シャーレの新任先生:ディメトリアン・タイタス 作:ブラックヴァイパー候補者
空に浮かぶ大量の光輪。乱立する大量のビル。その中でも特に目立つ、塔のように空へと延びる建造物でキヴォトスの中心にあるサンクトゥムタワーにて一人の少女―――七神リンは『とある男性』の資料を読みながら慣れた様子で自身に宛がわれた執務室へ向かっていた。その資料とは今日着任予定の『先生』となる『とある男性』の経歴、客観的視点から見た内面、そのほか様々な個人情報が『英語』で書かれたものだった。彼女はこのサンクトゥムタワー内に本部を置き、キヴォトスの全行政を担う連邦生徒会の幹部の一員であり高度な知識が必要なマルチリンガルとなる技能を持つのは当然であった。しかし言葉はどうにかできても内容は到底受け入れられるものではなかった。
「連邦生徒会長……いくら何でもこれは荒唐無稽過ぎます」
そう呟いて溜息を一つ吐き出す。その資料は以前、上司である連邦生徒会長から直接手渡された。曰く今後のキヴォトスにおいて最重要人物になると当時聞かされていたため、情報の見落としが無いように幾度となく読み直した。だが読み直す度に資料に記された情報の不可解さに混乱してしまった。略歴に書かれた年表は遥か未来の年数を記し、キヴォトスどころかこの星以外の惑星の名や宇宙で活躍する戦艦の名が当然のように出てきて、訳の分からない用語が差し込まれた文章が乱立する。連邦生徒会長から手渡されたものでなければ既に投げ捨てていただろう。
そして彼女が抱える悩みはそれだけではなかった。
「それに、本当に来るのですか?未だに到着の報告すらないのに」
その呟きも誰にも聞かれることなく、ただ虚空へと消えた。
『先生』という役職は通常であれば教職員なのだが、ここキヴォトスでは連邦生徒会長が立ち上げた『連邦捜査部
やがてリンは自身の執務室の前に辿り着き、いつものようにドアノブへと手を伸ばした、その時だった。執務室の中からとてつもなく重い何かが叩きつけられたような音と衝撃が響いた。それは同じフロア全体に届き、衝撃に至っては上下の階層にも伝わった。
「なっ……今のは!?」
音を出した存在がどういうモノなのかも考えずに衝動的に執務室のドアを開ける。その先にあったのは『巨大な青い人型』が仰向けで横たわっていた。何もない筈の場所にいきなり現れたこの存在に警戒しなければならないのだが、その見た目と特徴的な装飾―――胸の髑髏とそれから生える両翼、頭部の赤と白のラインと月桂冠らしき金色の装飾、左肩のギリシャ文字のオメガの大文字を上下ひっくり返したような紋章―――は連邦生徒会長の資料にあった情報と一致していた。それを認識したリンの行動は早かった。
「もしもし、大丈夫ですか!意識はありますか!」
人型の頭部まで四つ這いになってでも近付き、頬をはたくように頭部を軽く叩く。資料にある通りならこの頭部はヘルメット。軽く叩いた程度なら傷つけることなく、意識があるかも怪しい相手に気付かせるには十分なはずだと自分に言い聞かせる。そして何度か叩いているとバックパックらしきもので背中から押し上げられて垂れていた頭部がいきなりもたげた。
「もしもし、起きて下さい!」
*
先生、もといタイタスが目を覚ましてから早くも10分が経過した。タイタスが出現した時の衝撃と音で野次馬のように引き寄せられた連邦生徒会の面々は強引に追い返し、今の執務室には主である七神リンとタイタスだけが残っていた。
「……確かに俺の経歴の全てが載っている。俺の記録を
「その『ちゃぷたー・らいぶらりうす』というのが何かは分かりませんが、これで私の言葉は嘘ではないとご理解いただけましたか」
「ああ、ここまではっきりした証拠があるなら信じるしかあるまい。お互いに信じがたい事象だらけだがな」
件の資料を手に取り、タイタスはリンの言葉にそう答える。
タイタスが目覚めた直後、眼前にいたリンを
「……それでだ。俺の情報が事細かに書かれているのはいいが、こんな代物がある以上は俺を必要とする何かがある、と受け止めていいのか?」
「ええ、そうです。今はどうしても、貴方にやっていただかないといけないことがあります。この学園都市キヴォトスの命運をかけた大事なこと……ということにしておきましょう」
「学園都市だと?」
聞きなれない単語に思わず聞き返してしまうタイタス。サングィニウスの手紙を直接読まず、要点をまとめた物を聞いただけ。タイタスにはキヴォトスに関する全てを知っている訳ではない。しかしキヴォトスが学園都市であるという情報は一切出てこなかった。あのグィリマンがそのような情報を抜いて説明したとは考えもつかない以上、最初から書かれていなかったと考えるのが妥当だった。そのような欠落した情報源にしたのも自分をキヴォトスへと導く策の一つではないかとタイタスは思い始めた。
「どうかしましたか?」
「……いや、気になることがあっただけだ。落ち着き次第、俺の疑問を説明して貰えば十分だ」
「そうですか。ではついて来てください。まず連邦生徒会長より貴方へ贈り物があります」
そう言うなりリンは立ち上がり室外へ向けて歩み始めた。タイタスも低すぎる天井や狭すぎるドアフレームに若干苦戦しながらそれに続く。そして無言のまま数分間移動し、彼女の―――ひいては連邦生徒会幹部の一人一人に宛がわれた執務室と違いネームプレートも飾られたドアもドア横の窓もないシンプルな部屋の前に到達する。
「ここにあるのか?」
「はい。本来ここは備品室で別の場所で保管しておく予定でしたが、ここで先生に引き渡すようにと厳命がありました。先生に必要な物だから、と」
「……その呼び方は慣れそうにないな」
特に問題なく入室したリンの後に続いてゴリゴリとアーマーとバックパックをドアフレームに擦りつけながらタイタスも入室する。そこには内装に似合わぬデザインをした、タイタスだけは戦場で見慣れた物が鎮座していた。
「これが先生に引き渡す……何か、です。すいません、これが何なのか私たちにはさっぱり理解ができていなくて。せいぜい人骨が部品として使われている以外は何も……」
「いや、大丈夫だ。こいつは俺の方が慣れている」
タイタスはそう言ってから人骨―――サーボスカルへと手を伸ばし簡略化した起動の儀式を行う。リンが訝しげに視線を送ってきているのは無視して
「ウルトラマリーン第2中隊所属、タイタスだ。ドロップポッドを開放せよ」
命令を受けたサーボスカルはカチカチと音を立てながらランプを明滅させて元の場所へと収まった。その直後、底面が正方形の面に配置された4つの側面の外装甲板が倒れ、スペースマリーンの標準装備ともいえる銃器が姿を露わになる。
「な、何ですかその銃は。銃本体も弾倉もそんな大きさのものは……」
「俺の、いやスペースマリーンの標準装備ともいえるボルトライフルだ。それだけじゃない、ヘビィボルトピストルにチェーンソード、クラックグレネードまであるとは。まともな
慣れた手つきで武器を引っ張り出して携え、予備マガジンとグレネードを腰のポーチへと収める。最後に動作チェックと
「これで良し。準備はできたぞ」
「そう、ですか。それではこちらへ。下階へ向かいます」
リンに連れられ、今度はエレベーターまで移動する。当初、タイタスは自身の総重量―――日本の軽自動車の特に軽い車種と大差ない重量を理由に同乗を拒否したが15人も乗れる特大サイズであると説明を受け、釈然としていなかったがおとなしく身を屈めて乗り込んだ。
扉が閉まり数秒後、エレベーターに備え付けられた展望用の窓にサンクトゥムタワー近郊の情景が現れる。
「これが……キヴォトスか」
「はい、数千の大小様々な学園が集まってできてる巨大な学園都市です。これから貴方が、先生が働くところでもあります」
「数千、か。惑星一つを訓練地とすることは多々あったががここまで巨大な学園都市は『帝国』のどこにもなかったはずだ」
「……惑星一つというスケールが当然のように出てきたことと、憶測であっても銀河規模の国家内にキヴォトスに比類する学園都市がないこと、どちらに驚くべきなのでしょうか。とにかく、先生がいらっしゃった『帝国』とは常識を始めとする色々なことが違っていて、慣れるのに苦労するかもしれませんが……でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう」
その言葉にタイタスは鼻を鳴らし、あえて偽悪的な態度を見せた。
「どうだかな。俺は柔軟で型破りといわれることがあるが、訳あって事前に知った情報通りならお前を含めた多くのキヴォトスの住民は本来なら抹殺対象だ。そんな奴を無条件で信用するな」
「それはその通りですが……あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね」
今まで顔だけ向けていたリンが改めてタイタスへと向き直る。元から凛と澄ました顔だったが、タイタスを信じようとする確かなものが瞳に宿っていた。それが本人の意思なのか、連邦生徒会長というフィルターを通したものなのかは彼女にも分からなかった。
「……それと、先程の先生の疑問は後でゆっくり説明するとして」
ポーン、とチャイムが鳴り指定した階層にエレベーターが到着した。リンに促されてタイタスには小さすぎる、開かれた扉を苦労しながら潜り抜け、また案内される。その先はプライマリススペースマリーンであるタイタスが満足に直立できる吹き抜け構造のレセプションルームであった。既に数名の少女―――服装や装飾品、ヘイローを含めた人ならざる要素に共通点がないキヴォトスの生徒たちが異様にざわついていた。彼女らはリンとタイタスが現れるまで談話をしながら待ち構えていたらしく、二人の姿を確認すると談話を止めて全員が向き直った。当然ながら彼女たちは理由があってここに集まり、現在のキヴォトスを最も知るであろうリンへと問い詰める……つもりだった。その隣に立つ厳つく巨大で、頭からつま先まで金属質らしい鎧に覆われ、その巨大な体躯でようやく釣り合う見たことがない巨大な銃器を携えた人型であるタイタスに一同は圧倒され、最重要だった問題もどこかへ行ってしまうほどだった。
その中の1人、裏地が水色の白いジャケットと黒いスーツを着て、
「えっと、その、代行。色々と訊きたいことはあるけど、隣の、その……」
「驚かれているようですね。この方はこれからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名したタイタス先生です」
「連邦生徒会長が指名……?あれもこれも立て込んでいるのに、ますますこんがらがってきたじゃないの……」
混乱している生徒らを無視して、タイタスは自己紹介の為にボルトライフルを右腿のアーマーへ懸架し、ヘルメットを外して小脇に抱える。ヘルメットとアーマー内部で循環していた金属と聖油とフィルターの香りが僅かに混じった空気から解放され、人工物と自然が調和した香りがタイタスの鼻腔を通り抜けた。
「俺は……由緒あるスペースマリーン
「えっ、人間……?」
「レフテナントはともかく、すぺーすまりーん……?ちゃぷたー……?」
「そもそもあのような装備は一体どこで……?」
先程、真っ先に話しかけてきた生徒以外に集まっていた3人の生徒も次々に疑問が噴き出た。ボルトライフルを始めとする武器から始まり、タイタスに関する道具や装備は全てこのキヴォトスにない存在である以上、驚愕と困惑するのは当然であった。そんな中、先程の
「えっと、聞き慣れない、というか聞いたことない単語が飛び出してきたけど……こんにちは先生。私はミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカです。覚えておいてくださいね、先生」
「ハヤセユウカか、確かに覚えたぞ。ところでだ、ここに来たのが一体何の要件だ?俺と会ったのは偶然のようだが」
その言葉にリン以外の生徒がハッと気が付く。タイタスという異様な存在に気を取られたが、そもそもリンに要件があったからこのレセプションルームまで通されたのだ。
「そう、そうよ!代行!連邦生徒会長を呼んできて!」
「そちらの大柄すぎる先生に気取られましたが、連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得できる回答を要求してます」
ユウカに続いて眼鏡をかけた生徒も問いかける。タイタスには現状、キヴォトスがどのようになっているかは分からなかったが、目の前の生徒たちの反応からただことではないことだけは理解していた。
「ああ……先生に注目していたので無視できると思っていたのですが。各学園からわざわざ訪問してくださった生徒会、風紀委員会、そのほか時間を持て余している皆さん」
故意に棘のある言葉を選ぶリンにタイタスも視線を向ける。彼女の表情は笑顔だったが、明らかに目元だけ笑ってはいなかった。あからさまに不機嫌で、余計な仕事を持ってくるな、と言いたげな雰囲気が溢れて出ていた。
「こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています。今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」
「混乱だと?」
聞き捨てならない単語にタイタスが反応する。リンが言っていた『キヴォトスの命運』に係わりそうな予感があったのだ。しかし、それ以上に行政がうまく機能していないことを示すようなその言葉は無視できなかった。ここは『帝国』ではないが、行政が機能していないというのは『帝国』であれば帝国行政局から支援が入ると共に何かしらの刑罰があってもおかしくない。それ故に無視することはできなかった。
ここはキヴォトスであり、『帝国』の常識が通用しないというのは説明されて間もないが、それでもタイタスにとっての常識は『帝国』基準でありついついそちらで考えてしまう。それで押し黙ったタイタスを他所にユウカとはリンへと詰め寄った。
「そこまで分かっているなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
ユウカに続いて先程問いかけてきた眼鏡をかけた生徒も詰め寄る。その耳はリンと同じく細長く先端が尖っていた。
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました」
さらに続けて銀髪赤目が特徴的な生徒も詰め寄る。その頭部をよく見ると頭髪とよく似た色合いの翼が左側だけ生えており、今の感情を示すように忙しなく動いている。
「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。私たち以外にも自警活動を行う有志の方々がいらっしゃいますが、治安の維持が難しくなっています」
最後に女性としては大柄で黒い制服に溶け込むような黒髪とその身を包み込めそうな黒翼を持つ生徒が詰め寄った。
「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
タイタスは絶句した。自分の常識が通用しないとは理解していたが、ここまで通用しないとは思っていなかった。
『連邦矯正局』というのは分からないが、共に発せられた『停学中の生徒』と『脱出』という単語から、収容所らしき施設から脱走者が出たということが理解できる。不良がのばさり襲撃の頻度が増えたというのも、行政機能が麻痺して抑止力がうまく働かないことが考えられる。
だが非正規ルートで堂々と機甲戦力や航空機が取引されているというのは流石にあり得ないと受け取るしかなかった。自分が知る中で反抗勢力がそれだけの戦力を持つのは
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」
連邦生徒会長―――これまで幾度となくその役職名だけ語られた、キヴォトスを統括する連邦生徒会のトップにして最高責任者。リンから受けた簡単な説明からその存在を知ったが、一度たりともその姿を見ていない。タイタスが担う役職を考えれば彼女が案内を買って出ることもあり得そうだが、立場を考えればそれもできないほど多忙でリンに代理を頼んだのかと思っていたが、ユウカの『何週間』という言葉にその推測は打ち砕かれ冷や汗が流れたのを感じた。
「……連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
推測が外れた瞬間から代わりに生まれた嫌な予感が的中する。その衝撃は並々ならぬものらしく、チラリと横目で見るとユウカら四人は驚きで目を見開き絶句していた。
「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……先程まで、そのような方法は見つかっていませんでした」
「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」
黒髪黒服の生徒が問いかける。それにリンは小さく頷き、タイタスへと視線を流す。
「タイタス先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」
「俺が、か。上階で俺を必要としていたことを肯定したのは今、理解した。だが何をやればいい?」
「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問として呼ばれました。連邦捜査部
タイタスのしわが刻まれた眉間にさらにしわが寄せられる。
『自分がいなくなること』を見越していたかのように、横暴な強権機関にもなりうる組織を立ち上げ、キヴォトス外からやってきた部外者である自分に任せる。タイタスが活動するのに必要な場を『都合よく』用意したようにも感じ、僅かながらも連邦生徒会長への不信感が生じる。しかし、一度は連邦生徒会長から指名され先生としての任を受け入れた身である以上、その不信感には蓋をして今一度リンの言葉へ耳を傾けた。
「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もなく異常に天井が高い建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます」
「『とある物』?ずいぶん抽象的だな」
「説明するよりも直接手に取って貰った方がすぐ理解できるので。いずれにせよ、先生をそこにお連れしなければなりません」
リンガ手にしていた板状の機械―――タイタスがキヴォトスへと転移する前にプライマーク・ソードで手にしたがいつの間にか消えていたあのデータスレートに似た機械を操作するとホログラムが起動し、リンと同じデザインの制服を袖だけ通す形で着崩した気怠そうな雰囲気の幼い見た目の少女……連邦生徒会所属の生徒が現れた。
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」
《シャーレの部室?……ああ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?》
「大騒ぎ……?」
通信相手の生徒、モモカの言葉にリンの顔に影が差し、眉間にしわが寄り始める。
だがモモカはそれを気にすることなく、持っていた袋に書かれた明太子チップス―――タイタスが珍しく興味を持って覚えた、とある惑星の土着言語で書かれている―――から薄い形状の菓子を一つ摘まみ、音を立てながら食べて報告を続ける。
《矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ。連邦生徒会に恨みを抱いてて、付近の地域で潜伏していた不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡行戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ。それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占領しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?》
「『みたい』だと?事態の重要性を理解していないのか?」
「一応、重要性に関しては事前に説明はしていたはずですが」
《まあでも、もうとっくに滅茶苦茶な場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ご飯のデリバリーが来たからまた連絡するね!》
ぶつり、と一方的に通信を切られた。それに対してリンは怒髪衝天という言葉が似合いそうなほど感情が爆発しかけており、ユウカらは全員呆れた表情を見せ、タイタスに至ってはその身勝手さに頭を抱えていた。
「……ナナガミリン主席行政官。俺が人事に首を突っ込むべきではないが、あの者は即刻解雇すべきだ。俺がいた『帝国』ならあの場で略式処刑を言い渡されてもおかしくないぞ、あれは」
「先生……お気持ちはありがたいですが、彼女ははあれでも有能ですので。しかし、少々問題が発生してしまいました」
「ああ、そのようだな。俺が制圧しよう、案内を頼む」
「連邦生徒会長が残した資料にあった『
そこでリンは顔だけを4人の生徒へと向けて睨むように視線を向けた。
「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」
ユウカが困惑するが、リンは全く答えない。いや、それどころか丁度よい『何か』を見つけたかのような薄暗い笑みを浮かべていた。
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々を引き連れればその不足を補えると思います。先生は以前、最前線にいながら
「ちょっと待ってください、主席行政官。私たちは了承していません。それに、これは連邦生徒会の管轄の話で―――」
「キヴォトス正常化のために、先生と暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」
黒髪黒服の生徒の言い分を無視してリンは素早く外へと歩み始める。ユウカらも後を追って止めようとするが相も変わらず答えてなかった。
その強引さにタイタスは何となく、であったがいつぞやの異端審問官を思い出していた。
「……全く、主席行政官殿はずいぶん強引だな」
用語解説コーナー
キヴォトス
ブルーアーカイブの舞台となる学園都市で数千を超える学園で構成されている。学園の規模は様々で数千人の生徒が在学するマンモス校もあれば、在学数が片手で数えるほどしかいない廃校寸前の学園も存在している。
この作品、そして元となったスレッドではWh40k側とキヴォトスは特別な繋がりがあるとされている。
連邦生徒会
キヴォトス全体の行政を担う統治組織……なのだがトップである連邦生徒会長が行方不明となったため行政機能が麻痺しており、治安の悪化や不法取引の増加のどの問題が発生している。
ヘイロー
キヴォトスに住む生徒の頭上に浮かぶ光輪のようなもの。必ずしも輪のような形ではなく角ばっている形や小さい図形が寄り集まったもの、立体的なもの、対称性が全くないものと千差万別のデザインをしている。
なお、生徒同士はヘイローがあることまでは知っているが、その形まで認識できているかは不明。個人ごとのデザインに違いを認識しているのは世界の外から見ているプレイヤーだけかもしれない。
機械精霊
帝国臣民が様々な機械に宿ると信じている存在。どれほど構造が単純な物でも宿っているとされており、自動的に動く機械は『
なお、
サーボスカル
帝国の忠臣だった者たちの頭蓋を加工して作られるドローンのような機械。内部には
ボルトライフル
.75口径自己推進式徹甲榴弾である『ボルト弾』を放つライフル型の武器。これを含めてボルト弾を使う武器は全て『ボルトウェポン』と称される。
この銃はプライマリススペースマリーン用に製造されたため普通の人間が使うには巨大で重すぎるサイズと重量を持っている。その威力は銃弾の特性もあって凄まじく、胴体に命中すれば上半身と下半身が泣き別れに、頭部に命中すれば首から上が消失してしまう。
またボルト弾には弾丸に充填された火薬を揮発性物質や強酸性溶液を充填した物や徹甲に重みを置いた特殊弾薬が存在している。
ヘビィボルトピストル
ボルトウェポンの一種で銃身が長めの拳銃型の武器。スペースマリーンの標準装備であるボルトピストルよりも精度と威力が勝るが、大型化しているため重量がかさんでいる。
なお、ボルト弾の大きさもあってピストルであっても
チェーンソード
刀剣型のチェーンソーで『峰』にあたる部分はカバーが施されている。柄には回転数を上げるスロットルレバーか引き金がついており、引きながら振るうことで敵を装甲や甲殻ごと切り裂ける。
コンバットナイフ
現実にもある軍用ナイフ。スペースマリーンが使う武器の中では最もシンプルな構造で、どのようなマリーンでも必ず一度は手にして敵に刃が振るわれる。なお、マリーンの体格に合わせられているので普通の人間から見れば鉈か短刀と見間違えそうなサイズとなっている。
クラックグレネード
装甲の突破を目的にした対車両用の手榴弾。小型で範囲や威力が勝る爆発物はいくつもあるが、様々な場面で使える汎用性を持っている。
戦闘者
スペースマリーンの呼び名の一つ。ほかの呼び名として『死の天使』、由来となる総主長が判明している場合『○○(総主長の名)の仔』などがある。
帝国防衛軍
帝国において最も人員が多い軍隊。人類最強だが人数が限られているスペースマリーンのカバーを目的に設立された。
その戦い方は安価で低性能な装備の人員を過剰投入することにより敵を圧殺するというもの。当然人員の損耗は激しく指揮官に良識はないのかと突っ込まれそうだが、この世界では砲弾が人命よりも高価になるほど人命が最もありふれた資源となっている。
渾沌信者
帝国を裏切り、渾沌の四大神を信奉するようになった普通の人間。基本的には四柱のどれかを信奉するか、渾沌そのものを信奉する『分かたれざる渾沌』に分類される。そしてどの信奉者でも暗黒神の目に留まる活躍をした者には肉体が変位する恩恵が賜れる。
人員は帝国臣民だった者たちが参加していることもあって膨大だが使っている武器は粗末で、最低限の技術があれば大量生産ができる実弾銃を使う事例が多く確認されている。しかし
異種族
人類以外の異星人の総称。その由来は様々でWH40Kの銀河の外から現れた勢力も存在する。どの勢力も他勢力とは敵対関係で渾沌勢力やティラニッドと呼ばれる星間イナゴ生物が現れた時ぐらいしか共闘しない。
ただし個人間では共闘や取引、主従関係を結んでいる者たちも存在している。また帝国に忠誠を誓い、帝国へ帰属する
ジーンスティーラー・カルト
ティラニッドの一種である『ジーンスティーラー』によって遺伝子汚染された亜人間によって作られたカルト教団。ティラニッドを救いの神として崇めて、惑星に降臨できるように帝国の防衛網を破壊する武装蜂起を行い、現体制の転覆を狙う。だがその最後はティラニッドの餌として食われるという渾沌勢力の方がマシな未来しか存在していない。