巧「そんなに説明が必要な事はまだしていないだろうに」
戦兎「茶々入れるんじゃないよ!これから見てくれる人たちに説明するのは大事でしょーが。
じゃあ早速____」
神無月「遠い世界、遥か彼方の銀河系で、地球外生命体【エボルト】を倒した、仮面ライダービルドこと桐生戦兎は、目が覚めると全く知らない異世界にいた。
そこはエボルトを倒したことで創られるはずだった新世界ではなく、空間震と呼ばれる謎の厄災に見舞われる、新たな困難を予感させる異世界なのでありました」
戦兎「なんで神無月さんがあらすじ紹介してるのさ!
どっかで聞いたような言葉選びだし」
神無月「良いではないですか。こういうのも、悪くないですね」キリッ
戦兎「無駄に良い声してるよなぁ……」
士道「その後、戦兎は目覚めた世界で出会った少年、五河士道____自分の事フルネームで呼ぶの変な感じだな。琴里~、代わりに読んでくれ」
琴里「しょーがないわね。
こほん。少年、五河士道と行動を共にし、空間震の原因となる謎の美少女、【精霊】の存在を知ることになる」
神無月「あぁ、司令のお声は何度聞いてもお美しいィッ!!」
戦兎「ハイそこ、お約束のようにいちいち暴走しないの。
そしててぇん才!物理学者の桐生戦兎と、高校生の五河士道は、精霊をデートしてデレさせることで空間震を収めようとする、中学生と愉快な仲間達!
……もとい、秘密組織の【フラクシナス】に所属することになるのでありました!」
巧「さあ、第七話はどうなるのかな?」
戦兎「あっ、コイツ締めの台詞だけ持って行きやがった!」
巧「たまにはいいだろう?
僕だって、君なんだからね」
時間を少し遡り、朝の6時。
戦兎がいたのは五河家ではなかった。
「……ねぇ~俺昨日の事情聴取で疲れてるんですけど」
『すぐに終わるわ』
「モーニングに士道のベーコンレタスサンド食えるはずだったんですけど」
『ターキーとトマトを追加でご馳走してあげるわよ』
天宮市上空の空中艦フラクシナス。
五河琴里に『ファッキン起きなさいこの変態物理学者』と叩き起こされた戦兎は、またもあのテレポートでフラクシナスの一室へ瞬く間に移送されたのだった。
ちなみに和室ではなく、真っ白な中に椅子と机が一つある簡素な部屋である。戦兎は椅子に座らされ、机には数枚の問題用紙と、解答用紙が置かれていた。
琴里は部屋の壁のうち一つに設けられたガラスの仕切りの向こう側から話しかけている。
「……なんで朝六時にテストなワケ?」
『あなたがラタトスクの協力者に足る頭脳を、その言葉に違わないほど持ち合わせてるかどうか。
ま要は採用試験みたいなものね』
「昨日仲良くしましょ♡、ってしたばかりじゃんか。
ピアノに向かってあなたは音を出せますかと訊くようなもん『椎崎、よろしく頼むわよ』……聞いてねえし」
戦兎の言葉をスルーして部屋に入ってきたのは、片目が隠れた、長い黒髪の特徴的なレディだった。
「あら、美人さん」
『うちのクルーの
今回の試験監督』
「……よろしくお願いします」
『二つ名は
「その情報今いる?」
丁寧にペコリとお辞儀をすると、戦兎の横に立つ。
「それでは、準備が出来たら始めてください」
「綺麗な髪してんねぇ、今度お茶しない?」
『何うちのクルー口説いてんのよ』
戦兎の軽口に顔をほんのりと赤らめる椎崎。なまじ顔が良いので普通にちょっと嬉しかった。
呆れた口調で眉を顰める琴里は、「めんどくせー」とぼやいてテストを始めた戦兎への視線を細める。
「あ。一つ質問だけど、これ早く終わったら次のテスト受けていい?」
『良いわよ。早く終わったら、の話だけ「よっしゃサンキュー」……あと一文字分くらい最後まで聞きなさいよ』
なんとも呑気そうな彼の言葉に、嘆息しつつも姿勢を直す。
自分を天才と言って憚らない、『仮面ライダービルド』なるものへ変身する謎の青年。
昨日は協力者としての約束を取り付けたものの、ここで今一度見極めねばならない、という司令官としての使命感に燃えていた。語呂がイイね。
「(ここで詳らかにしてやるわ……)」
ついでに、あの掴みどころのない化けの皮を剝がしてやりたいという悪戯心も一つ。
それはもう悪い顔をしていた。
_____2時間後。
・桐生戦兎
国語総合:150/150
数学:100/100
言語:200/200
物理:100/100
生物:100/100
etc……全て満点
「……驚いたね。スタンフォードやイェールの試験問題も混ぜてみたのだが」
「そ、そんな馬鹿な……」
「全問満点のテスト用紙、生まれて初めて見ました……」
「
令音と琴里、椎崎の目の前には、全解答文句なしの満点を叩き出した答案用紙が置かれていた。
想定された試験時間を超大幅にカットして、淀みないペン捌きでつらつらと解答を書き連ねていく戦兎の姿は、いっそ見ていて怖いほどだった。渦中の戦兎は眠そうな目をこすりながら、ターキーとトマトを加えたBLTサンドを口いっぱいに頬張り、缶コーヒーでぐいぐいっと流し込んだ。
端末を操作しながら、令音が淡々と告げる。
「……思考力、記憶力、言語力____あらゆる数値に於いてトップの水準を叩き出している。
断言しよう、琴里。今のフラクシナス、否、ラタトスク全体で見ても、彼以上の頭脳を持つ人間は存在しない」
「どーもどーも。
……うーん、ターキーにトマト、ベストマッチ」
「……何よ、随分と反応が薄いじゃない。
もっと昨日みたいに
『俺って天才だしい~!?この程度は余裕で溶けちゃうモンねぇエ~~!!ペッペロぺェ~!!』
とか何とかさえずるのかと思ったわ」
「桐生戦兎はそんなこと言いませんッ!!
てか『解ける』の字ぃ違うし!」
「他にツッコむところあると思います」
椎崎の冷静な言葉を余所に、自分はなぜこんな言われてるのか不思議でたまらないような様子の戦兎。
ご馳走様、と食べ終えたサンドの包み紙を綺麗に折ると、口に残ったものをコーヒーで流し、空になった缶を潰す。
「知識は調べれば誰でも身に着けられる。思考力や言語化も訓練次第。
俺を天っ才たらしめるのは、そこから
「どのテストよこのテスト?」
折り畳んだ包紙をピーン!と立てながら言う戦兎に、琴里が先の解答用紙片手に半眼になる。
「……テストか」
一方、先ほどまでのやり取りを一切の表情を変えずにじいっと見ていた令音は、何かを考えるように顎に手を付ける。
そして思い当たったことがあったのか、琴里の方へ顔を向けた。
「……琴里。今日の午後三時に来禅高校へ向かう手筈だったね?」
「え?ええ。どうしたの令音」
「……一つ提案があるのだが」
◆
来禅高校、二年四組にて。
「___なあ五河知ってるか?隣のクラスに新しい副担任の先生が入ったんだと」
「ほぇ~」
「なんだよつれねぇなあ。疲れてんのか?」
「まあ、そんなとこ」
ワックスで逆立てた髪が特徴的な士道の悪友、
しかし士道はそんな事よりも、今朝いつの間にか帰宅していた妹の手によって拉致された戦兎の行方の方が気になっていた。寝起きでものすごーくイヤそうな顔をしていたのを覚えている。
「で、どんな人だよ」
「残念ながら綺麗なおねーさんではなかったんだがな。
噂じゃ結構なイケメンらしいぜ?カーッ、妬けるよなぁ!?」
「へ―、イケメンね」
「……なんだその反応。お前まさか遂にそっちの道に……!」
「なわけねーだろ。いや、昨日からうちに居候してる、あー……親戚の人がいるんだけどさ。
その人もまあ、顔が良いんだよな。芸能人かよってくらい」
「へー、五河家にそんな人がいたとは」
などと軽口を交わしていると、午後の授業の予鈴が鳴り響く。
「五時間目は物理か」
「うげっ、そうだった。
なんで新学期始まって早々に物理なんかあるんだよ、センスがないぜ」
「時間割にセンス求めるのもナンセンスな気がするけどな
でも多分、最初だしガイダンスとか簡単な奴だろ」
理系科目全般が苦手な殿町がしかめっ面で教科書とノートを出す。
士道も同じく準備をしながら、この二日間『物理』という単語をやけに聞いたな、と感じた。
頬杖をつきながら席で待っていると、現れたのはクラスの担任、
「あれ?なんでタマちゃん先生?」
生徒と見紛うばかりの童顔と低身長、メガネが特徴的な生徒たちの人気者だが、彼女の教科担当は社会科である。
少しずれてたメガネを直すと、ちょっと戸惑い交じりの声音で口を開いた。
「え~、新学期も始まって二日目ですが、皆さんに新しい先生を紹介します。
____
「………んえッ!?」
先生から発されたその苗字に、間抜けな声と共に頬杖を崩す。
息を吐く暇もなく、再びドアが開き、一人の男が軽快な足音と共に入ってくる。
「___初めまして。天っ才物理教師の桐生戦兎です!」
「ぶッ!?」
五河士道は、突如教壇に現れた見覚えのありすぎるトレンチコートの人物に噴き出した。
早朝琴里によって、「俺のベーコンレタス~!」との断末魔を上げながら拉致された恩人であり居候、桐生戦兎。
「?どうしたんだ五河」
「い、いや、なんでも……」
妙に教師としての佇まいが様になっていたのが、ツボにはまった。
「書類の手続きが遅れたようで、今朝急遽決まったようです!
今日から桐生先生が物理を教えてくださります!」
ほわほわとした笑みを浮かべながら、珠恵が紹介をする。
生徒たちの反応はまちまちだった。
「うっはーイケメンじゃん!アイドルみたい」
「でも自分で天才って言っちゃってる」
「マジ引くわー」
クラスの仲良しトリオ、
自称天才で、ノリも軽そう。先生としては、あまり印象が良くなかった。
「……あの人は、確か」
その中で、士道の右隣に座った白髪の少女、鳶一折紙は、彼の姿に記憶が刺激されるのを感じた。
昨日、士道の隣にいた人物であったことを思い出す。しかし一先ずは黙り、様子を伺う。
「好きな食べ物は卵焼きとアジの開きです。
みんなよろしくぅ」
渦中の戦兎は特に気にするでもなく、好きな食べ物を言ってぱらぱらと手を振る。
「それでは桐生先生、後をよろしくお願いします」
「まっかせて下さい、タマちゃん先生♪」
キメ顔で早速あだ名を呼ぶと、珠恵は「キャ~!」と赤い声を上げながら笑って教室を去った。とてもアラサーの先生には見えなかった。
珠恵がいなくなると、戦兎はクラスを見回す。そして士道の姿を見つけると、彼にだけ分かるようにウインクを交わした。
「(後で説明するから)」
「……」
言いたいことは山ほどあったが、言外にそういわれた気がして、一先ず押し黙った。
そして手をパン、と一つ叩き、視線を正面に向ける。
「はい、みんな教科書
『!?』
開始一言目で、テスト以外では聞かない言葉を宣う戦兎先生。
「大丈夫、高校二年生の指導要領は頭に入ってます。
何故仕舞わせたのかというと、俺の授業の方が百倍面白いし分かり易いからです」
自信満々に、一切の疑いなく言う戦兎の言葉に、懐疑的な様子を見せるクラスの面々。
しかし、彼の言葉と態度に妙な求心力を感じたようで、一先ずは皆言われたとおり、用意していた教科書を机やカバンにしまい込む。
「さあ____授業を始めようか」
___そこからは、圧倒的だった。
後に『来禅のトニー・スターク』との異名をとる事になる、桐生戦兎の初回授業。
眠った生徒は誰もいなかった。
◆
「……それで、どういう事なんすか戦兎さん」
「お前の手助けだよ。
それには近くにいる方が何かと都合がいいからな」
着いて来て欲しいと、廊下を歩く戦兎と士道。
殿町が「俺物理が楽しかったの生まれて初めてだ」と言わしめる程の授業を展開した後、士道を呼び出し今こうして歩いていた。
「この世界に戸籍ないんでしょ?どうやって潜り込んだんですか」
「ラタトスクがぱぱぱーっ、と根回ししてくれたらしい。
「……」
どうやら善意100%だけで引き受けたわけではないらしい。
嘆息し、職員室の横を通る。「お疲れ様でーす」と、窓から見えた先生方に戦兎が挨拶する。第一印象は大事。
その時。
「おにーちゃぁぁぁぁぁん!」
大声と共に、髪を二つ結びにしたちまっこい影がこちらに突撃してきた。
「ぎゃんっ……!」
「あははは、ぎゃんだって!白兵戦用だー!あはははは!」
「こ、琴里……っ!?おまっ、何だって学校まで……!」
腹にまとわりついた琴里を引きはがそうとする、士道の姿を見て。
「琴里…………………………………………だって?
戦兎はまるで狐に化かされてるような信じられない表情で、その
あの美空と凶暴な時の幻徳を足して二倍に濃縮したような小生意気っちーな中学生が、こんな見るからに脳足りんそうな____
「あはは!戦兎
「ちょ、おじさんじゃなくてお兄さ「ねー?」いや、だから」
「ね・ぇ・えー?」
「…………ウっス」
満面の笑顔のはずなのに、何故か凄まじい圧を感じた戦兎はおとなしく押し黙った。
すると、琴里が進んできた廊下の向こうから、何者かがフラフラとした足取りで歩いてくる。
「……やあ」
「って、村雨解析官!?」
現れたのはフラクシナスの隈クマ美人解析官、村雨令音だった。
白衣の上には教員用のネームプレートが付けられ、胸ポケットには変わらず傷だらけのクマさんが覗いている。
「令音さんもお前のサポート。
お前のクラスの副担任で、教科は化学」
戦兎の説明にうんうんと頷くと、士道の顔を見た。
「……そういう訳だ。私もここで世話になる。
えっと確か……しんのすけ、だったかな」
「いや、そんな五歳児みたいな名前じゃないです」
「?……では、しょういち?」
「士道です!五河士道。し、しか合ってねえし!」
シャウトした士道に構わず、やはりうんうんと頷いて答える。
「……そうか。ではシン、早速案内しよう。
__君の強化訓練だ」
やはり『し』しか合っていないニックネームを呼びながら、やや確信めいたような表情で___僅かに目の端が上がって程度であったが___令音が言った。
案内されたのは東校舎の四階にある、物理準備室。隣には化学準備室も併設されている。
「ほーん、ここが俺の城ってワケね」
「……今後は桐生戦兎と私が管理することになる。さ、入りたまえ」
「入ろー、入ろー♪」
「ハイホーハイホーじゃねえんだからさ」
琴里の呑気な掛け声とともに入室する。
扉を開けて飛び込んだ光景に、士道は我が目を疑った。
「……あの、令音さん、戦兎さん」
「どしたん」「……何かね?」
「ここホントに物理準備室ですか?
ミレニアム・ファルコン号のコクピットか何かの間違いじゃないすか?」
士道の目の前にあったのは、いくつものコンピュータにディスプレイ、よく分からない機械が十はくだらない数、電子レンジ____断言できる。ここは物理準備室じゃあない。
「「部屋の備品
「息ぴったりだな!?」
シャウトする士道をスルーして、三人は中へ入る。
琴里と令音が椅子に座り、戦兎も部屋の主とはいえまだ見慣れていないのか、部屋をあちこち物色していた。
すると琴里が慣れた動作で白いリボンを解き___
シュルッ!(白リボンを解く音)
シュバッ!(黒リボンを結ぶ音)
カチャッ!(飴玉ホルダーを開く音)
ブゥオン!(飴玉を口に放る音)
「いつまでそこに案山子の如く突っ立ってるのよ士道。
的当てゲームの的にでもなりたいのかしら?でもあなたみたいな間抜け面じゃあ、弾の方が避けて行っちゃうかもね。よかったじゃない、痛い思いしなくて」
「「…………」」
ジキルとハイドもかくやと言わんばかりの変貌を遂げた琴里を前に、士道と戦兎は一瞬で部屋の隅へ退避した。
「戦兎さん、早くも心折れそうなんすけど!あれ思春期で片づけていい奴なの!?」
「俺はまずお前の妹があんなキャラだったことに驚いてるよ!何だあの脳足りんなゆるふわ系!」
「誰の妹が脳足りんじゃ!いや、本来はさっきの感じなんですよ!ここ数日が可笑しいんです!」
「お前やっぱシスコンじゃん」
「シスコンちゃうわ!」
「さっきから聞こえてんのよこのツインパー!いいからこっち来なさい」
目じりを釣り上げた琴里の怒声に、いそいそと二人のところへ寄る。
「……さ、シン。我々の作戦に乗る以上、君にはクリアしなければならない課題がある」
令音が足を組み直しながら、士道に告げた。
「課題、ですか?」
「……単純な事さ。女性への対応に慣れてもらわなければならないんだ。
聞いた話じゃあ、君は女の子との交際経験がないんだろう?」
「………」
「何よ。事実じゃない」
さりげなく兄の恋愛遍歴を暴露してくれやがった妹をにらみつける。
「まあまあまあまあハハッ、気にするなよ士道少年。まだ君の人生は始まったばかりだ。
今までがまっっったくモテなかったとしてもブフッ、焦ることはないさ」
「慰めてんのか馬鹿にしてんのかどっちなんすか」
ニヤリと口角を上げた戦兎の絶妙にイラっと来る声に反応してると、令音が再び切り出した。
「……対象の警戒心を解くためには、まず普通に会話できるようにならなければならない。
交渉役である君が緊張していては、話にならない。故に____」
令音がエンターキーをカチャッと押す。
瞬間、ポップでペラッペラな音楽と共に、百味ビーンズのようにカラフルな髪の美少女がいっぱいの画面が表示された。
題して曰く、『恋してマイ・リトル・シドー』。
「……訓練として、この恋愛シミュレーションをプレイしたまえ」
「なんでだよ!」
『おはよう、お兄ちゃん!今日もいい天気だね!』
ピンクのパンキッシュなツインテールの少女が、何とも歯抜けな声を画面越しに響かせる。
士道のシャウトに呼応するかのように、戦兎はそれはもう深い深いため息を吐いた。
「……あんたらホントに世界救う気あんの?」
「失礼ね。これは『ラタトスク』総監修の、恋愛リアルシミュレーション。
どこぞの場末のギャルゲーなんかと一緒にされちゃ困るわ」
「こんなポイフルみたいな髪の女の子がリアルに何人もいるか!」
「今あんたの目の前にいるじゃない」
「………確かに」
あくまでも冷静に言葉を紡ぐ、燃えるような赤毛の女の子。
なるほど、この世界では遺伝子的にこういう髪の毛が当たり前らしい。改めて元の世界とはやはり、違う世界だという事を見せつけられた。
と、その時。
_______ピピ、ピピ、ピピ、ピピ
「……ん?」
琴里の耳元から、小さいピープ音が流れる。
疑問符を浮かべながら、琴里は耳元に手を当てた。
「どうしたの?何か異常事態でも………何ですって?
_____分かったわ。今向かう」
琴里は通信を切ると、何やら神妙そうな面持ちで、戦兎の方へ顔を向けた。
「桐生、少し付き合ってもらうわよ」
「………ん?」
琴里の言葉に、一瞬考えて。
「……すまん、俺中学生はちょっと」
「告白してるんじゃないわよ」
どこか懐かしいやり取りの後、琴里が語った言葉に、戦兎は目の色を変えた。
◆
時は一時間程前に遡る。
「…………早く焼き上がらねぇかなぁ〜……」
川原で体格のいい、筋骨隆々の茶髪の男が、焚き火に当たりながら魚が焼き上がるのを待っていた。ホームレスにしては身なりが良く、一般人にしては些か汚い、なんとも微妙な塩梅の格好だった。
我々はこの男を知っている!
この筋肉を知っている!
この頭のエビフライを知っている!
そして。
「いやー、お前が火ぃ吹けるおかげで助かったぜ。……あ、折角だからよ、この魚このままブワーって焼いてくれよ!」
『ギーギギーッ!』
「アッツ!……ってあぁッ!黒焦げじゃねぇかよぉ〜!!何すんだよ貴重な一匹なのに!!」
『ギーガガ』
この馬鹿を知っている!
傍にいた、小さな青いメカドラゴン___【クローズドラゴン】の吹いた炎が、三つあった魚のうち一つを炭に変えた。
「……ったく、どうなってんだよこの世界」
男の名は、【
だいたい二日前くらいに、世界を救う大きな戦いを終えたヒーローである。
「戦兎もいねえし、金も使えねえし、妙な警報が鳴るしよぉ………」
地球外生命体エボルトとの壮絶な戦いの後。気付いた時にはこの世界に丸腰で放り出されていたのだ。
町中を歩いてもどこか分からず、持っていた僅かな金も使えず、スマホも壊れて八方塞がり。
ようやく辿り着いた橋の下の川辺で、ずっと野宿生活をしていたのだった。
「日雇いの仕事でも探すかぁ〜。
……お、これいけんじゃね?……はぐっ」
こんがり焼き色のついた魚にありつきながら、ぼんやりと考えていたその時。
______ブゥゥゥオォォォォ!!!
「あ?はんは?」
突然、周囲の空気が揺れた。
揺らぎと共に聞こえた音の方向へ、あんぐりと魚を咥えながら首を向ける。
視界に映ったのは、こちらへ降りてくる渦巻き。
そして間髪入れず、凄まじい圧力の暴風が吹き荒れた。
「うぉおおおおーーーッ!?」
『ギガーガ!』
焚き火が消しゴムで消されたようにあっさりと掻き消え、残った魚も遥か彼方。
河原の石に腰を強かに打ちつけ、痛みに震えながら周囲を見渡す。
「なんだっ、どうなってんだ!?」
やがて強風が霧散し、再び静寂が訪れる。
いや、それは正確ではない。万丈の周囲のみ風は無く、周囲には依然として強風が吹き荒れていた。
その無風地帯の中心に。
「______くくっ、くくくくく」
一人の少女が存在していた。
「………女?」
怪訝な表情になりながら、その少女を見る。
暗い色合いの服に、まるで罰ゲームかのように締められたベルト帯と、錠前に手枷、足枷。
昨今の囚人でもこうはならないだろう____少なくとも自分はボロいシャツだけだった____という痛々しい服装だが、ハッキリ言ってそんなものは全く気にならなかった。
夕焼け色の長髪に、目鼻立ちの整った容姿。片手に握られた、身の丈ほどもある巨大な槍。
そして背中から生えた____銀色の片翼。
「いや……天使?」
「______む?」
万丈の存在にそこで気がついたのか、怪訝そうな声を漏らしながら彼の方へ視線を向ける。
「ふ………よもやよもや、我の修練場に人間が立ち入ろうとはな」
「あ?」
「分かっておるぞ人間。
この魔眼が放つ魔力の前に、平伏すしか無いのであろう?
恥じる事はない、この颶風の御子たる我の威容の前に圧倒されるなど、太陽が
「……何言ってんのかさっぱり分かんねぇ」
やけに芝居がかった口調で、じりじりと万丈に歩み寄る。
右手に握られた黒い槍が、陽光に照らされ妖しく光っていた。
「悪い事は言わぬ、我が
「は?」
ちょっとデカい石にこけた。
「……」
「……」
沈黙が訪れる。
やがて少女は土埃を払うと、咳払いを一つして再び顔を手に当てた。
「く……くくく。
よ、よもや、この颶風の御子たる我に膝をつかせるとはな。褒めて遣わすぞ」
「………」
若干涙目になりながら仕切り直した少女をしばらく見つめると。
「もしかしてお前…………」
「む?なんだ、この我が何者か知って____」
「バカだなぁ!?」
「ち、ちがうしッ!?」
喜色満面の表情になりながら万丈が指を指す。
例えばそう、見知らぬ旅行先でたまたま知り合いに遭遇したとか、新天地で自分だけ友達がいないと思ったら、実は仲間がいましたとか……そういう類の同類を見つけた時の、それは喜び方であった。
「し?」
「あっ……ん、んっんっ…。
この颶風の御子にして、風の精霊たる我にそのような無礼____万死に値するぞ、人間」
「っ……」
瞬間。眼前の少女の纏う雰囲気が変わったのを、万丈は肌で感じ取った。
格闘家として強い選手と相対した時。
初めてスマッシュと対峙した時。
或いは、世界を滅ぼさんとする敵と対峙した時。
これまでの人生の中で幾つも感じた、強敵との戦いの前にある、ヒリ付いた肌の興奮が、万丈の頭を冷やした。
_____ブゥオオオオオ………ッ!!
「っ……へぇ~、めっちゃ涼しい風じゃねえか」
少女から放たれる強風を耐えながら、真っすぐに見据え挑発する。
_____綺麗な奴だな。
異様すぎる出で立ちと、銀色の翼。
しかしそれらを吹き飛ばすほどの、誰かと比べるのも馬鹿らしいような美貌。
「まっ、香澄の方が百万倍可愛かったけどな」
「んなぁっ!?何なのアンタ!さっきから初対面の相手に対して失礼すぎるし!!
知らない人の前で知らない人の話しないでくれる!?」
「はぁ!?そっちこそふざけんなよ、人の焼いてた魚吹き飛ばしやがって!!」
「知らないし!近くにいたそっちが悪いんだからねっ!!」
「しょうがねえだろ今住むとこねえんだから!」
はーっ、はーっ、はーっ。
初対面の男女二人が激しく、しかしどこか下らない口喧嘩を繰り広げる。
ひとしきり落ち着いた後、少女はこほんと息を整え、左手を顔に翳し、何やらカッコつけたような仕草で言葉を続けた。
「…………まあいい。
それにしても、誉めてやろう人間。風を操る精霊たる、我の放つ風を前にして、膝を付けぬとはな」
「お前のキャラどっちなんだよ」
「キャラ?ふっ……何のことやら。
全てはお主を欺くが為の我が諫言よ。さぁ、命が惜しければ、疾くこの場より立ち去ると良い。でなければ……」
言い切るより前に、少女は手に持った、黒く破砕ドリルのように巨大な大槍の穂先を万丈に向けた。
「先ほどまでの侮辱の数々、貴様の身体を以て対価を支払う事になるぞ」
「……何言ってんのかさっぱり分かんねえけど、喧嘩なら買わねえよ。
女を殴る趣味はねえ」
「ふっ、随分と優しいことであるな。
だが……この風の中にあっても、同じことが言えるかな」
______ブゥゥゥゥゥォオオオオ……ッ!!
「ッ……!!」
全身の産毛が逆立つような烈風が、周囲を包み込む。
万丈は頬を伝う汗を拭うと、深呼吸を一つして、頬をパチン!と叩いた。
「……しょうがねえ、上等じゃねえか。
精霊だかペイペイだか知らねえが……」
異様な風を放つ少女を目の前にしながら、それでも臆する様子はなく。
小汚い服に仕込んでいたもの____【ビルドドライバー】を取り出し、腰へ当てがった。両サイドのスリッドからアジャストバインドが伸び、万丈の肉体とドライバーをガッチリと固定する。
『ギーギギーガガ―!ギー・ギー・ギ―ッ!!』
機を計らったように、どうにか暴風から逃れたクローズドラゴンが飛来し、首と尾を畳んで万丈の手元へと収まる。
「避けらんねえなら、正面からぶつかってやるッ!!」
そして右手に持った、フルボトルとは異なる形状をした金のドラゴンのボトル___【グレートドラゴンエボルボトル】を握りしめ、クローズドラゴンの穴へ差し込んだ。
瞬間、クローズドラゴンを構成する色が滲むようにして変化していき、【グレートクローズドラゴン】へとその姿を変える。
前部に設置された【ウェイクアップスターター】のボタンを押すと、野太い叫び声と共に、クローズドラゴンの変身システムが起動した。
「えっ何それ、カッコ………じゃなくて!ふ、ふん。何をする気だ?」
万丈が始めた行動と、その手に収まったドラゴンに対し、少女は不遜な態度に努めようとしながらも、その水銀色の両目からはチラチラと好奇心の色が見え隠れしていた。
万丈はやや得意げな眼差しをしながら、ドラゴンをドライバーのスロットへセットした。
宣誓を告げる声が鳴り響く。
クローズドラゴンに搭載された内燃機関、【ボルケニックチャージャー】が、グレートドラゴンエボルボトルの成分を超高熱で刺激し、そのエネルギーを増大させていく。
さながら龍の叫びにも似たエネルギーの増幅音と共に、万丈がやや粗暴な動きでドライバー脇のハンドル、【ボルテックチャージャー】を回すと、成分が循環した【スナップライドビルダー】に、万丈の全身を包み込むアーマーが形成された。
先までの野太い声から一変し、冷や水を浴びせるような問いかけが響く。
しかし万丈は寸分の迷いなく、拳を掌に打ち付けると、ファイティングポーズを決めて叫んだ。
その声が最後のカギとなり、展開されたアーマーが万丈を挟み込む。
「ウオォォォォォ____ッ!!」
全身に漲る力を感じながら、姿を変えた万丈が雄叫びを上げる。
深い青と、血のような臙脂色のボディ。
龍の頭、或いは
その全身をまるで抱き締めるように包む、これまた龍の意匠の鎧。
その名も、【仮面ライダーグレートクローズ】。
「今の俺は_____負ける気がしねぇッ!!」
嵐の中、再誕。
十話も経たないうちに一か月ほっぽらかした作者がいるらしいな。