シャーレの新任先生:ディメトリアン・タイタス   作:ブラックヴァイパー候補者

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不得手

タイタスがキヴォトスへとやってきてから早数日。シャーレの業務は順調な滑り出しで始まっていた。この世界では右も左も分からないタイタスだったが、それを良しとせず(アロナの助力もあったが)自ら進んで業務内容と必要な操作を覚えたためだ。だが、今の彼にの目の前には前例のない存在が立ち塞がっていた。

 

「ヌッ、ぐぅ……」

 

苦悶の表情を浮かべ、額には玉のような汗が流れる。今日の始業から30分と経っていないが、タイタスの周りだけは異様な熱気が発せられていた。

 

《先生、それは代わりにやりますよ!》

 

見ていられなくなったのかアロナが声を荒げて代理を申し上げた。しかし、タイタスはそれに首を振って拒絶する。

 

「駄目だ。お前は俺の至らない部分をフォローしてくれるが、常にできるという保証はない。最低でもこれだけは俺一人で済ませるようにならなければ……!」

 

《そうですけど……》

 

タイタスの言い分にアロナは押し黙ってしまう。

彼女は確かに優秀でこの数日間、タイタスの助けにもなった。だがどれほど優秀であってもシッテムの箱に宿る機械精霊(マシン・スピリット)であることは変わらず、何らかの形でシッテムの箱が使えなくなればその能力は意味をなさなくなる。それを想定した行動ともなればアロナは強く反発できなかった。

その時、不意にオフィスのドアが開いて誰かが入ってきた。

 

「おはようございます、先生。今日もよろしく……どうしたんですか、そんなに汗を流して」

 

「早瀬ユウカか」

 

入って来たのはタイタスがキヴォトスへと現れたその日、なし崩し的に指揮下に入れられた早瀬ユウカだった。アロナの助力もあり、既にタイタスは一通り仕事の手順を覚えたのでユウカが手伝いに来る必要はない……となるはずだったが、プリントアウトした書類の文体がおかしかったり、手順は覚えても慣れていない上に何かと祈祷や儀式を行うせいでので時間がかかってしまうという問題が発生しており、まだそれを補う必要があるということでセミナーの仕事の間隙を縫って手伝いに来たところだった。

そんなお人好しな彼女だが、ここ数日で一度も―――要請を受けて赴いた戦闘時ですらなかった汗をかいているタイタスの姿にきょとんとした表情のまま立ち尽くしてしまう。

 

「……今、俺にとっては最大にして最悪の敵と相対しているところだ」

 

「て、敵!?でもそんなのはどこにも……!」

 

やけに落ち着いたタイタスの言葉に愛銃であるロジック&リーズンを2挺共取り出し、オフィス全体を警戒するように視線を彷徨わせる。だがタイタスは落ち着かせるようにユウカの持つ銃の片方の銃身を掴み、ゆっくりと降ろさせる。

 

「いや、ここにいる。こいつだ」

 

銃身を掴んでいない右手で小さな板状の機械を掲げてユウカに見せる。それは彼女、いやキヴォトスにいる者であれば誰しもが持つ日常にはなくてはならない、連邦生徒会のマークが背面に着けられた機械だった。

 

「……連邦生徒会のスマホ?」

 

「ああ、そうだ。俺にとって『スマートフォンの操作』はこれまで相対したどの相手よりも手強い!まず俺には小さすぎる!そして脆すぎる!既に3台は破壊してしまった!これ以上のミスは御免だ!」

 

タイタスの怒りにユウカは納得してしまう。

今彼が手にしているスマートフォンは大型の機種で、もしユウカが手にしても片手だけで操作するのは不可能なサイズだ。だがタイタスの手にはすっぽりと収まってしまい、片手で十分なサイズでしかない。機動装甲服(パワー・アーマー)を着用している分一回り大きくなっているとはいえ、片手で収まる画面というのは彼にとって小さすぎてまともに操作できないだろう。

そしてこれまでの戦闘で幾度となく、超人的な身体能力とパワーを見せつけられてきた。それだけの力と操作がうまくいかないストレス、そしてスマートフォンが片手に収まるサイズという要素を考えればあっさり壊してしまうのは想像に難くなかった。

 

「……その怒りは納得できますけど、誰かに代わってもらうというのはダメなんですか?」

 

「真っ先に考えたが、その『誰か』が常に共にいる保証はない。だとすれば自力で済ませばいい。最低でも文字入力は独力で完遂しようとは思う」

 

「そうでしたか。でもそのままだと使いづらいと思うので私が今持っているタッチペンを」

 

バキッ

 

「あっ」

 

今まで聞いたことがないタイタスの気が抜けたような声と何かが割れる音がオフィスに響く。スマートフォン用のタッチペンをジャケットの内ポケットから取り出そうと視線を外していたユウカが、再度タイタスへと顔を向けると指が貫通したスマートフォンを彼は握っていた。少しばかりバツが悪いのか、ついユウカから視線を逸らしてしまう。

その情けない姿にユウカは内心呆れてしまい、じっとりとした目―――俗にいうジト目を彼に向けた。

 

「……先生」

 

「す、すまん……」

 

後日、壊れたスマホは新品と交換。破壊したことをリンに謝罪したがまだ慣れてないということもあって大目に見てもらった。

その後、タッチペンを使った操作を覚えたタイタスはタッチペンを気に入り、ミレニアムに自分に合うサイズのタッチペンを10ダースほど注文したのだった。




用語解説コーナー
スマートフォン
多種多能の機能を備え、一人一台レベルまで社会に広く普及している携帯電話。キヴォトスでも普及しており、単なる連絡手段に留まらず動画視聴、ゲームプレイ、電子決済など様々な場面で使われている。
だがタイタスは単なる通信端末としか認識していないためほとんど使われる機会がない。
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