デート・ア・Re:ビルド   作:砂糖多呂鵜

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戦兎「ァ天っ才物理学者の桐生戦兎と五河士道は、謎の怪物と戦った後、謎の秘密組織、『ラタトスク』に拉致されてしまう!
   そこに現れたのは、司令官と呼ばれる謎の少女、士道の妹こと、五河琴里だった!」

巧「こんな小さい少女を司令官とは……この組織のレベルもたかが知れるというものだね」

琴里「いきなり失礼なこと言うわね。
   こう見えても私は英才教育を受けたエリィート!中学生なんだから。勘違いしないでよねっ」

戦兎「ベッタベタなツンデレの台詞…。じゃあシュワルツシルト半径って何だか説明できる?」

琴里「それは………ほら、アレよ。シュワルツシルトの半径の事よ」

巧「名前を読み上げただけだね」

琴里「うるっさいわね!中学生の学習範囲外の問題出すんじゃないわよ」

戦兎「自分でエリートって言ったんじゃん!
   さて、こんな自称エリートの中学生擁するラタトスクの艦、フラクシナスで何が起こったのか、第五話をどうぞ~」
 

?「なぁ、俺の出番まだー?」

戦兎「バカ、お前まだ登場してないんだから勝手にしゃべんじゃないよ!」


第五話:仮初めのコンフィデンス

 

「____で、これが精霊っていう怪物で、こっちがAST。陸自の対精霊部隊よ。でこっちの怪物は……

 ……でこれが「正義のヒーロー、仮面ライダービルド!」……そうそれ、ビルド」

 

「いや何話進めてんだよオイちょっと待てって!」

 

 テンポよく切り替わる映像に対して、琴里がテンポよく説明していく。

 何か強引に誤魔化された箇所もあったが、今の士道にそんな些細な事は、10円ガムの当たり外れよりどうでもよかった。たまらず声を上げる。

 

「何だ、ツッコめるくらいには元気そうだな五河」キリッ

 

「元気そうだな五河(キリッ、じゃないですよ!……ッあぁぁもう、今日一日わっかんねえ……」

 

「何よ。せっかく司令官直々に説明してあげてるのに。もっと光栄に咽び泣いたらどう?今なら特別に、足の裏くらい舐めさせてあげるわよ?」

 

「ほ、本当ですかッ!?」

 

 喜び勇んで声を上げたのは、琴里の傍に立っていた神無月だった。しかし琴里が間髪入れず、鳩尾に肘鉄を放つ。

 

「ありがとうございますゥッ!」

 

「えぇぇ………!?」

 

 何故か感謝の意を表明した神無月にドン引きながらも、士道は呆然と口を開いた。

 

「こ、琴里だよな……?変なモン食ったとか、どっかの宇宙人が化けてるとか、そんなんじゃないよな?」

 

「あら、妹の顔を忘れたの、()()?物覚えが悪いとは思ってたけど、これじゃあ先が思い遣られるわね」

 

「しど……ッ!?」

 

 妹から呼び捨てにされるというのは、中々どうして精神に堪えた。そもそも口調からして、士道の知る妹とは似ても似つかない。

 と、戦兎が士道の肩をポンポン、と軽くたたいた。

 

「……………苦労したんだな」

 

「違うんですって!こんなんじゃないんですってッ!!」

 

「はあッ!?こんなんとは失礼ね!

 おに……士道が知らなかっただけよ。女十四年も生きてれば、家族も知らない一面だってあるものなのよ」

 

「……俺は十七だけどな」

 

「兄貴が妹に年齢マウントとるんじゃないよ」

 

 妙な茶番が始まりかけたところで、琴里が咳ばらいをして話を戻す。

 彼女の視線の先には、先刻対峙した剣の少女___精霊が映っていた。

 

「とにかく士道。今から話すことだけは理解しなさい。

 一つ。彼女は本来この世に存在しないもので、出現するだけで己の意思と関係なく、辺り一帯をボカンッ!としちゃうの。これが空間震の正体」

 

「な___!?」

 

 士道は思わず眉根をひそめた。

 有史以来最悪の厄災、空間震。

 この世の理不尽を詰め込んだようなあの大災害が、あの少女によるものだというのか。

 

「運が良かったわね士道。もし今回の爆発がもっと大きかったら、あなた今頃チリ屑になってるところだったのよ?」

 

「……っ」

 

 琴里の言葉に冷や汗が流れ、ゾッとする。

 

「だいたい、なんで警報発令中に外に出てたのよ。馬鹿なの?死ぬの?」

 

「何でって……お前これ」

 

「携帯のGPS……あぁ」

 

 士道が示したスマホのGPSには、先と変わらない位置に琴里のアイコンが表示されていた。

 

「そういうことね……。一回フィルター切って」

 

 琴里が指をパチンッ、と鳴らすと、薄暗かった艦橋に光が宿り始める。

 カーテンから流れる木漏れ日のようにゆっくりと部屋全体へ広がっていき、周囲には___青空が広がった。

 

「な、なんじゃこりゃ……「ウオォォォォォッ!?」」うわぁビックリした!?」

 

 士道が驚くより先に、戦兎が目をキラキラ、髪の毛をぴょこんとさせながら、部屋の床に密着する。

 

「やぁっぱすっげえな!

 これホログラムじゃないだろ?外の風景をリアルタイムで写してるのか……?にしてもここまで精度の良いのは、そう簡単には……」

 

 恍惚とした表情を見せながら床に這いつくばる戦兎。

 周囲の人間も少し、いやかなり引いていた。

 

「……そこの変態物理学者さん「天っ才な!」……は置いておいて。ここは天宮市上空一万五千メートル。位置的にはちょうど、約束してたファミレスの真上ね」

 

「てことは……まさか」

 

「そう。ここは空中艦、フラクシナスよ!」ドンッ!

 

 ここに来てドヤ、という表情を見せつけながら、琴里がふふんと鼻を鳴らす。まるでお気に入りのオモチャを自慢する子供のようだった。

 

「く、空中艦……!?なんでそんなもんにお前が……」

 

「だぁから、これから順序を追って説明するって言ってるでしょう?」

 

「む……」

 

 琴里の呆れたような声に、思わずむっとなる。

 が、すぐに肩の力が抜けて、笑みがこぼれた。突然の士道の様子に、琴里が怪訝な表情を見せる。

 

「何よ……いたっ」

 

 こつん、と軽く拳を当てて、そのまま琴里の頭を撫でる。

 

「………本当に良かった、お前が無事で。俺が間抜けなだけだったんだな」

 

 心から安堵した様子の士道の言葉と手に、琴里はバツが悪くなったのか、僅かに耳を赤らめてぷいと顔を背けた。

 

「……悪かったわよ。何も言わないで、心配かけて。その、ごめんな、さい……」

 

「ああ。本っ当に、良かった」

 

 少し拗ねたような声音で謝る琴里に、士道はようやく少し落ち着きを取り戻した。

 二人の様子を見ていた戦兎も、床から起き上がって向かっていく。

 

「……やっぱ家族は仲良くなくちゃ。

 こぉ~んな優しくてバカなお兄ちゃん、世界中探したってそうはいない。大事にすることだね、()()()殿()?」

 

 どこか懐かしむような眼を向けながら、戦兎が笑って言う。

 

「余計なお世話よ……ってか、いつまで撫でてんのよ!」

 

「ガハッ……!?」

 

 妹からの強烈な肘鉄に、士道は後方へ飛んでいく。

 やはり反抗期か、嗚呼、かくも物悲しいものか____などと頭によぎっていく。

 

「大丈夫ですよ士道くん!我々の業界ではご褒美です!」

 

「あんたはその性癖ちったあ抑えなさいよ」

 

 なぜかキリッとした表情で言い切る神無月に戦兎がツッコむ。

 

「いってて……つっても、急には飲み込めねえよ。こんな突拍子もねえ話……」

 

「丸呑みして胃の中で溶かしなさい。……というか、これ以外の突拍子もないものを、アンタは目の前で見たじゃない」

 

「え?」

 

「ん」

 

 琴里が親指を指したのは___桐生戦兎。

 

「うん?………………イェイ☆」

 

「誰がポーズしろって言ったのよ。()()()()()()()()

 

 親指と人差し指を立てたポーズをしながら、ウインクする戦兎に琴里がツッコむ。

 

「っそうだ!桐生さんのさっきのアレも___」

 

「ええ。____繰り返しにはなるけど、ここにいる全員にも共有しておきましょうか」

 

 数分前に和室で交わされた会話と()()を思い出して、琴里は溜息を吐きつつも話し始めた。

 

 

 

 ◆

 

 

 ____数分前、フラクシナス艦内にて。

 

 

『ズボンのチャックは全開だけどな』

 

『マジか!いつから!?』

 

『割と最初から』

 

『何で言ってくれねえんだよ!』

 

『どのタイミングで言うんだよ自分で気づけバァカ』

 

『バカってなんだよ!今俺にバカじゃねえって言ったバッカじゃねえかよ!』

 

 

 ______ピッ。

 

「___てなわけで俺の説明と、映像ドキュメンタリー(にする予定の)『仮面ライダービルド』の第一章は終わり。感想やご質問、ご意見ございましたらどうぞご自由に~」

 

「……両手の指じゃ足りないくらいあるわよ」

 

 ビルドドライバーから投影された映像を切りながら、軽い調子で戦兎が切り出す。

 仮面ライダーの説明と、本人が『記録映像』と言っていた三十分ばかりの映像を見せられ、琴里は盛大に頭を抱えた。

 

「今の映像で流れてたことが、実際にあった出来事だって言うつもり?」

 

「俺の()()()()()ではな」

 

 戦兎がいた世界とこの世界が、全く別の世界であること、戦兎達の世界で起こった戦いの大まかなあらすじ。

細部まではぼかしたり話さなかったりしたが、それでもエボルトの事など、一通りの事情は話した。全てを正直に話したわけではないが、とりあえずの説明にはなったはずだ。

 

「はっ……こんな突拍子もないドラマ見せられて、いきなり「ハイそうですか」、なんて納得できるわけないでしょう?」

 

「突拍子もないって点に関しちゃ、君たちの話も俺の話も、共通の事実だと思うけどね」

 

「……」

 

 琴里の猜疑心から出た僅かな反抗も、戦兎の言葉の前に消え失せてしまう。 

 立場故に少しマヒしていたきらいはあるが、琴里たちが直面している事態とて、十分常識外れであることに変わりはない。

 

「それにしても、見れば見るほど不思議ですねぇ。

 この小さなボトルに、あれほどの力が秘められているとは」

 

 琴里の後ろにいた神無月が、興味深そうにしげしげと眺める。

 

「あ、もしよかったらボトルも触ってどーぞ」

 

「……こんなオモチャみたいなものが本当に____ん?」

 

 ちゃぶ台の上に置かれたラビットボトルを手にした瞬間、琴里の顔に疑問符が浮かんだ。

 

「この形、どこかで……」

 

 何かを探るように首をかしげながら、ボトルを数回振る。

 フルフル、シャカシャカ____

 

「うひゃっ!?」

 

「ごほッ!?」

 

「うおっ」

 

 振った瞬間、琴里がバックした。

 脚にちょっと力を入れただけで、まるで強力なバネで押されたかのように床と足が反発し合い、琴里を押し出してしまったのだ。

 後ろにいた神無月にダイレクトで当たり、神無月は壁に激突。琴里はその場で踏みとどまった。

 

「大丈夫ですかー?」

 

 腰を強かに打ちつけた神無月に、戦兎が声を掛ける。

 

「祝福の痛み!アァ!これこそ私が生きてる快感ンッ!!」

 

「っええええぇぇぇぇ………!?」

 

 なぜか恍惚とした表情を浮かべながらハキハキと答える神無月の姿に、思いっきりドン引く戦兎。

 なるほどこれがドМという人種か、と実物を見たことに僅かな感動と、大きな後悔が生まれるのだった。

 

「……妹さんもだいじょーぶ?」

 

「え、ええ。………信じられないわ、顕現装置(リアライザ)が搭載されてるわけでもないのにこんな___」

 

「……()()()()()()

 

 再び琴里の口から、耳慣れない単語が飛び出してくる。

 実現する、という意味のRealizeとも、少し違う響きだった。そんな戦兎の様子に気付いたのか、琴里は一つ咳払いをして座布団に座り直した。

 

「……その話はまた今度。とにかく、アンタの話がまんざら出鱈目じゃないってことは、今ので分かったわ」

 

「ご理解いただけたようで何より」

 

「其の上で___あんたに一つ意見を聞きたいわ」

 

 琴里が再度ホログラムを操作する。

 映し出された映像には、先刻ビルドが戦った謎の怪物が映し出されていた。

 

「こいつは、さっきの……」

 

「ええ。さっきアンタが戦ってた謎の怪物。

 ……正直に言うわ。私たちですら初めて見る代物よ」

 

 琴里が神妙な面持ちで、若干の冷や汗を掻きながら告げる。

 

「さっきのアンタの映像に出てた……【スマッシュ】だったかしら。

 それとも少し違うようだけれど、私にはまったくの無関係にも思えないの。この怪物とアンタ____仮面ライダーが観測されたのがほぼ同時。

 偶然にしては、出来すぎてると思わない?」

 

 腕を組み、目を細める。

 その目には、中学生の少女が宿すには似合わない、使命感が宿っていた。

 

「……確かにあの怪物は、スマッシュにも似てた。けど違う」

 

「ふぅん……?」

 

 琴里が品定めをするような声音で、戦兎に問いかける。

 

「スマッシュは、人間に俺たちの世界で発生していたネビュラガスを投与して生まれる。もしくはクローン技術を使って複製するかのどれかだ。

 でも____あの怪物には、俺たちの世界のスマッシュに見られる構造が無かった。……リモコン借りるぞ」

 

「……ええ」

 

 そういって琴里からリモコンを借り、映像を一時停止する。

 次いでビルドドライバーから、旧世界の記録映像のワンシーン__ビルドとスマッシュが戦っているシーンを横に移し、細部を拡大していった。

 

「関節部分や背面の脊髄にあたる部分、その他諸々___根本的に人間ベースのスマッシュじゃ、再現不可能なパーツが多すぎる。

 断言する。少なくとも、俺の知るスマッシュじゃない」

 

「……」

 

 琴里の目が鋭く細められる。

 

「だとしたら___何だっていうのよ」

 

「考えられるのは二つ。

 精霊のいる世界とやらからきた、別の生物。

 もしくは____A.S.T」

 

「その新兵器か何か……有り得るわね」

 

 琴里が小さく息を吐くと、ホログラムを切って姿勢を直した。

 

「……この敵の正体がどうであれ、放っておくわけにはいかないわ。……あんたの話の全てを信じたわけではないけど、少なくとも敵じゃないってことだけは、理解していいのかしら?」

 

「お分かりいただけたなら何より。

 こっちとしては、君たちの組織が本っ当に人助けのための組織なら、友好的な関係を築きたいところなんだけどな」

 

「あら、随分と人がいいのね」

 

()()()人が良くなきゃ、こんな中学生を『司令官』なんて言ってる時点でまともじゃない事が確定してる組織で、仲良くお話なんかしてないよ」

 

 戦兎は皮肉めいた笑みを浮かべながら、どこか肩の力を抜いて一息吐いた。

 

「……ここがどんな世界であれ、俺のやるべきことは変わらない。

 ____愛と平和(ラブ&ピース)で生きれる世界を創る。そのためにこの力を使う。

 それが、仮面ライダーだ」

 

「仮面、ライダー……」

 

 歪みない顔でそう言い放つ戦兎に、琴里は毒気を抜かれたようだった。

 

「……いい大人の癖に、大した理想家ね」

 

「ヒーロー以前に、大人が子供に理想を見せなくちゃ終わりだろ?」

 

 その言葉が、決め手だった。

 琴里は飴をガリッと鳴らせて、ようやく笑みを浮かべた。

 

「__いいわ。司令官特権で、あんたをフラクシナスの協力者とする。

 ただし、立場としてはあくまでも仮の物。しばらく監視させてもらうわ。その代わり、あんたの身の安全は保障してあげる」

 

「助かるよ。信頼は行動で積み重ねる主義だからな」

 

「それじゃ……信頼させてよね?天才科学者さん」

 

「そちらこそ。中学生司令官殿」

 

 互いに差し出した手を、軽く握り合った。

 

 

 ◆

 

 

 そして現在に戻る。

 

「そんなことが……」

 

 琴里の話を聞いた士道は、ぽっかりと開いた口を塞ぐことができなかった。

 

「っていうか、異世界に、宇宙人ッ!?ほ、ホントに___」

 

「ホントだって。最後の戦いが終わったのも、俺の体感じゃ半日と過ぎてないんだからな」

 

 あっけらかんとした様子で淡々と話す戦兎。

 だがその説明で得心が言った事もまた、事実だった。

 

 あの不思議なバイクに、謎の赤と青の姿___『仮面ライダービルド』。

 

「__話がずれちゃったけど、とにかくそういう訳で、彼もラタトスクの協力者になったわ。

 これは司令官命令よ」

 

「って、そうだよ。その、『ラタトスク』だっけか。

 どういう集まりで、さっき見せた『精霊』とかいうのに、何をしようとしてるんだよ」

 

 士道が思い出したように訊くと、琴里はふうと息を吐いた。

 

「これから説明するわよ。___その前に」

 

 一息置くと、琴里は口にしていたチュッパチャップスをピンッ、と士道の前に突きつけた。

 

「一つだけ士道に聞くわ。……あんた、あの精霊の少女に出会って、どう感じたのかしら?」

 

「は?いや、どうって言われても……」

 

「いいから答えなさい。A.S.T.が彼女を排除しようとしていることと、彼女の存在。

 率直な感想よ。200字以内で纏めなさい」

 

 琴里の言葉は、まるで研がれた刃物のように士道の心に突き刺さった。

 先ほどまでの話と、士道が実際に目にしたもの。

 

 出現するだけで世界を滅ぼしかねない悪魔の手先____精霊。

 

 世界を守るために迅速に殺す。正しいことだ。誰の目にも明らかな事。

 

 それでも。

 

「(君が____助けを求める目をしてたッ!!)」

 

 士道はあの時、何故自分が少女の前に立ち、怪物から庇おうとしたのか。その時の気持ちを思い出していた。

 あの時の少女の目を。

 絶望しか知らない、いや、それが『絶望』であるという事すら知らないほどの、諦めと悲しみに満ちた声を知った後では。

 

「……なんか違え、って思った」

 

 士道の口は、自然と言葉を紡いだ。

 

「ただ普通に、話がしたいって。

 あの子がもし化け物でも____何も知らずに殺して安心だなんて。

 それは、違うだろ」

 

 あの時の恐怖は、今も体に焼き付いている。

 でも、士道の中にはもはや見て見ぬふりをするという選択肢は残されていなかった。

 

 だってあの子は、()()()()()()()()のだから。

 

「____最っ高だな」

 

 戦兎が士道の言葉に、満足そうに微笑む。

 そして琴里もまた、待ってましたとばかりにニヤリと唇の端を上げた。

 

「___じゃあ、手伝ってあげる」

 

「は……?」

 

「私達『ラタトスク機関』は、そのために集まったのよ。精霊と対話で以って分かり合い、空間震を食い止める。

 そのための人員そのための空中艦、あとそのための士道」

 

「……」

 

 琴里の説明に士道は眉をひそめた。

 その組織の目的は何なのか、なんで琴里がそんな組織で司令なんて呼ばれてるのか、気になることは数えきれない。

 しかし士道はそれらの疑問をグッと飲み込んで、最も引っかかった部分を口に出した。

 

「……で、なんでそんな組織が俺を手伝うんだ?『そのための士道』って、どういう意味だよ?」

 

「答えはシンプル。対話による精霊の鎮静化は、『士道にしかできないから』。

 そもそも前提として、【ラタトスク】は士道という存在がいたから作られたようなものだしね」

 

「は、はァ……ッ!?」

 

 琴里が何ともなし、とでもいった様子で言い放ったその事実に、士道は素っ頓狂な声を上げた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺のため?

 ……はっ、なんじゃそら、今までで一番分かんねぇ」

 

「要するに、士道を交渉役に据えて、精霊問題を解決しようっていう組織なのよ。

 士道には、そーいう特別な力があるの」

 

「説明になってねえって!」

 

「……特別な力、ね」

 

 たまらず叫びだした士道の傍で、戦兎が思案する。

 脳裏に浮かんだのはかつての仲間、石動美空(イスルギミソラ)が宿していた浄化の力___火星の王妃、ベルナージュの魂。

 

「(まさか____こいつが?)」

 

 同じ力という事ではないだろうにしろ、繋がりを考えてしまう。

 

「____質問だ。こいつにそんな力があるなんて、どうやって分かったんだ?実証も無しに踏み切ったのか?」

 

「それは……」

 

 戦兎の言葉に、琴里が思案したような様子を見せる。

 言葉に詰まったような様子を見せたその時、琴里のすぐ近くにいた女性が口を開いた。

 

「……調査で分かったんだ。彼は言わば特異体質。

 精霊が発する力___【霊力】に強い受容性を示した、他に二人といない特殊な肉体をしている」

 

 眠そうな目を隠そうともしないその女性、令音は士道の方を向いて、そう言い放った。

 

「……あなたは、確か____」

 

「……ああ、申し遅れてすまないね。

 ここで解析官をしている村雨令音だ。まあ、よろしく頼むよ」

 

 戦兎の方を向き、手を差し出す。

 二人が握手を交わすと、琴里が咳払いをして再び口を開いた。

 

「とにかく、そういう訳よ。

 ____お膳立ては整ってるわ。あとは士道次第よ」

 

 不敵に笑い、肩をすくめる。

 彼女の言葉に、士道は考える。

 

 今の士道にあるものは、思いだけ。希望だけ。

 でも、それを実現するための力はない。

 

 言いたいことは山ほどあったが、それを()()()()()()()()()()()()()

 

「分かったよ。……それで、対話ってのは、具体的に何をするんだ?」

 

「あ、それ俺も気になってた。

 あのお嬢さん、あの調子じゃまともに取り合う感じもなさそうだぞ」

 

 士道と戦兎が言うと、琴里は小さく笑みを浮かべ、自信たっぷりにこう言い放った。

 

 

「____デートして、デレさせる

 

 

「は?」「は?」

 

「だから、精霊に恋をさせるのよ」

 

「「…………」」

 

 たっぷり10秒は沈黙した後。

 

 

はぁぁぁぁアッ!?

 

ハァあっ!?

 

 

 士道と戦兎の揃った困惑の声が、艦内に響き渡った。




 だから説明をさぁ!縮める努力をさぁ!しないとさぁ!
 筋肉バカが出せないのよさぁ!

 ゼミ発表の原稿作成に忙殺されてました、お気に入り登録111人ありがとうございます。
 逃げ道が塞がれてきて一抹の恐怖がよぎりました。
 あと旧作非公開にするかも。
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