___世界の命運を賭けた、激しい戦いがあった。
『______いい加減気づいたらどうだ?桐生戦兎は、地球にとって存在すべき人間ではなかったということに!』
『____っ、黙れぇぇッ!!』
『____お前がすべての元凶なんだよ。お前がライダーシステムを創らなければ、仮面ライダーにならなければ、こんな悲劇は生まれなかったんだァ』
『___お前は、俺に創られた偽りのヒーローだったんだよォッ!!』
_____その男は、強大な悪の手によって顔と記憶を作り変えられ、全てが偽りの存在になった。
『今、どんな顔してるか分かるか………?
『___一度しか言わねェぞ。誰が何と言おうと……お前は俺たちのヒーローだ。だから……生きてくれ……ッ!!』
___だが男は、孤独では無かった。
『___エボルト!確かにお前が俺を仮面ライダーにしたのかもしれないッ!』
『でも、俺がこの力を正しい事に使ってこれたのは、掛け替えの無い仲間がいたからだッ!!』
『___みんなが、桐生戦兎を、仮面ライダービルドを創ってくれたんだッ!!』
___男には、何にも変えがたい仲間がいた。確かな絆があった。
___悪の遺伝子をその身に宿しながらも、熱い闘志で信じる者のために戦った者がいた。
___心の火を燃やし、最後まで仲間との絆を守るため戦った者がいた。
___悪党の名を掲げ、父の遺志と大義を胸に国を守るため戦った者がいた。
______忠義を掲げ、仇討ちの為自ら狂気に染まり、最後は望みを託した者がいた。
___愛と平和を胸に戦う彼らへ、祈りを捧げ続けた者たちがいた。
『愛と平和を胸に生きていける世界を創る!!その為に、この力を使うッ!!』
『破壊こそ力だァァッ!!お前の正義などォ………!俺が壊してやるゥゥッ!!』
『俺と万丈は……!最っ高の………ッ!コンビなんだよォッ!!』
『勝利の法則は、決まったッ!!』
___そして、決着が訪れる。
『これで最後だァァァッッ!!!ウァァァァァァッッッッ!!!』
『この俺が滅びるだとォォッッ!?そんな事があってたまるかァッッ!!人間共がァァァ__________ッッッッ!!!』
『___万丈ォォォォォォォッ!!!!!』
___男は、ただ一人の相棒の名を叫び、手を伸ばす。
___そして、伸ばした手の先に______
______風が走った。
◆
『私も新世界で、君に負けない発明を志すとしよう』
『サンキューッ!』
『戦兎くん……私に、家族を与えてくれてありがとう』
『俺はお前のおかげで、仮面ライダーを全うできた。……ありがとうな、戦兎』
『絶対に忘れないんだから……!桐生戦兎のことを、私は絶対に忘れない』
『なあ、俺の扉だけ開かねぇんだけど』
◆
野兎が跳ね飛び回る草原に、一人の男が倒れている。
まるで途方もなく長い眠りについているように、顔はどこか安らかな表情になっていた。
「ん………ん?」
重い目蓋をこじ開け、意識が覚醒する。
頬の辺りに柔らかい草のような感覚が走った。手で地面を軽く揉んでみると、草と少し湿った土の感触が手先に伝わる。そよ風とともに、緑の豊潤な香りが鼻腔をくすぐった。
「くっ………んぅっ………」
力を入れると体の節々が痛んだが、構わず起き上がり周囲の景色を見渡す。
どこまでも続く青い空に、綿飴のような白い雲。周りには青々とした木々が生え、爽やかな空気が心を梳かせるかのよう。そこまでは、彼も見慣れている光景。
しかしその中に唯一の、決定的な違いが存在していた。
「
顔を上げて四方を見回し、遠くを見据える。しかし、そこに日本を三つに隔て、赤い光を放って天高く聳え立っていたあの巨大な壁は存在しておらず、無限と思えるほど遠く、澄み切った空が続くだけだった。
目覚めた男、【
そのまま突っ立っていても何も無いし、何よりもまず、最優先で確認すべき事があった。
「本当に、ここが………スカイウォールが無くなった、【新世界】………」
戸惑いながらも周囲を見渡し、ポツリと呟く。
火星や幾つもの星を滅ぼし、自分たちの運命を狂わせ、多くの仲間を殺し、地球をその手にかけようとした、最低最悪の地球外生命体【エボルト】のいない新世界を
それが自分と、
そしてどうやらその願いは、届いたようである。
見渡すと、そこにあるのは賑やかな街並みと、それぞれの営みを送る人々。腕を組んで往来を歩く恋人たちや、楽しそうに語らう家族。無邪気に遊びまわる子供たち。
目の前に広がる、幾つもの光景。その全てに笑顔があり、誰もが幸せに生きていた。思わず泣きそうなほどに、そこには愛と平和が、満ちていた。
「父さんの夢見た世界が………実現したんだね………」
胸から溢れ出て来るような感動を溢すように、戦兎が呟く。
すると、その時。
『ああ__そうみたいだね』
頭の中から、
「ああ………これが父さんの、俺たちの臨んだ、世界だ……………」
戦兎はどこまでも嬉しそうに、溢れ出る感情を乗せてもう一人の自分、或いは本来の自分とでも言うべき、心の中の存在_____【
しかし、巧は感動もそこそこに、彼らしくあくまでも淡々と語った。
『だが、新世界の人間は、別の十年を送っていた事になる。………君が知っている彼らじゃない』
___新世界の創造。
それは全ての契機となった、運命の分岐点である十年前から世界を全てやり直すという事。
戦いの忌まわしい記憶はもちろん、戦兎とその仲間たちとの思い出すら。
何もかも、全てが消え去る。そのような出来事は
そしてその世界に、【桐生戦兎】という存在の軌跡は、どこにも無い。
桐生戦兎とは、かつての世界で葛城巧の記憶を消し、佐藤太郎という売れないバンドマンの顔を与えられた、エボルトの存在するかつての世界だからこそ生まれ出た存在なのだから。
何という皮肉。何という運命だろう。世界と人々を救った英雄は、今ここにこうして、確かに存在しているというのに。
誰も、彼の事を覚えてなど、いないのだから。
『本来なら、【桐生戦兎】は新世界に存在しない。こうして創造主として生き残っても………君を知る者は誰もいないだろう』
巧が語るその言葉に、思わず目を伏せる。
_________全てが、作り物だった。名前も、容姿も、記憶も。何もかも。
その作り物だった空っぽの器に、絆を結んだ仲間たちが『桐生戦兎』という中身を、溢れるほどに詰め込んでくれた。
そしてその事を覚えているのは、今この世界にはただ一人。仲間たちはきっと、かつての世界で得られなかった、人として当たり前の幸せを享受しているのだろう。
だが、桐生戦兎はそうでは無い。自分だけが違う世界に取り残された、そんな気がした。
『そろそろお別れだ』
戦兎の中の巧がそう切り出す。
世界をやり直す。それは即ち、戦兎の中にあった巧の意識も、あるべきところへ帰るという事。
この新世界で過ごした葛城巧の肉体、意識と一つになり、魂は還る。その記憶も無くなり、この新世界で過ごした記憶に変わっていく。
本来あるべき姿へと戻るだけ____ただそれだけなのだ。
『楽しかったよ………………』
その言葉を最後に。
桐生戦兎の中から、【葛城巧】という存在は消えていった。
「………」
『………』
……消えていった。
「…………」
『…………』
……消えて……
「…………………」
『…………………』
「『………………………???』」
【しかし なにもおこらなかった!】
「____じゃ、ないよっ!」
『……どういうことだ』
安堵に包まれていた胸中が、一気に混乱の真っ只中に突き落とされる。それまで立っていた地面が、急に崩れ去ったかのような感覚。
新世界の創造はそれ即ち、『二つの世界の存在の融合』。桐生戦兎という、特異点を除けばそれに、一切の例外はあり得ない。
にも拘らず、戦兎の意識の片隅にはいまだくっきりと、まるで白いシャツについた黒い模様のように、葛城巧の意識が残っていた。それはもう、当事者であるならはっきりとわかるくらい。
「新世界になれば、すべての存在は融合するんじゃなかったのか……?お前が俺の片割れみたいなものだからか?」
『___いや、二つの世界の融合は、同じ存在を一つにする。君の中にいる、今の僕の意識も、もう一つの世界に存在する『葛城巧』と融合するはず……』
歩きつつ、もう一人の自分と緊急会議を開く。
「……なぁーんだ!それじゃあただお前がスタートダッシュミスって、フライングしただけだろ?『そろそろお別れだ……楽しかったよ(キリッ』……ってさ!」
はッはッは!
『___それならそれでいい。だが僕は今、別の可能性を考えている。……さっきから歩いているが、この周辺。
「____ま、そうだよなぁ」
いつもの調子で茶化そうとした戦兎だったが、巧の言葉が理性にブレーキを掛ける。
新世界の創造は何も、全く新しい世界を生み出すというものではない。
あくまでも二つの世界を融合させて、『十年前にエボルトの事件が起こらなかった世界』にする。言うなれば書き換える行為にも近いものだ。
建てられているビルや公園、コンビニや街頭モニターの広告。果ては自動販売機の飲料など。
かつての世界から掠りもしないほど、それはかけ離れた外観や名前だった。
「通貨が違うのは良いとして……やたら建物が頑丈になってる。戦争も起きてなさそうなのに、不自然なくらいにな」
『ああ。……それに見たまえ、さっきから通りすがる人間の髪の色』
巧がそう指摘するように、今横切った女子高生の髪は黄金色に栗色に黒髪と、見事に全員ばらけていた。
それだけならギャルの組み合わせとしてあり得なくもなかったが、一分前には紫色、五分前にはピンク色の髪の
「今度は白色!?…一体どういう物理法則で成り立ってるんだ?」
『興味深いね。……前にも最上さんの一件があったんだ。君だって薄々気づいていただろう?』
別の世界の要素が強いと言われればそれまでだが、にしても元居た世界の要素が、少なすぎる。
十年前までは歴史をたどった世界同士なのだ。いくらスカイウォールによる分断があったとしても、不自然すぎる。
同じ自分の頭脳。戦兎も巧が言わんとしている考えは思いついていたのだ。真っ赤な車が通りすぎる中、戦兎は立ち止まり呟いた。
「ここは_____新世界じゃ、ないのかもしれない」
ようやく絞り出した臆病な一言は、鉛のように重かった。
何一つ見覚えのない景色、新世界をこの目で見ていないという焦り、仲間たちへの郷愁……数えきれない感情が、ぐちゃぐちゃのスパゲッティのように絡まりあっていく。
残酷なまでに澄み切った青い空が、今ばかりは恨めしく思えた。
景色だけを抜き出せば、何ら可笑しなものではない。町が炎に包まれているわけでもなく、ファンタジーのように森が広がるわけでもない。
ただただ、
絶望的な心地に包まれかけたその時。
対向車線の向こう側にあるファミレス____これもまた、知らない店の名前だった____の前で話す、二人組の声が聞こえた。
「____それじゃお兄ちゃん!学校が終わったら、ココで待ち合わせね!」
「分かったよ。始業式が終わったらすぐ行くからさ」
兄妹、だろうか。
青い髪の兄の方は高校生(背丈は戦兎と同じか少し低いくらい)で、赤い髪に白いリボンの妹は、中学生(こっちは兄より頭一つ分低い)くらい。仲睦まじそうな様子で、遠くで見ていても、家族の情が感じられた。
「(ラビットタンクみてえな組み合わせだな)」
初見の相手に割と失礼なことを思いながら、戦兎はその兄妹の様子をしばらく眺めていた。
「絶対だぞっ!絶対約束だぞ!お店がテロリストに占拠されてても、絶対だぞっ!」
「占拠されてちゃ飯食えねえだろ?いいから、気を付けていくんだぞ」
「っ!うんっ!!」
兄が
そこには戦兎が願ってやまなかった、愛と平和に包まれた家族の日常があった。
「……ま、悪くないかもな。よくよく考えりゃ、新世界だったとしても、俺を覚えてるやつはいないんだ。誰も知らない世界で一から
半ば言い訳じみた、それでもまんざらではない気分で、戦兎は笑みを零す。
あんななんて事のない当たり前の景色も、元の世界では困難なものだった。
「___絶対の絶対、約束だぞっ!!」
「ああ、絶対の絶対な」
不安だった気持ちが幾らか洗われた。そう思って、道を再び歩き始める。
「___【空間震】が起きても、絶対だぞっ!!」
「はいはい、わかったから」
____そのワードに、進んでいた足は止まった。
「……くうかんしん?」
これも当然、聞いたことがない単語。
しかしその言葉の響きに、戦兎は言い知れない違和感を覚えた。たったその六文字の中に、何か恐ろしいものが込められているという直感があった。
「……この世界のこと、調べてみるか」
戦兎はまず、町の地図を探すことにした。
◆
それから、二時間ほど後の事。
『………これで、ここが新世界でない事が確定したわけだ』
「……最っ悪だ」
戦兎は町の図書館で項垂れていた。
あの後は地図を頼りに図書館に行き、情報集めに勤しんでいたのだ。ビルドフォンで調べようとしたが、この世界の電波が受信できなかった。
入館までは身分証無しでも誤魔化せた幸運に感謝しつつ、この世界の歴史や政治、宇宙開発に関する情報を、本やパソコンで片っ端から集めていった。___今更ながら、言語形態は元の世界と同じだったのは最大の幸運だった。
そして集まった情報は、戦兎や巧の仮説を確信させるのには、あまりにも十分すぎた。
「幻さんや氷室首相、多治見首相に御堂首相……十年前の時点で政府の要人だった人たちの名前がない」
そのほか、火星有人探査計画『極プロジェクト』の他、宇宙飛行士だったマスター___
歴史についても、そういった宇宙開発の件を差し引いても、戦兎たちの世界と異なる点がかなり多い。
「そんでもって____これ」
何よりも重要な情報___この世界に於いて津波や地震よりも身近で、凶悪な災害。
【空間震】
発生条件や発生時期不明、被害規模予想不確定の爆発、振動現象、物体消失、etc……と言った、突発的広域災害の総称が、この空間震だと言う。
発生した爆心地、もとい震源地には巨大なクレーターが作られ、範囲内の建造物などは漏れなく全てが消滅。周辺もその爆発の影響により甚大な被害を齎らす、まさに災厄。
戦兎達の世界で起こった、スカイウォールの惨劇に勝るとも劣らない、理不尽極まりない災害である。むしろ断続的に発生する分、こちらの方がタチが悪いと言えるだろう。
「___今から30年前に発生した【ユーラシア大空災】で……ユーラシア大陸の半分が消失!?」
そして被害規模もまた、戦兎たちの世界の規模をはるかに上回るものだった。
まだ日本という一つの島国のみで被害が収まっていたスカイウォールの惨劇とは、ハッキリ言って比較にならないレベルだ。
ソ連、中国、モンゴル____諸外国の名前も、大体は同じだった____の一帯が消えた。一夜にして、まるで些細な事故のようにあっさりと。
「死傷者数は………っ、分かっている限り、一億、五千万人……」
世界総人口の0.01%。戦兎たちの世界の日本人の人口は、とっくに割っている。
おそらく判明していない犠牲者も数多いことだろう。
それから約半年にわたり、世界各地で小規模ながらも同じ現象が幾度となく発生。
場所、時間、状況。あらゆる一切を無視して、突然やってきてはあまりに大きな爪痕を残す。
日本ではこの近辺、東京から神奈川を焼け野原に変えた、【南関東大空災】が大きく知られ、この【天宮市】を中心として、空間震の対策となる地下シェルターの増設など、都市部の再開発が進められている。
___というのが、戦兎の集めた情報の概要である。
「____今でも散発的に起きてるって割には、街が綺麗すぎるよなぁ」
『ああ……
図書館を出て、再び街を歩く。
よくよく目を凝らすと、シェルターへの避難経路案内など、確かに災害が起きている地域であるという事には頷ける。
しかし、いたる所に目を向けても、復旧の工事現場はおろか、瓦礫の欠片一つすら見当たらない。人々は思い思いの暮らしを描き、街には活気がある。
「?まだ昼ぐらいなのに、学生が多いな」
『今日の日付は四月十日だ。大方始業式帰りだろう』
「あ。そっか」
文無し二人で一人散歩。
字面で起こせば愉快だが、そうもいかないのが実情である。
「
『ゾクゾクしてきたね』
「胸騒ぎ?」
『どちらかというと寒気かな。君とこのまま二人きりで、知らない世界だなんてさ』
「こっちの台詞だっつーの!」
と、心の中のもう一人の自分と言い合っていた、まさにその時。
_______ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ________!!
どこからともなく、街中に不快なサイレンが鳴り響いた。それは地震や津波のそれとも違う、戦兎の聴き慣れない音だった。
「なんだ………?」
思わず呆然となり、周囲を見渡す。サイレンの音に驚いてか、カラスが何羽も空に飛んで行った。
と、サイレンに続き、言葉を一拍ずつ区切るように、機械越しに音声が聞こえてきた。
『____これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します____』
「……………うっそぉん…」
周囲を見ると、街を行き交っていた人々が我先にと走り出し、シェルターへと向かっていった。さらには付近の建物が地面に収納され、SF映画の機動要塞さながらに巨大な鉄板によって封鎖されていく。
「おおぉーッ!テーマパークみてぇでテンション上がるゥ~ッ!……って、言ってる場合じゃねえみたいだな」
ゴゴゴゴゴ…!と動き出す街に後ろ髪を引かれつつも、戦兎は群衆に紛れてシェルターへ向かおうとした。怪人ならいざ知らず、自然災害の、しかも全く未知のものともなれば、いかな仮面ライダーでもどうしようもない。
進行方向を変え、おそらくはシェルターがあるであろう方向へ進まんとした、その瞬間。
「ん?」
戦兎の視界の端に、青い何かが映った。
それが戦兎の脚を止めた理由は二つ。一つはその何か___否、青い髪の少年の進行方向が、ほかの人たちとは真反対の方向で会った事。
もう一つは。
「あいつ……さっきの」
その少年の背丈や恰好、顔が、先ほどファミレスの前で妹と話していた少年と同じだったからである。
戦兎は今しがた走り去った少年の後を追うと、その肩をたたいた。
「ちょいちょい少年。もうすぐ空間震てやつが来るのに、どこへ行こうとしてるんだ?」
「ッ!」
戦兎の存在に気付くと、その少年は怒るわけでも、戸惑うわけでもなく、ただ必死な、焦燥に駆られた表情で戦兎の肩をつかんだ。
「すみません!この近くで、赤い髪の女の子を見かけませんでしたかッ!?白いリボンの、ツインテールで……だいたい、このくらいの背丈の」
「いや……ここに来るまで見てない」
戦兎はその時少年の言っている女の子が、朝ファミレスで話していた妹らしき少女の事であると理解した。
「もしかしてだけど……朝、ファミレスの前で話してた子か?」
「っ、そうです!でも、どうしてそれを……」
「朝、通り掛けに君たちを見かけたんだ。それで、もしやと思って」
「俺の、妹なんです!携帯のGPSが、朝約束した場所のファミレスから動いてなくて……、もしかしたらって、思ったら……ッ!」
少年は傍目で見ただけでも分かるほどに疲れ切っていた。ここに来るまで、恐らくはそう短くもない道のりを、一切休むことなく走り続けて来たであろうことが容易に推察できた。
「……こんなに警報が鳴ってるんだ。携帯をそこで落として、もう避難してるかもしれないだろう?」
「そうかも、しれない。だけど、そうじゃなかったら……っ!」
「……」
戦兎は少年の目を見ていた。
彼の目には疲労の中でも色褪せないほどの、強い意志が込められていた。汗を拭いながら前を向き、再び走り出さんとするその姿には、確かに家族を思う『愛』があった。
『____付き合うつもりかい?………なんて、聞くだけ君には無駄なんだろうな』
「……分かってんじゃないの」
それだけで、戦兎が行動するには十分な理由だった。
「君、名前は?」
「え?………士道。
____なんとなく、ああ、ぴったりな名前だ。と思った。
「よし、五河少年。お前には感心した」
戦兎は一言言うと、おもむろに右のポケットから携帯を取り出した。ただのスマホと呼ぶにはあまりにも分厚い
そして左のポケットからは、黄色い小さなボトル___【ライオンフルボトル】を取り出し、ビルドフォンの側面についた丸いスロットに差し込む。
機械音声が流れ、戦兎がビルドフォンをひょいと宙へ放るとあら不思議。
手のひらサイズのスマホが見る見るうちに巨大化し、あっという間に立派なバイク___【マシンビルダー】に早変わりしたではありませんか。
「は………はぁッ!?!?」
「どーよ!俺の、発・明・品!すっごいでしょ!?最っ高でしょ!?天っ才でしょ!?」
目の前で巻き起こった、質量保存の法則にアッパーカットをかけるが如し現象に、少年五河士道は生誕以来最大の困惑に包まれた。自分は幻でも見せられているのだろうかと、眼前に出現した赤いバイクを目をこすりながら二度見する。
素直に驚いてくれている純朴な五河少年の反応にほくほくすると、戦兎はバイクのパネルを操作して、二人分のヘルメットを実体化させ、片方を五河に投げ渡した。
「俺も探すの手伝うよ。ほれっ」
「わ、うおっ!?」
「走るよりもこっちの方が合理的だ。さっ、早く後ろに乗りなさいって!お金とか取ったりしないからさ」
素早くバイクに跨るや、後部のシートを叩いて催促する。
「いや、でも……いいんですか?」
「良いから、早くしなさいよ!空間震てのが来る前に!」
「わ、分かりました!ありがとうございます!」
戦兎に言われるがまま、五河はヘルメットを被り、困惑しながらもシートの後ろに着く。先の出来事がまだ信じ切れてなかったのか、乗るときにシートをペタペタ触っていた。
「しっかり掴まってろよっ!」
バイクのハンドルを握りしめ、エンジンを噴かして走り出した。
走ってから少し経ち、戦兎の後ろの五河少年が、おずおずと話しかけた。
「あの……どうして付き合ってくれたんです?空間震に出くわしたら、死ぬかもしれないのに……」
「生身で危険地帯へ向かった君が言う事かよ?……人助けに理由なんかいらない。あるとしたら………
「ラブアンド、ピース……」
「そっ。他に理由なんてないでしょーが」
記憶と五河のGPS情報を頼りに運転しながら、戦兎はくしゃっとした笑みを浮かべてそう答える。
五河は戦兎の言葉の真意を測りかねつつも、少し安堵したように問いかけた。
「……そういえば俺、あなたの名前を訊いてないです」
「ん、俺の名前か」
その言葉に、戦兎は迷いなく、自信たっぷりに胸を張ってこう答えるのだった。
「____俺は戦兎。
お久しぶり大根。
数年ぶりに自分の作品読み返したら酷すぎて切り刻みたくなったので、今の考えで書き直してみようと思います。あと単純に小説書くリハビリも。
勢いで書いたから続くか続かないかわかりませぬ。人の考えなんて山の天気と同じくらい変わるもんなので、まあまあまあ。