忘れてなんかやらない   作:アゲアゲ太郎

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第十話 男子高校生がえへへはきも…キツイらしい

 

 

 ガコン!気持ちのいい音を立てて取り出し口にペットボトルが落ちて来る。それを取り出した虹夏さんは素早い手つきで蓋を開け、ペットボトルを傾けた。

 ちなみに飲んでいるのはPUKARI SWEETだ。こういうスポーツドリンクって運動したあとに飲むとすごい甘く感じるよね。

 

「ぷはっ、あっつ〜!もうすっかり夏だねぇ」

「もう8月も中旬に入りましたし、日差しも強いっすからね」

 

 そう、8月にも入りこんな真っ昼間からわざわざ外に出て、自販機でスポドリを買わなくちゃいけないほど水分を失っているのには理由がある。

 

「後藤さんの家、もうすぐ着くみたいです」

「やった〜、ていうか道案内ありがとね」

「いえいえ楽しみですね!」

 

 その理由とは後藤の家に訪問するというものである。喜多に誘われたからわざわざ長い時間電車に乗ってきたのだ。それなりに面白おかしいことを後藤にはしてもらわなければならない。

 

「てかなんか新鮮だよね〜私たちスターリー以外で会うことほとんどないしさ」

「外に全員で集まったのカラオケが最後すかね?」

「確かそうね、後藤さんの家ってどんな感じなんでしょうね」

「あぁ、前に段ボールが狭くて家の感じに似てるから落ち着く…的なことは言ってたよ」

「どんな家に住んでんすか、あのピンクジャージ」

「段ボールに似てる家って……」

「あはは!ぼっちちゃんってホント言うこと面白いよね、楽しみだな〜」

「楽しみですね〜」

「ね〜」

 

 ゆるい返事が口からこぼれ出るほど暑い。夏休みに入ってからバイト以外では本の調達と買い物でしかほぼ外出していない出不精の俺にこの日差しは少し強すぎる。

 額の汗を腕で拭い空を見上げる。視界いっぱいに広がる大空には白色が見つからない。理科の教科書に載せれるぐらいにはきれいな晴天だった。こんなに暑いのなら曇りのほうがうれしかったな

 

「私、お菓子とおすすめの映画持ってきましたよ!」

「ちょっと!今日の目的忘れてないよね?」

 

 目的…今日の目的ってなんだっけ?暑さで茹で上がった頭ではうまく思い出すことができない。というか何で俺は後藤の家に行くことになったんだっけ?

 少し歩くテンポが2人より遅れつつ、足を進めながら俺は記憶の海へと潜っていった。

 

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「後藤の家に行く?」

 

 そう、確か場所はスターリーだった筈だ。正確な日付けは覚えていないがリョウさんの家訪問からすぐの8月上旬、積み重なった夏休みの宿題が目に見えて量を減らし始めた時期のバイトの日、少しの合間時間に小説を読んでいた時だった。

 

「そう、ライブで着るTシャツのデザインを考えるの。だから折角だし後藤さんの家でやろうってなって」

「へぇ~。ま、折角の休みにコッチまでこさせるのは良心が痛むしな」

 

 後藤は毎日2時間ほど電車に乗って学校、スターリーに来ているらしい。バンドに関わることだとしても折角の休日までそんな長い時間電車に乗らせるのは申し訳ない。

 

「予定入ってないし俺は行けるかな。バンドTシャツのデザイン考えるなら他の人もいるんだろ?他には誰がくるんだ?」

「ええと、もう伊地知先輩は誘ってあるわ。リョウ先輩は伊地知先輩が誘うって」

「で、肝心の予定日はいつなんだ?」

「来週の火曜日。わすれないでね」

「そんなに近いなら流石に忘れないぜ」

 

 勿論、今日の朝は寝坊した。喜多のモーニングコールは人生最高の目覚ましになった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 ……なんてことがあった様な、無かった様な。

 

「……〜〜き別れの双子の妹から連絡が来たとか、お父さんが事故に遭って記憶喪失になったとか、しょうもない言い訳を」

 

 記憶を探るために集中していたためか気付けば歩いてきた道も会話の内容も覚えていなかった。しかし無事に回想を終え脳のリソースにも余裕ができた俺の意識は自然と会話を拾うようになる

 多分会話の内容はこの場にいないリョウさんについてだろう。俺の知り合いにしょうもない言い訳を重ねる人は俺を除けばリョウさんぐらいしか居ないし(実際に今日もおばあちゃんの峠とか言って来なかったし)

 

「そんなスラスラとバラエティ豊富な嘘をつけるなんて…流石先輩!悪女で素敵!」

「リョウ狂いもここまで来ると…」

 

 コレでも平常運転なのだから喜多は可愛い。もう暑さで頭が回らん。今わかるのは喜多が可愛いぐらいだ

 程なくして喜多が声を上げた

 

「着きました!ココです!」

 

 そう言われ喜多が向く方向に顔を向けた。特に変わったところはない一軒家だ。壁に掛かっている垂れ幕に目を向けないようにすればだが、

 時間がゆっくり流れているような気がする。熱により極限まで機能が低下していた脳には目的地の一般住宅に垂れ幕が掛かっているという情報は処理しきれない。書かれている内容も内容だし

 

「え?」

「ここ…だよね?結束バンドって書いてあるよね?」

 

 まあ、ここで合っているのだろう。土地勘がないとはいえ住所も教えられている。喜多の道案内が間違っているとは思えない。なにより━━━━

 

『歓迎!結束バンド御一行様

         癒やしのひと時を皆様に……』

 と大きく、それは大きく書かれているからだ。

 

「後藤さんの家って旅館でしたっけ?」

「知らねぇけど一軒家であるのは間違いなさそうだな」

「そうだね…取り敢えず!」

 

 そう言って虹夏さんはインターホンへと駆け出していった。ホント元気だな。そして俺たちも追いついた所で虹夏さんがインターホンを押す。

 ピンポーン。これまた普通なインターホンの音が俺たちの来訪を知らせた。

 

「ぼっちちゃん来たよー」

「こんにちは〜!」

 

『あわわわっっ!い、今開けます!』

 

 インターホン越しでもこの慌てぶり、コミュ症なんて話じゃないだろ。これは面白いことをしてくれそうな予感。

 

 ガチャリ、玄関の扉が開き先に喜多と虹夏さんが並んで入り俺はその二人の後をつくように家に入る。玄関でも若干涼しい。

 そして俺たちの目に入ってきたのはお祭りの屋台で売ってそうな星型の謎に光る(多分LEDとかが仕込んであるのだろう)サングラスをかけ手にクラッカーを持った後藤だった

 

 パァッン!!

「イ、イエーイ!ウェウェウェ、ウェルカーム!」

 

 破裂音、それと共に俺たちへ放たれる細長く切られた紙の欠片たち。動かない俺たちの表情筋。上擦り聞くに堪えない後藤の声。全てが合わさりこの玄関には何とも言えない空気が漂い始めていた。

 

 うん。来てよかった!

 

 ……いやでもスベったな。俺個人としてはめちゃくちゃ面白かったし今も笑いをこらえるので大変だがスベった事実は変えられない。ただいま大変気不味い空気が漂っています。

 

「ぼっちちゃん楽しそうだね〜」

「なんだか嬉しいです!後藤さんも楽しみにしてたって分かって」

 

 ……そうでもなかったらしい。この2人の陽キャパワーは偉大だ。

 喜多が手土産を後藤に渡し、その後後藤(その後後藤って後が2つ繋がってて文章にすると見にくいな)が前を歩く形で2階へと案内された。

 

 ……今更だが女子の部屋って入っていいものなのだろうか。相手が後藤なので気にする必要はないと言われれば、まぁその通りなんだが。一応異性の部屋に入るというのはなかなか勇気のいる行動だ。あとこれも今更だから言うことじゃないが男女比バグってるし。なんなの?いじめですか?

 

「遊びに来たんじゃないんだからね!」

 

 階段を登りながら考え事をしているとそんな虹夏さんの声が聞こえてきた。なんでもさっき喜多が手土産を後藤に渡したときに映画も取り出してたらしく「遊びに来たんじゃない」と軽いお説教をされてるようだ。心なしか関係ない後藤も肩を落としているように見えるけど。

 

 しかしその理由はすぐに分かった。案内され入った後藤の部屋は和室には似合わないミラーボールや風船で飾り付けられている。どうせ後藤は家に友達など招いたこともないのだろうから後藤がここまで浮かれるのもまあ、だいたい、いやギリギリ予想内だ。

 

「す、すみません。全部片付けますね…」

 

 肩を落とした後藤は安全ピンを手に持ち近い風船からそのピンを刺し割っていく。パン!という音が気持ちいい。

 

「いや!ちょっとは遊ぼうかな〜!?」

「はい!賛成です!」

 

「じゃ、じゃあ私は飲み物取ってきますね…」

 

 少し持ち直した後藤は部屋から出ていった。飲み物取ってくるって言ってたし行き先は多分キッチンかな。

 

 後藤の姿が確認できなくなってからもう一度部屋を見回す。うん。なかなかに面白い部屋だな。

 照明は付いておらず今ある光源はミラーボールのものだけ。端的に言うと暗い。それに今気付いたものだけでも盛り塩、お祓いのお札、現像され積み重なったアー写等などエトセトラエトセトラ……それを見つけた喜多と虹夏さんは2人抱き合ってビビってる。

 

「分からないけど…メチャメチャロックな気がする…!」

 

 ロックで片付けられる許容範囲超えてるだろ、これ。こんなん背負わされるロックが可哀想だ。

 

「デッカイのもあるよ?」

「「うわぁぁぁ!」」

 

 喜多たちの後ろに立っていたのは背丈の低い、おそらく小学生の可愛らしい少女だった。手には言葉通りさっき見つけたものよりも拡大されたアー写を持っている。因みに声は出していないが俺もすっごいビックリした。

 

「この写真、お部屋にいっぱい貼ってたんだよ。すっごく気に入った写真なんだって」

「「「え?」」」

「でもお母さんに目がチカチカするから辞めなさいって止められたの。そっちのお札はお姉ちゃんがおばけに取り憑かれたから貼ってあるんだ〜。以上!説明お〜しまい!」「ワンワン!」

 

 唐突だが説明は助かる。しかも結構面白そうだ。後で後藤に話を聞いてみよう。

 それにしてもこの子は誰なのだろう。髪の色から見れば後藤の妹と考えるのが自然なのだろうけど全く性格が違う。到底血が繋がっているとは思えない

 

「もしかして…後藤さんの妹?」

「はい!後藤ふたりです。犬はジミヘン」

「自己紹介できて偉いな」

「順応が速いよ」

「でも…可愛くないっすか?」

 

 俺の言葉に喜多と虹夏さんは顔を見合わせる。よく分かってない顔をしてるふたりちゃん。可愛い

 ……いや俺そういう趣味じゃないからね!?流石に小学生相手は無いからね!?

 

「「確かに…可愛い〜!!」」

 

 そう言うと弾かれたように喜多はふたりちゃんと、虹夏さんはジミヘンと戯れ始めた。さらに居場所がなくなった気がする

 暗いままでは不便なため立ち上がり手探りで照明の電源を探す。中々見つからないな

 

「あ!電気ならもうちょっと右!そうそこ!」

「偉いな〜ふたりちゃんは。後藤にもその明るさ分けてあげてほしい」

「えへへ〜」

「えへへ〜」

「アクト君、男子高校生がえへへ〜はキツイと思うわ」

「酷くない?」

「ちょっとキツイ」

「虹夏さんも?酷くない?」

「お兄さんちょっときも〜い!」

「ねぇ!?酷くない!?!?」

 

 そんなにキm……キツかっただろうか。今度から気をつけよう。ふたりちゃんの助けもあって点けられた電気はいつの間にか目尻に浮かんでいた涙を際立たせるだけだった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

「それじゃTシャツのデザイン決めよ〜!皆はこれに自由に描いてね」

 

 そうやって取り出したのはタブレットとお絵描き帳、やっと本題に入るようだった。

 因みにふたりちゃんはリビングでジミヘンと遊んでいる。かなり粘っており、俺も一緒にリビングに降りて遊ぼうと思っていたのだが喜多との

 

『遊びに来たんじゃないからアクト君は行っちゃダメ』

『いやでも成り行きでここまで来ただけだし別に』

『ダメ』

『ふたりちゃんを一人にさせるのも良くな『ダメ』』

『……はい』

 

 という会話で俺はここに残ることが決定した。ふたりちゃんは後藤の土下座とアイスによる買収で機嫌よくこの部屋を去っていった。姉としてのプライドとか…その…ないのか!?

 

 そして作業が始まり少し、麦茶が注がれたグラスの表面に水滴ができた頃喜多が最初に案を出した

 

「出来ました!コンセプトは友情・努力・勝利で〜す」

「体育祭で見るやつ!」

「なんでそんな少年漫画みたいなコンセプトなん。勝利ってなに?」

 

 喜多が見せてきたのは虹夏さんが言ったように体育祭のブロックTシャツみたいだった。蛍光ピンクの生地に黒のマジックで「結束バンド」「優勝」「皆で掴め!勝利の華を」とか書いてある。これライブの時に着るシャツなんだけど。マジで勝利って何?

 

「そうだよ!ライブに優勝なんて概念ないけど!?」

「ええ〜っと、ノリです!」

「ノリ?」

「だってこういうの来たら皆の心が一つになる気がしません?ね、後藤さん?」

 

 喜多が後藤に同意を求める。が、当の本人は顔を青くしガタガタと震えている。

 

「ぼっちちゃん、体育祭に相当のトラウマが!?」

 

 陰キャのトラウマ学校行事ランキング1位。とか考えてんだろうな。そして後藤は震えながら段々と人の形から崩れていった。

 

「後藤さん、溶けちゃいましたね」

「今日暑いからね〜」

「俺は段々とこの光景に慣れてきた事にビックリだよ」

 

 この崩壊も最初は面白かったが最近では頻度が高すぎて慣れてきてしまった。まぁ、言ってしまえば飽きたのである。なんか新しい体の崩れ方してくれねぇかな。光りながら爆散とか。

 

「今日のぼっちタイム長いね〜」

「私なにかしちゃいました?」

「全く、罪な女だね喜多ちゃんは」

「ああ、自覚がない所が特にな」

「ええ〜!?後藤さん早く戻ってきて〜!」

 

 狼狽える喜多を見ながらポッキーを食べる。パキパキと折れる感触が気持ちいい。程良い甘みもくどくなくて最高だ。

 デザインを考えながらポッキーを次々と口に運んでいるとスパン!と編集でつけたんじゃないかと疑うほど気持ちよく音を立てて襖が開いた。

 

「ほら、ホントにいるでしょ?」

 

 なんと犯人はふたりちゃんだった。そして開いた襖の隙間から2つの頭が見える。どちらもピンク。後藤の親族の方かな?

 

「こんにちは〜」

「お邪魔してます〜」

「失礼してま〜す」

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「いや〜感動だな〜、ひとりの友達が遊びに来る日が来るなんて」

「たくさん食べていってね?」

「ありがとうございます!」

 

 その後、なんやかんやあって俺たちはリビングでピザを食べていた。ホントになんで?

 

「ひとりとバンド組んでくれてるんだよね?」

「はい」

「くれてるっていうか私がお願いしてメンバーになってもらったていうか」

「へ〜そんなんだ」

「ほら!音楽は人を繋ぐんだよ。な?ジミヘン?」

「ワンワン!」

 

 さっきから思ってたけどジミヘン賢いな。後藤より社会性あるぞこの子。

 

「唐揚げ揚げたてです〜こっちが塩麹で、向こうがニンニク醤油ね」

「おお〜!美味しそう!」

「ありがとうございます」

「頂きます」

 

 後藤のお母さんが唐揚げを持ってきた。家に友達が来るからってわざわざ揚げ物作ったのか…

 

「友達が来るって聞いた時妄想か幻想かと思ったけど、写真もあるしまさか男の子も連れてくるなんてね」

「幻想って…あ、レンタル友達的なサービスとかじゃないですよ」

 

 一応否定しておく。もし自分の娘があの性格で急に友達を家に連れてきたらなら真っ先にこの可能性を考えるからな。

 

「あ、そうなの?もしかしたらって考えてたんだ」

「ぼっちちゃん家でもそんな感じなんだ…」

 

 小腹も空いたし唐揚げをつまむ。確かコッチが塩麹だっけか。うん、美味しい

 俺が唐揚げを味わっていると後藤のお父さんはニコニコした顔を少し引き締めてこちらに向き直り口を開いた

 

「ちなみに…君との関係は?」

「?……ああ、ただのバイト仲間ですよ。確かに後藤…ひとりさんには恩がありますけどそういうのじゃないです」

「!?」

「そうなんだ。よかったら貰って欲しかったんだけど」

「!?お、お父さん!?」

「言っちゃ悪いですけど感覚としては要介護者なんでそういう目で見たことないですね」

「ぎゃっ!!!」

 

 後藤がいきなり爆発した。要介護者呼ばわりが不服だったのだろうか。そうやって爆発するからそう思われてるの分かってないのか?

 

 喜多と虹夏さんが後藤の回収作業に入った。だが2人の顔には笑顔が浮かんでいる。優しく和やかな雰囲気の大人、年下の子ども、家族として扱われているジミヘン。自然と羨ましいような感情が湧き上がる

 

 こんな賑やかな食卓は…初めてだ

 

 なんてことを考えているとクイクイ、と右腕の袖を引っ張られた。そちらに目を向けるととそこには右手の箸で唐揚げをつまみ、左手で俺の袖を引っ張るという器用なことをしているふたりちゃんがいた。

 

「どしたの?」

「あげる!口開けて!あ〜」

「あ〜む」

「お兄ちゃん美味しい?」

「おいひいよ。でもなんで急に?」

 

 当たり前の疑問だろう。なんで俺は今、年下で小学生のふたりちゃんに唐揚げをあ〜んされている?

 

「だってね、美味しいもの食べたらニコニコになるから!お兄ちゃんさっきから難しい顔してるよ?」

「っ…はは。そうだねお兄ちゃんニコニコだよ。ありがとね」

 

 はっと息を呑んだ。熱を出したあの日から、気を抜かないようにしていたはずだ。なのにこんな小さな子に見抜かれて、その上心配されるなんて。

 自分が情けなくなってくる。一応自覚していたつもりだが、ここまで子供のままだなんて思わなかった。

 

 グイグイ、グイグイ

 

「痛いよ。次は何?」

 

 今度は左の袖をさっきとは比べ物にならない強さで引っ張られる。犯人は後藤の貰い手になるとかならないとかの話からずっと真っ黒のオーラを放つ喜多だった。

 つい先程まで弾け飛んだ後藤の欠片を回収していたはずなのにいつの間に俺の隣に?

 

「ほらアクト君口開けて」

「え?」

 

 ずい、と目の前に唐揚げが差し出される。それは勿論喜多が箸で持っているものでこのまま食べればあ~んの形になってしまう。

 

「いや、あの、一人で食べれるから」

 アクトは逃げ出した!

「まだアクト君ニンニク醤油食べてないわよね?」

 しかしまわり込まれてしまった!!

「いや…確かにそうだけど」

「アクト君恥ずかしいの〜?」

「お兄ちゃん食べないの?」

「虹夏さんは黙ってて!」

 

 うぐぐ、食べるしかないのか?だがこれ以上粘っても喜多が折れることはないだろうし、状況も好転しないだろうし…

 

 ええい!腹を決めろ!男を見せろ!

 

 心の中で自分を鼓舞した俺は喜多が差し出してきた唐揚げに食らいついた。おお〜、という声が複数聞こえる。死ぬほど恥ずかしい

 

「美味しい?」

「……おいしい」

「若いっていいわね〜」

 

 一方の喜多は特に変わった様子もなく自然体だった。何か悔しい。ドキドキしたのは俺だけなのか?

 ……いや、今喜多はふたりちゃんと話していて顔が見えないが若干耳が赤い気がする。恥ずかしいならするなよ!

 

 その後は喜多が持って来た映画を見てゲームをして気づけば空がオレンジ色になる時間帯だった。俺ら何しに来たんだ?

 ちなみにその日はマジでいい案が出なかったので後日虹夏さんが作った案に決定した。マジでなにしに来たんだ!?

 

 

 

 

━━おまけ━━━━━━━

 

 後藤のクソダサいデザイン案(傷、大量のファスナーとチェーン付き)をオブラートに包み却下した後

 

「ぼっちちゃんって私服もあんな感じなの?」

「いや、服はお母さんが買ってきてくれます。……好みじゃないので一度も着たことないですけど」

「ええ〜見てみたーい!」

「私もジャージ以外の後藤さん見てみたいです!」

「「お願いお願いお願いお願いお願いお願い!!!」」

「い、いいですけど……」

「「やった〜!」」

「チョロいな。将来が心配になってくるぜ、マジで」

 

 さすがに女子の着替えに立ち会うわけにもいかないのでリビングに降りてふたりちゃんと少しお話する。ホントに後藤と姉妹なのか疑わしいほど明るい子だ。可愛い

 時間にして十五分程、ジミヘンを撫でていたら結構時間が経っていた。

 

「入るぞー?」

 

 一応ノックしてから襖を開ける

 

「暗っ、……っ2人とも大丈夫!?」

 

 暗い部屋の中では喜多と虹夏さんが顔色を悪くし床に倒れ込んでいた。慌てて喜多に駆け寄る

 

「大丈夫か?俺の声聞こえる?」

「ギター上手くならなくてごめんなさい…可愛すぎてごめんなさい…」

「後者には大きく同意するけど急にどうしたんだ!」

 

 グワングワンと肩を揺らす。こんなバカなこと言える元気があるんだし大丈夫だろう。

 

「っ、ゲホッゴホッ」

 

 唐突に感じる息苦しさ。上手く呼吸が出来ない感じだ。膝立ちする気力もなくなり喜多の横に体を放り出す

 

「ごめんなさい…勉強できなくてごめんなさい……いい子じゃなくてごめんなさい……」

 

 どんどんと溢れ出てくる自己否定と謝罪の言葉。面と向かって話したこともないのに謝罪だけが心に積もっている。

 ネガティブに加速していく思考。ぬかるみに足を取られ、ズブズブと底なし沼に沈んでいくみたいだ

 

「みんな〜デザート食べない?てうわぁぁ!!」

「きゃーー!!」

「みんなお姉ちゃんみた〜い!」

「ワンワン!!」

 

 正常な思考ができるようになった頃には既にデザートを食べ終えていた。

 

 ちなみに私服に着替えた後藤は後日喜多に写真で見せてもらった。

 

『可愛いな。学校もあのピンクのジャージじゃなくてちゃんと制服でくればいいのに』

 

 といったら喜多は拗ねたように俺を少しの間無視してきた。取り敢えず謝ったら『理由も分かってないのに謝らないで!』とほっぺ摘まれた。痛かった

 虹夏さんとリョウさんにその話をしたら俺が悪いって言われた。ひどい

 

 

 




今回は割とコメディしてる気がします。こういうのがもっと書きたいんですけど気付いたらなんか…ずっとアクトがウジウジしてシリアスになってる…

 次回 『三者面談 曇りのち嵐』

  お母さん初登場です
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