シャーレの新任先生:ディメトリアン・タイタス   作:ブラックヴァイパー候補者

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この話は2万5000字近いので読みやすいように前後編に分割します。


初陣と始動(上)

シャーレの部室へ向けて幌馬車のような、布とフレームだけでできた簡素な屋根がついた大型トラックが走る。緊急事態よりも自身の昼食を優先したモモカが原因で移送用ヘリコプターを用意できず、代わりにリンが急遽手配した兵員輸送用のトラックである。本来は連邦生徒会所属の装甲兵員輸送車(APC)を使う予定だったが定命の者の数倍の体躯を持つタイタスは乗降で時間がかかると予想され、緊急時である現状に向いていないと判断されてこちらが選ばれた。

そしてそのトラックの荷台、長い方の囲いに沿うように設置された座席にはリンの強引さに押し切られて搭乗した四人の生徒―――運転席側には黒髪黒服のトリニティ総合学園所属の羽川ハスミと銀髪赤目で同校所属の守月スズミが、助手席側にはユウカと眼鏡をかけたゲヘナ学園所属の火宮チナツが座っていた。最後にタイタスはその2つの座席の間、キャブの真後ろで両膝をつく形で座していた。すでにヘルメットを被っており、その意気込みが同乗する四人にひしひしと伝わっていた。

今は既に軽い自己紹介と各々が持つ武器の説明を終え、今回限定の陣形と連絡手段の確認をしていた。

 

「……以上の陣形でシャーレの部室まで進攻する。報告にあった戦車と遭遇した場合は先程決めたパターンB1で対処する。何か質問はあるか?」

 

「いいえ、大丈夫です」

 

ユウカの返答に残る三人も頷いて問題ないと返す。頻度の差はあるが、ここにいる面々は今回のような『荒事』には慣れている。故にタイタスが陣形指示だけでも自分たち以上に戦闘も指揮も手慣れていることを理解し、『先生』と『生徒』という立場も相まって短時間で上下関係を受け入れたのだった。だが今の彼女たちは優先事項がなくなったのか、すぐに別の思考へと切り替わってしまっていた。

 

「そうか……だが状況は刻一刻と変化する。時には俺の指揮を無視して行動しろ。それはそれとして、だ。俺に訊きたいことがあるなら今の内に尋ねろ。この先答えるだけの余裕があるとは限らないからな」

 

「き、気付いてたんですか?」

 

「幾度となく好奇に満ちた目を向けられれば誰でも気付く。もっとも俺の武器(ウォーギア)を含めた存在自体がこの地では稀有だ。そのように見られるのは致し方がないことと割り切っている」

 

タイタスの言った通り、重要事項を話し終えたこともあってこの場にいる全員の興味はタイタスという『存在』その物へ向いていた。常人が持つには巨大すぎる銃器。刀剣状のチェーンソー。重厚な装甲で作られた鎧。巨人症を疑うような身丈。個人差はあるが少なくとも興味を持たない、ということはなかった。だが任命されたばかりとはいえ目上の相手に無遠慮に質問するのはどうかとはばかられ、タイタスの厳格そうな雰囲気と厳つい表情がより躊躇わせた。

だがタイタス本人から『尋ねろ』と言質を得られた。その後押しもあってか、スズミが恐る恐るといった様子で挙手する。

 

「その、質問、よろしいでしょうか」

 

「ああ。現着までの時間が限られる以上、要点だけまとめた手短なものになるが」

 

「分かりました。それで質問なのですが……先生が自己紹介をしてくださったときに語られた『スペースマリーン戦団(チャプター)』について教えてください」

 

タイタスはその質問に少しばかり思案する。スペースマリーン戦団について語るとなれば所属元である『帝国』も自然と語ることになる。『帝国』は銀河全土にまたがる広大な領土と一万年以上にわたる膨大な歴史を持ち、組織構成や社会常識もキヴォトスのそれ以上に複雑で偏執的だ。スズミ以外の三人の質問に答える時間を考えると、それらから最低限の説明で済むように的確に必要な単語と説明だけ選出しなければならなかった。そしてたっぷりと数分ほど考えてスズミ、いや四人の生徒へと向き直る。

 

「それについて語るとなれば長くなってしまうが……できるだけ手短になるよう済ませよう。まずスペースマリーンというのは―――」

 

 

タイタスが説明を始めた頃、サンクトゥムタワー内にて二人の連邦生徒会所属の生徒が廊下を歩いていた。

 

「なぁ、さっきの『アレ』って見えたか?」

 

「ああ、ちゃんと見えた」

 

話す話題は当然タイタスの存在。彼女たちもタイタス出現時の轟音に引き寄せられて人混みの隙間からその姿を確認していた。連邦生徒会長が立ち上げたと聞く超法規的機関の顧問であるという話も聞いており、話題となるのは必然であった。

 

「噂で聞いていた分で薄々思ったが、本当にマリーンだったな」

 

「だがあのアーマーは見たことのない型式だ。多分、あの新入りが言っていた新型だと思う」

 

だが二人の話題はタイタスが現れたことや存在ではなく、タイタスがスペースマリーンであることに触れていた。新任の先生がスペースマリーンであるという情報は出回っていない。連邦生徒会内でも知れ渡っているのは精々『普通の人間じゃない身丈を持つ』『特徴的なマークが入った鎧のような装備』程度である。『事前』にスペースマリーンの存在を知らなければ結びつくというのはあり得ないことだった。

 

「しかしおかしいよな?ここに来て『何もない』というのは」

 

「そうだよな、普通ならさ―――」

 

「す、すいませーん!」

 

会話を遮り、背後から誰かが叫ぶ。二人が揃って振り向くと膝まで届きそうなウェーブロングの金髪と腰から生えた黒い翼、額にある縦に細長い菱形の宝石のようなものがある生徒―――調停室長の岩櫃アユムが山のように積みあがった書類を抱えて走ってきた。咄嗟にその進路を阻害しないように分かれて避けるが、それと同時にアユムは足をもつれてしまい抱えた書類を派手にまき散らしながら転んでしまった。

 

「アユム調停室長、大丈夫ですか?」

 

「いたたた……ああっ書類がー!」

 

「派手に散らばっちゃいましたね。私たちも手伝いますからすぐ持っていきましょう」

 

「ううっ、すいません……」

 

そうして広く散らばった書類を踏みつけないように足元を注意しながら三人は書類を拾い集めていく。その時、アユムと共に書類を回収する二人の袖口からちらちらと金属製のバングルが現れたが、アユムもそれぐらいのアクセサリーは身に着ける時があったため気にも留めなかった。その二人が連邦生徒会以上に忠誠を誓う存在があることを示す『握り拳』と『剣と翼』を象ったマークがそれぞれに刻まれていることも気付かなかった。

 

 

シャーレの部室まで残り数km地点。不良たちが不法占領した区域よりもさらに外側でタイタスらは降車し、車内で決めていた陣形―――タイタスを先頭にユウカとスズミがすぐ後ろに続き、ハスミが10mほど後方へ離れて距離を維持しながら遮蔽物を転々と移動し、チナツはハスミとは別の遮蔽物伝いにタイタスから5mほど後方を維持―――を組んでシャーレへと歩みを進めていた。タイタス一人だけが降車に時間がかかってしまう、という理由もあるが、荷台に座席と屋根がついている以外は防弾装備のない連邦生徒会の備品の一つであるただのトラックを戦線の近くに停める危険性を考慮してのことだった。

 

「先生、何度も言ってますけどそのチェーンソーとナイフは―――」

 

「ああ、使わない。『帝国』なら今起きている反乱を起こした者は即座に抹殺だが、今の俺はお前たちの『先生』だ。この地の法に従おう」

 

車内で確認したことだがキヴォトスに住む者たちは銃撃や衝撃には高い耐性を持っており、これはサングィニウスの手紙でタイタスも事前に知っていたことだ。だが斬撃によって負う裂傷などは違うと聞いた。曰く刃物や針などへの耐性は高くはないらしく容易く傷ついてしまう。それで負った傷の治癒はそれ相応の時間がかかる。故にチェーンソードとコンバットナイフの使用に制限をかけた。あくまで自戒であるが先生としての立場がある今は必要なものとして割り切った。

その時、突如ヘルメットの機械精霊(マシン・スピリット)が未確認の存在を感知し、ハンドサインで停止を指示する。するとどこにいたのか物陰からぞろぞろと不良たちが現れた。引き金が異様に軽いキヴォトスらしく警告なんて七面倒なものは飛ばしていきなり銃声が響きわたる。最前列にいたタイタスへと複数の銃撃が浴びせられるが全く堪えた様子はない。後ずさりどころか体幹が一切ブレず、受けた弾丸は全て機動装甲服(パワー・アーマー)に弾かれた。

 

「な、なんだアイツ!全然効いてねぇ!」

 

「普通これだけ食らえば倒れるだろ!オートマタじゃねぇのか!?」

 

不良たちが信じられない物を見たかのように驚愕と恐怖の叫びをあげて銃撃を止めてしまう。

タイタスの見た目は装甲に覆われているためかキヴォトスに存在する人型機械―――オートマタの一種だと勘違いした。実際タイタスほどではないが大柄な体格の機種が存在しており、自然と大型化と外装の変更を加えた試作品の1つと認識していた。

 

生徒(自分たち)と変わらない耐性があり、攻撃を受け続ければ機能停止に追い込める。

一気に攻めればあっという間に終わる。

後ろに隠れている面々もこの数で攻めれば問題ない。

 

その全てが甘い考えであった。今ここにいるのは銀河に散らばりし人類を統一した『帝国』の頂点に立つ『皇帝陛下』の遺伝子を組み込まれた万能の超人兵士。見た目がそうであっても同一視してはならなかった。

 

「もう終わりか。今度は俺たちからやらせてもらうぞ」

 

そう言うや否や構えていたボルトライフルから2発のボルト弾が放たれる。1発は1人の不良の頭部へ、もう1発は別の不良の腹部へと吸い込まれるように命中し―――爆発する。銃撃に耐性があるキヴォトスの住民ということもあって貫通こそなかったが、.75口径の弾丸と爆発は衝撃に耐性があろうとも十分すぎるダメージを与えていた。頭を撃たれた者は一撃で気絶しそのまま強かに体を叩きつけて倒れた。腹部に命中した者は1mほど飛ばされて痛みで悶絶し立ち上がれなかった。

頭部狙撃で気絶することは多々あれど、腹部へ1発命中しただけで行動不能になるという異常な光景に不良たちの動きが止まる。その隙を見過ごされることはなく、ユウカとハスミの愛銃がそれぞれ呆然と立ち尽くす不良へと火を噴き、スズミ愛用のスタングレネードが投げ込まれる。タイタスを起点とした反撃で士気を挫かれた不良たちは次々と鎮圧されていく。不良の中にはそれで心が折れず、効果がありそうな近接射撃を狙って近づいた者もいた。だがそうした者たちも大半はユウカ、ハスミ、スズミの射撃で沈黙し、何とか潜り抜けてタイタスまで近づいてもプライマリススペースマリーンの膂力によってもたらされる拳で殴り飛ばされ、その衝撃で強引に意識を刈り取られる。キヴォトス人でなければ内臓が破裂して死んでいただろう。

やがて動ける不良はいなくなり、周囲には(死んではいないが)死屍累々の光景が広がる。それでも警戒を解かずに周辺を見渡し、一応は安全であると確認してからハンドサインで集合をかける。

 

「敵集団の鎮圧を確認。ヒノミヤチナツはナナガミリン主席行政官へ報告を。ハヤセユウカ、モリヅキスズミ、ハネカワハスミは周辺警戒をしつつ、ヒノミヤチナツの護衛を行え」

 

「了解しました。……先生の方から直接報告できれば良かったのですが」

 

「俺もそう思うが、どういうことかこちらのヴォクス通信とお前たちの通信が繋がらない以上こうするしかあるまい」

 

タイタスの言った通り、なぜかの通信システムはキヴォトス側に適合できずにいた。送受信の方式が違うのか、セキュリティの違いか、機械精霊(マシン・スピリット)が受け付けようとしないのか。何れにせよ無線通信できないことに変わらない。

そうである以上リンへの報告も生徒任せにならざるを得ず、ここにいるメンバーへの命令もハンドサインと掛け声しか使えなかった。今の戦闘ではそこまで必要なかったが、この後に控えているであろう巡行戦車との戦闘では足を引っ張る要素になりえる可能性があり、シャーレの部室を奪還してもその後の活動に支障をきたすのは目に見えていた。

さてどうしたものか、と警戒したまま思案していると下の方から視線を感じた。そちらへと向くとユウカがまた興味深い表情で見ていた。

 

「どうした、まだ気になることでもあるのか」

 

「……そうですね。先生が仰った通りに問題なかったとはいえ、あれだけの銃撃を受けても何ともないその装甲には関心があります」

 

「あの程度ならいくら食らおうとも傷にもならん」

 

そう言ってタイタスは胸を張ってみせる。元々機動装甲服(パワー・アーマー)には傷や塗装剝げがあったが、見たところ真新しく付いたものはない。

 

「もはや装甲車両と大差ないですね。その銃も気になりますし、機会があればミレニアムで装備を解析させてもらえませんか?」

 

「機会があれば、か。意外とすぐかもしれんぞ」

 

「えっ、それはどういう―――」

 

「先生、少しよろしいでしょうか?」

 

ユウカが問おうとした瞬間にチナツが割り込んできた。

 

「ハヤセユウカ、悪いがその疑問は後回しだ。ヒノミヤチナツ、報告ご苦労だった。ナナガミリン主席行政官はなんと返答してきた?」

 

「まず倒した不良ですが……一先ずは放置しておくように、とのことです。後詰めのヴァルキューレ警察学校の方々が勝手に連行するので、私たちはシャーレの部室へと先行するようにと」

 

「……問題はないのか、それは?」

 

「質問に質問を返す形になりますが、周囲を見渡して問題があると思いますか?」

 

「…………」

 

チナツのツッコミにタイタスは押し黙ってしまう。彼が持った疑問は当然のものであったが、そもそもそれは『活動できる者』がいて成り立つ疑問だった。周囲をいくら見渡しても敵対していた不良たちは皆気絶しているか痛みで呻き声を上げるばかりで逃げるどころか立ち上がろうとする者すらいない。タイタスの疑問は完全に杞憂であった。

 

「それと、今この外郭地区の騒動を巻き起こした生徒の正体が判明したそうです」

 

「それは朗報だ。今は僅かな情報でも必要な事態となっているからな。それで一体誰だ?」

 

「百鬼夜行連合学院にいたワカモという生徒だそうです。現在は停学中で矯正局に収監されていましたが脱獄しました。今回の騒動と似たような前科がいくつもある危険人物で、油断せずに対応するように指示されました」

 

「油断せずに、か。だがやることは何も変わらん。陣形は現状維持のまま前進する。側面の防御はお前たちに任せるが、正面の攻撃は俺を盾に反撃しろ」

 

タイタスの指揮下の四人はそれぞれ了承し、動けない不良たちを踏み越えて進み始めた。

 

 

タイタスらが去ってからしばらく経ち、戦場だった市街地の一角にサイレンが響き渡る。後詰めとしてやってきたヴァルキューレ警察学校の生徒たちが次々と行動不能の不良たちにを拘束し連行していく。気絶している者はそのまま護送車へ放り込まれ、意識がある者は強引に立たされる。普段なら怒号の一つでも飛び出しそうな風景だったが、今はプライマリススペースマリーンと一時的に配下に入った生徒という強大な暴力で物理的に打ちのめされて比較的静かに進んでいた。

その最中、現場に程近い路地裏の一角で二人の不良生徒が壁にもたれながら並んで座っていた。

 

「あー……頭が割れるように痛い……なんか大事な物が零れそうになっているとかないよな?」

 

「さっきも言ったけど大丈夫だって。ただ見たことないサイズの青あざがあるだけだからさ」

 

「それはそれで大丈夫だって言えんの?」

 

彼女たちは一番最初にタイタスに撃たれた二人だった。腹部を撃たれた方が今日偶然にも衣服の中に防弾プレートを仕込んでおりボルト弾によるダメージを軽減していた。それでもしばらくは動くことはできず、体の芯まで響くような痛みがある程度マシになってからようやく昔なじみの相方を連れてここまで逃走してきたのだ。

 

「それにしても何なんだあのマリーン。色々ありえないだろ」

 

「それは思った。アタシたちも、禍つ神々に仕えたのも、偽りの皇帝に仕えていた連中もおかしくなるのに」

 

「一体何が何なんだか。もうワタシたちだけだと分からないことだらけだから、いっそ知り合いに訊いてみる?もしかしたらサイキック的な何かで保護されているかもしれないし」

 

防弾プレートを持っていた方が胸元から自身のスマートフォンを取り出してその画面を見せつける。いつの間にか画面ロックなどの操作を終わらせており、画質は粗めだが青いアーマーのスペースマリーンと彼と共にいた生徒たちの特徴が判る写真が表示されていた。

 

「……これ、いつの間に撮ったんだ?」

 

「いつものアレだよ。隠しカメラってやつ」

 

スマートフォンを持たぬ手でレンズのついた小さな機械を取り出して見せる。

 

「今回はやられたフリもあったからちょっと大変だったけどさ。で、送る?」

 

「まあ良いんじゃないか?アタシらだけじゃ分からないっていうのは事実だしな」

 

「オッケーオッケー、それじゃ最初はいつものように多頭蛇は全てを支配せり(ヒドラ・ドミナートゥス)より、と」

 

「……なあ、なんでいつもそれを最初にやるんだ?」

 

「ワタシが派手好き!」

 

「アタシらは隠蔽が売りで派手に出たらダメだろ!」

 

額が腫れた方が勢い良く相方の頭をはたき、軽快な音が路地裏に響いた。

 

 

周辺の建造物とは比べ物にならない高さの高層建築物であるシャーレのビルまで残り数区画。そこまでの道路を封鎖するように陣地を築いていた不良たちとタイタスらは戦闘していた。だがほぼ一方的に銃撃を無視できるということもあってか、戦闘という体をなした蹂躙に近いものだった。そうして不良たちを次々と撃破してく中、一人だけ周囲の不良とは違う派手な衣装を着こみ何かの動物を模した仮面でその顔を隠した生徒がいた。

 

「騒動の中心人物を発見!対処します!」

 

「なるほど、あいつがワカモという主犯か」

 

「フフ、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。お可愛らしいこと。……それにしても動きに無駄がありません。あの巨体のオートマタが指揮を執っているようですね」

 

ワカモが愛用の装飾された小銃をタイタスの頭部へと向けられる。

服装から見ても全員が異なる学園所属のメンバーだけで構成された即席かつ少数の混成部隊だが一人一人の質は低くなく、各々の能力を生かすように的確な指揮がされている。その指揮を執っているのが判る巨体―――タイタスを真っ先に倒せば少人数の即席部隊は自然と瓦解し、ここに集めた寄せ集めの戦力でも撃破は難しくない。普通に考えれば当然の作戦であった。相対する相手がキヴォトスにおいて常識外の存在でなければだが。

ワカモの愛銃の引き金が引き絞られる。神秘が込められた弾丸は阻まれることなくタイタスの頭部へと向かっていき―――プラスチールとセラマイトで覆われたヘルメットに弾かれた。

 

「なっ……!」

 

盾で防がれるならまだしもヘルメットのみで弾かれるという異様な光景にワカモは絶句した。彼女は自身の戦闘力は最上位とまではいかなくとも上澄みの部類であるというのは理解しており、それに基づいた自負があった。だが真っ向からあざ笑うかのように弾かれた、しかも技量や神秘に由来する能力などではなく、素材というテクノロジーのみとなれば一瞬であっても思考が止まるのは無理がなかった。当然ながらその隙は見過ごされなかった。

重厚なボルトライフルの銃口がワカモへと向けられる。未だに呆然としていた彼女は無意識のままに遮蔽物として使っていたコンクリート製バリケードへと身を隠す。その直後、バリケードへ数発のボルト弾が撃ち込まれて爆発し、ものの数秒でその形は失われてしまった。そのままワカモへと狙いが定められるが、引き金を引く前に雇われの不良から横槍を入れられそちらへと狙いが切り替わる。

 

「……私はここまで、後は任せます」

 

タイタスの注意が逸れたことを好機を見なし、ワカモは一人そそくさと戦場を離脱する。このまま戦っても時間を浪費するが目に見えていたため、自身の目的を優先した戦略的撤退であった。

 

「逃げられてるじゃない!?追うわよ!」

 

「待て、迂闊に追いかけるな。待ち伏せを食らうかもしれんぞ」

 

撤退したワカモをそのまま追いかけようとするユウカをタイタスが引き留める。タイタスも似た戦術で帝国の敵を撃破した経験も敵に嵌められた経験もあり、状況の類似から警戒していた。

 

「先生の仰る通りです。私たちの目標はあくまでもシャーレの奪還。このままシャーレのビルまで前進するべきです」

 

「待ち伏せ以外の罠もあるかもしれませんし」

 

「……うん、まあいいわ。あいつを追うのは私たちの役目じゃないってことね」

 

タイタスの言葉にハスミとチナツが賛同する。

ミレニアムと同じくキヴォトス三大学園であるゲヘナとトリニティ、その両校の治安維持組織に属し荒事に慣れている二人が賛同したということもあって、これまでの快進撃で勢いづきすぎていたユウカは元来の冷静な性格を取り戻す。

 

「話は纏まったな。俺たちはこのままシャーレ奪還を優先、このまま進攻する」

 

 

シャーレのビル前広場にて砂漠迷彩が施された巡行戦車『クルセイダー1型』がその場を守るように陣取っていた。随伴歩兵として一緒に守りを固めていた仲間たちは後方のビルを奪還しようとやってきた集団の対処に次々と送り出され、今ではこの戦車一両だけが残されていた。

 

「結局あたしらも前に出なくていいのか?こんな中古品の旧式でも戦力にはなると思うが」

 

「バカ、あの女狐からここを死守するように言われただろ。勝手に離れて敵を見逃したら私たち流の刑罰の10分の1刑どころじゃ済まないぞ」

 

「あたしも車長に賛成。仮に撃破されてもちょっとは情状酌量で刑罰とか軽くなるだろうし」

 

搭乗員である四人の少女は遠くから響く銃声と爆発音をBGMに周囲を警戒しながら駄弁っていた。周囲に仲間がいない以上、この手段が良いものではないと理解していたが必要と割り切っていた。そんな四人は周囲にいた仲間たちと違い、揃いの黒鉄色に―――左肩と右脛に追加で黄色い斜めストライプが塗られたボディアーマーを追加で身に着けていた。

 

「あ、ちょっと待った。なんか通知来た」

 

「いや、こんな時に?」

 

「ウチの車長サマはそういうのは逐一確認しないと気が済まないからね。ちょっとぐらいは大目に見ないと」

 

周辺警戒ため砲塔から身を乗り出していた不良がゴソゴソとスマートフォンを取り出してその画面に注視する。操縦士と砲手を担う二人がその様子を揶揄するが、車長となった不良はそんなものは耳に入らずドンドン顔から血の気が引いていった。

 

「……なぁ、最近噂になっていた『先生』のことは知ってるよな?」

 

「あーあの連邦生徒会が招集だが召喚だかした大人か?それがどうしたんだ?」

 

「どうもな、その大人っていうのが『まともな』戦闘者(アスタルテス)みたいなんだ」

 

「は?まともな?マジで?」

 

「嘘だと思うなら自分のスマホで確認してみろ。あの隠蔽集団の派手好きが前衛にいたらしく、確かな証拠を送ってきてるぞ」

 

車長の言葉に車内で待機している3人も自身のスマートフォンで通知を確認する。画像は粗めで細かな装飾やアーマーの型式は見えないがその巨体とカラーリングに肩アーマーに施されたウルトラマリーンの紋章が、そして手持ちの武器としてボルトライフルとチェーンソードが確かに映っていた。

 

「……確かにまともな状態だ。しかも一緒にいるのも結構有名な奴らじゃないか?」

 

「バイオレットカラーの髪にSMGの2挺持ちと太めの太もも……ミレニアムに行っている連中が言っていた『冷酷な算術使い』だな。こっちはゲヘナの風紀委員。トリニティの正実と……ゲッ、『走る閃光弾』もいるな」

 

「向こうの戦力は多分フル装備の戦闘者(アスタルテス)と寄せ集めだが腕利きの集団、対してこっちの戦力はあたしら四人と中古品の旧式戦車一輌。勝てるか?」

 

「勝てるか、でいえば無理だろ。戦闘者(アスタルテス)以外だけなら各個撃破できるだろうが、戦闘者(アスタルテス)が不確定要素過ぎる」

 

そこまで言い切ったところで一発の銃声が鳴り響き.30-06スプリングフィールド弾が車長の眉間に命中する。不意打ちで受けたそれは意識を刈り取るには十分で、車長は砲塔の上で突っ伏す形で気絶してしまった。

 

「車長!?どこから狙ってきやがった!?」

 

「それよりも正面を見ろ!敵が突っ込んできやがった!」

 

その叫びと共に2ポンド砲が放たれ同軸機銃が火を噴き爆発が起こる。その中からタイタスが煙を突き破って現れた。だが一人ではない。道中で拝借したトラックロープで自身を機動装甲服(パワー・アーマー)のバックパックに固定したユウカも一緒だった。最初から砲弾の雨を突っ切るため既にユウカが持つデバイスから生成されるバリアに二人は覆われており爆発も爆炎も気にかけず真っ直ぐ戦車へと全速力で向かっていた。

 

鋼鉄の光輪(アイアン・ヘイロー)かよ!?全然怯まねぇ!」

 

「とにかく撃ちまくれ!こんなポンコツで防衛だと固定砲台役が精一杯だ!接触したら終わりだと思え!」

 

その瞬間、操縦士の視界を担う覗き穴の前を何かが通る。キヴォトスの量販店やコンビニで幾度となく見てきた非殺傷兵器がゆっくりと横断しているように見えた。

 

「しまっ―――!」

 

咄嗟に視界を守ろうとしたが閃光弾が先に起爆し、操縦士の視界は閃光に塗りつぶされる。砲塔も丁度同じ方向を向いていたため砲手も同じく視界を失ってしまう。装填手だけは外を見る手段がなかったお陰で助かったが、狭い車内で一人だけ無事でもどうしようもない手詰まりになっていた。

 

「クソッ、あの閃光弾はトリニティのあいつか!いつの間にこんな距離まで近づいたんだ!」

 

そう叫んでいる間にもタイタスは瞬く間に戦車へと詰め寄り砲塔の上へと飛び乗る。一人で数百kgの重量を持つ戦闘者(アスタルテス)が飛び乗った衝撃はクルセイダー1型の車体を大きく揺らした。そして気絶していた車長が外へと吸い出されるように引っ張り出され、代わりに先程の閃光弾に似た物体―――クラックグレネードが放りこまれる。外へ投げ出す間もなく起爆し、残っていた砲弾にも誘爆する。2つの爆発に揉まれて三人の搭乗者は意識が暗転した。




用語解説コーナー
早瀬はやせユウカ
ブルーアーカイブのゲームではチュートリアル戦闘から参加し、そのまま初期メンバーの一人となる生徒。新興校だが影響力が大きいためキヴォトス三大学園の一つに数えられる『ミレニアムサイエンススクール』の生徒会にあたる組織『セミナー』の会計として所属している。お堅い部分のある性格や必要があれば部費の削減を行うところからミレニアム生からは『冷酷な算術使い』という異名で恐れられているが、本人は面倒見のいい人情家。部費の削減も客観視すれば妥当な理由であることが多いため、本気で嫌っている生徒はあまりいない。太もも
守月もりづきスズミ
ブルーアーカイブのゲームではチュートリアル戦闘から参加しry。いくつもの分派学園が合併しマンモス校となった、キヴォトス三大学園の一角を担うお嬢様学園『トリニティ総合学園』の非公認部活『トリニティ自警団』に所属している。正義感が強く進んでトリニティ自警団へ加入した正義感の強い生徒。だが相手をできるだけ傷つけたくないという優しさもあり、オーダーメイドの閃光弾を愛用している。その閃光弾を何かと投げて鎮圧するためか、不良たちからは『トリニティの走る閃光弾』という異名をつけられている。
火宮ひのみやチナツ
ブルーアーカイブのゲームではチュートry。キヴォトス三大学園の一つだが『自由と混沌』を校風としているためか治安が世紀末な世界観レベルで悪い『ゲヘナ学園』の治安維持を担う『風紀委員会』に所属している。元はゲヘナの医療を担う救急医療部所属で普段から多くの医薬品を持ち歩いている。
型破りで粗暴な傾向のゲヘナの中では常識人寄りの良心的な生徒の一人。しかし本質的には変わらないらしく、時には破天荒な言動をとることもある。
羽川はねかわハスミ
ブルーアーカイブのry。スズミと同じトリニティだが正規の治安維持組織『正義実現委員会』の副委員長を務めている。仕事への態度は真面目で実直、後輩たちには時に厳しく時にやさしい面倒見の良さを見せる冷静で穏やかな人物。だが健啖家で誘惑に非常に弱く、出先で食べ過ぎたり夜中に抜け出してパフェを3つ食べて後悔することも珍しくない。実装されている生徒の中ではトップクラスに背が高く、身を包めそうなほど大きな翼をもっているので、多少の体重変化は問題ないはずだが……本人としてはそうもいかないらしい。
機動装甲服パワー・アーマー
スペースマリーンが着装するパワードスーツ。スペースマリーンの改造手術で最後に移植される生体端子『黒の甲殻』(別名インターフェース)を介して神経接続される。これにより機動装甲服(パワー・アーマー)はマリーンと一体化し、自身の体のごとく機動装甲服(パワー・アーマー)を操れる。
現在タイタスが着装している型式はプライマリス・スペースマリーンに合わせて新規設計されたマークX(テン)戦略(タクティクス)型で旧来の型式に近い形状をしており多くのプライマリスマリーンが使用している。マークX(テン)は高度なモジュール化構造を採用しており、任務や役職によってアーマーのパーツを変更し、その機能と戦い方を切り替えられる。バリエーションモデルとして軽量化・静穏性を高めた恐怖(フォボス)型、重装甲の威厳(グラヴィス)型、戦略(タクティクス)型を基に恐怖(フォボス)型と威厳(グラヴィス)型の要素を組み込んだ万有(オムニ)型が存在する。
なおスペースマリーン用が有名だが、それ以外に皇帝専用やスペースマリーンの父たる総主長用や皇帝近衛団(アデプトゥス・カストーデス)用など様々な型式がある。
鋼鉄の光輪アイアン・ヘイロー
スペースマリーンが使用する個人用バリア発生装置。バックパック上部、頭部の後ろに来るように取り付けられる。総数が少ないため戦団内の上位の階級を持つ者か、多くの武勲を持つ者しか装備が許可されていない。タイタスもプライマリスとなる前に装備していた時期があった。
プラスチールとセラマイト
WH40kに登場する架空の素材。帝国においては様々なビークル、航空機、戦艦、巡洋艦、建造物に使用されており、機動装甲服(パワー・アーマー)にも使われている。
多頭蛇は全てを支配せりヒドラ・ドミナートゥス
ある大逆兵団が使う雄叫び。キヴォトスではこれを使う者は存在しないはずだが……?
10分の1の刑
古代ローマ軍で行われた兵への刑罰であり極刑。10人1組となってくじ引きを行い『当たり』を引いた1人を残りの9人が撲殺するというもの。これを知るのはかなりの歴オタ……であるが、ある大逆兵団が行っていた文化である。
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