シャーレの新任先生:ディメトリアン・タイタス   作:ブラックヴァイパー候補者

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この話の途中でタイタスの人名の呼び方が変わっていますが、これはキヴォトスの公用語を知ってそれに合わせたためです。


幕間
差異


D.U.各地で発生した喧騒と銃声は徐々に静まり、未だに暴れていた者は次々と倒され、逃げ隠れていた者たちは追跡に秀でた『ヴァルキューレの問題児たち』が日の下へを引きずり出す。主犯であるワカモが起こした騒動が終わりを迎えようとしていた。だがシャーレのビル内、その中のオフィスだけはまだ終わりを告げることができなかった。

 

「……本当にこれだけでいいのか?」

 

「ええ、それだけでいいんです」

 

「先生、それ以外は不要なので手早くお願いします」

 

スペースマリーン専用に作られた特注のオフィスチェアが軋む音を立てる。タイタスが不満げな表情を浮かべるも、そもそもこの事態を招いたのは自分が原因であることは自覚していた。

納得できない、その思いで渋ってしまうが何も変わらないというのもまた事実。観念したタイタスはゆっくりと『スイッチ』へと手を伸ばし壊してしまわぬよう繊細に、慎重に押し込む。

そして排気ファンが回り始め低く唸るような駆動音が発生し、正面に鎮座する液晶モニターに起動画面が表示された。

 

「……起動の儀式や祈りの言葉が必要ないのか」

 

「いや、普通は必要ありませんからね!?」

 

ユウカが声を荒げて突っ込んでしまう。シャーレ付近へと向かう道中の応答で、タイタスがキヴォトスとは常識から何もかもが違う世界からやって来たということを知ったが、ここまで違うというのは想定外だった。

 

「ハヤセユウカよ、そうは言うがこの儀式はこちらの慣習のようなものだ。お前たちからすれば異常かもしれんが、俺にとっては常識だ」

 

タイタスの答えにユウカは静かにリンへと視線を向ける。当然、それはタイタスの言葉の真偽を問う意図が込められていた。リンはその意図を理解するも、タイタスが嘘を言っていないと認めるようにただ頷くだけだった。

 

「……これ、大丈夫なのかしら」

 

ユウカがぼそりと呟いた。それに答えた者はいなかったが、間違いではない認識だった。

 

 

「入力端末はキーボードか。基本的な構成は『帝国』の物と変わらないようだな」

 

「先生の居た所でも使っていたんですか?」

 

「ああ。ここまで小さいのはあまりなかったが。これは骨が折れそうだ」

 

「……今度、先生の大きさに合わせたサイズを持ってきます」

 

 

「それでは次の操作ですが―――」

 

「待て、これまでの手順を纏めておきたい。紙はあるがペンとなるのは……」

 

「先生、ボールペンがありますよ」

 

「……このインクが詰まっている物か。『帝国』では多く流通していると聞くが、ここまで間近で見るのはあまりないな」

 

「あれ?じゃあ先生はこれまで何か書く時は何を使っていたんですか?」

 

「万年筆か羽ペンがほとんどだ」

 

「一体いつの時代ですか」

 

 

「ナンガミリン、ここの計算はどうやればいい?」

 

「どこですか?」

 

「ここだ」

 

「……すいません、どこですか?」

 

「ここだと言っている」

 

「……先生、もう少し寄ってくれませんか?画面が見えません」

 

「す、すまん」

 

 

「先生、さっきから資料を睨んでどうかしましたか?」

 

「……使われている言語がある惑星の土着言語というのが珍しくてな」

 

「そんなに珍しいですか?」

 

「ああ。数多の惑星で戦い、多くの兵たちと共にと戦ったがこの言語を使う者は一度しか遭遇していない。あまりにも珍しすぎて俺も独自に調べたことがあるほどだ」

 

「……キヴォトスの公用語って結構マイナーなのかしら?」

 

 

「訊き忘れていたが、『えすえぬえす』というのは一体何だ?」

 

「今それ訊きます!?いえ、最優先で教えないといけない部分はもうないので構いませんけど……」

 

「なら今すぐ頼む。こちらにしかないものをさも当然のように言われても、こちらは困惑するしかないからな」

 

「先生はキヴォトスとは異なる世界から来たお方。分からないことが多いというのは事実です。余裕がある今、説明した方が良いかもしれません。ユウカさん、お願いします」

 

「待って代行。なんで私が説明するの?」

 

「ミレニアムはこういったシステム関係に強く、何でもかんでも説明するのが好きだと伺っていましたので」

 

「確かにそうだけど、全員が全員強いわけじゃないし、説明好きなのはコトリなんだけど……まあいいわ。まず、SNSというのはソーシャル・ネットワーキング・サービスの略称で―――」

 

 

キヴォトスを照らしていた太陽がビル街へそのを半分ほど沈ませている時刻。昼に動いていた者たちが住居へと帰り、これから働く者たちが出向く夜の街へと変貌していく。

そして昼間の騒動から一時も休むことなく、タイタスのために稼働し続けていたシャーレも終わりを迎えつつあった。

 

「……記入漏れはなし。計算ミスもなし。表もこちらが指定した通り。これで一通りの操作は覚えたことになります」

 

「やりましたね、先生!」

 

「ああ、そうだな。だがここまでできたのはお前たちがいたからこそだ。感謝する」

 

椅子に座ったままタイタスが頭を下げて感謝の意を示す。

 

「そんなかしこまらないでください、先生。困ったときはお互いに助け合うのが普通ですから」

 

「そうか、だが確かに助け合うというのは大事だ」

 

ユウカの言葉に数々の戦いで救援要請を受け取り、救援要請を行っていたことをタイタスは思い出した。

勝利こそしたが参戦した艦隊は壊滅し、ウルトラマリーン戦団を再編成しなければならないほどの被害を受けたマグラーグの戦いではブラッドエンジェル戦団が残党のティラニッドの掃討に支援として派遣された。タイタスが第二中隊の中隊長(キャプテン)でなくなったグライアの戦いではウルトラマリーン戦団がアストラ・ミリタルムの支援に駆け付け、ブラッドレイヴン戦団とブラックテンプラー戦団もその後援軍として加わった。

ユウカの言うそれとは違うかもしれないが、助け合いの精神そのものには同意していた。

 

「ところで先生、先程の問題に対する依頼はいいのですか?」

 

「……それもあったな」

 

「依頼?まだ何かありましたか?」

 

「そうだ、俺の活動に必要な依頼だ」

 

数時間ぶりにタイタスが立ち上がり、腰のポーチの一つへと手を伸ばす。そして何かを掴んでユウカの目の前へと差し出される。それは大柄過ぎるタイタスの手にも収まらない2種類のマガジンだった。

 

「これって……先生が持っている銃のマガジンですか?」

 

「その通りだが、今依頼するのは装填されているボルト弾の完全な複製だ。アーマーと武器(ウォーギア)は簡易的であってもこちらで整備できるが、消耗品はそうはいかないからな」

 

「なるほど……」

 

一回り小さいヘビィボルトピストル用のマガジンを先に手に取り、その大きさに苦戦しながらもなんとか一発だけ取り出してまじまじと視る。その大きさもさることながら、着弾後に爆発を引き起こすのに必要な火薬が詰まっているであろう弾頭や二つの頭部を持った猛禽類のレリーフが彫られた薬莢など、弾丸ということ以外キヴォトスでは見たことがない代物だった。

 

「確かにこれはミレニアムじゃないと難しそうね……。分かりました、寸分の違いのない複製を作って見せます」

 

ボルト弾をマガジンへと戻し、ボルトライフル用のマガジン共々ジャケットのポケットへと突っ込んだ。異様な大きさのそれらはポケットの中からシルエットが浮かんでいたが、ユウカは特に気にかける素振りを見せなかった。

 

「期待しているぞ。そしてもう一つ、ミレニアムに依頼がある。七神リンから俺に合うほど巨大なバイクがあると聞いた。そいつを用意してほしい」

 

「え?あのデカいバイクを?なんでそれを?」

 

「それは―――」

 

「それは私から説明します」

 

タイタスの言葉を遮り、リンが割り込んで説明し始めた。

 

「まず昼間のシャーレの部室までの移動で理解していると思いますが、先生の体格で乗り込める乗り物は多くありません。今回のように運転手が居ればいいのですが、いつでも用意できるとは限りませんし、常設しようにも連邦生徒会には余裕がありません。ですので先生が単独で長距離移動できる手段を用意しておきたいのです」

 

昼間のサンクトゥムタワーから出発しようとした光景をユウカは思い出して納得する。

タイタスが連邦生徒会が用意したAPC(装甲兵員輸送車)に乗り込もうとするも、その巨体とアーマーに阻まれてしまい搭乗しようとしただけでも悪戦苦闘となっていた。それを顧みればタイタスが公共交通機関を使えるかは非常に怪しく、単独で完結する移動手段を求めるのはユウカから見ても必然に思えた。

 

「……昼間のアレを考えれば必要不可欠ね。先生、私たちミレニアムに任せてください」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

「では先生、本日の業務……いえ、業務ガイダンスはこれで終わりとなりました。今後必要となる業務用端末は後日届けさせていただきます」

 

いつの間にかリンがタイタス専用デスクから離れてドアの前に立ち、業務連絡だけ伝えてさっとドアを潜り抜けていった。

 

「じゃあ私もこれで。良いニュースが来るのを待っててください!」

 

リンに続くようにユウカもオフィスを出て行った。オフィスにはタイタス一人が残され、パソコンの駆動音と動きに合わせて発せられる椅子の軋む音だけが響く。

その時は思うところがあったのか二人がいる間、ずっと手を付けなかったシッテムの箱を手元へと引き寄せてアロナが映る画面が灯される。

 

「……さて、機械精霊(マシン・スピリット)アロナよ。あの二人だけではカバーしきれなかった部分を頭に叩き込んでおきたい。マニュアルを用意しろ」

 

《分かりました、先生!……ところで、先生は夕食をどうされますか?》

 

「夕食?そうか、しばらく経てばその時間か。今はここにあるレーションか保存食を食べるべきか?」

 

《それなら買い物に出てみるのはどうですか?この世界で流通している食べ物を知れますよ!》

 

アロナの発言にタイタスの好奇心が少しばかり疼く。

前線に立った時はともかく、平時では夕食が数少ない娯楽だった。その為か未知の世界であるキヴォトスの食料に関心を持ったのだ。

 

「考えれば当然だが、この地にも食料はあるのか。少し興味を持った、その提案に乗るとしよう」

 

《それじゃあ今すぐ行きましょう!これ以上遅くなるとお店か商品がなくなってしまいますよ!》

 

「それならば急がなければならないな。アロナよ、俺はこちらの世界の地理もシステムも分からん。それを含めた全てを案内をしろ」

 

《はい、機械精霊(マシン・スピリット)アロナちゃんに任せてください!》

 

デスクの隅に追いやっていたヘルメットを被り、弾数に余裕のあるヘビィボルトピストルとシッテムの箱を手に取ってタイタスがオフィスを出る。その重厚な足音は変わらないが、足取りはどこか楽しげに見えていた。




用語解説コーナー
マグラーグの戦い
銀河東部の果てに位置する惑星ティランの陥落から始まった帝国とティラニッドの最初の大規模戦争である『第1次ティラン戦役』において最終決戦となった戦い。ウルトラマリーンの拠点惑星(ホーム・ワールド)であり、ウルトラマール星系の心臓部である惑星マグラーグを舞台にティラニッドと正面からぶつかり、帝国は勝利を収めた。
だがその犠牲は多く、ティランとマグラーグの間にあった惑星は僅かな水や空気も残すことなくティラニッドに喰い尽くされ、マグラーグ防衛のために集まった武装民間船や私掠船を含めた防衛艦隊(ディフェンス・フリート)と援軍として駆け付けた帝国宇宙軍戦闘艦隊(インペリアルネイビー・バトルフリート)はほぼ壊滅。マグラーグ地表で戦っていたマグラーグ惑星防衛軍はほとんどが戦死し、同じく地表で戦っていた数百年戦い続けたベテランが揃うウルトラマリーン第1中隊も玉砕して丸ごと損失し、複数の中隊にも少なくない損害を出してしまう。ここからウルトラマール星系の治安がしばらく悪化し、戦団の立て直しには1世紀以上かかってしまった。なお、タイタスはこの戦いが勃発した時は遠く離れた惑星へ遠征していたため、参加したのは敗走するティラニッドの掃討作戦だけだった。
グライアの戦い
タイタスが主役を務める最初のゲームであるWarhammer 40,000: Space Marineの舞台となった戦い。異種族(ゼノ)の一つオルクの侵攻を受けた工業惑星(フォージ・ワールド)グライアの救出に向かう……のだが、ここから先はゲームをプレイするか動画で確認してほしい。
ミレニアムサイエンススクール
新興校だが『最先端』『最新鋭』と呼ばれる技術を生み出しては普及させて大きな影響力を与えているキヴォトス三大学園の一つ。『ミレニアム』と呼ばれることが多い。元々は千年問題という七つの難問に立ち向かう研究者のグループが始まりだった。だがその検証や実験を行う研究組織が増え続けた結果、今のミレニアムとなった。
現在も千年問題に取り組んでいることを知る所属生徒は少ないが、ミレニアムで行われた開発や研究は七つの難題の解決に繋がると考えられている。その影響と思索と研究を肯定する校風によりバラエティー豊かなな部活や集団が存在している。
この作品ではタイタスと同じ暗黒の銀河からやってきた者たちがいるため、その出番は原作よりも早く訪れる。
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