異世界勇者ロボ~勇者として異世界に召喚されたら勇者ロボも一緒だったんだが!?~ 作:オレの「自動追尾弾」
異世界勇者ロボ 第47話
人の心を喰らう魔物
「何?連中が人間に機怪魔獣を売りつけただと?」
草介たちがハンクニーニへ向かおうと準備をしていたのと同じ頃、レイヴン魔帝国のリブアン城の一室では、魔王の側近である人狼族のグンフィが部下の
「はい。ワルンダイツの1人、あのモヒカン頭のバッファローが話しているのを、この者が聞いておりまして。データ収集の一環らしいですが………」
グンフィがそう言うと、隣のケット・シーが会釈をした。それを聞いて、ダインズは顎に手を当てて「うーむ」と唸った。
「連中め、我々に無断で何を考えている………?」
「ワルンダイツの事で気になる事がもう一つあります。リグーン王国についてです。」
不服そうに呟くダインズに、グンフィが報告を続ける。ダインズはそちらに視線を向けた。
「ご存じの通り、あそこの国民の大半は、現在、連中の提案で王都近くに作った『ラシワース収容区』にて監視をしつつ、区内に建築した工場で労働をさせています。しかし、そこの工場で作らせている物は当初、機怪魔獣のものと伝えられていましたが、機怪魔獣のカタログには該当する部品は見当たらなかったのです。」
「そうなのか?」
「はい。機械にはあまり詳しくない私でもわかるくらい、機怪魔獣に使うには大きすぎる物も多くありました。組み立てを行っているエリアも妙に広くなっていました。」
「うーむ………?」
グンフィの報告に、ダインズは首を傾げるばかりである。同盟を結んで、機怪魔獣やラシワース収容所での作業に関しては任せているとはいえ、自分たちに隠れて何かしようとしているとなれば、流石に放ってはおけない。
「グンフィ、確かに連中が隠れて動いているのは気になる。調べる必要はあるが、表立って調べて向こうを刺激することは避けたい。調べるのであれば密かにだ。連中も隠れて動いているのだから、問題あるまい。」
「はっ!」
ダインズがそう言うと、グンフィとケット・シーは頭を下げて退室していった。
「―――しかし、調べるにしてもどうするか………?」
退室後、ケット・シーとも別れたグンフィは、一人考え事をしていた。
「人間に協力してもらう手もあるが、我々に敵意を向けている彼らに協力を求めて引き受けてくれる保証も、余所に漏らさない保証もない………さて、どうしたものか………?」
「グンフィ様!」
「ん?」
考えながら歩いていたグンフィであったが、後ろから声をかけるものがいた。振り返れば、そこには同族の人狼がこちらに走ってきていた。
「どうかしたか?」
「それが、先ほどラシワース収容区から連絡がありまして………」
「ラシワースから?」
ちょうど話の中心にあったラシワース収容区からの連絡と聞いて、グンフィは思わず聞き返してしまう。
「それで、どうしたのだ?」
「それが、昨日の昼頃にバンジー山から下山してきたという人間を捕らえたそうなのですが………その人間が、グンフィ様を呼んでほしいと言っているらしく………」
「人間が、俺をだと?誰だ?」
「それが、『
「何ィイ!?」
訝しんで聞いていたグンフィであったが、『ブルート』の名前を聞いた瞬間、目を見開いて驚愕の声を発した。慌てて口を押えて周囲を見渡してから、目の前の人狼を問いただす。
「確かに、『ブルート』と言っていたのか?」
「はい。間違いありません。グンフィ様、もしやその男は………」
「ぬぅ………!」
部下の人狼が少し心配そうにグンフィに問うが、当のグンフィは額に手を当てて唸るしかなかった。
「(俺を知る『ブルート』という人間ならば、
「わ、分かりました………!」
グンフィはそう言うと、準備のために足早に城の自室へと向かって行った。
†
「ここが、ハンクニーニか………」
草介たちを乗せたナイトガリバーは誰にも悟られる事もなくハンクニーニ近くの山に着陸をすると、草介たちは東側の大きな橋『ブーツ大橋』からハンクニーニの町に入っていた。
ハンクニーニは、運河を中心に作られた物流の町である。
町中に網目のように―――草介であれば『碁盤の目』と例えるだろう―――水路が流れ、馬車の代わりに船が行き来するのが町の名物にもなっている。陸路からの出入り口は町の東にある『ブーツ大橋』と西の『リジー大橋』の2つしかない。河の上流にある山の材木や王都からの食糧を載せた船と、それらを別の地域へ運ぶための船が行き交い、賑わいを見せている。
「結構賑やかだな。流石は物流の町だ。」
「だども、ここのどっかで苦しんでる人もいるだな………」
「嗚呼、悲しいかな………町の光と影、ってところかな………」べべん
町の裏に潜んでいるであろう、人の心を喰らう『カジノ』という名の魔物に心を痛める4人。アスカ丸がどこか哀愁を持って三味線を鳴らした時、草介の視線に町の河を進む船が入った。その船は荷物を積んでいたのだが、帆もオールもなく、船尾から風のようなものが噴出して進んでいた。
「あれ?あの船、オールも何もないのに………?」
「ああ、あれは『風魔法の魔法陣』が船尾に刻まれているんだよ。」
「魔法陣?」
エルティゴの説明にソウスケはオウム返しをしてしまう。シャスティが説明を引き継いだ。
「魔法陣っつうのは、魔力を込める事で呪文がなくても魔法を発動させることが出来るモンだべ。お城に魔法障壁張ったり、地面に仕掛けて罠にしたりすんのに使うんだべ。」
「あの船は『魔法陣船』と言って、船尾に刻んだ魔法陣から風を発生させて進むんだよ。方向転換は人の手で舵を切る必要があるけどね。もっと大きい船だと魔力の関係で無理だけど、あのサイズなら人一人の魔力で動かせるよ。」
「へぇー、モーターボートみたいなもんか………」
2人の説明を聞いた草介は、感心したように呟いた。アスカ丸も頷いていると、エルティゴは橋の近くにある『貸し船屋』という看板が立てられた小屋を指さした。
「ほら、あそこで魔法陣船を借りられるよ。この町は水路が多いから、あの魔法陣船が必須なんだよ。」
「なるほどなー」
エルティゴの先導で、一同は貸し船屋に向かって歩き始めた。10G支払って船を借りると、エルティゴの魔力と操舵で水路を進み始めた。
「さて、ラダンさんから受け取った資料を見ると、カジノの客と思われる人の目撃情報が複数個所あるね。」
「ひとまず、近い場所から順番に行ってみようか。」
「そうだね。ただ、カジノ客らしき人に直接聞くのは避けよう。下手に刺激しては、トラブルになりかねない。」
船が水路を進む中、草介たちは話し合った。最初の目的地は、東にある酒場であった。
†
それから2時間ほど後、草介たちは町の中心にある小さな冒険者ギルド『水面のダンス』でデュランたちと合流していた。
「どうだった?」
「うーん………」
「あんまりって感じだな………アスカ丸は?」
「もう少し聞き込みしてくるって。」
「相変わらずか………」
合流した先のテーブルで、難しい顔で突っ伏す草介、エルティゴ、シャスティの顔を見て、デュランはため息と共に肩を落とした。トライヤーズやニールも苦笑しながら席について給仕に飲み物を受け取ると、報告を聞くことにした。
「ラダンさんの資料を基に調べてみたんだけどさー、カジノ客の集まる場所に、統一性がなくて………」
「酒場や食堂みたいな、人が集まりそうな場所はまだわかるけど、服屋や本屋に魔法薬局、後は、その………しょ………しょうか………えっちなお店、まであって………」
「ば、場所も、町中のあちこちにあるだよ………
「そいつはまた………」
「見事にバラバラアル。」
(年頃の姫に娼館は、流石に恥ずかしいでござるか………)
恥ずかしそうにするエルティゴの報告に、レピオやハバキリは苦笑していた。草介は先ほど行った、でも年齢的に近づけなかった、今時地球では珍しいくらいピンクの光が灯ったあの店を思い出していると、しかし、とニールは顎に手を当てて呟いた。
「そこまでバラけているとなると、探すのは容易ではなさそうだな………もしかしたら、『何か』を見落としている可能性もあるが………」
「もう一度、資料の場所を回ってみるか………」
デュランがそう言うと、一同は飲み物を飲み干して立ち上がった。その時、シャスティの懐から紙のようなものが1枚、ヒラリと床に落ちた。
「あっ………」
シャスティがそれを拾おうとしたその瞬間、彼らの後ろの席から金髪の男性がその紙に向かって飛びかかってきた!
「うおおおおおお!金だああああああああ!!」
「ひえ!?」
あまりの勢いにシャスティは悲鳴を上げた。男は恍惚としたような顔で拾ったその紙を見るが、直ぐにその顔はキョトンとしたものになった。彼の手には、キラキラと虹色の光を反射させる、白と黒のドラゴンのカードが握られていた。
「ん?何だこれ?ドラゴン………?」
「あ、『グレイテストワイバーン』のカード………」
「こ、こないだ、勇者様に返しそびれちまってたから………」
「なんだよぉ!光ってたから、金だと思ったのに………!」
レピオが、そのカードが先日草介から説明を受けたレアカードだと気づく中、男性はカードから手を放して、ひどく落胆をした。
「あ、だ、大丈夫ですか?」
シャスティが『グレイテストワイバーン」を回収すると、ハッと我に返ったデュランが男性に声をかけながら起き上がらせた。男性はひどく酔っているのか酒臭く、真っ赤な顔をしていた。
「ちくしょぅ~………あそこで赤の12番が出れば、逆転できたのによぉ~………金があれば、またあそこで一発逆転してぇ………」
「っ………(カジノの客だったか………)」
その言葉を聞いて、デュランは男性がカジノで大負けをしたことを察した。草介たちも心配そうにしていると、近くにいた冒険者らしき男が呆れたようにため息をついた。
「またルイの奴、悪酔いしてんのかよ………」
「男爵様に家追い出されて借金までして、何してんだか………」
「ルイ………!?」
「まさか………!?」
ルイというその名前と男爵という単語を聞いて、一同は彼こそがラダンの弟、ルイ・ギャンブルクであると瞬時に察した一同。驚いて一瞬固まるが、ひとまずルイを介抱すべく、長椅子のある席に案内してもらった。
「まさか、ここでルイと会うなんてな………」
「情報を持っている彼と会えるのは渡りに船、と言いたいところだけど………」
妙な出会いにレピオとエルティゴは苦笑するが、チラリと長椅子に横たわるルイを見た。
「ぅう~………父さん………」
「………この様子じゃあ、何も聞き出せそうにないな………」
「大敗の上に実家追放のショックで酒におぼれた、ってとこか………」
うわ言の様に呟くルイを見て肩を落とす一同。彼の心境を察する中、デュランはギルドの職員にルイを頼んでその場を後にするよう促した。
「とりあえず、また目撃情報のあった場所を回るとするか………」
べべん
「む、アスカ丸か。」
デュランが言いかけたその時、三味線の音が聞こえてきた。デュランがそれを聞いて振り返ると、いつの間にかアスカ丸が建物の壁に寄りかかっていた。
「その前に、追加情報があるよ。」
「追加情報?」
「ああ。町の北側付近で聞き込みをしている時に、橋の下をじっと見ていた男の子がいてね。少し気になって聞いてみたら、興味深い話を聞くことができた。ギルドの宿泊部屋で話そう。」
アスカ丸が聞いた話は、こうだ。
その橋の近くに住んでいたその少年はある日の夜、2階にある自室の窓から流れ星を見つけたそうだ。
また落ちないかと夜空を見上げていたが、ふと、橋の方を見てみれば、人を乗せた船が橋の下を通るところであった。
東西にある大橋ほどではないにしろ、そこそこ大きなその橋の下に船が入り、少ししてから反対側から船が出てきた。しかし、その船に乗っていたはずの乗客が消えており、船には船頭のみが乗っていたそうだ。
「乗客が、消えた………?」
冒険者ギルド2階の宿泊部屋で話を聞いていた草介たちは、不思議そうな顔になる。アスカ丸は付けたした。
「それから毎晩のように橋を見ていたそうだけど、親に早く寝ろって言われて無理だったらしくてね。昼間に探すようにしていたそうだよ。だけど、それ以来船から乗客が消えるのを見ていないそうだ。」
「妙な話だな。橋にでも食われたか?」
アスカ丸の話にレピオが茶化すように言う。確かに少し気になるな、と草介が思っていると、ふと、窓の外を見たニールが声を出した。
「あれは?」
「え?」
一同がニールの視線を追うと、そこではギルドのすぐ近くを流れる運河に縦長の看板が立っており、そこに並んでいた人たちが運河に停まった船に乗り込んでいるところであった。
「ああ、町の水路を回る巡回船だよ。ああいう停留所が町の決まった場所にあって、決まった路線で進むんだ。」
「なるほど、路線バスの船版みたいなものか………」
「そういえばあの看板、町の至る所にあったな………さっきの娼館の近くでも見かけたよ………」
エルティゴの説明を聞いて、草介とアスカ丸は納得したように頷く。水路の多いこの町には必要不可欠なものなのだろうと考えていると、そこで草介は、何か思い当たったかのような顔になった。
「ん?待てよ………?」
「ソウスケ?」
草介の表情の変化にデュランが気づいたが、草介は振り返ってデュラン達に声をかけた。
「みんな、目撃情報の地点で聞いてきてほしい事があるんだ。」
「「「え?」」」
数時間後、デュラン達は再度宿の部屋に集まっていた。部屋の中央に置かれたテーブルには、ハンクニーニの地図が広げられていた。
「ソウスケの言った通りだ。情報のあった場所の近くには、巡回船の停留所があった。」
「聞き込みをしたら、時間からずれた船に乗る者の目撃証言が取れた。」
「乗る船だと思って乗ろうとしたら定員オーバーで断られて、行ったすぐ後で同じ路線の船が来て不思議に思いながらも乗ったおばあさんの話も聞けたよ。」
地図を指さしながらデュランが口を開き、ニールとエルティゴも報告をする。
地図には先ほど目撃情報のあった地点に赤い点が、巡回船の停留所に青い点が書き込まれており、2色の点は必ずと言っていいほど近くにあった。
「さっきのシャスティの言葉で思い出したんだ。聞き込み中、あの停留所を必ず見かけていたって。」
「なるほどな………」
「君の洞察力には、感心するばかりだよ。」
草介の答えにニールが頷くと、アスカ丸も感心したように言いながら地図を指さした。
「バレないためか、異なる路線の停留所を複数使っているけれど、ルートを辿るとさっきの『人食い橋』を通るね。」
アスカ丸が地図に記された地点をなぞると、行き着いた一点を指さした。そこは
「なるほど。通常運航の船に見せかけて、カジノに客を運んでいたのか………」
「カジノ行き船の時間は利用する客にしか知らされていない………たとえ他の乗客がいたとしても、別ルートの船に乗り換えればよい、ということでござるか………」
「その男の子が見たのはカジノの客で、船から客が消えたのは、既に客を運び終えた船と入れ違いで橋の下から出ていたからアルな………」
「じゃあ、カジノの入り口は………」
「この橋の下だ。」
全員の報告をまとめたデュランが断言をする。全員がそれを聞いて頷くと、アスカ丸が手を上げた。
「隊長、聞き込みの最中、何人かの追跡を感じた。おそらくは『カジノの事を嗅ぎまわられたら困る人』の差し金だね。」
「だろうな………」
「表立って動いたら、厄介そうだ………」
アスカ丸の報告に、ため息混じりに肩を落とす。デュランはアスカ丸を見据えた。
「アスカ丸、ここは隠密行動に長けた君の出番だ。」
「承知♪」
デュランが指示を飛ばすと、アスカ丸は軽く返答をして見せた。そこで、草介が口を開いた。
「デュラン、俺も行かせてくれ。アスカ丸の強さは分かるけど、流石に1人じゃあ危ないと思うからな………」
「私も同意見だ。彼女と違って隠密活動は苦手だけど、戦力にはなると思うよ。」
「しかし………」
草介とエルティゴの進言を聞いたデュランは悩んだ。確かにアスカ丸が隠密行動に長けているとはいえ1人に任せるのが心細いのは分かるが、慣れていない2人を連れて行って、何かトラブルが起きてしまっては任務に支障が出てしまう可能性がある。レピオたちも困った顔をしていたが、そこでアスカ丸が三味線を「べん」と鳴らした。
「ボクは構わないよ。ボクなら2人のフォローを回ることもできるからね。ただ、可能であれば隊長さんたちもこっちのフォローをしてくれると助かるかな。」
「そ、そうか………分かった。そちらは任せたぞ。」
「ああ。」
「ごめんな、わがまま言って。」
「いいてことだよ♪」
アスカ丸の自信満々な顔を見たデュランは、少し不安を残しながらも承諾することにした。草介に軽く答えながら、アスカ丸はGPデバイスの操作をしていた。
†
その日の夜、草介とエルティゴは、アスカ丸と共に巡回船の停留所近くにある路地裏から見張っていた。
「少年の目撃情報から逆算して、この時間にあそこの停留所に船が通る事になる。例の橋は、夕方の内にオクトモールに見張らせているよ。」
アメンバットBの傍に立ったアスカ丸が説明をする。アメンバットBには草介とエルティゴが跨って待ち構えていた。
[水路の多いこの町で船を追跡するなら、我が隊の中でも小回りの利くアスカ丸のガンマビークルが最適だ。頼んだぞ]
「ああ。」
「来たぞ。」
アスカ丸がGPデバイス越しにデュランへ返事をしたその時、巡回船が1隻、停留所に止まったところであった。それと同時に、近くの酒場から数人の男女が出てきたかと思うと、その船に次々と乗り込んで行った。
「あの路線、今日の便はもう終わっているはずなのに、乗り込む人がいる。あれだね。」
「さーて、追跡開始と行こうか。」
アスカ丸はそう言うと、アメンバットBのカウルに左手で触ると、右手で印を結ぶように人差し指と中指を立てて口の前に持ってきた。
「フュージョイン………!」
「え?」
そして一言呟くと、アメンバットBと一体化する。流石に3人がバイクに乗るのは危険だが、まさかフュージョインするとは思っていなかった草介とエルティゴは驚きのあまり声を漏らしてしまった。
「こいつとも、フュージョインできたのか………!」
『これだけじゃなくて、ガンマビークル全機ともフュージョイン可能だよ。』
「なるほど、君は状況に応じてマシンを乗り換え使い分けるタイプなんだね。」
草介とエルティゴが納得したように頷いている間に、巡回船は出向していた。
『さて、そろそろ追跡を始めましょうかね♪光学迷彩装置、起動!』
アメンバットB内でアスカ丸がそう言うと、アメンバットと登場していた草介とエルティゴの姿が一瞬歪み、その姿が消えてしまった。
「これは、姿が………!?」
『光学迷彩だよ。姿を消しているとはいえ声は聞こえちゃうから、気を付けてね。』
「わ、分かった………」
『それじゃあ、出発するからしっかり掴まっててね。』
アスカ丸にそう言われて、2人はしっかりと掴まった。そして、アメンバットは静かに走り出した。
「む?あれは………」
走り出した時、路地裏から人影が1,2人顔を見せたのが見えた。おそらく、先ほど話に出ていたカジノ側の人間だろう。
「おそらく、私たちの姿が急に消えたから、驚いて顔を出してしまったのだろうね………」
「やっぱりな………けど、見えないとはいえこのまま道を進んで連中と鉢合わせになったらマズそうだ………」
『それなら問題ないよ。』
アスカ丸はそう言うと、なんとアメンバットは水路に飛び込むように進路を向けてしまった!
「「ええ!?」」
驚いて思わず2人は声を上げてしまうが、その時、アメンバットBの前後輪が左右に分かれるとタイヤ部分が下を向き、ホバークラフトのように水上に浮かび、船の後ろを追跡し始めた。
「こ、これは………!?」
『アメンバットBの水上ホバー形態。この機体とオクトモールHは、複数の形態を持ち合わせているのさ。』
「そ、そうだったのか………いきなりは驚くから、次から前もって言っておいてくれ………」
『それは失敬♪』
突然の変形と水上のホバー移動に驚いた草介がツッコミを入れるが、当のアスカ丸は軽く返した。これで追跡をしていた者たちは完全に見失ったと思い、気兼ねなく追跡を続けられた。
「そういえば、オクトモールも変形が?」
『ああ。水中と地中を進む形態があるよ。橋の下を見張るのに地上からじゃあ目立つと思って、河の中から見張ってもらっているよ。』
「なるほどね。流石にあちらさんも、水中から見張られているなんて気づかないだろうね。」
『おっと、そろそろ例の橋だ。』
アスカ丸に言われて先を見ると、件のアチク橋が見えてきた。アーチ状の橋下を船が通りかかると橋の中ほどあたりで面舵を切り、右の方へ進んでいった。
「あそこか………!」
草介が見ている先では、入れ違いに同じデザインの船が出てきて、橋の反対側に向かって行った。
「やっぱり、船は「2隻」あったッ!」
「あそこに隠し扉があるみたいだな。急いで滑り込むか?」
『そうだね。多少無理をしてでも………』
草介の提案を受け、アスカ丸はアメンバットを加速させる。近づいて気づいたが、橋の下には船が2隻通れそうな穴がぽっかりと開いているのが見えた。しかし、下から石垣が上がってきて閉じようとしていた。
『おっと!?』
アスカ丸が思わず声を上げる中、出入口はアメンバットが急ブレーキをかけた目と鼻の先で静かな音でピッタリと閉じてしまった。
「惜しい、あとちょっとだったのに………!」
「どうする?次の船を待つか?」
『いや、追っ手もいる以上、今のタイミングを逃したら入り込むのは難しくない………』
アメンバットがその場でホバリングする中、草介たちは話し合う。アスカ丸の発言に草介とエルティゴが詰まっていると、アメンバットからフュージョンアウトをしたアスカ丸がカウルの上に立って現れた。
「ここはボクに任せて。」
「どうする気だ?」
「おそらくこれは、内側から操作して開閉させる仕組みだろう。だから、内側に入るのさ。」
「いや、それが簡単にできるなら苦労は………」
簡単に言ってのけるアスカ丸に対して草介が呆れたように笑っていると、アスカ丸は閉じた壁を左手で触っていた。
「普段はこんな事言わないんだけど、あえてそれらしく言うならば―――『忍法・壁抜けの術』!」
「なぬ?」
アスカ丸の発言に草介が反応するが、次の瞬間、アスカ丸は手を当てていた壁に吸い込まれるように通り抜けてしまったではないか!
「おお!?」「これは………!?」
2人が驚いていたが、ものの十数秒後、石垣の一部は下に下がって出入り口が開き始め、その向こうから悪戯っぽい笑みを浮かべたアスカ丸の顔が見えた。
「ま、こんなもんさ♪」
「す、すごいな今の………何をしたんだ?」
自動操縦で内部に進むアメンバットから草介が問いかける。アスカ丸は内部の水路横の細い通路でレバーを操作しながら、簡単に説明をした。
「なに、簡単なことだよ。石垣にフュージョインして、反対側にフュージョンアウトしただけだよ。」
「あ、そうか………石ころとも一体化できるって言ってたもんね………」
「まあ、特定の掛け声なしにするのは、特別な訓練を受けた忍者刑事だからできる芸当でもあるけどね♪」
出入り口が再度閉まる中、アスカ丸は何てことないように笑みを浮かべてみせた。しかし、大きな扉が閉まると、薄暗い水路の先の闇を鋭い眼差しで睨みながらアメンバットのカウルに飛び乗り姿を隠して、背中の三味線に手をかけた。
「さて、しばらく静かにしていてくれ。予定にない扉の開閉に、警戒してこっちに来る人たちがいる………」
「「ッ………!」」
アスカ丸の言葉に、草介とエルティゴが警戒をする。耳をすませば、足音が複数、こちらに向かって歩いてくるのが聞こえてきた。
「!?(あれは………!?)」
『ウィーン………』『ピポポポ………』
通路の向こうから歩いてきたのは、赤い目を光らせる2体のゾロゾロイドであった。ゾロゾロイド達は開閉レバーのあたりに異常がないか調べ始めていた。
(ゾロゾロイド………!?)
(なんで、違法カジノに機怪魔獣が?)
『異常はないデアルか?』
突然ゾロゾロイドが現れた事に驚いていたが、次いで声が聞こえてきた。草介たちがそちらに目を向けると、そこには芥子色のボディの上から赤い鎧を纏った武者のような姿の大柄なドロイド―――ザムラロイドF1であった。
(ザムラロイド………!?)
(何でこんなところに………!?)
『異常がないのデアレば、持ち場に戻るデアル。』
『『ウィーン………』』
草介とエルティゴが声に出さないまま驚いていると、ザムラロイドは3人に気づくことなくゾロゾロイドと共にその場を後にした。3体が戻って行ったのを確認すると、草介が顔を引きつらせながら小さく口を開く。
「何で機怪魔獣が、違法カジノにいるんだ?しかも、ザムラロイドまで………」
「これは………想像以上にキナ臭くなってきたねぇ………」
アスカ丸はため息交じりに呟いて、闇の向こうを睨みつけた。アメンバットをゆっくりと進めると、先ほどの船が定位置で停まるところだった。船から降りた客が列をなして開いた扉の向こうに入っているところであり、入り口で仮面を受け取って装着をしていた。草介たちはこっそりと列に混ざり、草介とアスカ丸は仮面を受けとって目元に装着し、他の客に着いていくように進んでいく。(エルティゴは自前のものがあったので受け取らなかった。)
しばらく進んだ先に明かりが見えてきたかと思うと、そこは明るさと活気に溢れた広間となっていた。床には赤い絨毯が敷かれ、周りには大きなテーブルがいくつも配置されている。テーブルについたディーラーが、客と共にルーレットやサイコロ、カードゲームに興じているのが見えた。
「ここが………カジノか………!」
草介とエルティゴがカジノの雰囲気と、ゲームに興じる者たちのギラギラした狂気に押されている中、アスカ丸は部屋の隅に立つ黒服たちを見ていた。仮面で顔を隠しているものの、その雰囲気は生き物とは異なる事に、宇宙忍者たる彼女だけが気づいていた。
(あの黒服たち、大半がドロイドだ。ワルンダイツめ、魔族だけじゃなく、人間にまで機怪魔獣を………)
アスカ丸は訝しげに黒服たちを見ていたが、直ぐに表情を戻して2人に小声で話しかけた。
「さあ、何もしていないと怪しまれちゃうよ。ボクたちも何かゲームをしよう。」
「そ、そうだな………」
「まずは、トランプでもしようか。」
アスカ丸に促され、2人は熱気に満ちた中に向かって行った。
†
ザムラロイド達はある一室に入ると、そこにいた男性に報告をしていた。
『出入り口に、異変はなかったデアル。』
「そうか………」
薄暗い部屋の中でその人物、白髪で口ひげを生やして片眼鏡をかけた初老の男性はザムラロイドの報告に小さく返事をした。
「このカジノの事を嗅ぎまわっている連中がいる。不審な者がいないか、見に行った方がよさそうだ。お前たちも、変装して会場を見回ってくれ。」
『御意デアル、『エスツーク』殿。』
男性の言葉にザムラロイドは返答をするが、エスツークと呼ばれた男性は、ザムラロイドを睨みつけた。
「その名で呼ぶな。このカジノでは、私は『マスター』だ。二度と間違えるな。」
『申し訳ないデアル。』
自分はマスターであると、静かに圧をかけながら訂正をした男性。ザムラロイドは表情を変えることなく返答をすると、マスターは呆れながらも懐から仮面を取り出して目元を隠した。
「さて、私も久しぶりにゲームに参加しましょうかね………」
【つづく】
草介たちが動く一方で、魔王軍に不穏な動き。そしてグンフィとブルートに繋がりがあった事が判明。
ハンクニーニは水路の町。そしてそれを活かしたカジノの隠し方というギミック。さり気なく魔法技術の解説も。
アスカ丸のマシンメイルは当初、『ジェイデッカー』のシャドウ丸のような多段変形タイプも考えていたのですが、トライメイルでやったので、忍者らしく状況に合わせてマシンを使い分けるタイプにしました。