また例によって一人称や口調等は想像によって書いておりますが、どうかよろしくお願いします。
荒涼とした宵闇の荒野を、宙に輝く幾千の星の光を頼りに進む一つの人影と小さな影があった。より正確に言うならば、一人の少年と一匹の子竜が、星の光を頼りに荒野を進んでいたのである。
その一人と一匹がしばらく歩いていると、鎧で武装した数名の兵士が見張りをしている大きなテントがあった。
そこを見つけるやいなや、少年は子竜を手で手繰り寄せて、兵士達にバレないように岩陰に隠れた。
「確かここら辺に星辰の力を狙う奴らがいるって聞いたけど…あそこかな?」
少年は、テントと兵士達の方を見つめながら自分の頭上で飛ぶ子竜に尋ねる。
『うん、あそこのやえい?にいる奴ら、ファイメナの言ってた奴らに特徴が似てるし、何より教えてもらった場所がここなんだから間違いないよ!』
すると子竜はコクコクと頷いたり、口を開けて鳴き声をあげるだけだったが、少年には何を言っているか聞こえるようだった。
「よし…とりあえずここで間違いはなさそうだし、行くか」
少年は子竜にそう告げると、手にした槍を構えて岩陰から出る。
『ルキアス、もう行くんだね。いっしょに頑張ろう!』
子竜が鳴き声をあげて少年の肩に乗ると、少年はテントに向かって突撃するように走り出した。
「あれは…ガキ一人がこっちに向かってきてやがる? 」
「小さいけど竜を連れてやがるな、もしかしたらお頭の言ってた星辰の奴かもしれねぇ…
だとしたらガキと侮るのは危険だ、構えるぞ!」
見張りの兵士達がその事に気づき、盾を構えて侵入を拒もうとするが、少年は止まる事なく足を踏み込んで突撃する。
少年が携えた二つに分かれた槍の鋒が構えられた盾に突き刺さり、その衝撃で兵士達は体勢を崩してしまう。
その事を確認した少年は、少し後退り体勢を整えてから槍を手首で振り回して、鋒に刺さった盾を強引に外す。
「なんだよコイツ…化け物じゃねぇか…!
うわぁぁーっ!!」
その光景を見た兵士の一人は恐れ慄いて、立ち上がると叫びながら一目散に逃げてしまった。
「化け物ねぇ…まぁ、言われ慣れてるけどさ…」
少年が逃げる兵士を見つめながら呟いていると、テントの中にいた兵士達が増援として駆けつけていた事に気づいた。
どうやら逃げる方に気を取られて、もう一人が応援に呼んだ事を見落としてしまったようだ。
『うわっ!囲まれてるっ!どうするのルキアスっ!』
肩にのった子竜が心配するような鳴き声をあげると、少年は不敵に笑った。
「何言ってるんだよムルル、大丈夫に決まってるって。僕が強いのは…知ってるだろ?」
彼はムルルと呼んだ子竜の頭を撫でた後に槍を構え直し、周囲の兵士達に向かって叫ぶように名乗りを上げる。
「君達はさっき逃げた見張りと違って気骨がありそうだし、どうせなら戦う前に名乗ってあげるよ。僕の名前はルキアス…君達を倒す者の名前だ!」
その後間髪入れずに少年——ルキアスは手にした槍を振り回し、前方に密集した兵士達を掻き分けるように攻撃する。それによって何人かが体勢を崩してしまい、次々と倒れていく。
「確かにてめぇは強ぇな! けど、そんなデケェ槍を振り回したら…」
「俺たちにやられるくらいデケェ隙が生まれるよなぁ!」
その隙を狙うように、後ろに回っていた残りの兵士達が突撃してくるが…
ルキアスの身体は彼らの予想以上の速度で向き直っていた。
「隙が、なんだって?」
そこから身体の向きに少し遅れるように振り回された槍が、一人の兵士に直撃する。
その衝撃で吹っ飛ばされた兵士は隣の兵士に当たり、まるでドミノ倒しのように倒れていく。
「悪いけど、そんなに大きな声で喋って場所を示す方が隙だらけに思うなぁ」
ルキアスは余裕そうに呟きながら、まだこちらに向ってくる兵士達に向かっていく。そこからの彼は常人では考えられない膂力で跳ね回りながら、次々と兵士達を薙ぎ倒していった。
「ふぅ、ざっとこんなもんか…この中にお頭とやらはいなさそうだけど、わざわざ星辰の力を狙うくらいだし…逃げてはなさそうだよね」
その場にいた兵士達を全員倒したのを確認したルキアスは、気を引き締めるように視線をテントの方に向ける。
するとテントの中から、鎧を着込んだ老人が現れる。
「此奴らも情け無いわい…星辰の力を持っているとはいえ、こんな小僧にやられてしまうとはな…
だが、まぁよい…これで探す手間が省けた。後は我が喰らえば良いだけの事…」
彼は現れるや否や、周囲を見回して状況を確認して兵士達に落胆した様子を見せつつ、ルキアスを獲物を前にした蛇のような視線で見据えていた。
その視線を感じたルキアスは、鎧の老人に向かって冷静に話しかける。
「そういうあんたは…強いみたいだね。それに星辰の力を知っている上に狙っているって事は、少なくともただの人間じゃなさそうだ」
その言葉を聞いた彼は、まるで無邪気な子供のように笑った。
「くかかかか!!! ただの人間、ではないと来たか! 小僧、これまた愉快な事を言うのう!
星辰の力を持っているのに我の事を今のこの見た目で判断するとはな!!
笑わせてくれた礼じゃ、お主の事は真の姿で屠ってくれようぞ…!」
そう言うと、老人から黒い風が巻き起こり、その身体を包み込んでいく。
その風は次第に大きな畝りを伴って、竜の様な動きをしながらルキアスの方へと吹き荒んだ。
「ぐっ…うぉぉっ!?」
『ルキアスっ…! うわぁぁぁ!?』
避けようとしたルキアスだったが、あまりの速さに間に合わず風に巻き込まれてしまい、彼とムルルは吹き飛んでいってしまった。
「ぐはぁっ!!」
『うわぁっ!!』
そのまま木の葉のように宙を舞い、先程隠れていた岩に背中から叩きつけられる。
そこから彼は体勢を整えようとするが、ダメージが大きかったのか立ち上がることすらままならなかった。
それでも気絶せずにテントの方に目を向けると、まるで黒竜のような巨大な竜巻が吹き荒んでいた。
そしてその竜巻は収束していき、上層から本物の黒竜の頭が現れる。
「くかかかかか!! やはり人間というのは脆い生き物じゃ!!
我はただ本来の姿に戻っただけで小僧そのものには何もしておらんぞ? それなのに何故地面に倒れておるのだ?」
黒竜は鎧の老人の同じ笑い方でルキアスを嘲笑い、周囲に突風を巻き起こす。それにより野営のテントも、倒れた兵士達も紙屑のように吹き飛んでいった。
「…あんたが随分とでかいくしゃみをするもんだから、驚いただけだよ。
しかし随分と手荒だなぁ、あの人達もあんたを信じてついて来たんじゃないのか? それなのにこうも簡単に切り捨てるなんて、小物過ぎて星辰にはなれなさそうだね…」
ルキアスは槍を支えになんとか立ち上がりながら、黒竜に向かって軽口を叩く。
それはあくまで自分を鼓舞する為のものであり、野営の跡地にいる黒竜には聞こえるものではなかった。
「おお、立ち上がりよったわ! 流石星辰の力を持つ者よ…あれだけで倒れられたら我も興が冷めておったからのぉ!
ところで、何か言ったか? 遠くにおるし、この姿だと風が巻き起こって人の声など掻き消されてしまうからのぉ〜」
満身創痍のルキアスを見つけた黒竜は、邪悪な笑みを浮かべて煽るように嘲笑する。
「そっちは竜に戻ってから急に喋るようになったな…デカい図体してるとやっぱり人の事見下したくなるんだろうかねぇ。
その気持ちは…格好悪すぎて全然理解できないなぁ」
ルキアスは黒竜の言葉に呆れるように呟きながら、地面に倒れていたムルルを手に取って、抱き寄せるように持ち上げた。
「大丈夫か、ムルル…? 怪我してるかもしれない状況で悪いけど、あそこまでデカい相手にはお前の力が必要なんだ…」
少し不安そうに話かけるルキアスの問いかけに、ムルルは目を擦りながら彼にしか聞こえない声で返事をする。
『大丈夫…これくらい平気だよ…! それよりも僕の力を使って! あんな奴、ズタズタのボコボコにしてやろうよ!』
その言葉を聞いたルキアスは先程までの余裕がある表情を取り戻し、黒竜の方に向き直る。
「ありがとう…よし、それじゃあやってやろうか!
おい、そこの爺さん…望み通りの物を見せてやるよ」
そして彼が槍を天に掲げ、もう片方の手で光をなぞると、上空に様々な記号や文字が組み込まれた複雑な形状の光の紋章が現れる。
『目に物見せてやるからなー! 覚悟しろー!』
ムルルがルキアスと紋章の間に飛ぶと、その紋章が勢いよく落ちてきて一人と一匹を包むように光輝く。その眩き輝きは大きくなっていき…
巨大な角と爪、白亜の如き鱗を持つ、美しき竜へと変貌を遂げた。
「グァァァァーッ!!!」
白亜の竜は対峙する黒竜に対して雄叫びを上げ、威嚇する。その姿を見た黒竜は…先程迄の態度を一変させて、歓喜の声を上げた。
「おおぉ…!! それが本当の星辰の力かっ…!!! 我が永い年月探し求めていただけの事はあるわ…! 是非とも喰ろうて、我が力と血肉にしたいのぉ…!」
その声とともに複数の竜巻を白亜の竜へと放つが、それらは全て腕の一振りで掻き消されてしまった。
「は…? 馬鹿な…そんな一振りだけで我の竜巻を全て…?」
その光景に、黒竜の先程までの余裕は消え失せてしまって、呆気に取られていた。
すると白亜の竜は黒竜に話しかける。
「こんなものか…? それなら星辰の力を欲しがるのも頷けるな。だけど、天の星はお前のような欲望に塗れた奴の力にはならないだろうよ…
さて…これ以上醜態をこの世に晒すのも辛かろうし、最後にこの姿での名前でも冥土の土産に持っていってくれ。
我こそは星辰が一体、アルザリオン。我が爪は世界を乱す邪悪を裂く刃也…!」
黒竜の今の姿に呆れるかのように、それでいて彼を憐れむような態度の後で名を名乗った白亜の竜——アルザリオンは瞬く間に飛翔し、一瞬で黒竜の首を爪で引き裂いた。
「さらばだ、黒嵐の竜よ。どうかその魂を冥府で洗い流し…清らかな魂となって帰って来ることを願う…」
それから数刻程経ち、アルザリオンの姿から元の姿に戻ったルキアスとムルルは、兵士達を介抱して目が覚める前に野営の跡地を離れていた。
『やっぱりアルザリオンになったら一瞬だよね。これからはドラゴンだけじゃなくて、人が相手でもならない?』
ムルルがルキアスに今後の戦いの提案をすると、ルキアスは呆れたようにムルルを諭した。
「あのなぁ、人相手に使ったら手加減できなくてただの虐殺になるだろうが…駄目に決まってるだろ。
それにそんな事をしていたら星辰の力を狙う悪い奴ら以外にも嫌われて、里の皆から遊んで貰えなくなるし、お菓子も貰えなくなるぞ」
『えぇぇっ!!? それは絶対にやだっ! でも、融合してアルザリオンにならないと…僕ってルキアスの足を引っ張ってるんじゃ…』
ムルルが諭されて考えを改めると同時に、気を落としたように自分が足手纏いではないかとルキアスに問いかける。
すると彼は、笑いながらこう答えた。
「ははっ、そんな訳ないって。さっきだってファイメナさんが言ってた事を覚えてて教えてくれたじゃないか。それに仲間がいるってだけでも、自分一人だけで戦ってる訳じゃないのが分かるだけでも僕は安心なんだから…胸張れよ?」
その答えを聞いたムルルは表情が明るくなり、嬉しそうに宙を舞った。
『そうなのか…そうなんだ! ありがとうルキアス! そう言ってくれてうれしいよ!
これからもよろしくね!』
「なんだよ、急に改まって…けどまぁ、こちらこそよろしくな」
こうして一人と一匹は友情を確かめながら、荒野を星の明かりを頼りに進んで行くのだった。
前回のア=バオ・ア・クゥーちゃん達の話同様に短編が書きたくなったのと戦闘描写の練習も兼ねて書きましたが…なんだか淡白な描写にした方がスッキリして美しいかなとなってこんな事に…。
個人的には気に入っていますが、読み物としてはどういう風になっているでしょうか…
彼らも別の作品に出す時にこの作品の設定を反映させる可能性がありますので、その時はよろしくお願いします。