仮面ライダービルドで、天っ才物理学者の桐生戦兎は、全ての元凶であり、地球殲滅を目論む地球外生命体【エボルト】との戦いを繰り広げ、熾烈な戦いの末に、全てを救済する【新世界】を創造した_____かに思えた」
巧「しかし、戦いを終えた桐生戦兎(僕)の目覚めた場所は、【空間震】と呼ばれる未知の災害に見舞われる、旧世界とも、新世界とも異なる、全く知らない異世界であった……これでいいのかい?全く君の趣味に合わせるのは疲れるよ」
戦兎「自分相手に愚痴ってんじゃないよ!今んとこ俺らしか登場してないんだからしょうがないでしょーが。さて、そんなこんなありましてぇ?愛と平和のスゥーパーヒィーロォー!こと桐生戦兎は、妹を探しているとお困りの少年、五河士道と出会う!」
巧「彼の妹を探しに行くところから、第二話の始まりだ。それでは、See You」
戦兎「そんな味気ない挨拶でせっかくの第二話を始めようとしないの!……こほん。それでは気を取り直しまして、どうなるでしょうか第二話!どうぞ!」
天宮市の上空____風の吹き荒れる青い空を、黒い影が放物線を描きながら飛んでいた。
その影は人の形をしていた。大中小と大きさは様々、ハチのように群れを成し、ジェットよりも素早く、コウモリよりも静かに、風をものともせずに飛んでいた。
「____こちら日下部一尉。まもなく目標地点に到着します」
先頭を行く、一際険しく凛々しい顔をした女性が、インカムに手を当て通信を掛ける。
彼女を先頭としたその集団の装いは奇妙であった。水着でもこうはならないだろうという前衛的な露出度をしたボディスーツに身を包み、その上に流線状の形をした鈍色のプロテクターを装着している。背中には真っ赤なラインの走ったジェットの翼と黒いコンテナを、片手には長い砲身のガンを携えて、彼女らは___その集団は女しかいなかった____飛んでいた。
ある者は恐怖を覆い隠そうと強張らせ、ある者は好戦的な気質のように笑みを浮かべ、またある者は強い決意に満ちた顔つきになりながら。
「……」
或いは【日下部一尉】と言っていた彼女のすぐ後ろにいた、白い髪の年若い少女のような、表情の読み取れない者も。
行き先を示す標識などない、しかしどこへ向かうかは決まり切っている空の通りを行く彼女ら全員の中で、口に出さぬも分かり切っている事実が一つあった。
____これから自分たちは、一かけらの安心も存在しない嵐の中へ飛び込んでいくのだと。
◆
「記憶とマップが正確なら____もうすぐのはず」
異世界からの流れ者、桐生戦兎は五河士道を後ろに乗せながら、愛機マシンビルダーを走らせ、彼の妹の捜索へ急いでいた。
町は空虚に包まれていた。通る道に最早人の影はなく、バイクのでっかいエンジンの音だけが、今この場所に唯一存在する音だった。
「……琴里、無事でいてくれ……」
後ろの五河少年は、強い決意と、恐怖と、焦りが滲んだ声音でそう漏らした。戦兎をつかんでいる手は、バイクの振動とは違った震え方をしていた。
「…琴里って言うんだな。君の妹さん」
「え?………はい。
そう前置きして、五河は何かを堪え切れなくなったように、続けた。
「小生意気で、いつも飴ばっか舐めてて、ハイテンションで、意地っ張りで子供っぽい____でも、可愛い俺の妹なんだ。………見つけたら、デコピン乱舞の刑に処してやる」
「……ふっ」
そう語る彼の口調には、ぶっきらぼうながらも、愛が籠っていた。その美しき兄妹愛を聞きながら、心からの笑みを隠して戦兎は一言。
「君ってシスコン?」
「はぁッ!?ちげぇーし!ししシ、シスコンじゃねぇーし!あっ違う、じゃねーですし!」
「ちょちょちょッ揺らすなって!横転する!………ん?」
ひと悶着ありながら運転していた、その時。
戦兎の視界の端___上空に、黒い影が浮かんだ。思わずバイクを止め、上を見る。
「なんだ……?」
「どうしたんですか、桐生さ……」
と、五河が尋ねた瞬間。
「うわ______ッ!?」
戦兎たちの目の前を、つんざくようなまばゆい閃光が包んだ。
青、ライム、透明なグリーン、レモン、小豆色、オリーブ、黒______無限とも思える程の色彩が全身に降り注ぎ、二人の周りの空間をぐらぐらと歪ませていく。
次いで激しいうねりのような轟音と、プレス機に押されたかのような衝撃波が、全身を襲う。
「っ、あぶ、ないッ!」
戦兎は急いでポケットをまさぐり、記憶をたどった手触りから、
次の瞬間、マシンビルダーを変形解除する間もなく、二人ともバランスを崩して吹き飛ばされた。
「く、うあっ___!?」
五河は体に来る衝撃と、前方から飛んでくるバイクを覚悟し、恐怖に目を閉じた。
しかし。
______ふわっ。
「ん、え、あれ?」
五河の体を襲ったのは固いコンクリートの地面でも、真っ赤なバイクのボディでもなく、何かこう__ふわっ、とした柔らかい感覚であった。ウサギの毛皮のように柔らかいそれの後、五河の体は傷一つなく地面へ横たわり、飛んできたバイクは跳ね返るようにして、二人の手前の地面へ落下。衝撃によって元の小さいスマホと、ライオンフルボトルに戻った。
「ふぅ~危機一髪。立てるか?五河」
「へ?あ、は、はい……」
五河は首をかしげながらも、戦兎の差し出した手を取った。
この奇妙な現象についてこれ以上考えなかったのは、それよりも大きく衝撃的な光景が目の前に広がっていたためであった。
いや____
「____は?」
「____これは」
五河だけでなく戦兎もまた、動揺を隠しきれずにいた。
起き上がったときには、二人の視界にあった街並みは、ただの瓦礫の山と化していたのだから。
まるでその一角が巨人のスプーンで抉られたように、路上はすり鉢状の荒地に変わり果てている。形を保っていた町は跡形もなく、塵が虚しく風に吹かれている。
「なん、だよ……これは……ッ!」
「……まさか、これが」
『____例の【空間震】だな。それが最も高い可能性だろう。或いは_____』
戦兎にとって、その眼前の惨状はかつての世界で起こった災厄_____地球外生命体エボルトのブラックホールによる破壊を、想起させるものであった。脳裏に焼き付いた惨劇がフィルムのように蘇り、表情が硬くなる。
恐れを抱きながら一歩ずつ、少しずつ足を踏み出す。
明らかになる目の前の視界の中に、何やら金色に光る金属の塊のような物が、聳えていた。
「なんだ………?」
「あれは……椅子?いや、玉座、か?でも、何で…………」
遠目からでは細かい形状を見取る事を出来なかったが、中世の王宮やロールプレイングゲームなんかでありそうな玉座らしきフォルムの物が、爆心地の中心に鎮座している。
それだけでも十分異様なのだが、重要なのはそこではない。
「________」
その玉座の肘掛に、足を描けるようにして、奇妙なドレスを身に纏った一人の少女が、立っていたのである。
五河と戦兎は、眼前に広がる光景をにわかに信じる事が出来なかった。
「あの子___何であんなところに」
『あんな爆発の後で、人間が無事で居られるはずが無い。まさか____』
その奇妙な少女は、格好もこれまた奇妙だった。
長い黒髪に不思議な輝きを放つドレス。どう考えても現代社会ではあまりお目にかかれない格好だ。コスプレと言った方がまだ説得力のある衣装である。
「……地球外生命体、ってか?」
戦兎が巧に返した返事を、五河は独り言か、あるいは五河に向けた言葉と取ったようだった。
「へ……?」
「ん?ああいや………でも、そんくらいしか考えられねえよな。俺たちがさっきの光を浴びて、集団幻覚にかかってる____とかでもない限りは」
すると、少女が気怠げに首を回し、ふと二人の方に顔を向けた。
「____ん………?」
二人に気付いたと見るべきだろうか。
だが二人がその判断を下すより前に、少女はゆらりとした動作で、玉座の背もたれに生えた柄のようなものを握り、それをゆっくりと引き抜いた。
「……剣?」
それは幅広の刃を持つ、巨大な一振りの剣だった。
虹や星のような輝きを持つ、うっすらと透き通った美しい刃。ガラス細工か、宝石か、或いは万華鏡のように、それを見た者の心までも奪いそうなほど、それは見事な代物であった。
少女が剣を振りかぶると、刃の軌跡を追うようにして空間が煌めきだした。
そして___
「っ、危ないッ!!」
いち早く察知した戦兎は五河を庇うようにして、咄嗟に身体を下げる。
その今まで二人の頭があった位置を、刃の軌跡が通り抜けて行く。
すると次の瞬間には、士道と戦兎のいた場所には、真っ直ぐと刃の軌跡が刻まれ、その後方にあった家屋や店舗、街路樹などが一瞬にして真っ二つに切れたのである。
「____な」
「………………マジかよ」
溶けかけのバターの如く容易く切られた建物が、一拍遅れて遠雷のような音を響かせ崩落していく。いっそ芸術のように、寸分の遅れもなく全ての物が同時に両断されていた。
「じょ、冗談だろ……………っ!」
五河は腰が抜けて引きずるように後ろへ下がっていたが、無理もない。かつての世界で幾多もの戦いを潜り抜けた戦兎ですら、目の前の光景に圧巻されているのだから。
戸惑いながらも、懐の
「______おまえらも……か」
「……っ!?」
あまりにもひどく疲れきったような声が、戦兎の後ろから響いた。
一瞬遅れて思考と視覚が追いつくと、戦兎と五河の間に挟まるようにして、クレーターの中心点にいた剣の少女が立っていた。
「あ____」
意図せず、五河の口から声が漏れる。
そして戦兎もまた、その少女に目を奪われた。
見た目の年の頃は五河や、かつての仲間___
水晶のように透き通る双眸に、膝まで伸びる、絹のように滑らかな長い黒髪。凛々しさと愛らしさを兼ね備えた貌。
その装いもまた奇妙。布とも金属ともつかない素材で作られたドレスを身に纏い、継ぎ目やインナー、スカートはそもそも物質ですらない光の膜によって形作られていた。
だが、彼らが目を奪われた理由は、そこではなかった。
「_____!」
____暴力的だ。
戦兎が心中で、そう呟く。
そう思わずにはいられないほど____その少女は、あまりにも美しかったのである。
これほどの絶世の美少女を、今まで、他に見たことがあるだろうか。
「君の、名前は…………」
呆然とした様子で、五河が呟く。
少女がゆったりと視線を下した。
「……名、か」
妖精が実在するとしたら、こんな声だろう___まるでハープの調べのような心地いい声音が発される。
しかし。
「____そんなものは、ない」
少女はただ一言、そう答えた。
「_____っ」
悲しみと虚しさと諦めが入り混じった、ひどくあっさりとした言葉だった。
チャリ、という音を鳴らして剣を握り直す。次に出てきた言葉もまた、あっさりとしていた。
「おまえらも_____私を、
「……っ、なんだよ、それ___」
それが当たり前の事のように、少女は呟いた。
五河にはその顔がどこか、ひどく憂鬱で______今にも泣き出してしまいそうな表情に見えた。
「………」
『何故、ドライバーから手を放す?』
「___敵じゃない」
『何?』
「こいつは敵じゃない____多分、怖がってるだけだ」
戦兎は目の前の少女から、どうしても悪意を感じられなかった。
目の前の少女から発されるオーラは、あまりにも強大。かつて対峙した地球外生命体___エボルトほどではないが、どう考えても人間の枠に収まるものではない。
しかし、彼女のその表情、言葉の心もとなさは、さながら生まれたての幼児___母親を探す迷子の子供のようだった。
それ故の、純粋な警戒心。平和を害そうとして発される物には見えない。
「……ん?」
様子を見ていたその時。
視界の端、戦兎の上空に、何か複数の影が見えた。
数は十くらいだろうか。しかし鳥にしては大きく、飛行機や戦闘機にしてはやけに小さい。
そう。まるで、人くらいの大きさの_______
「____って、人だってっ!?」
その正体に気付くや、無数の人影は手にしていた武器を構え、幾多ものミサイルを放ってきた。
「う、うぉわぁぁぁぁぁぁ______!?」
「うぉぉっすげぇ!あれどうやって飛んでんだ!?見たところ推進器とかがついてるわけでもなさそうだし、一体どうやって____」
「な、何言ってんですか!」
「むぐっ!?」
五河に抑えられる形で、下へと屈む。筋金入りの科学者は、自分の未知のテクノロジーの為に命を落としかけた。
だが、いくら待っていても、ミサイルや弾丸が飛んでくる気配は無い。
「え………?」
五河が、呆然と声を漏らす。
二人の視線の先には、なんと空から放たれたミサイルや弾丸が、少女の上空数メートルあたりで、まるで見えない手か何かに掴まれたかのように、ピタリと静止していたのだ。
「……こんな物は無駄だと、何故学習しない」
少女が気怠げに息を吐きながら、剣を握っていない方の手を上にやり、グッと握りこむ。
すると何発ものミサイルが圧縮され、まるでひしゃげた空き缶のように潰れ、その場で爆発した。
その上爆発の規模も恐ろしい程小さい。爆発の威力が、内側に引っ張られているかのようだ。空を舞っていた人間達が狼狽しているのも分かる。
「重力……というか、ベクトルを操作しているのか……?」
『____凄まじい力だ』
目の前で起こった現象を、戦兎が冷静に分析する。だが依然として、頭の中は混乱したままだった。
しかし一つだけ分かるのは、目の前にいる少女が、上空を飛んでいる人間達よりも強大な力を有している、という事だ。
「……消えろ、消えろ。一切、合切……消えてしまえ………ッ!!」
振り絞るように、
「…………っ、うわ………ッ!」
「ぐっ……………!!」
凄まじいまでの衝撃波が、戦兎と五河の身体を襲う。剣から放たれた太刀筋の延長線上の空に斬撃が飛んでいき、上空を飛行していた人間達は慌ててそれを回避し、その場を離脱していった。
だが次の瞬間、別の方向から少女目掛けて凄まじい出力の光線が放たれた。
「……ッ!」
思わず目を覆ってしまう程の光。
しかしその光線も、やはり少女の上空で見えない壁に阻まれたかのように掻き消された。
そしてその光線に続くように、五河達の後方に何者かが舞い降りた。
「な、何なんだよ次から次へと……ッ!」
五河がうんざりしたような声を上げる。
そして舞い降りて来た人間に、戦兎は困惑した。
機械を着ている、とでも形容しようか。全身を奇妙なボディスーツで覆い、背には大きなスラスター、手にはゴルフバックのような形状の武器を手にした______白髪の
「何で……あんな、女の子が」
『子供を、戦わせているというのか__?』
受け入れ難かった。
その身に纏われていた武装の、未知のテクノロジーに興味は惹かれたが、それ以上に_____ あんな少女が、武器を持って戦っているという事実が、戦兎達の心に深く突き刺さった。
「______
ふと、後ろにいた五河がそう呟く。すると、舞い降りて来た少女が反応した、
「五河士道………?それに、その人は___?」
そして返答するように、五河の方を一瞥して名を呼ぶ。
ぴくりとも表情を動かしていないが、その声音にはどこか怪訝そうな物が混じっているように思えた。
「知り合いなのか?」
「く、クラスメイトです。つっても、今日会ったばかりですけど___ていうか何だよ、その恰好……?」
士道が呆然としながら、鳶一折紙と呼んだ少女に話しかける。
だが、折紙はすぐに士道から目を外し、ドレスの少女に向き直った。
それもそうだろう。何しろ少女が先ほどと同じように、手にした剣を折紙に向けて振り抜いていたのだから。
「____ふん」
「____ッ!」
折紙もすぐさま手にした武器の先端から、レーザーブレードを出現させ視線を交錯させた。
一気に二人の間合いが縮まり、嵐のような剣戟が交わされる。普通の人間の動きを遥かに超越したスピードで交わされる攻撃といなし合いの応酬は、完全に二人を蚊帳の外へと追いやった。
「くっそ、どうなってんだよ今日は___!」
「超人日和ってところじゃないか?」
自分もその一人である、とは口に出さず、戦兎は五河をいつでも庇える姿勢につく。
「___五河、俺が合図をしたら、俺のバイクに乗ってすぐに逃げるんだ」
「えっ?で、でも……!」
「あの謎の少女は___自分に降りかかる火の粉を払おうとしてるだけだ。さっき、バイクを自動操縦モードに切り替えた。お前ひとり逃げ出す分には、問題ないはず……推測にすぎないけどな」
戦兎は冷や汗を流しながら、五河にこっそりと告げる。
何もわかってない今の状況では、あの剣の少女に何かアクションを起こそうとしても危険なだけだ。かといってこのままここへ居続けるのも、同じく命の保証はない。
巻き込まれた一般人である五河一人だけでも、生かして逃がさなくちゃならない。
____二人が話していたその時。
白髪の少女、
『___鳶一一曹、今すぐにその場を離れなさい。命令よ』
「っ、何故?目の前に___」
『例の新兵器の試作品が来たと、通信が入ったわ___十五秒後に現場へ突入させるそうよ』
「!?」
『データを採取すると、上からよ。___良いわね』
「っ_____了解」
折紙は苦虫を噛み潰したような表情で、その命令を飲み込んだ。
「何を、ごちゃごちゃと!」
黒髪の少女の剣戟をいなし、距離が開いたその瞬間、ブースターを一気に加速させ、上空へと退避していった。
「士道____待ってて」
折紙の視線は、大地にしゃがみこんでいた五河士道の元へ向けられていた。
後ろ髪を掻き毟られるような後悔にさらされながら、折紙はその場を離れた。
「っ、お、おい!鳶一!」
「なんだ……?」
折紙が飛び去るのを、二人は困惑した様子で見ていた。
剣の少女は飛び去る姿を追うことはせず、少し見た後、やがて戦兎達の方へ振り向き、握りしめた剣を向けた。
「____次は、おまえらだな」
「っ……!」
いよいよ戦いは免れぬか、と思ったその時。
「____ぬ」
「ッ」
どこからともなく飛んできた複数の光弾が、少女めがけて降り注いだ。
少女は先ほどミサイルを止めたバリアで以ってそれを止めたが、僅かに体が押されていた。
「こ、今度は何だよ____」
「_____GgggggAaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」
獣と機械の入り混じったような咆哮が、壊れた街に轟く。
音の発生源に、三人が目を向けた。
「まさ、か_____」
______そんなはずは無い。だってあれは、この世界に存在しているはずがない。している道理がない。
が、そんな戦兎の考えを無慈悲に打ち砕くように、崩れたビルの上に、それは佇んでいた。
ティラノザウルスの大顎のような巨大な頭部をもち、胴体と腕は棘の生えた凶暴な鋭さをしている。脚は鳥の脚部のように細く、先端に戦車の大砲を思わせる、煙を吐いている砲口が付いた巨大な尻尾がうごめいていた。
それは、隣の少女よりも異常であり、そして、戦兎にとっては見慣れた、見慣れてしまったものであった。
「スマッシュ……っ!?」
スマッシュ。
かつて戦兎のいた世界で創り出された人工の怪物。
スカイウォールから採取された特殊なガス、【ネビュラガス】を人体に注入することで完成する存存在。
かつて戦兎は、その脅威から東都を、人々を守るため、戦っていた。…………その筈だった。
例えそれが黒幕の掌の上であったとしても、それでも信じた志を疑わず、戦って、何度も救ってきた。
『___馬鹿な、馬鹿なッ!__あり得ない。あんなナンセンスな見た目じゃないはずだ』
「ツッコむとこ見た目だけか?まぁそうだよな____なんで、この世界に」
自らも加担していた巧が、戦兎の中で取り乱す。
戦兎もまた、頭の中が混乱していたが。
「なんだ……!?ば、バケモン……ッ!!?」
「……どちらにせよ、この世界にある新たな脅威、ってことか」
後ろでおびえていた五河の姿に、少し冷静さを取り戻した。
自分より焦る人を見ると落ち着くとはよく言うが、こんな状況で実感するとは思わなかった。
「GGGgguuuoooooaooaoaooao______!!!!!」
スマッシュなのか何なのか____判別のつかないキメラな怪物は、ビルから一っ飛びに戦兎達の前へと飛び立つ。
「うわっ、く_____!?」
衝撃と共に土埃が舞い上がり、そのグロテスクな怪物が大地へ姿を現した。
「ヒッ……!?」
大きな顎から妖しい瘴気を放ち、その場にいた三人を見まわす。
やがて少女の方へ視線を止めると、怪物はじりじりと、剣を構えた少女の方へにじり寄っていった。
「ふん、面妖なやつ____切り刻んで、くれる」
「BUuuuuuu………!」
少女は目の前の怪物に一瞬面食らったものの、冷静な態度を崩さずに剣を構えようとした。
と、その時。
「………ぐっ!」
「あ、おい!」
戦兎の隣を、五河が震えた足取りで駆け抜けていった。
戦兎が止める隙もなくクレーターを降り、怪物の前に立ちふさがる。
「___貴様、なんのつもり「わっっっかんねぇよッ!!」__?」
五河は震えきった身体になりながらも、絞り出すように叫んだ。叫び声はあまりにも情けなかったが、我慢ならないとばかりに続ける。
「今日一日中、もう何が何だか分かんねぇよッ!琴里はどこで、君が何なのか、鳶一の事とか、このバケモンが何なのか、何もかも全部ッ!!でも……でもッ___!」
一呼吸置いて、五河は後ろで胡乱な目をしている少女の方を見た。
「君が_______助けを求める目をしてたッ!!」
「__________!?」
五河の言葉に、少女は少なからず驚いたようだった。
そんな様子を見ることも無く、五河は両手を広げて再び叫ぶ。
「お、お前なんか………怖くねえぞ!この子に手を出してみろッ!!俺が……っ、ぶっ飛ばしてやるッ!!」
「Gdoooooooooo____!!」
_____蛮勇だ。
奇妙な光景。羽虫が恐竜を庇っている。五河も先ほど見せた少女の力が本物であることは、十分わかっている。
策などない。力などない。怪物に向けて放った言葉は全てハッタリだ。
それでも。いや、だからこそ、飛び出さずにはいられなかった。
あの少女の、絶望に満ちた顔を見た後では______
「aRarrrrrrrrggggaaaaaaaa_____!!」
「っ_____!」
圧倒的な破壊が、五河の眼前に迫る。
死が手前まで顔を覗かせ、恐怖に目を瞑り息を吞む。
その瞬間。
______シャカシャカシャカ
「_______オッラァアッ!!」
覚悟していた痛みはやって来ず。
代わりに何かを振る音と、男___桐生戦兎が右脚を振りかざして、怪物の体をキック一発で吹き飛ばしたのだ。
「gooOoooooo!?」
怪物は悲鳴のような叫びをあげながら、土埃と共に前方へ吹き飛んでいった。
右足から蒸気が噴き出し、戦兎の体の一点____何かを握りしめている右手の拳からは何か、青く細い煙のようなものが出ている。
「は、へ?」
「危なかったな」
何という事はないように、涼しく戦兎が声を掛ける。
だが、すぐに険しい表情になった。
「お前死にたがりか?それともただのバカか!?死んじまったら終わりだぞ!」
「あ___え、き、桐生、さん___?」
半ば放心状態になりながら、自分を諫める戦兎を見る。
怪物を一撃で吹っ飛ばしたパワー___人間のそれではない。その瞬間、彼に出会ってから見てきた不思議な出来事が、五河の脳裏にフラッシュバックした。スマホバイク、謎のふわふわ……
しかし戦兎はそんな様子を見てか、肩をすくめると呆れたように笑った。
「____でも、お前みたいなバカは嫌いじゃない。カッコいいじゃないの、少年」
「あ____」
そう言って翻った戦兎の背中が、五河の目にはなぜか、とても大きなものに見えた。背丈はそう大きく変わらないはずなのに、真っすぐ聳え立つ壁のように、怪物の前に彼は立ち塞がった。
「あとは____俺に任せろ」
自信と勇気に満ち溢れた言葉と共に、戦兎は懐からとある機械を取り出した。
手回しのレバー、でっかい歯車、二つのスロットがある四角い機械_____【ビルドドライバー】である。
腰にあてがうと、ドライバーの左右から黄色いベルト帯の【アジャストバインド】が巻き付き、ドライバーと戦兎を完全に固定させる。
そして、右手に握っていた青いボトル___戦車の意匠が施された【タンクフルボトル】と、左手にポケットから取り出した赤い兎のボトル、【ラビットフルボトル】を握りしめた。
「さあ_____実験を始めようか」
左右に持ったフルボトルを振り、内部に込められた【トランスジェルソリッド】を刺激、活性化させる。
それと共に、戦兎達の周囲に白文字の数式が具現化した。
「なんだこれ………痛てっ!」
「触んない方がいいよー」
興味本位で触った手を弾かれる五河の姿を横目に見ながら、バツグンに活性化させたボトルの蓋、【シールディングキャップ】を閉め、ドライバーのスロットに差し込んだ。
「な、なにをするつもりだ……!」
「まあまあ、黙って見てなさいよ」
後ろで固唾を飲んでいた少女が、警戒心を露わにしながら剣を持ち直す。しかし戦兎はそれに、ただ笑って答えた。
ハイテンションな電子音声と、ビートがドライバーから流れる。その音を聞くと、戦兎はドライバー側部に取り付けられた手回しレバー、【ボルテックレバー】をグングンと回した。
レバーの回転と共に、ドライバー内部でボトルの成分がパイプを通り循環する。エネルギー生成機関である大きな歯車、【ボルテックチャージャー】が赤と青の光を発しながら、透明なパイプを伸ばしていった。
「うお…っ!?」
フルボトル内のトランスジェルソリッドが、外部に展開したパイプ状の【スナップライドビルダー】を通して前後へ移動し、
覚悟は良いか?と、ベルトが語りかける。
無機質な機械音声、故に心を突き刺す、氷の言葉。
そしてその答えは、いつも同じだ。例えここがどんな世界でも、この決意だけは揺るがない。
_______できている。
気合一発、ファイティングポーズを決め、叫んだ。
その言葉と共に、スナップライドビルダーが戦兎を挟む。
白い蒸気に包まれながら、赤と青のアーマーに包まれた、仮面の戦士が姿を現した。
ベルトに左手を添え、右手でアンテナをなぞり開く。
ポーズを決め、そして、決め台詞を叫んだ。
「勝利の法則は_____決まったッ!」
____天才物理学者、桐生戦兎は仮面ライダーである。
彼を生み出した宇宙人、エボルトは壮絶な戦いの末に倒された。
しかし、光あるところ影があり、正義があれば悪がある。
仮面ライダービルドは、愛と平和のために、新たなる悪と再び戦うのだ!
人生で最初に見た仮面ライダーは初代です(隙自語)