デート・ア・Re:ビルド   作:砂糖多呂鵜

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戦兎「天っ才物理学者の桐生戦兎と五河士道は、謎の秘密組織ラタトスクの手引きによって、精霊との対話に挑むことになる。
 しかし、司令官である琴里が提示したのは、『デートしてデレさせる』というフザケ倒した方法であった___!」

士道「ホントにこの方法じゃなきゃ駄目だったのか!?もっと他にやれることあるんじゃないのかよ!」

琴里「黙りなさいこのフライドチキン!そうやってビビってるから十七年も彼女がいないのよ」

士道「こいつ……ッ!人の急所を的確に狙いやがる……ッ!」

戦兎「まぁまぁまぁ、まだ焦る時間じゃないから気にするなって素人士道くん」

士道「バカにしてるでしょ!?じゃあ戦兎さんはどうなんすか」

戦兎「俺は………ほら、アレだよあれ。
   アレだから」

士道「アレってなんすか」

戦兎「いやだからアレだって」

琴里「何……あコッチ?」

戦兎「ちっげぇーよッ!何名案みたいな顔で言ってんだよ。
   ほら、第六話行くよ!」

士道「誤魔化された………あ、いた事ないんだ」

戦兎「黙りなさいよ!」


第六話:思惑渦巻くプリクエル

 

___陸上自衛隊・天宮駐屯地にて。

 

「____以上の点を踏まえ、この未確認戦闘存在、識別名【マスクド】を、現時刻を以って攻撃対象とみなします。

 以後作戦行動中に存在が確認された際は、速やかに破壊、もしくは捕縛するように。

 但し、あくまでも優先すべきは精霊の排除。それを忘れず」

 

『はっ!』

 

 日下部隊長がそう指示を出しながら指すモニター上には、赤と青の仮面を被った、何とも奇妙な姿の存在が映っていた。

 

「折角D.E.M社から来た新兵器の試作品を、こうもあっさり倒すとはね……頭痛の種が増えるわよ、ったく」

 

「……」

 

 少女___鳶一折紙は、無表情のまま映像をじっと眺めていた。

 記録映像では、試作品としてA.S.Tに卸された新兵器____対精霊用自動機械戦闘兵、【キメラスマッシュ】が、【マスクド(仮面ライダービルド)】と交戦している。

 キメラスマッシュの攻撃に応じて、赤と青の姿から、茶色と水色の姿に変わるなど、まるでマジックの早着替えのようだった。

 

「状況に応じて姿が変わる、同時に戦闘時の特性も変化の傾向在り___C.R.ユニットでも、ただのパワードスーツってわけでもなさそうね」

 

「ええ、見たところ、腰に巻いてるこのマシンで姿を変えるようですねー。

 むむむ……この感じ、ミリィ見覚えがあります」

 

「……なにミリィ、珍しく会議に出たかと思ったら、何か知ってるの?」

 

 燎子が目を向けたのは、金色にウェーブ掛かった髪に、赤縁のメガネとゴーグルを掛けた女性、ミルドレッド・F・藤村(フジムラ)

 普段から整備室に籠りきりの彼女が、今日の報告を聞くや珍しくパソコン片手にこの会議へ出席していたのだ。

 

「ええ。このシステムはえぇっと……確か本社で___」

 

「やぁー遅れてすまない!データの解析に手間取りましてねぇ!」

 

 ミルドレッドの声を遮るようにして、突如会議室のドアから男がやってきた。

 皺だらけの白衣に仕立てのいい服、蓬色の結んだ髪を揺らしながら、照れ隠しのような笑みを浮かべている。

 

プロフェッサー!ご苦労様です!」

 

「おおミリィくん、君こそお疲れ様だね。ちゃんとご飯食べてるかい?」

 

「チーズバーガー大好きでぇす!」

 

「チーズバーガー!

 栄養満点なお食事の代表じゃあないか」

 

 入って来るや、ミルドレッドと軽妙なやり取りを交わす。

 閉塞的だった会議室の空気が、少し明るいものとなった。燎子は咳ばらいを一つすると、プロフェッサーと呼ばれた男の方へ顔を向けた。

 

「プロフェッサー・多御倉(タミクラ)。解析の結果は?」

 

「おお、日下部隊長さん。

 すいません、後輩が可愛いもので。ではでは、こちらをば」

 

 男___多御倉克喜(タミクラカツキ)は手にしていたUSBと会議室のパソコンを接続し、スクリーンにデータを表示した。

 

「現状の戦闘能力は、我々が開発した試作型の【キメラスマッシュ】より、この【マスクド】の方が優れている、と考えた方がよいでしょうねぇ。

 或いは……【C.R.ユニット】よりも」

 

「っ……」

 

 淡々と語る克喜の口調に、話を聞いていた折紙は歯噛みする。

 C.R.ユニット___正式名称、【戦術顕現装置搭載(コンバット・リアライザ)ユニット】。

 三十年前世界を襲った、ユーラシア大空災の折に人類が手にした奇跡の技術、顕現装置(リアライザ)を、戦術的に運用するための装置であり、折紙たちA.S.T隊員の鎧であり剣であった。

 

 科学で以って魔法を再現する技術___それを扱う戦士は【魔術師(ウィザード)】と呼ばれ、精霊を倒すべく研鑽を積んできた。

 それが、急に現れた謎の仮面の存在の方が、優れていると結論づけられたのだ。いい気分は、しなかった。

 

「とはいえ、今回の敗北は想定の範囲内。

 当初のプランは精霊の戦闘能力のフィードバックが目的でした……対象が変わっただけの事。それに、精霊は我々が来てほしくないときでも現れてくれますからねぇ」

 

「……私たちは囮だったと、そう言いたいわけ?」

 

 燎子が面白くなさそうに眉を顰める。

 しかし克喜は笑みを崩さず、恭しく礼をした。

 

「とんでもない。貶めてしまったのなら申し訳ありません。

 しかし……この出会いは非常に興味深い。何しろ、今我々が開発中のシステムに、非常に酷似していますからねぇ」

 

「酷似って……どういう意味?」

 

「『そっくり』、『似通ってる』という意味の「いや言葉の意味じゃなくて」……ほんのジョークです」

 

 再度パソコンを操作すると、そこにはまた別のデータが表示された。

 何かの機械の設計図と、人間のバイタルデータの様なもの。そして、ボトル状の物体のデザインがある。

 

「これって……」

 

「ああ!これですこれです!ミリィが言ってたの!」

 

 ミルドレッドがずっと喉に刺さってた小骨が取れたかのような開放感あふれる声音で、克喜が提示したデータを指さした。

 

「流石ミリィくん、いい直観だ。

 これは我々D.E.M社が数年前から開発を進めている、C.R.ユニットの強化__否、進化プランの戦術兵装です。

 このシステムの肝は、何を隠そうこの()()()にあります」

 

 そう言って克喜がパソコンを操作すると、スクリーンには人体を中心に、各部に鎧の様なパーツと、C.R.ユニットの兵装が組み込まれていくホログラムが投影された。

 パワードスーツでありながら、どこか生々しく、異質。

 まるで、人間の構造そのものが変わっているかのような___

 

「このボトルを用いて、生身の肉体から強化を施し、骨格にユニットを直結させるいうのが、大まかな構想です。まだ詳細は伏せますが……」

 

 克喜は愉快そうに口元を歪ませた。

 

「この【マスクド】のシステム。

 特にボトルを用いてる点や戦闘スタイルなど、我々の考案しているシステムにかなり近いですねぇ」

 

 その言葉に、燎子が視線を鋭くした。

 

「データが漏洩した……とでも?」

 

「そこまでは分かりません。

 しかしながらこのシステムの完成度は非常に高い。ボトルからのエネルギー変換、反応速度、身体能力の上昇率……ふふっ、どうやら我々の持つ技術の、更に先を見つけているようですねぇ」

 

 多御倉は「まるでカンニングをしている気分だ」と、愉快そうな笑みを浮かべた。

 

「我々……否、私のシステムの先達。

 ゾクゾクしますねぇ。更にデータを集めれば、私のシステムも、精霊への有効な対抗策も、湯水のように湧き上がることでしょう」

 

 克喜の目が細くなり、ぞっとするような笑みを浮かべる。

 

「……おおう、プロフェッサーの怖いタイムです」

 

 ミルドレッドが見慣れた様子で冷や汗を掻いた。

 会議室の空気がわずかに冷えるような錯覚を覚える中、折紙は静かに、けど確かな視線でスクリーンを見つめていた。

 

「……」

 

 にわかにざわめき始める会議室の中で誰よりも静かに、冷静に。

 しかしその胸の中で、深く暗く燃えるモノがあった。

 

「____強い」

 

 記録映像で動き、キメラスマッシュを圧倒する【マスクド】。

 変幻自在な姿、凄まじい反応速度、未知の武装。

 折紙ら魔術師(ウィザード)が霞むほどの_____圧倒的な存在感。

 

「(……もし私が、あんな力を手に入れられたら)」

 

 そう思った自分に、折紙はわずかに眉を寄せる。

 自分の力はC.R.ユニットだ。あれは未確認の戦闘存在。精霊打破を邪魔するかもしれない、不穏分子に他ならない。

 

 だがそれでも、折紙の目はその力を欲しがっていた。目の中に口があったら、大口を開けて映像ごと食べてしまいそうなほどに。

 

「……私が、精霊を殺す。そして、仇を取る」

 

 _____依然変わりはしない。

 折紙は五年前から変わらぬ炎を確かめると、硬く拳を握りしめた。

 

 

 ◆

 

 

 天宮市内某所、五河邸。

 

「____アァァァァ嗚呼ああ疲れたァァァァ――!!」

 

「お邪魔しまーす」

 

 夜七時を回ったころ、五河士道と桐生戦兎は家のドアを開いた。

 士道は解放の叫びを上げながら大の字で玄関に倒れ、戦兎はやや遠慮がちに、玄関をキョロキョロしながら家に入る。

 

「くそ、あの黒服のおっさんめ……何時間説明すれば気が済むんだよ……」

 

「機密事項とか色々あるんだろ。俺がいてよかったな。じゃなきゃ多分、あと五時間は拘束されてたぞ」

 

「ウッソぉ……」

 

 結局あの後二人は別室に連れていかれ、延々と事態の詳細な説明をさせられたのだ。

 しかしながら戦兎の話の呑み込みの早さと、彼の理路整然と分かりやすい纏めにより、何とか七時に家へ帰宅することができたのだった。

 

「それにしても、監視するとか言ってたくせに自分の家で泊めさせるとは、随分とお優しいことで」

 

 皮肉めいた口調でそう言う戦兎の腕には、銀色のブレスレットのようなものがつけられていた。

 どうやら発信機とのことで、前の世界で戦争になった際、凶暴だったころのかつての仲間、氷室幻徳(ヒムロゲントク)に付けられたものとそっくりだった。

 正直戦兎にかかれば外すことなど造作もないのだが、今は素直に従うのが得策と、そのままにした。

 

「(監視にしちゃ手ぬるい……いや、わざとか)」

 

 仮釈放の囚人のような扱いについて考えていると。

 

「……あ、すいませんぐったりして。上がってください、遠慮なく」

 

 戦兎の表情が硬くなってたのか、はっとした様子で士道が起き上がり、傍のラックから戦兎の分のスリッパを差し出す。

 

「ん?ああ……。悪い、お邪魔させてもらうよ」

 

 士道からの勧めに思考を中断させる。

 肩の力を抜いて、スリッパに足を通した瞬間。

 

 

______グゥゥゥ。

 

 

「へ?」

 

「あ」

 

 戦兎の腹から、盛大な虫の音が鳴り響く。

 そう言えば、丸一日何も食べてなかった。最後に食べたのは……皆で集まって食べたあのバーベキューか。

 虫の居所が悪そうに苦笑しながらお腹を擦る戦兎に、士道は気が抜けたように笑いながら口を開いた。

 

「とりあえず、夕飯にしますか」

 

 

 ____だいたい三十分後。

 

 

「どうぞ。

 すいません、昨日の余り物ばっかですけど……」

 

 五河家の食卓には、野菜の煮物ときんぴらごぼう、アジの開き、ワカメと豆腐の味噌汁、白米___と、如何にもな和食のラインナップが並んでいた。

 湯気を立てながら食卓を彩るそれらの料理、とても高校生が作るものとは思えぬクオリティのそれに、戦兎は思わず唾を飲み込む。

 

「いや、いやいや!

 すっげぇよ……これ、お前が作ったのか?」

 

「まあ、琴里との二人暮らしが長いもので。慣れてるだけです」

 

 やや驚いた様子の戦兎に、照れ笑いしながら士道が答える。

 

「今日は琴里も……アレの所為で家にいないですし。

 食べちゃいましょう」

 

「……何から何まで悪いな。

 疎かには食わないよ」

 

「気にしないでください。

 今日助けてもらったお礼と……俺が好きでやってる部分もありますから」

 

 恐縮した様子の戦兎に、頬を掻きながら少し嬉しそうに言う。

 

「腹が減ってるときって、何だか心細くなるじゃないですか。

 俺、そういうの嫌なんです。……って、そんな話はどうでもいいや。冷めないうちに食べましょう」

 

「……いただきます」

 

 こんな厚意を前にして、手を付けないのは何より無礼だ。

 戦兎は手を合わせて一言言うと、用意された箸と小皿を手に取り、野菜の煮物を取った。

 しっかりと煮込まれたであろう里芋や人参、たけのこはしっとり柔らかく、煮汁が芯まで染みているのが分かった。

 はやる気持ちを抑えつつ、まずは里芋を取り、温められたそれをふーふー、と冷まして口に運ぶ。

 

「………っ、うっっま」

 

 しっかりと煮込まれたであろう里芋は、咀嚼した瞬間煮汁の旨味と里芋本来の風味が溢れ出した。溶けるような柔らかさが、そのまま口全体に味を伝えて食欲を増大させる。

 そのまま白米を食べる。こちらもしっかり米の食感があり、噛めば噛むほど甘みが出てくる。

 そして戦兎の好物であるアジの開きを箸でほぐし、醬油をかけ口にする。

 

「俺、アジの開き大好きなんだよ。

 なんかホッとする、ていうか」

 

「へぇ~!やっぱ美味いですよね!

 出してよかったです」

 

 士道も自分の分を口にしながら、にこやかに答える。

 そんな会話が何だかこそばゆくて、戦兎は少し眼を逸らして、きんぴらを取る。ごぼうと人参のシャキシャキした歯応えに、少しお酢が含まれてるのか、酸味のある味付けが疲れた体に染み渡る。

 

「?大丈夫ですか?」

 

「いや、その、何だ。

 こういうのに、慣れてないっつーか。こんな、ちゃんとした食卓で、人が作ってくれたご飯を、ただ食べてるの……」

 

 自分の言葉に、ふと記憶を振り返る。

 自分も『葛城巧』だったころ。母の卵焼きは好きだったが、それでも食べる機会は徐々に減っていった。

 『桐生戦兎』になってから。石動惣一(マスター)___否、エボルトが作るときもあったが、焼き魚とかのシンプルなものや、ジャンキーなものしか出さなかった気がする。

 

 万丈に美空や紗羽さん、一海、幻さん……仲間が増えてからは皆で料理を作りあったりもしたが、これほどしっかりした感じではなかったし、そもそも戦争中だったこともあって、食事自体が少なかった。一海が料理当番の時は楽しみではあったが。

 

「いつも、戦ってばかりでさ。飯食ってる時も、休んでるって感じがしなかった。

 どうすれば今の状況が良くなるのか___そんな事ばっか、考えてて……」

 

 言葉に詰まり、味噌汁を一口すする。

 ちゃんと出汁を取ったのだろう、鰹と昆布の旨味に、味噌の味わいが、安らぎを与えてくれる。ワカメのムチムチした食感と、淡白な豆腐が互いの要素を引き立て、いくら食べても飽きないだろう程。

 

「……本っ当に、美味しい」

 

 一言呟く。

 その瞬間、両目の奥から、何か熱いものがこみ上げてくるのを感じた。

 

「っ、あれ、なんで、俺っ………」

 

 溢れたのは一筋の涙だった。

 胸の奥がきゅうっと絞られたような感触と、ずっと溜まっていたものが流れ出たような奇妙な開放感が全身を巡る。

 

「あの、だ、大丈夫ですか?

 何か嫌な事でも……」

 

「い、いや、違うんだ。……何でもねえよ、何でも、ない。

 お前の飯、スッゲェうまいモンだから、感動した?的な……」

 

 誤魔化すように白米とアジの身を掻き込み、涙を拭う。

 

「何だよ、馬鹿みてぇじゃねえか。

 高校生の前でいい大人が、飯食って泣くとか……」

 

 自嘲するような口調でひとりごちる。

 そんな戦兎の様子を、士道は馬鹿にすることもなく静かに微笑んだ。

 

「……泣きたい時は、泣いて良いんですよ」

 

「……色々、沁みるんだよ」

 

 少し恥ずかしそうに顔を赤らめて、苦笑する。

 不器用な顔はまるで少年のようで、あの怪物に襲われた時に見せた、大きい背中のヒーローと同じように見えなかった。

 

「そういう顔も、するんですね」

 

「……天っ才物理学者は、いつまでも子供心を忘れないのが条件だからな!」

 

「ぷっ、何ですか、それ」

 

 態とらしく気持ちを切り替えた戦兎に、思わず吹き出す士道。

 

「ありがとうな、士道」

 

「こちらこそ、ありがとうございます。桐生さん」

 

 士道の言葉に、戦兎は少し眉を顰める。

 というよりは、その呼び名に。

 

「……戦兎でいいよ。名字で呼ばれるの、慣れてねぇし」

 

「じゃあ、戦兎さん」

 

 この時初めて、士道は桐生戦兎という人間を少しだけ、分かったような気がした。

 

 食事も終わり。

 皿洗いや家事を手伝い、風呂を頂いた後。士道も寝静まり、あてがわれた部屋の机で、戦兎は作業をしていた。

 ビルドフォンの回線をこの世界のものと同期させるなど、今の状況でも出来る簡単な作業。この程度は手持ちの工具や、士道に貸してもらった五河家にある電子機材でも何とかなったが、ビルドの武器や強化アイテムの修復に関しては、もう暫くの時間と資材を必要とした。

 

「よしっ、これでオッケイ」

 

 一息つき、回線が通った事を確認する。机に散らばった機材を片付けると、欠伸とともにベッドへ倒れ込んだ。

 

「……こんなにリラックスしたの、いつぶりだろうなぁ」

 

 慣れない環境であるものの、少なくとも今日はぐっすりと眠れる気がした。

 目を閉じようとした、その時。

 

『____随分と気が抜けてるじゃないか』

 

 頭の奥底から声が聞こえる。

 慣れ親しんだ、それでいてどこか冷たい声______葛城巧。

 

「どうした?こんな夜遅くに」

 

『少しばかり、お節介を焼きにきたんだ』

 

 らしくもない言い方をする自分の半身にため息をつきながら、静かに答えた。

 

「……言いたい事があるならハッキリどーぞ」

 

『なら遠慮なく言わせてもらう____やはり君は甘すぎる。

 あの少年……五河士道や、ラタトスクという組織。空間震や精霊という存在。

 簡単に呑み込みすぎだ』

 

 巧の言葉に、戦兎は眉を顰める。

 

『空間震の原因である精霊を、殲滅ではなく対話で鎮め解決する。……百歩、いや千歩譲ってここまでは良い。

 だがその手段が『デートして、デレさせる』?……馬鹿馬鹿しい、非科学的も良いところだ。中学生の妄想じゃあるまいし』

 

「……」

 

 巧の言葉に、戦兎は黙り込む。

 次の言葉をどう紡ぐか、少し考えて口を開いた。

 

「そうだな……確かに馬鹿げてるよ。

 いや、今時中学生でも思いつかないんじゃあないか?そんなんで救えるかなんて、舐めてんだろ?ってな。俺も思った」

 

『なら、何故今ここにいる?』

 

「……()()()()()()()()()

 

 それは、かつてどこぞの馬鹿___万丈に掛けた言葉と同じだった。

 ポケットに入った万丈のシンボル、【ドラゴンフルボトル】を取り出し眺める。最後の戦いのときから、戦兎がずっと持っていた。

 

「ラタトスクの事は……まあ、あの司令官はともかく、他は信じてない。どう考えても怪しすぎるしな。

 でも、士道を____あのお人好しのバカ二号を、放っておけない。

 普通いないぜ?目の前で爆発起こした張本人と、普通にお話ししたいです、だなんてさ」

 

『……彼は子供だ。何もわかってない、若気の至りさ。

 少なくとも善人であることは分かる。だからこそ、危うい』

 

 巧にしては珍しく、他者を慮るような声音が混じっていた。

 

「分かってるさ。……だからこそ、俺がいる」

 

 戦兎は目を閉じ、静かに笑った。

 ドラゴンボトルを握りしめ、決意を露わにする。

 

「何つーか、支えてやりたくなっちまったんだよ。

 バカみたいで、甘くても___そこに誰かを救える可能性があるなら、迷わず飛び込める。

 そんな馬鹿をさ」

 

 その言葉に、巧は沈黙した。

 

 エボルトを倒すことだけを考えていたかつての自分は、そんな理想論を切り捨てていた。

 やむを得ないと感情を押し殺し、かすかな希望に縋ることを辞め、ただ科学だけを信じて。

 

 だが桐生戦兎は、そんな理想論を本気にしようと血反吐を吐いて、人の感情を、希望を最後まで信じ____エボルトを倒した。

 

『……やはり、分からないやつだよ、君は』

 

「きっとすぐにわかるさ。

 ()()()()なんだからな」

 

 戦兎のその言葉に、巧はやはり難しそうな顔をしつつも、決意を固めたように口を開いた。

 

『だったら僕は、君の『理性』として見極めることにするよ。

 君が希望を信じるならば、僕は()()()()()()()

 君とあの少年のしようとしていることが、どこまで通じるのか___その答えを』

 

 その言葉と共に、巧の意識が戦兎の中に再び沈んでいった。

 

「___頼むよ、相棒」

 

 戦兎もまた、そう呟いて眠りについた。

 今までで一番、よく眠れた夜だった。

 

 

 

 ____翌日。

 

「……訓練として、この恋愛シミュレーションをプレイしたまえ」

 

「なんでだよ!」

 

おはよう、お兄ちゃん!今日もいい天気だね!

 

「あんたらホントに世界救う気あんの?」

 

 ____やはり間違えたかもしれない。

 

 戦兎は夜の決意が早くも揺らぎそうになっていた。

 




 本来この話で万丈を出す筈だったんだ、それだけはハッキリさせたかった。
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