忘れてなんかやらない   作:アゲアゲ太郎

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 気づいたらUA6000超えてました。完結までに1万行きたいです
 本当にありがとう!


第十三話 小休止、1月と2日

 

「カンパーイ!」

 

 皆がグラスを持ち上げ、ぶつけ合う。文字にすると大分厳つく感じるが実際はカチン、とガラスの気持ちいい音が鳴るだけだ。

 日本人の心の髄から染み込んでいるこの乾杯という文化。その起源は古代のローマにあるとかないとか…

 

「ライブよく頑張った。今日は私の奢りだ、飲め」

「ゴチです」

「お姉ちゃんありがと〜。私たち飲めないけど」

「センパイ好き〜」 

「お前は自腹だよ!くっつくな!」

 

 俺たちは結束バンドの初ライブ成功記念として、近くの居酒屋に打ち上げをしに来ていた。メンバーは俺、結束バンドの皆、店長さん、PAさん、廣井さんだ。

 

 成人しているメンバーは全員お酒を飲んでいる。お酒か、飲んでみたいな。いや、こんな事考えてたら俺も二十歳になった時嫌なこと全部酒で忘れる廣井さんみたいなオトナになるのか?だとしたらちょっと遠慮したいな…

 

「それよりこの方誰ですか?」

「誰よりもベースを愛する天才ベーシスト、廣井きくりでーす!ベースは昨日飲み屋に忘れました〜どこの飲み屋かもわからな〜い」

「一瞬で矛盾してるんだけど?」

「愛してるのはお酒っすよね」

 

 俺と虹夏さんのツッコミを意に介さず、廣井さんはジョッキに注がれたビールをゴクゴクと流し込んでいる

 

「私、よくライブ行ってました」

「おぉ!君、見る目あるね〜!」

 

 俺は少し以外だった。リョウさんがメシと金以外でここまで食いつくとは。さすが自称天才ベーシストと言ったところだろう。廣井さん実は結構有名な人かもしれない

 

「客に酒吹きかけたり、泥酔しながらのライブ最高です…!」

「そんな事してたんスか?」

「顔面踏んでもらったのもいい思い出です!」

「私、ロックのこと全然理解してないみたいです…」

「多分理解しなくても大丈夫かも…?」

「むしろされると困る。最近の喜多は世間一般からズレ始めてるからな」

 

 いやマジで。元々喜多には少しズレてるところがあるとは言え、リョウさんや後藤と比べるとまだまだ可愛げがある。これ以上影響されたらどうなるか分からない

 

「それにしても…今日のライブ大成功だったね〜!」

「お客さん10人ぐらいでしたけど」

「でも皆満足してくれたじゃーん」

「ですかね」

 

「ま、ファンならこれからも続けて行けばドンドン増えてくよ。今日のライブ最高だったし」

「そうだな、次のライブも頑張れよ。ま、ノルマ代はちゃんと払ってな」 

「最後のセリフがなければ感動したのに…」

「店長さんはムードってもんがわからないですからね。いつまでも少女趣味引き摺ってるのに」

「おいアクトお前表出ろ。減給で済むと思うなよ」

「ひえぇ〜〜。助けて〜誰か〜!」

「今のはアクト君が悪いわ」

 

 

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 パシャパシャ

 喜多は席に置かれた色は薄緑、中にはレモンの薄切りが入っているよく分からない飲み物を一生懸命撮影していた。味が凄く気になる

 

「……なんというか、飽きねぇのか?それ」

「私も気になってた」

「イソスタです!私大臣なので!」

「大臣…?」

「喜多、説明が足りてない。店長さん意味わかってないぞ〜」

 

 やはり虹夏さんの姉だからなのか、この空間で平均値取ると割と常識人寄りな店長さんは喜多の大臣発言には普通に困惑していた。

 廣井さんなら多分『え〜?喜多ちゃん大臣なんだ?よく分かんないけど凄いね〜!』とか言うぞ

 

「それってさ…何が楽しいの?」

(正直俺もよくわかんないから聞いとこう…)

「楽しい気持ちのお裾分けっていうか、友達が楽しそうだと楽しくないですか?」キターーン!!

「まぶしぃ…」

「いいぞ~そのまま喜多ちゃんパワーで捻くれ体質のお姉ちゃんを浄化しちゃおう」

 

 そんなことの前にまず俺が浄化仕切りそうなんだが、浄化って言うよりも昇天のほうが近いけど……!

 

「捻くれてるって…店長さんは優しいじゃないですか?」

「辞めてくれ…死ぬ…」

 

 ここまで店長さんと息が合ったのは初めてだった

 

 

「ご注文の唐揚げ、フライドポテトでーす」

「ありがとうございます」

 

 喜多の眩しさで死なないよう必死に耐えていると、一人の店員がフライドポテトと唐揚げを持ってやって来た。左手に持っていたフライドポテトは後藤の目の前に置かれた

 後藤の食事を見て思ったことがあるんだがコイツの趣味男子学生すぎないか?後藤家訪問の時は何故か唐揚げ出てきたし後藤だけコーラ飲んでたし

 喜多を見ろ、何かよくわかんねぇピンチョスとかオランデーズソースとか頼んでたぞ。

 

「PAさんその刺身ください」

「いいですよ。はい、あ〜ん」

「あ〜」

「むん!」

「うわ、何すんだよ喜多!危ないだろ?」

「いや今の絵面のほうが危なかったと思うよ?」

 

 PAさんから刺身を貰おうとしたら横から喜多が食べやがった。俺のサーモン〜(泣)

 

「お前なぁ…未成年に手、出すなよ?」

「流石に出しませんってば」

 

 当たり前の様にあ〜んをしてきたPAさんが店長さんに釘を刺されている。高校生に手を出すほどPAさんの倫理観は終わってないと思う。……多分

 まぁそんな事より…

 

「喜多は俺のほっぺに唐揚げ押し付けるの辞めて!?」

「ほ〜らアクト君。口開けて?」

 

 怖い怖い。あまりの気迫に押され言われるがままに口を開ける。かなり奥まで突っ込まれた。苦しい

 ……何か前もこんな事あったな。具体的には3話前ぐらいにあった気がする

 俺たちの様子を見た虹夏さんは少し呆れたような声で言った。

 

「イチャイチャしないで?」

「「してないです!」」

 

 視界の端で店長さんがため息をついたのが分かった。恥ずかしいんだけど!?

 

 

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「そういえば郁代、今日のライブギター始めて三か月かそこらでよく頑張った」

「あれぇ〜郁代って誰だっけ〜?」

「あ〜あ…ダメだろリョウさんそれは」

 

 ほら見てみろ、喜多の顔面が崩壊し始めている。

 Kita face is like Hitori……喜多の顔はまるで後藤のようだ。しかもガタガタと震えていて手に持っているグラスからジュースが零れそうになっている

 

「え、えぇ〜?そ、そんなシワシワネーム誰の名前かな〜」

「お前の名前だろ!」

 

 店長さんの強烈なツッコミが突き刺さる。虹夏さんとは違ってキレがありコレもまた乙なものだ。

 

「あ〜喜多ちゃんか〜!」

「その顔伝染するんですか〜」

「あ〜!ずっと隠してたのに〜!この名前嫌なんですよ〜!」

「なんで?可愛いじゃん」

「店長みたいに星の歌なんて書く素敵ネームの人にはわかりませんよ!」

 

 知らない人がいるかも知れないので補足しておくと店長さんの名前は伊地知に星の歌と書いて伊地知星歌(せいか)だ。

 確かに素敵ネームである。かっこいいし綺麗、店長さんにピッタリだ

 

「ダジャレみたいで嫌なんです!喜多〜郁代〜ってアホかーい!アハハハアハハ!」

「おいなんか壊れてるぞ」

「やっぱり喜多は面白いぜ」

「なんか弱ってる郁代面白い……」

「お前ら性格悪いな」

 

 しかしいつものつよつよ陽キャモードも可愛いがこうやって弱ってる時も同じくらい可愛い。頼むから二日おきぐらいにローテーションで変えて欲しいな。どっちも可愛いし

 

 さっき届いた唐揚げがまだ残っていたはずなので皿の方へと体を捻る。……?虹夏さんがいない。まぁ、いっかそんな事より唐揚げだ。

 

「すっ、すいません。ちょっとトイレに……」

 

 ちょうど唐揚げを口に放り込んだとき、後藤はトイレに行くと告げ立ち上がり、靴を履いてから歩き出した。

 いやトイレはそっちじゃないけど。と話しかけようとした時、後藤はすでに迷いなく店の出口へと向かっていた

 ほっといてやるか

 

 

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 宴も酣ですが、と言うやつでそこそこ良い時間となったこの席には少しずつ終わりの雰囲気が漂い始めていた

 

「私が会計しとくからお前ら外出てていいぞ」

「先輩ありがと〜!」

「ありがとねお姉ちゃん」

「ありがとうございます!」

「あ、あっありがとうございますっ!」

「ゴチになります…!」

「店長ありがとうございます〜」

 

 店長さんの一言で、皆はそれぞれ短く感謝を伝えた後2,3人組になってゾロゾロと居酒屋の外へと出ていった

 

「お前は行かないの?」

「女性一人残すのはよくないと思うんですよね」

「ほざけ」

「口が悪いと行き遅れますよ?」

「お前だけ自腹で払うか?」

「いや〜流石店長さん!優しい!美人!可愛い!」

「は〜…現金な奴だな…」

 

 店長さんは眉間にシワを寄せながらもポケットから財布を取り出す。伝票を見た瞬間うげ、と一言漏らしていたが心配は要らなかったようで札を何枚か出し会計を終えた。

 

 当然店長さんは出口に向け歩き出すが俺がそれを呼び止める。決して、外に居る人たちに聞こえない声で。

 

「店長さん」

「なんだ?」

「俺、9月中はバイト出れません」

 

 それを聞いた店長さんは一瞬目を見開いたがすぐに元の顔へ戻り一言

 

「……そうか」

 

 と言った

 

「なんか聞かないんすか?」

「どうせ聞いた所で変わんないだろ、お前」

「理解されてて嬉しいです」

 

 何時までも立ち止まっている俺たちのことを訝しんだのか店員が退店を催促してきた。逆らう必要も無いので素直に従い店を出る

 

「あ!店長さんたち出てきましたよ! アクト君、帰りましょう?」

「あ〜…ゴメン。俺スターリーに忘れ物したから先帰ってて」

「いいの?全然着いてくけど…」

「喜多をそんなに遅く家に帰すわけにもいかないし、気にしなくていいよ」

「……分かったわ」

 

 渋々だが納得してくれたようだ。着いてこられると困るから喜多の物分りがよくて助かった

 

「じゃあ、帰りましょうか」

「ばいば〜い!皆これからも頑張ってね〜!」

 

 皆口々に別れを告げていき、その場に残ったのは俺と虹夏さん、店長さんだけになった

 

「なんでアクト君残ってるの?」

「スターリーに忘れ物しちゃって…」

「珍しいこともあるもんだね〜!」

「そうですね」

「まぁいい、帰るぞ」

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ありがとうございます。わざわざ話し合わせてもらって」

「別にいい」

 

 虹夏さんはマンションへ入ってった。俺と店長さんは地下にあるスターリーへは戻らず、近くの自販機の前で向き合っていた

 

「で?さっきの話の続きだろ?」

「はは、鋭いですね」

「あんなんされたら誰でも分かる」

 

 ジジジジ……形容できない謎の駆動音をたてながら自販機は中の飲み物の温度一定に保っている。財布から取り出した五百円玉を1枚投入しコーヒーを2つ買った

 

「要ります?」

「要らないって言ったらどうすんの?」

「2つ飲みます。そして俺は今日眠れない夜を過ごす事になります」

「じゃあ貰ってやるよ」

 

 するりと店長さんは華麗な手つきで俺の手から缶コーヒーをひとつ奪い取った

 カシュ、炭酸よりは弱い音を鳴らしプルタブは下に押し込まれる。ゴクリ、一口飲んでみると舌に纏わりつくような苦味が襲いかかってきた。缶コーヒーの微糖は甘い。そんなこと言っていた親友の顔が浮かんだので心の中で嘘つきめ、と罵っておいた。当然返事は返ってこなかった

 微糖でこれなら無糖を飲んだらどうなってしまうのだろう。世の大人たちはこれを美味しいと飲んでいるのか。ガキ舌には分からない

 

「苦いです…」

「カッコつけるからだ」

「要ります?」

「要らない」

「今日は店長さんのせいで眠れない夜を過ごすことになりそうです」

 

 店長さんも蓋を開け、ゴクゴクと喉を鳴らす。ここまで缶コーヒーをカッコよく飲める女性を俺は他に知らなかった

 

「で?何が言いたいんだ?」

 

 店長さんが話を切り出す。あまりの話題の差に一瞬何について言っているのか分からなかった

 

「ああ、俺、9月はバイト出れません」

「辞めるのか?」

「さぁ?今のところ、辞めたくはないですが。10月の俺が何を考えてるかは分からないので何とも言えませんね」

「……理由は聞いていいのか?」

 

 店長さんはこちらの様子を窺うように聞いて来る。なんだか雰囲気がいつもと違って面白い

 何となく、他に見るものもないので夜空を見上げた。つい3時間前程までは大雨が降っていたくせに、満天の星空が広がっている。台風が雲をすべて巻き込んで行ったのだろう、何とも間が悪いやつだ

 

「理由は……まぁ、自分探しって奴です。今のままだとずっと甘えてしまいそうなので」

「なんで9月なんだ?自分探しなら夏休み中のほうがいいだろ」

「……母さんと落ち着いて話せるのが9月なんです。そのくらいなら仕事も一段落するらしいので」

 

 どれだけ仕事が好きで忙しいからって母さんも父さんもお盆まで働く必要ないだろ。なんて小学生の頃は考えていたがそんなこと考えるのは何年か前に辞めてしまった

 

「……ま、頑張れよ」

 

 俺の顔を見て何を思ったのか。ん、と店長さんは右手を差し出す。急なことだったので思わず手を握ってしまった。何ともいえない空気が流れる

 

「いや何でだよ。ソッチだよ、缶コーヒー」

「男子高校生と手繋いで照れちゃいました?」

「……このこと喜多にチクるぞ?」

「ごめんなさい」

 

 手を離し左手に持っていた缶コーヒーを手渡す。店長さんは受け取った缶コーヒーを一息に飲み干した。一口しか飲んでないから、結構の量が残っていたはずなんだけど

 

「そういう事は若いうちにしかできないんだ。やるなら思いっきり、後悔しないようにやれよ」

 

 店長さんはどこか遠い目をしながら言った。店長さんも、昔は後悔の多い人生を歩んできたのかもしれない。何しろ、もう虹夏さんたちの母親は……いや、これについてこれ以上考えるのはもうよそう

 

「……店長さんも十分若いですよ」

「お前はまず照れ隠しで冗談を言うのをやめろ」

「分かってますよ。善処します」

 

 割と自覚のある欠点を指摘され少し恥ずかしかった。居心地の悪くなった俺は駅へと続く道に視線を向ける。

 それじゃ、と店長さんに背を向け駅へと歩き出したとき、後ろからガコンと自販機が商品を落とした音が聞こえた。

 

「おい、アクト!」

「はい?どうしました…かっ!?」  

 

 何かが飛んでくる。こんな暗い中一発でキャッチできたのは結構凄いんじゃないだろうか。

 手の中に収まった物に目を向ける。それは恐らく世界で一番売れてる炭酸飲料、コカ・コーラだった。

 

「コーヒーの礼だ。8月まではスターリー来いよ」

「っ、ありがとうございます。勿論ですよ」

 

 帰り道、店長さんが見えなくなってからコーラのキャップを開ける。

 炭酸で包まれた甘みを喉に流し込んだ。食道を冷たいものが流れる感覚する。舌に残った苦みも、パチパチ弾ける刺激でいつの間にか気にならなくなっていた

 

 

 

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 家に帰ってから、風呂や寝る準備を済ませロインを開き、トークルームを探し出す。書かれている名前は『柳田 玲奈』

 一番最後に送られてきたメッセージは

 

『答えが分かったら、連絡して。分からなかったなら、いい』

というものだった。

 

 俺は少し文面を考えながら、1年と数ヶ月越しにメッセージを送信した。

 

『俺の答えを持ってきた。出来たら、話をする機会が欲しい』

 

 緊張のせいか、5分ほどトークルームを開いていたが直ぐには既読は付かなかった。

 スマホを充電コードに繋ぎ、体をベッドに投げる。その衝撃でぬいぐるみが一体床に落ちた。タコを模したそれを拾い上げ、腕の中に閉じ込める。

 思ったよりもライブの時感じていた頭痛が響いていたのか、意識はすぐに深く沈んでいった。相変わらずベッドの上はぬいぐるみで溢れている。

 だけど、人肌じゃない柔らかさと温かさが俺にはちょうどよかった。

 




 PAさんはアクト君を面白いおもちゃか何かだと思ってます。アクト君はPAさんのことを面白いお姉さんと思ってます。変な奴ら!

 次回 『 (俺+君−時間)÷好き=x 』

  xには何が入るんでしょうか?皆さん、予想してみてくださいね。

 次回 結構オリキャラが出ます。注意です。
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