忘れてなんかやらない   作:アゲアゲ太郎

15 / 15


 超!難産でした!

 書いてて思ったんですがこの作品って喜多ちゃんがメインヒロインなのに出番少なすぎじゃない?
 ちなみにウチの喜多ちゃんのメインウェポンは嫉妬と匂わせ、牽制です。そんなだからアクトくんには元カノがいるんですね


第十五話 アフターダーク 喜多が来るなんて聞いてない

 

「ん、ふぁぁ〜……。」

 

 夏終わりがけの暖かい朝日が瞼越しに目に刺さり、アラームが鳴るより早く目が覚める。寝ぼけた頭で記憶を探るがこんな事16年の短い生涯で初めてだ。もしかしたら明日あたりに天使がラッパを吹き始めるかもしれない

 

 日付けは9月1日、レイナと久しぶりに会い、互いの思いをぶち撒けてから大体10時間と言ったところか

 というか今気づいたが今日悪夢見てないな。7月のオーディションの日から内容に差はあれどほぼ毎日見ていたっていうのに。レイナと和解したのがそんなに心に余裕を作ったのだろうか

 

 久しぶりに慢性的な寝不足から解放され頭がスッキリするこの感覚は筆舌に尽くしがたい。よーするに最高ってこと

 

「今日は始業式か……」

 

 こんだけ早起き出来たんだ。たまには早く学校に行くってのも乙なものかもしれないな。柄にもなくそんな事を考え、いつもよりも1時間ほど早くベッドから起き上がるのだった

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 どーしたもんかね

 

 心の中でつぶやきドアにかけていた手を降ろす。職員室から教室の鍵を借りるのが面倒くさいとは思えど怖いと思うほど小心者というわけじゃない。

 せっかくいつもより三十分ほど早く学校にたどり着いたってのにこうして教室の扉の前で佇んでいるのにはちゃんとした理由があるのだ。その理由というのが

 

「大丈夫なのかよ……?」

「当たり前だろ…!アクトがこんな早く学校に来るわけねぇ。むしろ今日は始業式だから遅刻してくるかもな」

 

 と、教室の中でクラスメイトが俺について話しているからである。見たところ俺を除いたクラスの男子全員が既に揃っている。俺が言えた義理じゃないがこいつら暇なのか?

 祐希も居るし、何かを企ててはいるんだろうけど…

 中をバレないように覗いてみれば奴らはわざわざ机を動かして重要な会議をするかのように振る舞っていた。絶対楽しんでるよな?

 

 ただまぁわざわざこんな朝早くに集まっているのだ。俺の陰口を叩くって訳じゃないだろう。もしそうならこんなバレやすい教室なんて場所で集まる必要がないしな

 だとすれば俺にバレては困り、対面で顔を合わせたほうが都合がいい事をしているということだ。はてどんな事がある?

 

 

 先ず仮説1 俺に何らかのサプライズを計画している

 

 これは除外だ。中3、いやレイナに振られてからは特定の敵も作らないが味方も作らないように立ち回っていた。

 そもそも俺には祝われるような事が無い(一番可能性のありそうな誕生日は4月でもう終わってる)しあったとしても男子だけで集まる必要がない。

 (祐希と喜多を除けば)クラスメイト全員との関係値は多少の差はあってもほぼ同じに保ってある。もし本当にサプライズで男子がここまで集まっているなら親切な女子の2人や3人居ないほうが不自然だ。

 

 

 次に仮説2 この場の全員に何かしらの共通の目的があり、それを達成する為にはこの場に居ない俺や女子の存在が邪魔である、というもの。

 

 まぁこれも除外だろう。まず不確定要素が大きすぎる。もし仮に合っていてもここからじゃ推理のしようがない。

 俺もそこまでノリが悪い方じゃないから女子へのチクリを警戒されているわけじゃないだろうし、男子の集まりから俺だけ省かれるほど嫌われているわけじゃない……はずだ

 

 

 最後に仮説3 俺に何らかの恨みを持っている可能性

 

 これが一番確率が高いな。誰にも敵にならないのは誰の味方にもならないということだ。どこかのタイミングで恨みを買っていても不思議じゃない……

 

 むぅ、色々と考えてみたがこの少ない情報量ではただの推測の域を出ないな。気にはなるが仕方がない。教室に入ろう。

 せっかく早く来たのに時間が無駄になっちまう。まだ読み途中の本がカバンに入っているのだ

 

 そして教室の扉を開いた時タイミング良く、いや悪くその発言を聞いてしまった

 

「喜多さんの投稿に写ってた奴は恐らくアクトだ。ふん縛ってでも聞き出すぞ!」

「え?」

「あ?」

 

「………ああ、その、うん。今日は欠席ってことで……」

「捕まえろぉ!!」

「うわぁぁぁ!!!」

 

 俺は弾かれるように廊下を駆け出した。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ちょっとなんで追いかけてくるわけ!?」

「むしろそっちこそなんで逃げんだよ!?俺たちはちょ〜っとお話したいだけだぜ?」

「そんなぶっとい縄持った状態で言われても信頼できねぇよ!」

 

 現在俺はクラスメイトの男子全員から追われるというだいぶレアな状況に陥っていた。

 いつの間にか追いつき並走している祐希に話しかける

 

「これマジで何なの!?」

「喜多さんは人気者だからね。このクラスの男子の間には不可侵条約的なのがあるんだって」

「なにそれ初めて知ったんだけど。てかそれが何でこうなんの!?」

「喜多さんのイソスタにアクトが写ってたかららしいよ?」

「は!?喜多顔は載せないって言ってたのに何で分かるの!?」

「やっぱり写ってたのアクトだ!裏切り者は捕まえろ!!」

「………祐希。もしかして嵌めた?」

「喜多さんにハメたのはアクトの方でしょ?」

「ぶっ殺すぞ!!」

 

 校舎を走り回って気付けばいつの間にか一周して教室に戻ってきてしまった。ヤバい。運動不足のせいで息が…苦しい……死ぬ……

 膝に手をついて息を整えていると背後から扉の開く音が聞こえた。あとかなりの数の足音も。

 

「アクト〜?詳しく話を聞かせてもらおうか〜?」

「ひっ!く、来るな!近づくんじゃねぇ!!」

 

 ジリジリと縮まる俺とクラスメイトたちの距離。縄を持った奴が俺の肩に手を置こうとした瞬間、救いの女神が降臨した。

 

「あら、もう皆いるの?早いのね」

「男子共集まってなにしてんの?」

「喜多!!佐々木さん!!」

「えっ、どうしたのアクト君」

 

 なんとこのタイミングで教室に足を踏み入れたのは喜多と佐々木さん。助かった!流石に2人の前で俺を縛り詰問するほど俺のクラスメイトは人の心を捨ててはいないだろう。

 

「いや〜助かった!まじありがと喜多!あと佐々木さん!」

「私はオマケか?」

「いや、そうじゃなくて……ん?」

 

 あれ、見間違いだろうか。何故か俺の体にグルグルと縄が巻かれてるような気がするんだけど……?しかも喜多と祐希の2人にぐるぐる巻きにされてる気がするんだけど?

 

「なぁ…何で俺縄でぐるぐる巻きにされてんの?」

「なんでって……聞きたいことがあるから?」

「は?」

 

 ??????

 意味が分からない。なんで?普通聞きたいことがあるからって人の事拘束するか?つーか何の理由があって喜多は俺を拘束するんだ?

 頭に幾つもの仮説と想像が浮かんでは消えていく。何か怒らせるようなことをした?この前聞いてきたオススメの小説の続きを借りたいとか?いやどれも俺を縛る理由になるには弱い

 

「…もう少し詳しく聞かせてもらえるか?」

 

 体の周りを大体十周して固定された縄を見下ろしながら俺は縄の先を握る喜多に問い掛けた。

 ……おい待て祐希、なんで縄の片方を喜多から受け取った?なんで窓枠に掛けるんだ?

 ……おい待て体重かけんな浮かんでる!俺の体浮かんでるから!物理の授業で見た定滑車みたいになってるから!ミノムシみたいになっちゃってるから!辞めて!降ろして!!

 そんな俺の祈りは届かず俺は宙ぶらりんのまま喜多の話を聞くことになった。めっちゃ腕痛い。誰か助けて〜…

 

「アクト君昨日柳田さんに会ったよね?」

「え、レイナ?……ああ、会った、確かに会ったけど…それがどうしかしたのか?」

 

 喜多の口からレイナの名前が出たことに驚きながらも質問に答えた。早く俺の質問にも答えてほしいんだけど……

 

「はぁ!?レイナってあの柳田レイナか!?」

「うん。アクトと柳田さんは同じ中学だからね。あと喜多さんと佐々木さんも」

「お前も中学同じだろーが。……レイナってそんな有名なのか?」

 

 クラスメイトの一人、サッカー部の太田がレイナの名前に反応した

 

「知らねーのかよ、柳田玲奈って超天才美少女として結構有名だぜ?俺イソスタフォローしてるもん。昨日男と写ってる写真載ってて悲しくなったけど……」

「へぇ……あ」

「その反応…やっぱり昨日写ってたのアクト君だったのね?」

「はあぁぁぁぁ!?あの男アクトだったのかよ!?」

「い、いや〜違うんじゃないか?そもそも、証拠がないしな!俺という証拠がないし!」

「あの投稿に写ってた服昨日アクト君が着てたのと一緒よ?」

「偶然だと思う!!」

 

 なんで、なんでレイナと会っただけでこんな目に遭わなくちゃいけないのだ……。くそ!こんな事なら二度寝でもしていれば……!

 

「てことはアクトは喜多さんにあった後に柳田さんに会いに行ったってことだね」

「いや違うから。喜多と会ったのはバイトが入ってたからだしレイナと会う予定も前から入ってたから」

「おいコイツ認めたぞ!」

「クズ野郎が!」

「死ね!」

 

 俺の言葉に対してクラスの男子は非難轟々だ。いやそこまで言うことなくない?泣きそうなんすわ…

 

「太宰君、アクト君のこと降ろしてあげて」

「え、いいの?僕としては面白いからこのまま1日過ごしてほしいんだけど……」

「悪魔か?」

「うん。このままだと可哀想だし。写真はもう撮ったから」

「おい悪魔2人目ぇ…。この場に正常な人間はいないのか?」

 

 悪魔と言ったのが気に食わなかったのか、祐希は急にロープから手を離し、俺は両手が使えないまま地面に激突した。祐希……俺が受け身取れるって知ってたからやったんだろうけど普通に危ねぇぞ今の。死ぬかと思ったわ

 痛む腕をさすりながら顔を上げればぷくっと頬を膨らませ、不機嫌ですと顔に書いてある喜多と目があった。

 

「柳田さんと会った理由は詳しくは聞かないけど……私たちの誘いを断ったときに一言言ってくれてもよかったじゃない」

「女と会うから遊べませんなんて言えないだろ…流石に」

「バレてるから意味ないわよ」

「はい…ご尤もで……」

 

 なんか普通に俺が悪い気がしてきた

 

「じゃあ、これからは私に隠し事はなしね!」

「え、はぁ!?何でそうなるの!?」

「だってアクト君は隠し事をして私の心を大きく傷つけたじゃない?これは責任を取ってもらわないといけないと思うのよね」

「なんでさ!?高校生男子には隠し事ぐらいあるよ!」

「そうなの?」

「普通はそうだろうけどアクトには隠し事らしい隠し事はないよ」

「なんでさっきから祐希は俺の敵な訳!?つーか俺は一般的で平凡的で普通の男子だ!俺のことなんだと思ってるの!?」

「「え…情緒小学校低学年?」」

「なんでハモるの!?」

 

 おかしいだろ!俺にだって人には言えない秘密ぐらいかかえてるわ!

 

「まぁまぁ喜多よ。アクトも男なんだ。分かってやれよ」

「佐々木さん…!」

 

 どうしよう。佐々木さんが天使か何かに見えてきた

 

「ほら高校生だからさ…えっちなのも見てるんだよ。理解してやれって…」

「えっ!?……あ…うん、そうよね!?高校生だもんね!?そういうのも見るわよね!ごめんねアクト君!」

 

 前言撤回コイツも悪魔だ!!

 喜多が顔を赤らめ始めたぐらいからこの四人以外は空気を読んだのか教室から出ていきやがった。出ていく前に俺を助けろよ!

 

「なんか腑に落ちないけど…隠し事全部言わなくていいなら何でもいいよ」

「あ、でもアクトそういうの見ないって言ってたから隠し事無しでもいいんじゃない?」

「なんで丸く収まりそうだったのに燃料投下するんだ??」

「まぁ別に性癖知りたいわけじゃないし何かする時は報告させればいいじゃん」

「佐々木さん?敵に回らないで?」

「………」

「き…喜多?」

「アクト君は事の大小に関わらず私に報告すること!それが今回の罰!」

「それは……どのぐらいの期間?」

「じゃあ一ヶ月」

「長…まあ別にいいか」

 

 喜多に知られて悪いことしてるわけじゃないし嘘もつけるしな。バレたら面倒くさいからしないけど

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「なんて思ってたんだけどなぁ…」

「何か言った?」

「いいえ、何も言ってません!」

 

 あの約束から数日しか経ってないのに俺は喜多に正座されられていた。もう来ないと思っていたスターリーで。理由は2日前ほどに遡る………

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「ライブハウスのバイトのヘルプ……ですか?」

『そうなの〜!なんかその子インフルかかっちゃったみたいでさ!しかもそこからパンデミック起こっちゃって〜今働ける人殆ど居ないの!』

「大丈夫なんすか?廣井さんは」

『いや〜その日出るバンドの子たちは大丈夫なんだよね〜凄いね!』

「そうですね〜。で、給料出るんですか?」

『あり?意外と乗り気?』

「そりゃあそこまでヤバそうなら手助けぐらいはしますよ…」

『給料はもちろん出るよ!じゃあ2日後に新宿FOLTで〜!』

「どこですかそこっ、て切れてるし…」

 

 唐突にかかってきた廣井さんからの電話。その内容はバイトのヘルプに出てほしいとの事だった。

 何でも従業員間での感染症の流行で出れる人がいないんだとか。出れる人は機材の準備とかで忙しく手が足りない。そして暇そうでライブハウスのバイト経験がある俺に白羽の矢が立ったという訳だ。 

 

 そして口車とお高めの賃金に乗せられ向かった新宿FOLT。そこの店長さんはピアスを開けた強面のお兄さんで初対面はめちゃくちゃ怖かったのだが

 

「へ〜!貴方が今日入ってくれる子!?すごく若いのね〜!ピチピチで可愛い〜!あ、私は吉田銀次郎37歳、銀ちゃんって呼んでいいわよ!」

「……37!?お若いですね…」

「あら〜お世辞でも嬉しいわ〜!」

 

 なんと心は乙女だった。マジでビックリした。めっちゃいい人なだけに最初怖がってしまったことに罪悪感を覚えた。

 その後は銀ちゃんさんに仕事を軽く教えてもらい開店まで待っていたのだが……

 

「ここが〜!私のホーム新宿FOLTで〜す!さあ入って入って!」

「スターリーとは随分違いますね……」

「大丈夫だって〜!そんなに変わらないよ」

「は?喜多?」

 

 そう、あの酒カスが結束バンドのメンバーを連れてきたのだ。別にそれはいいのだけれどなんでよりにもよって今日なんだよ…!幸いまだ気づかれてない誤魔化しようはある!

 

「銀ちゃんさんちょっと俺の事はあの子達には話さないでください」

「え?どういう事?」

「頼みます!」

 

 それだけ言って俺は奥に引っ込んだ。どうにかして雰囲気を変えないと……あマスクあるじゃんこれ着けて…帽子被って……これなら下向いとけばバレないでしょ!

 変装を済ませ銀ちゃんさんの方を伺うと廣井さんのバンドメンバーが遅刻した廣井さんに注意をしていた。

 うん。これぐらいゴチャゴチャしてたらバレないだろ!俺は声を低くしてその集団に突っ込んでいった。

 

「銀ちゃんさん。俺受付の準備しときますね」

「え、ええ!お願いね!」

 

 シクハックのドラム、志麻さんには何してんだお前、と視線を向けられるがテンパった後藤ぐらい手をブンブン振ってたらなんとか伝わったみたいだ。虹夏さんに話を振ることで注意を俺から逸らしてくれてる。ありがてぇ

 

 そのまま通り過ぎようとしたら袖を掴まれ阻まれてしまった。恐る恐る振り返ると袖を引っ張っていたのは喜多で、すごい疑いの目線を向けてきている。

 

「ねぇ、貴方名前はなんて言うの?」

「え、名前……竹下 夢一(むいち)ですけど……」

「ふぅ〜ん……竹下夢一ねぇ…」

 

 え、何怖い。嘘だろ?流石にバレないよな?俺だと分かる要素マジで一つもないぞ?

 

「その子あんまり女の子得意じゃないのよ。それぐらいにしてやってちょうだい?」

「え、あっすみません…」

「いえこちらこそ……」

 

 流石銀ちゃんさん。フォローの仕方がうますぎる。銀ちゃんさんに頭を下げてから今度こそ通り過ぎようとしたその時、俺の頭から帽子が外された

 

「あれ、やっぱりアクト君じゃ〜ん!なんで帽子なんか被ってんの?」

「………」

「………」

「………」

 

 この酒カスがぁ……!

 

「へぇ……アクト君この前隠し事しないって約束したのにここで隠れてバイトしてたんだ……へぇ……」

「いや違うんすよ。これには並々ならぬ事情があって…」

「ふぅ〜ん……」

 

 怖いって!

 

「そろそろライブ始まるんじゃないかな!?うん!俺はバイトだから働かなきゃ!じゃ俺はこれで!」

 

 足早に去ろうとした瞬間虹夏さんに肩をつかまれた

 

「アクト君…今日は厳しいから明日はスターリーに来よっか」

「ひぇ…明日は用事が」

「来よっか?」

「はい…行かせてもらいます…」

 

 だから怖いって!

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 と言うことが昨日あり俺はスターリーにて正座させられていた。泣きそうなんすわ

 

「では今から容疑者芥川アクトの事情聴取と裁判を開始します」

「すみません虹夏議長。質問よろしいですか?」

「駄目です。あと伊地知議長と呼びなさい」

 

 駄目なのか……あと距離感感じて辛い…。これ事情聴取の要素ないじゃん…

 

「ではまず罪状その1。私たちの江ノ島の誘いを断って他の女の子と会っていた。何か異論ありますか?」

「ありま「被告人は静粛に」……はい」

「異議あり!」

「どうぞリョウ弁護士」

「その女性と会う予定はかなり前から決まっていることでした。よって私たちの誘いを断るのは当然かと」

「ふむ、その異議認めましょう」

 

 結構公平な審査してくれて驚いてるわ。あとこんなにリョウさんが頼りになったのは初めてだ。

 

「では罪状その2」

「いくつあるんだ……」

「お黙り!」

「ごめんさい…」

「改めて罪状その2!喜多ちゃんと隠し事はしない約束をしたのに黙って新宿FOLTでバイトしたこと!何か異論は?」

「頼みましたよリョウ先生……」

「………」

「リョウ先生…?あの?」

「異議なし!」

「リョウ先生!?」

 

 なんてこった。まさか反論の一つもできないとは思わなんだ。俺はこの人をさっきまで頼りにしていたことを早くも後悔した。

 ……いや隠し事しないなんて約束してないよな?

 

「では罪状その3」

「まだあるんすか!?」

「むしろこれが一番重い罪だよ」

 

 そんなに悪事をした覚えはないんだが、いつの間に俺は罪深い人間になってしまったんだ。

 

「アクト君さ、なんでバイト辞めちゃったの?」

「……あ、それ?」

「なに、もっと重い罪あるの?」

「いやないですけど」

 

 正直レイナについて深掘りされると思ってたから拍子抜けだった。レイナの件を持ち出されたらマジでなんの反論の余地もなく俺がクズで議論が終了するからな。

 

「まあ辞めた理由は……自分探しですかね?」

「なにそれ」

「?自分探しは自分探しですけど……」

「そういう意味で聞いたわけじゃなくてね」

 

 適当に流そうとしたが無理っぽいなこれ。いやでもまだ説明したくないんだよな。これに関してはどうしても俺の家庭環境だとかコンプレックスに触れなきゃならんので話したくない

 

「ねぇ…」

 

 この裁判が始まってからずっと黙っていた喜多が口を開いた。俺は床に正座、喜多は椅子に座っていて喜多が見下ろす形になるはずなのに、喜多の視線は俺よりももっと下に向いていて、目が合うことはなかった

 

「自分探しについて私たちに言えることはないの?」

「……ないよ」

「ひとつも?」

「あぁ、ひとつも」

 

 はっきりとした、否定の言葉。これ以上は俺の中には踏み込ませない。もし今の俺が受け入れられたら、もう一生変われなく、進めなくなると思ったから

 

「……そう。じゃあいいわ」

「ごめん」

「謝らなくていいから。話せないんでしょ」

 

「なんとかしてよリョウ!なんか凄い気不味い雰囲気が…」

「……無理」

 

 

「じゃあ俺は帰ります」

「え!?ちょ、もうちょっと居てくれても…」

「俺はここで働いてるわけでも無いので、長居したら店長さんにも悪いですよ」

 

 立ち上がり店長さんへ目を向ける。視線が合った店長さんは何か言いたげな顔をしていたがすぐに溜息をつきシッシッと手を振った。

 

「次はちゃんと客として来ますよ」

「待って」

 

 扉に手をかけようとした所で喜多に呼び止められた。その声はとても力強くて、なぜだか頭が痛んだ

 

 振り返ってみれば喜多はまっすぐな眼差しで俺を見つめている。逃げ出したくなるほどまっすぐに見つめられていた

 

「秀華祭の日、私たちはステージに出てライブするわ」

「……知ってる。いや喜多たちなら絶対出ると思ってた」

 

 俺の言葉を聞いた喜多は少し目を見開き、右手の人差し指をピンと俺に向けた

 

「そのステージ発表絶対に見に来て。そのライブでアクト君に一生隠し事なんてできないくらい夢中にさせてあげる」

 

 それは人の機微に疎い俺でも分かる宣戦布告の言葉だった。

 

「………隠し事しないなんて約束した覚えないけど?」

「いいから、分かった?」

「…うん、分かった。ただ、俺に勝負を持ちかけるんだから想像以上の物期待してるぜ?思わず泣いちゃうくらいのモンよろしく」

「期待しておいて、絶対にそれ以上の物を見せてあげるから」

 

「なんか…うまくいった?」

「分からないけど、さっきよりはマシ…なのかな?」

 

 ……さっきから聞こえてるんだけどなぁ。

 

「じゃ俺は本当に帰るよ。……あれ?そういえば後藤は?」

「ぼっちちゃんなら…ほらあそこゴミ箱の中に」

「なんで?」

「なんか喜多ちゃんから詳しく話し聞いてる時に『青春…ピャッ!!』とか言って籠もっちゃった」

「なんで?」

 

 なんで?が2回も出てしまった。だけど俺は悪くないと思う。取り敢えず見つけた後藤に近寄ってみる。ゴミ箱の中に入っている後藤は少し震えながら俺を見上げていた。……なんか可愛いな。

 

 バッグから取り出したポッキーの袋を雑に破り、チョコの付いていないクッキー部分を持って後藤の前でゆっくりと振る。

 左右に動くポッキーをじっと見つめる後藤。チョコを纏っている方の先端を口に近づけるとゆっくりと噛りついた。これが刷り込みの力だ。頑張って餌付けした甲斐がある。ポリポリと音を立てて吸い込まれていくポッキー。昔小学校で飼っていたウサギを思い出すな〜。

 

「美味しい?」

 

 首を縦に振る後藤。小動物みたいでかわいいな。チョコが付いている部分のほとんどが食べられたことを確認してから適当にポッキーを折る。流石に俺の手がついたところを食べさせるわけには行かないからな。そこら辺はちゃんとしているのだ。俺は。

 未だに指先につままれている7割ほどが無くなったポッキーを適当に口に放る。チョコは無いけどサクサクしてて美味しい

 

 袋の中に残っていた5本ほどのポッキーを一気に後藤の口に突っ込む。ビックリしているけど口はモゴモゴしてるのが面白い。

 

「じゃ、三度目の正直で帰りますね」

「いや今のこと説明して!?」

「今のことって…?」

「アクト君がぼっちちゃんにポッキーあ~んした事だよ!」

「あ~んなんてしてませんよ。虹夏さんはオスのウサギに人参を食べさせたらあ~んになるんですか?」

「流石にその言い方はひどいと思う!」

「しれっとぼっちのことウサギと一緒にした…」

 

 ウサギと一緒にされた後藤は…なんか嬉しそうだった。可愛らしいウサギに例えられたのがそんなに嬉しいのか?

 まあ何はともあれここですることは終わった。早く退散するとしよう。……さっきから喜多に睨まれてて怖いし

 

「じゃ四度目の……なんだろ?ま、今度こそ帰ります」

「この状況で置いてかないでー!」

 

 そんな虹夏さんの声が聞こえたが聞こえないふりして無視した。バンドメンバーのメンタルケアも多分虹夏さんの仕事だし。……多分。

 

「後は…母さんと話をするだけかな?」

 

 少しずつ気温が下がってきた9月の中旬。ここから俺の運命は大きく変わるだろう。それが良い方なのか悪い方なのかはまだ俺には、いや誰にも分からない。

 






 お気に入り100件ありがとー!!こんな伸びるとは思わなかった!ぼざろパワーすげぇ!UAも9000超えてた!ありがとう!!

 あ、あと何故喜多ちゃんがこんなクズ野郎のことを好ましく思っているのかは多分2、3話後ぐらいに書きます

 次回『心のカタチ、家族のカタチ』

 アクト、母親と対話する(予定)。果たしてアクトは母親とのトラウマに向き合う事ができるのか。鋭意制作中です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。