異世界勇者ロボ~勇者として異世界に召喚されたら勇者ロボも一緒だったんだが!?~ 作:オレの「自動追尾弾」
異世界勇者ロボ 第42話
吟遊詩人は影に歌う
「ミュ、ミュール!?どこなのミュール!?」
草介たちが倉庫で話し合っていたのと同じ頃、街の北門付近では、必死の形相で周囲に大声で呼びかけていた。ミュールが心配で戻ってきたものの、そこにいるはずのミュールの姿がなく、慌てて周囲を探している最中であった。
「こ、この辺りにはいないようダス………!」
「どこかに行ってしまったようですが………!」
「マズいわね………ミュール、子供とはいえ魔族だし………見つかったのがデュランやソウスケに見つかるならともかく、タランテナに取りつかれるのを免れた人間に見つかったら、何をされてしまうか分からないわ………!」
ボルグとカラの報告を聞きながら、キアラはミュールの身を案じていた。今現在、この街は機怪魔獣、つまりは魔王軍に占領されている。そんな中で魔族の子供がうろついていれば、流石にデュラン達はそんな事をしないのは分かっているが、人間は何をするか分からない。命の危険すらもある事も考えれば、こんな所に連れてきた事にキアラは責任を感じていた。
「とにかく、戸締りのされていない建物の中も探すわよ!人間に見つかる前に見つけるのよ!」
「「は、はい!!」」
必死なキアラの命を聞いて、カラとボルグは慌てた様子で駆け出した。
†
一方その頃、当の本人であるミュールはというと、倉庫の隅で震えていた。
「わぅう~~~………」
「こ、子供の魔族………」
「これまた、かわいらしい侵入者さんだ………」
両腕で顔を覆い震える目の前の子供に、草介たちはキョトンとしていた。アスカ丸はため息交じりに皮肉めいた言葉を継げると、仕込み刀を鞘に納めた。
「ど、どうする?」
「どうするって………」
流石のロンたちも戸惑っていると、草介がデュランに問いかけた。そこで、フローが前に出ると、片膝をついて笑みを浮かべながら手を差し伸べた。
「大丈夫かい、君?」
「がぅ?」
「フロー?」
「いいのか?魔族だぞ?」
フローの取った行動に、思わず反論をしたのはティコであった。彼女からしたら、子供とはいえ自分たちの街を占領している魔族の一員である。そんな者に手を差し伸べるのは疑問を抱くのも無理はないが、フローは振り返ってそれを返した。
「魔族でも、まだ子供だよ。それに、このワンちゃんは何か悪さをしたわけではないからね。」
「そ、それはそうだけど………」
フローの返答にティコは複雑そうな表情で言葉に詰まる。しかしそこで、フローに庇われていた少女がムッとした顔になり、牙と呼ぶには小さい八重歯と特に鋭くもない爪をむき出しにして、抗議をしてきた。
「ミュール、ワンちゃんじゃないもん!おおかみだもん!」
「え?あ、そ、そうなんだね、ごめん………」
(((かわいい………)))
がおー!とかわいらしく威嚇をするように抗議してくるミュールに、フローは少し困ったような笑みを浮かべて謝った。ついでに、一同はここでミュールの名前を知ることになった。
「狼………該当するのは人狼族?でも………」
「おーい!」
ミュールの反論を聞いたフェイが何かに気づいて口に出そうとしたが、そこでタランテナの解析をしていたレピオが声をかけてきた。
「この機怪魔獣の解析、一通り終わったぞー」
「おお、そうか!」
「それで、どうだった?」
レピオの言葉にデュランたちは集まった。フローはミュールを誘ったが、まだ怯えているのかその場を動こうとしなかった。
一同がレピオの元に向かうと、装甲が剥がされて内部機構や基部がむき出しになったタランテナが地面に転がっていた。
「調べた結果、こいつは人間の耳にイヤホンみたいなコードを刺して、脳波をコントロールして人の身体を操る仕組みですね。コントロール自体は、あの塔の上の親機が電波を送ってやってるみたいっすね。」
「なるほど………意外と高度なAIを積んでいるようだな………」
「けど、コイツに使われている一部のCPUやチップを見たら、親機からの電波が止まると機能を停止しちまうみたいっす。つまり、その電波を妨害すればこいつらは一斉に機能を停止するかもしれないっす。」
「そ、そうか!」
レピオからタランテナの弱点を聞かされた一同は、希望が見えて笑みが浮かぶ。草介はそれを聞いて、ある作戦を思いつく。
「じゃあ、この間ザムラロイドに使った電波遮断塗装を使うのか?」
「いや、あれはあの親機に使わないといけないからな………連中も親機を攻撃されることは避けたいだろうから、防御は一番固いだろう………」
「そ、それもそうか………」
レピオが苦い顔をして首を振ると、草介は落胆する。一同がどうするべきかと考えていると、ふと、シャスティは自分に視線が送られている事に気付く。振り向いてみれば、ミュールがじーっと自分を見つめていた。
「な、なんだべ?オラのことじっと見て………?」
「わう?んー………?」
シャスティは見つめられて戸惑うが、ミュールは首を傾げるばかりだ。どうやら、彼女自身も理由は分かっていないらしい。そんな時に、改めてタランテナの基盤を探っていたレピオが口を開いた。
「お、このチップって………確か、特殊音波に弱いハズだったな………自然や機械音ではめったに発生しないから、放置されてたみたいだけど………」
「本当かい?」
「ああ。」
レピオの報告にアスカ丸が問いかける。だが、とレピオは続けた。
「この特殊音波を発生させるには、それこそ特殊な機材が必要になる。直ぐには用意できねぇぞ………」
「そうか………」
レピオの言葉に草介たちは落胆する。しかし、アスカ丸だけは違った。
「その特殊音波って、周波数いくつかわかるかい?」
「ん?『1BFWG3HS2M』のハズだが………?」
「なるほど………」
アスカ丸はそれを聞くと、GPデバイスを取り出して何かを調べ始めた。草介たちは何のことか分からず顔を見合わせていると、アスカ丸は口角を上げて呟いた。
「………うん、何とかなるかも。」
「何?」
「どういうことだ?」
アスカ丸の呟きを聞いたデュランが問いかける。アスカ丸は振り返って答えようとしたが、その時、倉庫の外から声が聞こえてきた。
「ミュール!ミュール、どこー!?」
「む?」
「あ、ひめさま!」
「ちょ、ちょっと………!」
外から聞こえてきた声にミュールが満面の笑みを浮かべて飛び出そうとするが、フローがそれを慌てて止めて、口を塞いだ。
「ご、ごめん。ちょっと待って………」
「やっぱ、あのお姫様が連れてきてたのか………何の意図があるのかは分からないけど………」
「今はまだ、ここに隠れているのをバレるわけにはいかないよね………」
「もごもご………」
ミュールに小さく謝るフローに対して、ミュールとキアラの関係性を察して苦笑いを浮かべる。しかし、今ミュールが出て行っては自分たちの居場所がバレて、作戦に支障をきたしかねない。
どうするべきか考えていたが、少し考えていた様子の草介が口を開いた。
「………アスカ丸、あのバイクって、2台とも自動操縦できるんだよな?」
「ん?ああ、できるよ?」
「それなら………」
†
「ミュール!どこー!?」
必死の表情で周囲に呼びかけながら街の中を走り回るキアラたち。段々とその表情には焦りが見え始めており、もしミュールの身に何かあったらと思うと、いてもたってもいられなくなる。
「あ、あまり遠くまでは行っていないはずダスが………」
「反対の建物の方でしょうか………?」
「と、とにかく探しましょう!」
べべん
「「「!?」」」
3人は話し合って場所を移そうとしたが、その時、背後の方から先ほど広場で聞いた弦楽器の音色が聞こえてきた。振り返れば、そこには先ほどの吟遊詩人が、建物の角の壁にもたれかるように立っていた。
「あ、あいつ!?」
「人をお探しかな?」
いつの間にか立っていた吟遊詩人に驚くが、その背後の路地からさらに3人、草介とフロー、そして………
「ミュール!」
「ひめさまー!」
ミュールの姿を確認したキアラが思わず声を上げると、フローの手元にいたミュールが飛び出してキアラの元に走る。キアラはそれを受け止めると、優しく狼少女の頭を撫でた。
「もう!心配したんだからね!?」
「ご、ごめんなさいがう………」
「まったく………!」
耳と尻尾を垂れさせしょんぼりして謝るミュールに、キアラはからとボルグ共々心底ほっとした表情となる。草介たちはその様子を見て、本当に心配していたのだと思い、どこか微笑ましく思えた。
「あー、何か俺たちの近くにいたから、連れてきたんだけど………」
「………連れてきてくれたのは感謝をするわ。見つけたのがあなたたちで良かったとさえ思うわ。」
「信頼してくれて感謝するよ、魔族の姫。」
「そういう訳ではないわ、人間の姫。」
フローとキアラは睨むというほどではないにしろ、皮肉めいた会話を繰り広げる。そんな2人の様子をミュールは交互に見てからキアラに問いかけた。
「あのひと、にんげんのひめさま?」
「ん?ええ、そうよ。」
ミュールの質問に、彼女を見下ろしながらキアラは答える。そういえば、ミュールは初対面だったなと思い出していると、ミュールはフローをじーっと見つめていた。
「でも、ひめさまよりぜんぜんおっぱいちっちゃいばう。」
「な!?」
「ッ………!!」
ミュールの一言にキアラは言葉を失う。突然の事に草介とアスカ丸、カラとボルグも唖然とするが、恐る恐るフローの方を見れば、普段の凛々しい王子様系スマイルからは想像できないほど、顔をひきつらせていた。
「ちょ!ミュールったら何を言って………!ご、ごめんなさいこの子ったら!!」
「………あー、うん、大丈夫。気にしてないよー………君含めて、周りが大きいだけだと思うし………(ソラスとか。)」
(あからさまに気にしてる………)
(気にしてたのか、胸のこと………)
キアラがミュールの失言に思わず止めに入る。フローは引きつった笑みで返すが、草介とアスカ丸はその様子を見て、フローがスレンダーな体型を気にしていることを察すると同時に、子供に手出ししないように押さえている事に気づいていた。
「でも、おしりはあっちのほうがおおきいばう。」
「ミュール!!」
「ッ!!」チャキッ
「ストップ!フロー、ストップ!」
「君、さっき魔族でも子供って言ってなかった!?」
ミュールの無邪気な追撃にキアラは先ほどよりもきつめに注意する。しかし、言われたフローはひきつった笑みを浮かべながら腰に差した剣を引き抜かんと手をかけていたため、慌てて草介とアスカ丸が止めに入った。
「ミュール!たとえ敵、人間であっても他人の容姿を馬鹿にするなんていけないわ!ほら、ちゃんと謝りなさい!」
「わぅ………ご、ごめんなさい………」
「………うん、謝れてえらいねー」
「そういうところは注意できるのか………」
キアラに叱られたミュールが頭を下げると、フローは引きつった笑みのままだが、何とか剣から手を離す。ホッとした草介がキアラの方を向いてあきれたようにつぶやくと、キアラはキッと草介を睨み返した。
「な、何よ!私なんて、ちょっとした魔法も碌に使えない上に使える術も数が少なくて剣の腕も微妙だから、他の魔族に「態度と胸がでかいだけ」って陰口たたかれてたのよ!機怪魔獣の操縦でようやく見返せるようになったのよ!体型を馬鹿にされてるのは私も同じなのよ!」
「こっちはこっちで胸のこと気にしてた!?」
「真逆だけどね………」
ひとしきりキアラが叫ぶと、思わず草介が驚きの声を上げて、アスカ丸も呆れたように呟いた。というか、仮にも魔王の娘にそんな陰口たたくその魔族たちも、大分勇気ある気がしなくもない。
キアラが肩で息をしている間、何とも言えない沈黙が辺りを包んでいると、キョトンとしていた顔のフローが口を開いた。
「………なんか、お互い悩みは尽きないね………」
「そうね………」
「何か友情芽生えてる!?」
「互いのコンプレックを知って、共感したのかもね………」
「いいのか、これ?」
「さあ………」
「わう。」
妙なところで、でも当人からしたら重要なところで通じ合った人間と魔族の姫の少し照れくさそうにする様子に、両陣営は少し困惑していた。2人は自分たちに向けられた草介たちの視線に気づいてハッとしたように咳ばらいをした。
「と、とりあえずミュールを見つけたし、私たちはここで失礼させてもらうわ。本当にさっきはごめんなさいね?」
「あ、うん………」
キアラが頭を小さく下げると、フローも小さく頷いて、双方とも振り返ってその場を後にする。
そういえば、と、キアラは歩きながらミュールに問いかけた。
「ミュール、あなた何で勇者たちの所にいたのよ?」
「ばぅ?ゆうしゃ?」
「ああ、さっきの人たちよ。」
「がう。あのね!あそこでひめさまたち待ってたら、おおきなおとがしたの。それでみにいったら、たてもののなかにマシンとにんげんたちがいたの!」
「そうだったのね。」
ミュールの話を聞いて、納得をしたように頷いた。
「………ん?」
「「ん?」」
「わう?」
が、そこで何かに気づいたのか、キョトンとした顔で足を止める一同。ミュールが不思議そうに見上げる中、3人は先ほどまで草介たちのいた方を振り返った。
「あ、アイツらまさか………!」
「ミュールを連れてくる間に、他の連中は別の場所に………!?」
「連中からしたら、この状況を打破するのにミュールは邪魔だろうダスからな………」
ソウスケたちの意図に気づいたキアラたちは、呆気に取られて顔をひきつらせた。同時に、今から追いかけても既に連中は逃げてしまっているだろうと察する。
「………やられたわね、ミュールがいたら私たちが手出しできない事を分かっていたからできた作戦という訳ね………」
「ど、どうするダスか、姫様………?」
「くぅん?」
カラとボルグと共に焦りを見せるキアラであったが、自分の手を握るミュールを見て、頭が少し冷静になって、ため息をついた。
「………まあ、今回はミュールに免じて見逃してあげましょうか。ウルフたちに聞かれたら、適当に答えておきましょう。」
「わ、分かりました………」
「ダス………」
「ミュール、もう勝手にどっか行っちゃだめよ?」
「が、がう………」
魔王姫の一団は頷きあうと、その場を後にしたのであった。
†
[―――そっちはうまくいったみたいだな。]
「ああ。ちょっとハプニングが起きたけどな………」
「あのミュールって子が、予想以上のいい仕事してくれたからね………」
キアラたちと別れて数分後、街の屋根の上に場所を移した草介とフローは、それぞれアメンバットBとオクトモールHに跨ったままデュランと通信をしていた。キアラたちの予測通り、草介たちはミュールを返す間にデュラン達を移動させる作戦を立てていたのだ。
「流石は忍者使用のマシン、屋根の上まで軽々と上るとはな。」
「ちょっと怖かったけどね………私の意志とは別に勝手に動くの、馬よりもちょっと怖いかも………」
「まあ、君たちシンナセン人には、慣れないかもね。」
困惑気味に感想を述べるフローに対して、隣でサイレントシャドーからロンたちと共に降りてきたアスカ丸も、草介と共に苦笑いを浮かべた。確かにバイクが存在しない世界の生まれで、かつ自動操縦のバイクに初めて乗ったのであれば、無理もないかもしれない。
「姫様。」
「フェイ?」
「大丈夫、私は胸どころか背も足りない。あなただけじゃない。」
「………うん、ありがとう。」
(ここにも持たざる者が1人………)
先ほどのやり取りを聞いていたらしいフェイは幼児体系がコンプレックスだったらしく、彼女からフォローをかけられてフローは苦笑いで返す。草介たちはそのやり取りを見て、何とも言えない表情をしていたが、アスカ丸は屋根の上から街中を徘徊するかのように探る操られる街の住民たちを見下ろした。
「………それじゃあ、本題に戻ろうか。」
「あ、うん。」
「作戦通り、ボクの方で街の人たちはなんとかするから、その間にソウスケとフロー、それにシャスティはマシンに乗って、ボクが放った無人偵察機が探し出しているだろうバリアの基点を破壊してくれ。ロンたちは解放された人たちの誘導を頼むよ。」
「ああ。」「分かった。」「んだ。」
「住民の無事とバリアの解除が確認されたら、地下にいる隊長さんたちがあの塔の機怪魔獣と戦闘する。外にいるニールさんも参戦してくれるだろうからね。街がドンパチ賑やかになるから、なるべく被害が出ないようにはしないとね。」
「そ、そうだな………」
アスカ丸が手短に作戦の確認をすると、草介はバトルパンサーの火力を思い出して頷く。ロンたちも頷いて「了解」の意思を示すと、アスカ丸は身軽にサイレントシャドーのルーフに飛び乗った。
「さて、作戦開始と行こうか。フュージョイン!!」
アスカ丸は顔の前で『印』を結ぶ構えを取ると、サイレントシャドーへ沈み込むように
「今のが、フュージョインか!」
「何でポーズと掛け声を?」
「魔法の詠唱と同じなのでは?」
初めて間近でフュージョインを見たロンたちは感動すると同時に、フェイたちは素朴な疑問を抱く。草介とフローはデュランたちもやっていたけどね、と考えていたが、それを横目にサイレントシャドーのルーフから丸い赤色灯が2つ現れると、サイレンと共にアスカ丸の声が響いた。
『チェンジ!!』
宣言と同時に、車両の後部が伸びるとそこを残して立ち上がるように変形、フロントバンパーが左右に分かれると下に降りて拳が出現、最後に頭部がせり上がってきた!
『マーブラー!!』
宣言と同時に変形が完了、紫と黒をメインカラーとし、額に鉢金を巻いた忍者を模した頭部と胸元に鎖帷子の装飾を持ったマシンメイル・マーブラーがファリージャの街に降り立った!
「あれがアスカ丸のマシンメイル………覆面パトカーだったのか、あれ………」
「よし、私たちも行こうか!」
「ああ!」
マーブラーを見た草介が呟くと、フローに言われて頷いてハンドルを握る。草介の後ろに座ったシャスティがしっかりと掴まると、ロンが声をかけてきた。
「そっちは任せたぞ、ソウスケ!」
「ああ、そっちも気を付けろよ!」
「おう!」
草介とロンが短く言葉を交わすと、2人を乗せたガンマビークルは走り出した。
†
「!?見たことのないマシンメイル………!?」
「さっきの吟遊詩人のヤツか!?」
「い、今まで姿がなかったダスのに………!?」
一方で、遠くの方にマーブラーの姿を確認したキアラたちが驚きの顔となる。マーブラーは足元の住民たちが恐怖の表情でこちらを見上げながらこちらに歩いてくるのを見下ろして、少し辛そうな顔になった。
『ごめんね皆さん、直ぐに開放するからね………』
マーブラーは直ぐに顔を引き締めたかと思うと、胸の前で手早く印を結んだ。
『サイレント・サイレン!!』
その瞬間、マーブラーの背中に配された赤色灯が赤く光ってサイレン音が鳴り響いた!
「ぅう………?」
「え、ぁ………?」
すると、どうしたことだろうか。住民たちは苦しそうにしながらも足を止め始めてしまった。
「な、なんだ………?」
「住民たちが?」
「く、くぅっ!?」「きゃぅっ!?」
「姫様!?」
「ミュールも!?ど、どうしたダスか!?」
カラとボルグが住民たちの様子に困惑していたが、その時、キアラとミュールが耳を押さえて蹲った。2人が慌てて駆け寄ると、キアラたちは苦しそうにしながらも見上げて、何とか状況を伝えようとした。
「な、なんかキーンっておとが………!!」
「サイレンに混じって、き、聞こえる音に、頭が割れるような音が………!何なのよ、この音………!?」
「お、音………?あのサイレン以外は、何も聞こえませんが………!?」
「わ、ワシらや人間たちは、なんともないダスが………!?」
カラとボルグは耳をすませるが、2人が言うような音は聞こえない。キアラは2人の様子を見て、自分の聞いている音は聞こえる者と聞こえない者がいる事に気付く。これがあのマシンメイルの能力であると気づいたが、その時、ガシャンッという音が聞こえてきた。
「ッ!?………あ、あれは………!?」
顔を上げて見てみれば、タランテナが仰向けの状態で地面に倒れこみ、痙攣するかのように足を藻掻かせると、直ぐに動かなくなった。何が起きたのかと思っていると、住民たちに取り付いていたタランテナが次々と地面に落下して、同じように動かなくなっていく!
「は、外れた………!」
「や、やった!解放されたんだ!俺たち!」
「こ、これは………!?」
「こ、この音のせいなの………!?」
タランテナが外れて解放されたことを実感するかのように身体を動かし歓喜の声を上げる住民たちに対して、キアラたちは困惑しながらもこの状況の原因が目の前のマシンメイルが発する音であるのではと推測を立てる。その推測は正しかった。
これこそが、隠密型マシンメイル・マーブラーに搭載された七つ忍具が1つ、音響兵器『サイレント・サイレン』である。
サイレンの音の中に人間には聞き取ることが不可能だが、一定の生物や機械に効果のある音を混ぜて発生させることができるのだ。また、ソナーやレーダー、特殊音波通信としても使用可能な優れものである。キアラとミュールの耳に聞こえたのは、魔族の中でも人よりも優れた聴覚を持っていたためであると思われる。
ちなみに、忍者らしく印を結ぶのはアスカ丸の精神的ルーティンというだけで、発動には必要なかったりする。
『皆さん、喜ぶのは後です!今の内に逃げてください!』
「そ、それもそうだな………!」
「みなさん、こっちです!」
サイレンの音を止めたマーブラーの言葉を聞いて、住民たちはロンたちの誘導のもと、その場から離れていく。音から解放されたキアラが顔を上げて見れば、他の路地でも解放されたらしい住民たちが走り去るのが見えた。
「さ、さっきの音、範囲は分からないけど、既に結構な住民が解放されたようね………!」
「まだ、みみがキーンってする~………」
耳を押さえながらキアラは立ち上がるが、ミュールはまだ目を回していた。すると、この事態に気づいたのか、ウルフとバッファローも合流をしてきた。
「ま、まさか連中を解放されてしまうだと!?………む!?」
ウルフは驚きを隠せないでいたが、視線の先にいるマーブラーの姿を確認して、目を見開いた。
「あのマシンメイルは………宇宙忍者隊のもの!?アイツの仕業か!!」
「ど、どうするよ、ウルフ!?」
「ぬぅ………またタランテナをばら撒いて操っても、アイツに開放をされてしまう………この際仕方がない!ランダートどもをここに集結させろ!我々で直接叩くぞ!」
「おう!!」
ウルフとバッファローが話し合うと、懐からデバイスを取り出して操作を行う。ようやく耳が回復してきたキアラはそれを見ていると、カラとボルグがため息交じりに口を開いた。
「これでこちらのアドバンテージはなくなった訳ダスか………」
「いかがなさいますか、姫様?」
「………こうなっては仕方ないわね。私も出るわ。2人はミュールをお願い。」
「「はっ!!」」
「ミュール、2人の言うことを聞いて大人しくしているのよ?」
「わ、わぅ~………」
キアラは2人に命令を告げると、膝をついてミュールに視線を合わせて頭を撫でながら言い聞かせた。ミュールはまだ涙目であったが、素直に頷いてカラたちについてその場を後にする。キアラは立ち上がると、待機していたソードダートD1の元へ走り出した。
†
マーブラーは解放された住民たちがその場から避難されたのを確認すると、他の地点にいるであろう、まだ取りつかれたままの人々の方へ向かおうとした。しかし、重い足音が聞こえたかと思うと、自身の周囲にランダートが数機集まりつつあることに気が付いた。
『おっと、お集まりみたいだね。』
『これ以上はさせぬぞ!』
『おや?』
マーブラーはランダートに囲まれつつあるというのに、余裕のある態度を崩さずに呟いた。すると、ランダート達の向こうから声が聞こえたかと思うと、ランダートの群れが左右に割れて2体のビーストメイル―――ウルフダイトとバッファローダイトが現れた!
『………やっとお出ましみたいだね、六魔獣将のお二方………!』
『フン!やはりこの星にまで追いかけてきていたか!あちこちの星で貴様と遭遇したが、マシンメイルの状態だったから、ようやく気付いたわ………!』
マーブラーの態度にウルフダイトが鼻を鳴らして言い捨てる。既にキアラの駆る銀色を主体に赤でカラーリングされたソードダートD1も駆けつけ、周囲を量産型機怪魔獣に取り囲まれていたが、彼女は周囲を見渡しても表情を変えないでいた。
『―――そろそろいいよ、隊長さん!』
『何………!?』
マーブラーが視線を下に向けて言ったその時、マーブラーとウルフダイトの間の地面が爆ぜた!ウルフダイトとバッファローダイトが後ろに飛び退いて驚く中、土煙の中から4つの影、デュランダー、トライフェニックス、トライトータス、トライタイガーが飛び出してきた!
『ブ、ブレイバーども!』
『現れたわね、デュランダー!』
デュランダー隊の4体が並び立つと、ウルフダイトやバッファローダイト、ソードダートは1歩後退ってしまう。デュランダーたちはそれぞれ得物を手にすると、周囲を取り囲む機怪魔獣たちに突き付けていた。
『よっしゃぁ!人質もクモ連中もいないならこっちのモンだ!』
『レピオほどではないが、拙者も色々鬱憤溜まっているのだ………』
『街の人たちの分も、借りは返すアル!』
『ボクの方も、本気でキミたちを相手にできるからね………』
『次期にバリアも解除される!無駄な抵抗はやめるのだな!』
Dブレードを引き抜いたデュランダーがウルフダイトたちに向けて言い放つ。しかし、たじろぐバッファローダイトとソードダートに対して、ウルフダイトだけは嘲笑うように鼻を鳴らした。
『ふん、バリアは解除される、だと?果たしてそうかな?』
『何だと?』
†
その、ほんの数分前。草介とフローを乗せたアメンバットBとオクトモールHは、屋根伝いに走っていた。草介の視線の先には、要塞都市を守る城壁と、そこに突き刺さる蜘蛛の巣のようなワイヤーの先端が見えた。
「城壁の方に向かっている?」
「なるほど。あの蜘蛛の巣を張ると同時に、バリアの基点を設置したのか………」
「それはまた、合理的だね………」
草介の推測を聞いて、フローは皮肉気味に小さく笑みを浮かべて呟いた。次第に城壁が近づいてくると、2人は気合を入れ始める。
「レピオの話だと、1つでも基点を破壊か停止させればバリアは解除されるらしい。シャスティ、頼むぞ。」
「んだ!」
草介が後ろのシャスティに言葉をかけると、彼は頷いて答える。しかし、そこでフローは何かに気づいて振り返った。
「待って、何か近づいてきてる!」
「「え!?」」
フローの言葉に草介たちも振り返った。その視線の先には、赤く光る鋭いカメラアイと鋭い牙を持ったメタリックブラックの犬型メカが3機、こちらに向けて猛スピードで走ってきているのが見えた!
「な、何だあれ?犬!?」
『『『ガァアウッ!!』』』
「!?前からも!?」
更に前方からも同じ犬型メカが3機襲来!挟み撃ちされる形となった2台のガンマビークルは急停車した!
「は、挟み込まれた………!?」
「こいつも、機怪魔獣か………!?」
『バウワウッ!!』
『そうだ、コイツらは軍用犬型機怪魔獣ファングリルG2!』
「!?ウルフ!?」
アメンバットBから降りた草介が警戒しながら呟くと、目の前の犬型メカ・ファングリルG2からウルフの声が聞こえてきた。
『コイツのスピーカーを使い、遠隔で話しかけている。貴様らをバリアの発生装置の元へは行かせん!』
「くっ………!」
『さらにダメ押しだ!』
ウルフが叫んだ瞬間、草介たちの前方、ファングリルの後ろの屋根が爆ぜたかと思うと、その下から巨大な影が現れた!
「な………なんだべ、あれは………!?」
それは、3mほどはある大柄な鎧のような機怪魔獣であった。右腕は巨大な3本指のマジックハンド、左腕は青龍刀じみた巨大な刃を持った刀剣となっており、首に当たる部分がむき出しのコックピットとなっており、パイロットであるウルフロイドが乗り込んでいた。
『これぞ、リビングローダーF2!工事用パワードスーツの設計を流用した、戦闘用パワードスーツ型機怪魔獣よ!!』
「ま、マジかよ………!?」
立ちふさがるリビングローダーを見上げた草介が、冷や汗と共に引きつった顔で困惑と驚愕の混ざった声で呟いた………
【つづく】
序盤はミュールによるちょっとした騒動。子供の無邪気って時に凶器だよねってwミュールの前だとお姉ちゃんになっちゃうキアラはお気に入り。
実はフローレントとキアラは、それぞれ人間と魔族の姫ということで対になるようにキャラ設定していたのですが、(ボーイッシュでスレンダー、ショートカットの王子様系のフローと、高飛車でグラマラス、ロングヘアのキアラ)今回それがきっかけで妙な友情が生まれるという展開に。
アスカ丸のマシンメイル、マーブラー出陣。某地獄からの使者のメカと一字違いですが偶然ですw『サイレント・サイレン』は、真逆の意味の言葉の繋がりで面白くて好き。
ファングリルG2とリビングローダーF2登場。等身大戦のバリエーションを増やそうと思い、動物型とパワードスーツを登場させました。