異世界勇者ロボ~勇者として異世界に召喚されたら勇者ロボも一緒だったんだが!?~ 作:オレの「自動追尾弾」
異世界勇者ロボ 第5話
勇者草介、冒険者ギルドに行く
草介とデュランダー隊が別荘を拠点としてから、3日が過ぎた。
別荘地下のブレイベースでは、デュランダーにフュージョインしたデュランが、マシンメイル用の広いトレーニングルームで修理後の動作チェックを兼ねてトレーニングをしていた。
『フッ!でぇえい!!』
次々に出現する標的をDブレードで斬り裂き、遠くから銃撃してくるターゲットには、アームシューターで撃ち落とす。全てのターゲットを破壊したところで、トレーニング終了を告げるブザーが鳴り響いた。
「お兄ちゃん、交換したモーターの調子はどうでありますか?」
『ああ、バッチリだ。オートメンテナンスで修理できる範囲で良かったよ。』
デュランダーは話しかけてきたアルスに笑顔で答える。Dブレードを納めると、格納庫に向けて歩き出し、アルスもそれに続いた。
『それで、レピオ達からの連絡は?』
「いえ、まだであります………おそらくは、私たちと同じで通信機能に異常が発生しているのだと思うであります………」
『そうか、心配だな………』
歩きながら話す兄妹。デュランカーに変形をして格納庫の定位置に戻ると、デュランがドアを開けて降りてきた。
「そう言えば、ソウスケはどうしている?」
「上のお庭で、ニールさんと訓練しているであります。」
アルスの答えを聞いたデュランは、ふーん、と頷いた。
†
ほぼ同じ頃、庭の広い芝生では、木刀を手にした草介が、木製のナイフを持ったニールと打ち合う訓練をしていた。草介が振りかぶり、一気に接近して振り下ろそうとするが、ニールは脇に避けて脇に一撃を与えた。
「ぐえっ!?」
「脇が隙だらけだ!動きながら、相手の動きをよく見ろ!」
「は、はい!」
脇に一撃を受けて呻く草介に、ニールが声をかける。 草介は額の汗を拭いながら、再び木刀を構えた。呼吸は荒いが、目は真剣そのものだった。
「少しは様になってきたな。」
ニールが薄く笑みを浮かべると、草介も思わず笑みを浮かべそうになった。
2日前、庭で素振りをしていた草介を見かけたニールが、草介の剣捌きを見て、実戦にはあまり向かないと判断して指導をしたところ、(ニールの教え方もあるだろうが)草介は直ぐに教えられた事を吸収していった。それから、草介はニールに師事するようになっていた。
「おーい、ソウスケー!」
「ん?」
草介がニールに打ち続けていると、遠くから呼んでくる声が聞こえてきた。手を止めて振りむくと、フローとシャスティがこちらに駆けてくるのが見えた。
「ああ、フローにシャスティ。」
「こんにちはソウスケ、ニールさん。精が出るね。」
笑いながらフローが言う。シャスティも草介に近づいてきた。
「勇者様、特訓だべか?」
「あー、まあな。この間の戦いで、自分の未熟さってのを、痛いほど自覚したからな……」
後頭部を掻きながら、少し俯き気味に言う草介。シャスティはそれを聞いて感心したように頷いていたが、ユーア村の一件をリジルから聞いていたフローは、苦笑気味に話しかけた。
「まあ、向上心があるのはいい事だけど、あまり無茶や無理はしないようにね?」
「ああ、うん。ありがとう。」
草介がフローにそう言うと、デュランとアルスもこちらに近づいて来た。
「そろそろ切り上げて、お昼ご飯にしないか?フローとシャスティも、良ければ食べていってくれ。」
「え?いいんですか?」
「ああ、勿論だ。」
「ありがとう。父上には一応許可は取っているしね。」
デュランが笑顔で答えると、シャスティは素直に喜び、フローは感謝と共に頭を下げた。
†
昼食後、食器を洗い終えると、食材倉庫を確認していたアルスがデュランに話しかけてきた。
「お兄ちゃん、そろそろ食材が足りなくなってきたでありますよー」
「もうか?」
「当初はソウスケとデュランの2人と思っていたから、そんなに多く用意していなかったからな………」
アルスの報告に、フローもそう言えば、と思い出したように続けた。ニールはそれを聞くと、少し考えてから皆に言った。
「そうだな、食料以外にも色々用意が必要だろうし、街に買い出しにでも行くか。」
「おお、そうだな。」
ニールの進言に草介が応えるが、フローがそれに対して反論してきた。
「食料くらいなら、こちらで届けてもらうように手配をするけど?」
「いや、買い出し以外にも、情報収集がしたいからな。街に出れば、多少は情報が手に入るかもしれない。」
「なるほど………」
フローはそれを聞いて、納得し頷いた。
「それなら、資金だけでも出させてほしい。」
フローはそう言うと、懐から小さな革の袋を取り出して草介に手渡した。袋は思いのほかずっしりと重く、草介は思わず両手で受け取った。
「け、結構重いな………」
草介が袋を開けると、500円硬貨程の大きさだが1.5倍程の厚さがある金貨がたくさん入っていた。
「こ、こんなに………!?」
「150
「こんなに……いいのか?」
「この別荘の維持費用として、もともと用意してあったものだから気にしないで。それと、荷物運び用に馬車も手配するよ。」
「じゃ、じゃあ……ありがたく使わせてもらうよ。ありがとう。」
草介は少し恐縮しつつも、感謝の気持ちを込めて礼を述べた。
「それじゃあ、準備ができたら出発といこうか。」
「ああ。」
「お買い物であります~♪」
デュランとニールが頷き、アルスは嬉しそうに鼻歌を歌いながら一同はキッチンを出て行った。
十数分後、準備を整えた一行は馬車に乗り込み始めた。
「流石にデュランカーでは全員乗れない上に荷物があまり詰め込めないし、何より目立ちすぎるからねー……」
「たしかに……」
苦笑しながらデュランがぼやくと、草介がそれに頷いて答える。全員が馬車に乗り込むと、馬車は王都に向けて走り出した。
「そう言えば、何でデュランたちはあんな車で来たんだ?」
「確かに、あの車や飛行機械は、この世界ではかなり目立つ。持ち込むのであれば、目立たないような物にするべきだったのでは?」
草介が何気なくデュランに聞くと、フローも同感だと言わんばかりに頷いた。問われたデュランはため息交じりに苦笑すると、口を開いた。
「実は、出発前の時点ではワルンダイツの上層部は地球によく似た『チーポン』という惑星に潜んでいるという情報を掴んでいてね……」
「そこでチーポンや地球の乗り物をモデルとしたビークル形態に変形できるようマシンメイルの準備をしていたのだが、出発直前になってワルンダイツがシンナセンにいるとの情報が入ってきてな。形態を変更する時間がなくて、仕方なくそのまま出発するしかなかったんだ………」
「あ、ちなみにチーポンには別の部隊が調査に向かったでありますよ。」
「なるほど………」
「そんな事情があったのか………」
デュラン達の説明に草介とフローは納得したように頷いた。
「だども、あの乗り物はかっこよかっただよ………」
「あー、うん、ありがとう。」
純粋なシャスティの感想に、デュランは笑顔で応えた。
†
ロコロ王国の王都ロシロは、石畳の大通りには人々が行き交い、商人たちの威勢のいい声があちこちで飛び交っている。
「わあ……人、すごいな。」
馬車から降りた草介が、思わず口を開いた。
通りには香ばしい焼き菓子の匂いや、焼いた肉の香りが漂い、路地裏では子供たちの笑い声が響いていた。行商人の屋台には色とりどりの野菜や果物、手作りのアクセサリーや薬草などが、所狭しと並んでいる。
「最初の時は街の様子を見る暇はなかったけど、結構賑わってるんだな~」
「さてと、まずは食材を買いに行こうか。」
街をキョロキョロと見渡す草介の一方、メモを手に持ったデュランが呟いた。
「まずは芋類に根菜と干し肉だな。」
「この世界の文明レベルでは、生の肉や魚はないだろうからな………」
食材のリストを見てニールが呟く。魔法が存在しているとはいえ、さすがに冷蔵や冷凍による保存方法は確立されていなかった。一応、ブレイベース内には冷蔵庫や冷凍庫があるが、こちらの世界の文明や技術に合わせるのが妥当だろう。
「店までは、私が案内しよう。路地裏は意外と入り組んでるから、はぐれないで着いて来てね。」
「ああ、ありがとう。」
フローがそう言うと、王都の大通りを歩き始めた。デュランたちもそれに続いた。
「フローレント様よ!」
「フローレント様~♡」
「やあみんな♪」
街を歩くと、フローの姿を見た町民たちが声をかける。黄色い声が特に多いのは、気のせいではないだろう。フローは背が高く、顔立ちが整っている。
「人気者だな、フローは………」
「『美しいお姫様』、というか、美しい通り越して『イケメン』だもんなー、フローって………」
「お姫様なのに、王子様系であります………」
声をかけてくる人々に笑顔で答えるフローの後ろで、草介とアルスは呟いていた。
「さて、野菜はこっちで買えるよ。」
「ああ、うん、ありがと。」
フローに案内されて商店に訪れた。
「こんにちはー」
「いらっしゃ、おや、これはこれは姫様お久しぶりでございます。」
店番をしていた女性がフローに頭を下げながら対応する。
「今日は、彼らの買い物に来てね。野菜をいくつか欲しいんだ。」
「かしこまりました、こちらをどうぞ。」
フローがそう言うと、女性は店先に並ぶ野菜を見せてきた。
「これは、ジャガイモにニンジン、タマネギか?少し違うけど………?」
「ん?ソウスケ、その野菜を知っているのか?」
「あ、いや……地球の野菜に似てたから………」
「そうなのか?」
草介が店先の籠や箱に並ぶ野菜を見て呟いたのを見て、ニールが聞いた。
店先には、丸くごつごつとした茶色いジャガイモのような野菜と、オレンジ色で細長いニンジンのような野菜、それに薄紫色で丸っこいタマネギのような野菜が山盛りになっていた。
すると、店主と話し終えたフローが店先に戻って話しかけてきた。
「その野菜は、右から『オミ芋』、『トラック』、『イゲンアナム』といってね。ここの店では、王国原産の野菜を多く取り扱っているんだ。」
「そうなのか………見た目は、俺の知る野菜によく似てるけど………」
フローの説明に草介が呟く。しばらくすると、店主が野菜が詰まった木箱を3つ持って来た。
「これだけあれば、1ヶ月は持つはずだよ。」
「ありがとうございます!」
店番をしていた女性が代金を受け取り、丁寧に頭を下げると、デュランと草介、ニールが箱を抱えこんだ。
「じゃあ、俺たちはこれ馬車に詰め込んでくるから。」
「了解であります!」
「じゃあ私たちは、肉類やキノコとかを見に行こうか。後で、街の中央広場で待ち合わせよう。」
草介やデュラン達を見送ると、アルスとシャスティはフローに案内されて着いて行った。
「街の南側にあるお店なら色々取り揃ってるから、だいたいの物は揃うはずだよ。」
フローがそう言いながら歩いていると、ふと、細い路地裏から何やら言い争うような声が聞こえてきた。
「……やめてください! それ以上近づいたら――!」
「いいじゃねーかよ~」
「俺らと遊んでこ~ぜ~?」
路地の方を覗くと、奥の方でフードを被った魔法使い風の若い女性が、二人組のガラの悪い男たちに囲まれていた。嫌がる女性の腕を掴み男たちは下卑た笑みを浮かべていた。
「オネーチャン、なかなかいい顔してるし、ちょっとお茶するだけなら………」
「ちょっと君たち?そのくらいにしたらどうだい?」
男の1人が無理やり連れだそうとしたその時、背後から声がした。振り返ると、こちらをキッと睨むフローの姿があった。
「あん?何だおま、うぇ!?」
男は睨み返して追い返そうとしたが、その人物が『誰』なのか理解し、それと同時に腰に携えた剣に手を置いたのを見て、一気に顔を青くさせた。
「な!?フ、フローレント姫………!?」
「その手を放さないのであれば、私が
「い、いえ!結構です!!行くぞニット!!」
「ま、待てよアリップ!!」
ニットとアリップというらしい2人組は女性から手を放すと、一目散に逃げてしまった。フローはそれを見て嘆息すると、呆気に取られる女性に歩み寄った。
「大丈夫?怪我はない?」
「あ、ありがとうございます……」
女性は被っていたフードをめくって礼を言う。赤っぽい茶髪ストレートロングヘアの女性は、垂れ目気味の緑色の瞳でフローを見つめていた。
「まさか、フローレント王女殿下に助けていただけるなんて……」
「いいんだよ、偶然通りかかっただけだから。」
フローが笑いながら応える。女性も微笑んでいるのを見て、アルスがシャスティに話しかけた。
「フローさん、すごいでありますねー」
「姫様、前から兵隊さんに混じって街に出ては、ああやって人助けしてるだよ。」
「そうだったのでありますね。」
2人が話していると、どこかから声が聞こえてきた。
「おーい、シャーロットー!」
「あ、2人とも。」
呼ばれた女性、シャーロットはそれに気付いて振り返った。そこにはダークブラウンの短髪の筋肉質で背の高い男性と、薄い茶髪を耳にかかるくらいの長さにした、褐色肌の青年が立っていた。
「ようやく見つかったぜ……」
「シャーロット、またフラフラと……」
「あはは……ちょっとね……」
長身の青年の言葉に、シャーロットが笑って応えている。すると、ダークブラウンの男性がフローに気付いて話しかけてきた。
「これはこれは、王女殿下。お初にお目にかかります………」
「よしてくれよ、あまりかしこまれると、逆に困っちゃうよ………」
恭しくお辞儀をする男性に両手で制止しながらフローが苦笑する。シャーロットが改めて自己紹介をした。
「改めまして、私はシャーロットと申します。」
「僕はケント。こっちのデカいのはボウィーだ。」
「お見知りおきを。」
褐色の青年ケントと短髪の男性ボウィーもそれに続く。3人の服装を見たフローが問いかけた。
「その服装、君たちは冒険者かな?」
「ええ。私達は3人でチームを組んでいまして。今日は、この街のギルドに依頼達成の報告と報酬の受け取りに来たんです。」
シャーロットがそれに答えると、その後ろでアルスは不思議そうに小首を傾げていた。
「冒険者?」
「ああ、魔法使いや戦士、剣士なんかが、兵隊さんたちの手が回らん仕事請け負ったりする人たちだよ。好きに色んなトコ冒険したり、傭兵や用心棒とかしたりするんだべよ。」
「ほほう。」
シャスティが簡単に冒険者について説明をすると、アルスは納得したように頷いた。一方のフローは、シャーロットたちの話を聞いて、ある事に気が付いた。
「待てよ、冒険者か………」
「?」
顎に手を当てて考え事をするフローを見て、不思議そうな顔になるシャーロットたち。フローは何か思いついたのか、アルスに話しかけた。
「アルス、デュランさんたちに待ち合わせ場所の変更を伝えてくれるかな?」
「へ?」
†
「冒険者ギルド?」
数分後、連絡を受けたデュランたちがフローと合流すると、シャーロットたちに案内されて冒険者ギルドに向かっていた。
「ああ。冒険者の組合でね、冒険者の登録や、仕事の紹介なんかをしているんだ。」
「街には、大抵一つはギルドがあるだよ。」
フローとシャスティが歩きながら簡単にギルドについて説明をすると、草介はふーんと頷いた。フローは続けた。
「ギルドは世界各地のギルドと情報を共有している事もあるし、詰め所には色々な冒険者が出入りしている。」
「なるほど、それだけの人が行きかうのであれば、情報を集めやすいという事か。」
「そうか!」
フローの説明にニールが補足するように言うと、デュランと草介も納得したように手を叩いた。しばらく歩いていると、ボウィーが話しかけてきた。
「ほら、あれが王都の冒険者ギルドだ。」
ボウィーが指をさした先には、木造3階建ての建物が立っており、建てられた大きな看板には店名らしき文字が書かれていた。
「……なあ、あれって何て書いてあるんだ?」
「え?ああ……(そう言えば、こっちの世界の文字を教えてなかったな………)」
小さい声で聞いてくる草介にフローは一瞬理解ができなかったが、直ぐに草介達にこちらで一般的に使われている『オーヒン文字』を教えていなかった事に気が付いた。
自分たちの手際の悪さに呆れたものの、草介に教えてあげる事にした。
「あれは、『冒険者ギルド シルバー・ジョーンズ』と書いてある。この国でも一番大きなギルドだよ。」
「オラ、来たいとは思ってたけど、お師匠様にはまだ早えって言われてただよ………」
シャスティが少しワクワクした様子で言う。草介達はフローを先頭にギルドへと入って行った。
スイングドアを開けてギルドに入ると、木と石材でできた広いホールに大きな丸テーブルと椅子がいくつも並び、壁には掲示板や地図などが貼られ、飾り棚には銀色に光るトロフィーがいくつも飾られている。冒険者数名がテーブル席やカウンターで酒を片手に語り合ったり、剣の手入れをしていたり、壁の掲示板に貼られた依頼書を吟味していた。
「ほら、あの受付で冒険者登録できるよ。」
「ああ、ありがとう。」
フローはシャーロットに礼を言うと、カウンター横の受付に向かう。受付に向かう途中、冒険者たちが物珍しそうに横目で見ている事が少し気になったが、銀色の髪をツインテールにした受付嬢が座る受付に着いた。
「いらっしゃいませー、って!?フ、フローレント様!?こ!ほほほ本日はお日柄もよろしく!!」
「あ、あはは……ちょっと落ち着こうか?」
受付嬢はフローの姿を見ると、顔を真っ赤にして慌てて立ち上がるが、フローは苦笑いでなだめた。草介とデュランが呆れた顔になっていると、カウンターでグラスを拭いていた男性が声をかけてきた。
「おや、フローレント殿下。こんなむさくるしい所に何用で?」
「こんにちはマスター。いや、彼らと一緒に冒険者登録しようと思ってね。」
短く切りそろえた銀髪に口ひげを生やし、シャツの上からでも分かる鍛え抜かれた身体の壮年の男性が、笑顔で聞いてくる。フローの言葉からこのギルドのマスターと直ぐに分かった。
「そうでしたか……王はこの事は?」
「問題ないよ。前々から父上には話はしていたからね。」
「そうでしたか。ほらケティ、お前も仕事をしろ。」
「うぇ!あ、う、うんお父さ………いや、マスター!」
マスターはフローとの軽くやり取りを終えると、ケティというマスターの娘らしい受付嬢に向き直って言う。ケティは深呼吸をして落ち着かせた。
「あー、お見苦しい所をお見せしてすみません………姫様とお連れの方は、来るのは初めてですよね?改めまして、冒険者ギルドにようこそ。私は、受付嬢のケティと申します。」
「うん、よろしく。」
ケティは挨拶をすると、受付の後ろにある引き出しから、紙を数枚取り出して渡してきた。
「冒険者登録でしたね。そちらの人たちもご一緒でよろしかったでしょうか?」
「うん、今回一緒にするよ。」
「承知いたしました。それでは、こちらに必要事項を記入してください。」
フローは登録用紙をケティから受け取ると、カウンター横の記入スペースに移動してペンを手にした。
「ソウスケ達は、まだこっちの字の読み書きができないから、私の方で記入するよ。」
「ごめんな、フロー……」
「いいって。えーと、ソウスケの年齢は……」
「ああ、17だよ。」
今日は謝られてばかりだな、なんて考えながら、フローは記入を開始した。
「デュランは……」
「あれ、そう言えばデュラン達って何歳なんだ?」
「え、私は………」
「デュランは22歳、私は27歳、アルスは16歳で頼む。」
「分かった。」
デュランが答えるよりも先にニールが矢継ぎ早に告げた。デュランとアルスが少し戸惑った様子でニールに小声で話しかけた。
「ニールさん、どうして……?」
「ここでは、誰が聞いているのか分からない。
「そ、それもそうでありますね………」
「「?」」
コソコソ話すGPの3人に草介とシャスティは揃って小首を傾げた。その間にフローは記入を終えた登録用紙をケティに手渡した。
「どうぞ。記入に不備はないかな?」
「えーと……はい、これで問題はありません。冒険者登録タグの発行に少し時間がかかりますので、ギルド内でお待ちください。」
「分かった。ありがとう。」
ケティがそう言って受付奥に行くのを見送ると、草介たちはギルドの丸テーブルに着いた。
「さて、これで冒険者登録は出来たね。各地のギルドに出入りできるし、国境を超える際も少しの手続きだけで済むはずだ。」
「意外と便利なんだなー」
「ギルドへの依頼の中には、他国から来る物もあるしね。」
椅子に腰かけた草介に、フローが説明をした。すると、隣のテーブルに座ったシャーロットたちが話しかけてきた。
「手続き、お疲れ様でした。」
「あ、シャーロットさんたち。」
「改めまして、先ほどはありがとうございました。何かお礼をしたいのですが………」
「いや、良いって………」
礼を言うシャーロットに対してフローが苦笑いをしながら答える。そこに、ケントが提案をしてきた。
「それなら、皆さんに飲み物を1杯奢らせてください。」
「え、それくらいならいいけれど………」
「俺たちもいいのか?」
「まあ、流石に姫様にだけってのも、気が引けるしね………」
ケントが笑いながらそう言うので、お言葉に甘える事にした。それぞれ紅茶や果実のジュースを注文し、テーブルに置いた。
「ところで、そちらのお連れの方はもしや、先日召喚されたという『勇者様』、ではないですか?」
「え?」
「うん、まあ、そうなるかなー………」
ボウィーからの突然の質問に、草介とデュランは少し戸惑いつつも答えた。
「ああ、やっぱりそうだったのか!!」
「ギルドや街で噂になっていましたからね。」
ボウィーとシャーロットが興奮しながら草介を見る。草介やデュランは苦笑いしながらジュースをすすっている。そんな2人に気を使ってか、紅茶に砂糖を入れながら見ていたニールが口を開いた。
「あー………ところで、君たちは依頼を終えたそうだな?もし良かったらでいいのだが、新米冒険者として後学のためにどのような任務であったか聞きたいのだが……」
「え、ああ、構いませんけど……」
ニールの申し出にボウィー、ケント、シャーロットは何故だか少しうんざりした顔になった。どうしたのかとアルスやシャスティが聞こうとした時に、シャーロットが話し始めた。
「私達、去年冒険者になってチームを組んだのですが、隣国の『サンルスター魔法国』の国境沿いにある『ホパク』という街がミノタウロスの群れに占領されたので討伐をしてほしいという依頼を受けて、向かったんです。」
「魔王軍の侵攻に触発されて、世界各地で魔物や魔族の動きが活発になってるって話だ。そいつらもその類ってわけだ。」
シャーロットの話にケントが付け加えた。なるほどと草介がコップに口を付けながら頷いた。
「移動にはそんな時間はかからなかったから、後はミノタウロスの群れを討伐するだけ、と思っていたんだが………」
「我々がホパクに到着した頃には、ミノタウロスは1匹も見当たらなくてな。」
「何?」
ボウィーが続けて言った言葉に、思わずデュランが聞き返した。シャーロットやケントも困惑した様子で話し始めた。
「戻って来たという街の人に聞いたら、依頼を送ったその日の夜に流れ着いてきたという若い3人組が、ものの30分足らずでミノタウロスの群れをなぎ倒してしまったそうで………その時は依頼を受けた冒険者と思ったそうなんですが、聞いたら違ったらしく………」
「で、ボコられたミノタウロスらはそいつらのいう事聞いて街の修復と清掃してから山に帰ったってよ。あいつら、強い奴に従う習性あるらしいしな。」
「まあ、何にせよ俺たちはとんだ無駄骨だったという訳だ。来てもらったのに悪いからと、移動にかかった経費や食費は報酬代わりに貰ったがな。」
シャーロット、ケント、ボウィーがため息交じりに言う。草介はそういう事もあるのかと聞いていると、ふと気になってシャスティが疑問を口にした。
「にしても、ミノタウロスの群れさ倒すだなんて、その3人って何者なんだべ?」
「ああ、その事ね………」
シャスティの呟きに、ケントが答えた。
「街の人から聞いた話だと、3人とも見た事のない服を着ていて、その内の1人は『カタナ』って呼んでる片刃の長剣を持っていたって話だよ。」
「カタナ……刀?」
その話を聞いた瞬間、デュラン、ニール、アルスの3人が弾かれたように立ち上がった。
「それは、本当か!?」
「え!?あ、はい………」
「その討伐依頼はいつ頃されたか、分かるか?」
「たしか、5日前だったかな?」
「他の2人については、何か聞いていないでありますか!?」
「あー、確か、棒と斧をそれぞれ持っていたとか何とか………」
デュランたちからの鋭い目つきでの質問にシャーロットら3人は気おされながらも答える。あまりの気迫に、草介は流石に止めるべきと判断した。
「お、おいデュラン!どうしたんだよ?」
「あ、ああ……すまない………」
「その3人が、どうかしたのか?」
フローが少し困惑したように聞くと、デュラン達はハッとしたように少し間を置いて椅子に座り直すと、ニールが口を開いた。
「……恐らくだが、その3人は私たちの仲間だ。」
「………え?」
ニールが告げた事実に、その場に静寂が訪れた。ちょうどその時、ケティが草介たちの元に歩いてきた。
「フロー様たちー、登録が完了しました。こちら、冒険者の証明タグになりま―――」
「「「えええーーー!?」」」
「うえ!?な、何!?」
話しかけようとした瞬間、草介達が叫び声を上げる。ケティは突然の大声に驚き、ビクッと体を震わせた。
†
「―――では、話を整理しよう。」
シャーロット達と別れ、ケティからタグを受け取りギルドの一角に座ったデュラン達は、受付で購入したシンナセンの世界地図をテーブルに広げたニールが話を始めた。
シンナセンは大小5つの大陸に分かれており、地図の中央にある『センオウ大陸』の北側にロコロ王国、その南側にサンルスター魔法はあった。
「今、私たちがいる王都ロシロがここ。」
ニールが、地図上のロコロ王国の中央辺りにあるロシロを右手の人差し指で指さした。
「そして、サンルスターのホパクという街が、ここだ。」
その人差し指をすーっと下にずらし、ロコロ王国の南側、サンルスター魔法の国境沿いにある街・ホパクを指し示した。
「シャーロット達の話によれば、3人はミノタウロス達を山に帰した後、落とし物と尋ね人を探すと言って街を出たそうだ。ロコロ王国の方向でもあるから、私達の位置を大体把握はしているのだろう。」
「私と同様、デュランの位置を把握出来ても通信が出来ないのだろう。それで大体の位置を把握しているから、ジップレートを探しながら、合流を目指していると推測できるな。」
デュランとニールが話すと、納得したように草介も頷く。
「アイツらの位置情報は、向こうのGPデバイスの機能障害のせいか掴むことが出来なかった。何処かで冒険者登録していたら良かったのだが……」
「先ずは、例のホパクに向かう事にしよう。もしかしたら、向かう途中で出会うことが出来るかもしれない。」
「そうだな。」
「決まりだな。屋敷に荷物を置いたら、出発の準備をしよう。」
ニールがそう言うと、全員が立ち上がった。
「私とシャスティは、一度城に戻ってこの事を父上に伝えてくる。後で屋敷で合流しよう。」
「分かった。」
草介達はフローとシャスティと別れると、馬車を停めた停留所に向かって行った。
†
数時間後、準備を整えた一同は、ブレイベース内の格納庫でデュランカーに食料等の荷物を詰め込んだ。
「デュランカーで行くのか?」
「ああ、足は速いし、目立った方がレピオ達に見つけてもらいやすいだろうしね。」
「確かに。」
「留守の間の屋敷の管理は、手配してあるから安心してくれ。」
後部座席に無理やりニール、フロー、アルス、シャスティが乗り込み、草介が助手席に乗ると、デュランはGPデバイスをインパネの中央にあるホルダーにセットした。
[GPデバイス、承認しました。デュランカーへようこそ、ブレイバー・デュラン。]
「流石に、この人数だと少し窮屈だな………」
「道中休憩をはさむようにするから、少しガマンしていてくれ………」
後部座席で少し狭そうにするフローに、デュランが苦笑しながら言う。デュランがデバイスを操作すると、デュランカーを乗せたリフトが上昇して、発進位置に移動を開始した。
屋敷の外では、庭の一部がスライドして開くと地下に通じるスロープが露見、そこからデュランカーが飛び出して走り出した。
(早いところ、私のマシンメイルを回収する必要があるな………)
デュランカーに揺られながら、ニールはそう考えていた。
【つづく】
ちなみに、ボウィー、ケント、シャーロットの名前の頭2文字を合わせると、ボウケンシャ=冒険者になります。