間たちから「ソウスケ」や「勇者」と呼ばれていました。剣の腕前はそこそこで魔法はほとんど使えない、機怪魔獣相手に戦えるわけもない、デュランダーの周りをチョロチョロ付いてきているだけの男です。」

 

しかし、と、キアラはここで言葉を切った。

 

「彼が厄介なのは、その行動力です。ベロースリットやゾミクノーチでの戦いでは、彼の行動によってこちらの作戦が失敗することになりました。」

「確かに、モルホン基地で機怪魔獣と戦っている時も、ヤツが落下クッションの魔法で動きを誘導しとったにゃー………あんな発想するやつ、初めて見たがや………」

 

キアラの説明を聞いたバルベエも、モルホン基地での戦いを思い出して呟いた。それを聞いて、ミスティルやガラバーも興味深そうにしていた。

 

「なるほどな………そういうタイプのヤツに限って、将来的に化けるモンだ。そのチョロチョロ勇者、一度相手してみたいものだな!」

「あんたさんは………せやけど、確かにこのソウスケとかいう(もん)、気にはなるなぁ………」

「むー………」

 

オーガ族とはいえガラバーの戦闘オタクっぷりにミスティルが呆れていると、ヌボコがうんざりしたような声を出した。それを見て、キアラがヌボコに声をかけた。

 

「ん?どうしたのヌボコ?飽きちゃった?」

「だってヌーちゃん、ケンカきらいだしー………それに、機怪魔獣って固いし生き物と違う感じがしてイヤだし………」

 

ヌボコがむくれっ面で返す。それをキアラは苦笑いで見ていた。しかし、彼女の言葉にダインズや他の族長たちは苦い表情になっていた。

 

「………ヌボコやないけど、ウチも機怪魔獣は好きやないなぁ………リグーン王国侵略の時に、ウチの静止命令を無視して貴重な遺跡を破壊して進軍しようとしたものなぁ………そいつらはまとめて斬り捨てたけど。」

「俺も、戦いは好きだが、それは自分の力を発揮してこそだ………この戦争、確かにこっちが機怪魔獣の物量で押しているのは分かるが、どーも勝ってる気がしねーんだよなぁ………」

 

ミスティルとガラバーが苦言を述べると、会議室の空気は重苦しいものになる。ミスティルの本職は考古学者であり、魔族と人類の歴史研究をしているのだ。

 

「………ダインズ様、おみゃーさんが人間にこの北の果てまで追いやられたワシら魔族の事を憂いとるんは分かっとるがにゃー………あの得体の知れないワルンダイツの連中の力を頼っとる現状、ワシは不安だがや………」

「うむ………」

 

バルベエも不信感をダインズにぶつける。ダインズは小さく頷くと、両肘をテーブルに立てて手を組み、目を閉じた。すると、ミスティルも口を開いた。

 

「問題は他にありますで?連中が後になって同盟を解除したりして機怪魔獣を全て引き払ったりなんかしたら、人間どもの報復はウチら魔族に向けられる………カマリサの技術力で作られとるらしい機動兵器が量産されたりなんかしたら、今度はこちらが物量で押されますで?」

「それは、確かに……」

「うーむ……」

 

ミスティルの言葉に、グンフィとダインズが唸る。

今、魔王軍が有利に立っているのは、『機怪魔獣』という宇宙の驚異的な兵器があってこそ成り立っている状況だ。その前提が崩れた場合、人間側からの反撃に対処できない事は目に見えていた。その場合の対策なければレイヴン魔帝国は人間によって滅ぼされかねない。

その場の全員が押し黙る仲、ガラバーが口の端を小さく上げた。

 

「それについては、俺が手を打っている。」

「何?」

「ドワーフのブランドンのジジイがいるだろ?あのじーさんが機怪魔獣に対抗意識を燃やしていたからな。予算の工面してやったり、機怪魔獣の残骸や予備パーツを融通できるようにしておいてやったんだよ!ワルンダイツは嫌いだが、機怪魔獣の有用性はあるからな!」

「いつの間に………」

「あの偏屈爺さんかいな………」

 

ガラバーの話を聞いた一同が驚きとも呆れとも取れる反応をした。そこでキアラは思い当たることがあるのか、口を開いた。

 

「あ、それでおじいちゃんが私に『新型ゴーレムのコア』を私に届けてきたのね………」

「おう!キアラちゃんは機怪魔獣乗ってよく前線出てるって聞いてたからな。協力してもらって悪いな!」

「ガラバー、そういう事は先にひと言言ってくれ。ワシが認めているとはいえ、娘を危険な目に遭わせるのは気が引ける………」

「あー、悪い悪い!」

 

ダインズが苦言を言うと、ガラバーは頭をかきながら軽く謝った。しかし、と、ダインズは呆れたように頬杖をついてつづけた。

 

「あのじいさん、変なものばっか作るけど、確かに技術はあるからな。人選は間違えてはいないだろう。」

「それに、たとえ機怪魔獣に及ばない性能だったとしても、我が国に機怪魔獣が健在と人間どもに思わせれば、十分なけん制になりますな。」

「ならば、その可能性に賭けるのも手か………」

 

ダインズに続いてグンフィが付け足した。ダインズは頷くと、立ち上がって口を開いた。

 

「とりあえず、件の勇者に関しては警戒することとする。キアラ、すまないが勇者の相手とブランドンの手伝いを引き続き頼んだぞ。」

「はい。」「おう!」「ええ。」「うむ。」「はーい♪」

 

ダインズはキアラと四族長の返事を聞くと、全員を見渡した。

 

「総ては、我ら魔族の未来のために―――」

 

 

 

 

 

(デュランダーとソウスケの事が、お父様や族長たちに詳しく知られた………これから彼らは、ガラバーさん達に直接狙われかねないわね………)

(機怪魔獣に頼るのは気に食わねーが、あのチョロチョロ勇者………ソウスケとか言ったっけか?どれほどか間近で見て、実際に戦って実力を試してみたいものだ………)

(2人の『勇者』………今後ワシらの脅威になりかねん………()()()を送り込むかにゃー………)

 

―――会議終了後、族長たちは帰路につきながら思いをはせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しいのう、ティルヴィ。何ヶ月ぶりじゃ?」

「どうも、姉上。そうですね、3ヶ月以上は会っていなかったかと………」

「もうそんなに会っていなかったか。お前は一度外に出たら、何ヶ月もかえって来ないからのう。」

「あはは………そういう姉上こそ、部屋に閉じこもってないで、外に出たほうがいいですよ?」

「余計なお世話じゃ………」

 

その同じ頃、ティルヴィと共にモルデュア城のレヴァンティの研究室を訪れた草介たちの目の前では、レヴァンティとティルヴィの姉弟が久方ぶりの再会を喜び合っていた。エルフの姉弟が肩を抱き合って近況を話し始めていたが、そこでティルヴィが草介たちの方に振り返った。

 

「ところで姉上、もしや彼らが異世界より召喚されたという『聖剣の勇者』では?」

「………うむ、一応はな………」

「おお!やはりそうでしたか!!」

「うわ!?」

 

それを聞いた瞬間、ティルヴィは眼鏡の奥の瞳を輝かせて草介とデュランに瞬間移動もかくやという速度で詰め寄ってきた。2人が困惑する間もなく、ティルヴィはメモとペンを取り出すと、まくし立てるかのように口を開いた。

 

「最初にあった時に、見たことのない髪色や服装だとは思っていましたが、あなたたちが異世界人であれば説明が付きますね!顔立ちや目の色も私たちとは異なりますね!よろしければ、あなたたちの世界の事も詳しく伺っても―――」

「これ、ティルヴィ!」

「あっ………」

 

ティルヴィは2人に質問攻めをしようとした瞬間、レヴァンティに一喝されて我に返ったらしい。改めて草介とデュランを見ると、自身の勢いに顔を引きつらせている事に気付き、メモをしまって「コホン」と咳払いをした。

 

「あー、申し訳ありません………私としたことが、また………」

「まったく、お前は好奇心と塊のような男なのは知っているが、突然質問攻めにあっては勇者たちも困るだろうに………」

 

苦笑いするティルヴィ。2人のやり取りを見ていた3人は、顔を見合わせて肩をすくめていると、シャスティがティルヴィに問いかけた。

 

「と、ところで………ティルヴィさんは、ギルドで何か欲しい情報でもあっただか?」

「え?ああ、はい。半年以上前に消息不明になった()について、何か情報があれば、と思ったのですが………」

「彼?」「誰?」

 

ティルヴィが口にした「彼」という単語に、草介とデュランが首を傾げる。レヴァンティは心当たりがあるのか眉をピクリと動かすと、草介がチラリとシャスティの方を見れば………何故か苦虫を噛み潰したような、嫌そうな表情をしていた。

 

「シャ、シャスティ………?」

「何かあったのか?」

 

今まで見たことのないシャスティの表情に草介とデュランは困惑するが、シャスティはティルヴィに続けて聞いた。

 

「………あの人、またどっか行ってんだか?」

「ええ、半年以上前………ちょうど、新女王の戴冠式のひと月ほど前にリグーン王国に向かってから、連絡が取れなくなってしまってね………」

「リグーン王国に………?」

 

ティルヴィの話を聞いた草介が驚いた。リグーン王国は現在、魔王軍の占領下にある。もしかしたら、ティルヴィの言う『彼』は、魔王軍に囚われている可能性もある。

 

「彼、冒険者のブルートとは仕事の関係もあって昔からの知り合いでしてね。何分、占領されてからリグーン王国の内情は何も入って来なくなっていたから、小さくても何か情報がないかと思ったのですが………」

「そうでしたか………」

「けど、その人ってシャスティと知り合いなのか?」

 

説明を聞いたデュランが頷くと、草介はシャスティに聞いた。レヴァンティとティルヴィの姉弟が何故だか顔を見合わせて気まずそうにしていると、シャスティはバツが悪そうにそっぽを向いていた。

 

「あー………ティルヴィ、すまぬが勇者たちと話があるでのう。シャスティと席を外してくれぬか?」

「え、ああ………分かりました。行きましょう、シャスティくん」

「んだ………」

 

レヴァンティがティルヴィに言うと、彼はどこか不機嫌そうなシャスティを連れて研究室を出て行った。草介とデュランは2人の消えた扉をしばし見つめていたが、草介が呟いた。

 

「シャスティのヤツ、どうしたんだ?なんか、機嫌悪そうだったけど……」

「あー………まあ、ブルートはシャスティと無関係ではないからのう………」

「え?」

 

レヴァンティの返答に草介が首を傾げると、彼女は「うーむ」と少し考えてから口を開いた。

 

「………ブルートは、シャスティの父なのじゃよ………」

「え?」

「ええ!?」

 

レヴァンティが告げた事実に、草介とデュランは驚きを隠せなかった。レヴァンティは2人の反応を見てため息をつくと、椅子に腰かけて話を続けた。

 

「これは、シャスティが学園を去った件とも関わりがあるのじゃが………シャスティの両親は少し、いや、かなり特殊でのう………まず、父であるブルートは『伝説の冒険者』と呼ばれる有名な冒険者でな。」

「伝説って?」

「冒険者にもいくつか種類がある。財宝を探す事をメインにするトレジャーハンターや、村や商人の護衛に重きを置く者に薬草集めを極める者、それにティルヴィのような冒険記者といった具合にな。ブルートは、魔物の生態研究を生業とする『魔物ハンター』と呼ばれる冒険者じゃ。我らエルフ族ですら存在を知らなかったチュパカブラやモスマン、ツチノコ………あやつによって発見、調査、研究された新種の魔物は50種類以上にものぼる。リグーンには、『イエティ』とかいう魔物を探すとか言っていたかのう?」

 

レヴァンティはそこまで言うと、テーブルの上のティーポットを手に取ってカップに紅茶を入れ始めた。草介はその話を聞いて、「地球で言う未確認生物(UMA)を発見しているのか。」と内心納得していた。

 

「あの者は発見した魔物の書籍をティルヴィ出版から何冊も発行していてな。故に弟はシャスティとも顔見知りであってな。それでワシに紹介されて知り合ったのじゃ。」

「あ、そっちが先だったのか………」

 

少し意外そうにデュランが呟いた。レヴァンティは紅茶をひと口飲んで喉を潤すと、話を続けた。

 

「そして、母であるティファルもかなり優秀な魔法使いでな。田舎の平民出身でありながらその才能を見出されたカシンバルト魔法学園の卒業生にして、『七学章(セブンス・メダル)』の一人なのじゃ。」

「『七学章(セブンス・メダル)』、とは?」

「カシンバルト魔法学園の履修期間は6年間。その学年ごとに1番の成績を収めた者には1年生から順に無、雷、風、土、水、火のメダルが贈呈されるのじゃ。そして、全ての学年で1位となりメダルを6枚揃えた優秀な者には卒業時に7枚目の星のメダルが贈呈され、その者は『七学章(セブンス・メダル)』と呼ばれ学園に名を残すこととなっておる。ちなみに、おぬしらがクリファートで出会ったリサーナは首席で卒業したが、それでもメダルは4枚までじゃ。」

 

レヴァンティはカップをソーサーに置いて、続けた。

 

「それだけの難関故に達成者は創立以来片手で数える程しかいないが、ティファルは歴代の『七学章(セブンス・メダル)』の中でも、かなり異質でのう。あの者の同級生で、ロコロ王国貴族出身のクラレーという娘がいたのだが、そやつの実力はティファルと全くの互角であった。座学、実技、常用箒の運転、果てはチェスやポーカーの全てが互角………2人とも6年間同率1位だったため、卒業時には星のメダルが真っ二つにして分け与えられた。この話は『半星学章(ハーフメダル)』として、今でも学園で伝説として語られておる………」

「シャスティの母さんって、そんなに優秀だったのか………」

「しかし、父が伝説の冒険者、母が優秀な魔法使いとなると………」

 

草介が驚きの声を上げる中、デュランはある可能性に思い当たり呟いた。レヴァンティは紅茶をひと口飲むと、再び口を開いた。

 

「うむ、シャスティにかけられる周囲からの期待と嫉妬は、プレッシャーとなって重くのしかかった。シャスティは両親の才を十二分に受け継ぎ大容量の魔力と魔法の才能を持っていたが、あの引っ込み思案な性格ゆえに実力を発揮しきることは出来ず、失敗続きで嘲笑の的にされてしまい余計に失敗………それでも勇気を出して覚悟を決めれば成功をするものの、張り切りすぎるとやりすぎてしまう癖があってのう………ある時の授業では、火の初級魔法『ファイア・バレット』で上級魔法『バーニング・カノン』級の威力叩き出してしまってな………」

「ああ………ゾミクノーチでのような事が起きたのか………」

 

レヴァンティの説明を聞いて、ゾミクノーチでシャスティが起こした『奇跡』を思い出して呟いた。一方で草介は、(どこぞの大魔王様かよ………)と内心ツッコミを入れていた。

 

「(もっとも、シャスティのあの性格は別の事が要因じゃが………わざわざワシが言うような事ではないな。)………まあ、そのおかげで同級生達はシャスティの魔法の才能を目の当たりにして、大半の者は、あヤツとの間に『高い才能の壁』がある事を思い知らされた。そういう場合、人は2種類の感情を抱く。」

 

レヴァンティはそう言って、右手の指を2本伸ばしてみせた。

 

「『絶対に負けない』と目標にする者と、『何であんなヤツが』と妬む者じゃ。」

「え………」

「まさか………」

 

レヴァンティの言わんとすることを察した2人が冷や汗をかいて息を呑んだ。レヴァンティは神妙な面持ちでつづけた。

 

「まあ、大半は前者であったが、後者も少なからずいてな。ある貴族の娘が中心となって陰湿ないじめをしてな………そのせいで余計に塞ぎこんでしまったのじゃ………教師たちも寄付をしている貴族の子供たち相手ゆえに手を拱いていたせいで、増長してしまったのじゃ………」

「そーいうのって、異世界でも変わらんのな………」

「このままでは、シャスティは潰されてダメになってしまうとワシは考えてな。元々教師たちの権力争いに嫌気がさしていたこともあったし、シャスティを弟子に招き入れて、一緒に学園を去ったのじゃ。」

「そんな経緯だったのか………」

 

レヴァンティの話を聞いて草介は同情から悲観的な表情を見せる。だが、とデュランは続けた。

 

「だが、それで学園を『退学』したのなら、何故『休学』という事に?」

 

デュランが当然の疑問を口に出した。今の話を聞く限りではシャスティは正規の手段で学園を退学したはずだ。それが何故、学園側は休学という扱いになっているのか?草介も首を傾げていると、今まで神妙な面持ちをしていたレヴァンティがクスクスと笑い始めた。

 

「それについてじゃが………ワシらが学園を去ってから、シャスティの同級生がとんでもないことをやらかしてくれたようでな………」

「え?」

「先ほど言ったように、シャスティを目標としていた者が多くてな。そやつらが学園の対応に不満を持ったのじゃ。そこで、同級生三十数名がいじめの証拠を集めて理事長に突き付けると、「シャスティを学園に戻すまで自分たちは進級をしない」と言って、進級試験を全教科ストライキしてしまったのじゃ。通常、試験で悪い点を取れば留年か、最悪退学になるが人数が人数、理由も理由じゃったからのう………学園は慌てていじめの主犯と参加した者計10人、それに見て見ぬふりをした教師7人を追い出したのじゃ。」

「な、なんと言うか………」

「やり方はともかく、いい友達持ったなー、シャスティのやつ………」

 

レヴァンティの話を聞いたデュランが苦笑いし、草介がどこか感心したかのように呟いた。レヴァンティも笑っていたが、咳払いをして真剣な顔に戻った。

 

「それで、学園側から戻ってくるよう連絡はあったのじゃが、あんな目にあったシャスティが素直に戻るわけもなくてな………学園で受けた仕打ちや視線がトラウマになっているらしく、戻る気になれなかったのじゃ………もう2年前の事じゃ………」

「それでやむを得ず、休学扱いにしたのか………」

「進級試験ストライキは今も継続中らしく、学園からは何度も戻ってくるよう手紙は来ていたが………」

「無理もないよな………そんなツライ目に遭った場所なんだから、すぐに戻る気にはならねーだろ………」

 

デュランと草介はシャスティの境遇に同情をして、レヴァンティもため息をついた。こればかりは、自分たちにはあまり出来る事もないと草介は思った。デュランに視線を向けてみれば同じ考えなのか小さく頷いていた。

 

「それで、図書館利用にシャスティの復学を条件にしてきたのか………伝統ある学園で、生徒30人以上が2回も留年なんて、さっさと解決したいものな………」

「………まあ、前も言ったけど、俺は例の件急いでないし。シャスティが心の整理できるまで気長に待つよ。」

「そうだな………」

「そうしてくれると助かる………」

 

草介の言葉にデュランが同意すると、レヴァンティは苦笑しながら頷いた。2人は短く挨拶をして研究室を後にした。

 

「しかし、シャスティのさっきの顔………」

「ああ、レヴァンティさんの話だけではないようには思えるが………」

「………ま、あんま余所様の家庭の事情に首突っ込むのも悪いか………」

「確かにな………」

 

そんな風に小さく話しながら、2人の勇者は城の廊下を後にした。

 

 

 

 

 

【つづく】




26話でちらっと登場していたティルヴィ出版の社長、ティルヴィが登場。『役立つ薬草約百種』は語呂が良くて好き。

最後の族長、ヌボコ登場。四族長は戦場に出れば一騎当千なんだけど、自国内での問題や種族間トラブルに追われていて割とそれ所じゃないのと、あまり乗り気じゃないって状況でした。

シャスティの過去回想。両親が偉大過ぎると辛いよねって話。草介も言ってたけど、いい友達がいるのは救いかも。
実はまだ秘密があるんだけど、それはいずれ。
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