因みに今回の題名は米澤穂信さん作、『愚者のエンドロール』にあるエピソードが元ネタです。オススメなので見てみてください
「次ー何か連絡のある委員会、係はあるかー?」
週の終わり、金曜日。多くの人が金曜日というだけで希望とやる気に満ち溢れているだろう。なにせ明日から休みなのだから。
6限が終わり終礼が始まった。あと5分もすれば学校から解放され大半の生徒が部活へ、その他の生徒はほとんどが帰宅する。そして担任の先生に促され一人の生徒が手を挙げ立ち上がった。
「月曜の音楽の授業は歌のテストがありまーす」
……忘れてた……
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「喜多さん、歌のテストに向けた練習に付き合ってくんない?」
「いいわね!じゃあ終わったらカラオケ行きましょうか!」
「…もしかして今日?」
スターリーでのバイトの休憩時間。俺はシフトが重なっていた喜多さんにカラオケのお誘いをしていた。理由は単純、俺は歌が得意じゃないのだ。というより、今まで歌う機会がなかったといったほうが正しい。
合唱コンクールは小中9年間あったが全てそこまで難易度の高くない合唱曲。そして中学の頃は音楽の歌もテストは無く、期末にある筆記テストだけだった。カラオケにも今まで行ったことないし。
故に俺は自分の歌の上手さを把握できていないのだ。高校で初めての歌のテスト。別に成績を滅茶苦茶気にしてるわけじゃないがそれでも評価は高い方が良いし、そのためなら努力もする。
「そうね…バイトが終わってからじゃ時間が短いわよね。じゃあ明日!一緒にカラオケ行きましょ?」
「ありがとう、休日に付き合わせちゃってごめん」
「全然大丈夫よ?気にしなくていいわ」
本当にカラオケに行く約束を取り付けることができた…祐希すげ〜
なんと今回のお誘いは祐希発案なのだ。それにしてもこんなにすんなりと行くとは思わなかった。流石
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回想祐希『思い出作りにカラオケ誘ってくれば?ほら、こうやって〜』
『思い出作りってなに!?俺振られる前提なの!?』
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「へ〜アクト達明日カラオケ行くんだ」
「うわ」
カラオケに誘う理由になった会話を思い出していると綺麗な青髪が視界に入ってきた。急に出てこられるとビックリするからやめて欲しいな。
「うわなんて言っちゃダメでしょアクトくん」
もう一人増えた。今度は面倒見の良い金髪だ。この人ならまだ…いやデートを邪魔して来る時点でダメだな
「先輩たちも明日一緒に行きませんか?」
「いや、急だし予定空いてないんじゃない?ほら明日だし」
頼む頼む頼む、なんでもいいから明日予定入っててくれ。デートの邪魔しないでぇ〜
「おっ、いいねぇ〜明日バイトもないし行っちゃおうか!「チッッ!!」
「今舌打ちした?」
「してないです」
せっかく2人きりでカラオケデート行けると思ったのに思わぬ邪魔が入った。ここまで人増えるなら祐希も誘っとけばよかったかもしれない。女子が多すぎて緊張してきた。
「ぼっちも誘おう」
「いいですね!後藤さん明日予定ある?」
「あっえっあっ、ありません!!」
「じゃあ明日は結束バンドの皆でカラオケだぁ!」
ここまで来てから盛り下げることは言いたくないので抗議の言葉はグッと飲み込んだ。別に結束バンドの皆で行くのがいやってわけじゃないけど少しぐらいは空気読んで欲しかったな…
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「遅いわよ芥川君!」
「ごめん、寝すぎた」
約束の時間から約5分過ぎ俺は集合場所に辿り着いた。ちなみに時間帯は昼過ぎ。起きて時計を見た時には12時前でめちゃ焦ったが何とか間に合ったようだ。
「間に合ってないわよ?」
「さらっと思考読まないで。ていうかリョウさんも居ないじゃん。あの人も遅刻?」
「リョウは寝坊だって」
「俺と一緒じゃん!」
「リョウ先輩は曲作りで忙しいから仕方ないの」
「酷くない?何その差理不尽〜」
その後十分ほどでリョウさんが合流、全員揃ってカラオケに向かった。ちなみにリョウさんは遅刻の件で虹夏さんにしめられてた。納得はできてないけどスッキリはした。
「お〜やっぱり喜多ちゃん歌上手〜!」
「もっと褒めてくれてもいいですよ?」
カラオケの受付で指定された部屋に入り大体5分ほど、トップバッターを務めた喜多さんの歌が終わり画面に点が表示される。
94点、カラオケ行かないから分かんないけど結構凄いんじゃなかろうか。
「よし、じゃあ次は芥川君行きましょうか!」
「えっ?」
「当たり前じゃん今回の目的はアクト君の歌の練習でしょ?アクト君が歌わないと意味ないじゃん!」
「それはそうなんだけど…喜多さんのあとに歌うの勇気いるだろ」
「とか言いながらもう曲予約してるじゃん」
「リョウさんうるさい」
抗議したい気持ちもあったのだがそもそもこの会は俺が歌の練習がしたいという名目で行われているものなので遅かれ早かれ歌うことになることは明らかだ。
というか喜多さんはどうせ止まらないのでこういう時は諦めて従うが吉である。ほぼ暴走列車。
「〜〜♪」
音楽は普段あまり聴かないので詳しくないが、流石に流行りの曲ぐらいは知っている。さっき適当に入れたランキング上位曲のイントロが流れ出しモニターにMVが映され歌詞が現れた。
スゥー、ハァー
緊張を紛らわせる為に深呼吸をする。初めてのカラオケ、さあどうなるだろうか。
最後に大きく息を吸い込み俺はリズムに合わせて歌い出した。
「お〜結構上手じゃん!」
「ホントですね、芥川君もっと自信持っても良いわよ?」
画面が暗転してから点数が表示される。80と少し、まぁ悪くはないだろう。しかしこうして歌ってみると90点台を出せる喜多さんのすごさがよく分かる。なんであんな綺麗に音程合わせられるの?
「アクト、今度ボーカルとしてライブでない?」
「遠慮しときます」
「冗談だよ」
歌うのは楽しかったがライブで歌えるほど肝は据わってないし結束バンドに入る予定はない。
「ジュース注いできます。後藤さんも一緒に行く?」
「はっ、はいお願いします」
「かしこまりすぎじゃない?」
空いたコップを左手に持ち後藤さんと一緒に部屋から出てドリンクバーへと向かった。
「ありがとね、後藤さん」
「えっえっ、私何かしましたっけ…」
ボタンを押し空になったコップに綺麗な立方体の氷が落とし入れられるのを見ながら俺は後藤さんに感謝の言葉を伝える。
「あの時、喜多さんを引き止めてくれただろ?最近、前よりも喜多さん楽しそうなんだ。ギターの練習も、バイトも」
「あっあの…私そんな感謝されるようなこと…」
「してるよ。後藤さんの弱点はコミュ力と自己肯定感が低いところだな。……あと勉強と運動。承認欲求が強いところも」
「グヘアッッッ!!!」
パァン!!という破裂音を奏でながら後藤さんの身体が四方八方に弾け飛ぶ。この形態は初めて見る。一つひとつの破片はスライムみたいな触り心地だった。
「ご、ごめん。別に貶したかったわけじゃない。……俺はちょっと、後藤さんに嫉妬してたんだ。俺はあの時喜多さんに何も言えなかったから、何かが変わるのが怖くてビビって声も掛けられなかったから。変わらないものなんて無いって、知ってたのに」
あの日から心の中にあった感情がポロポロと形になって口から零れ出る。何かこんなことこの前もあったな。本当に成長しない、いつまでもカッコ悪いままだ。
いつの間にか弾けた体が集まり人型に戻っていた後藤さんが俺の顔を見つめていた。いつになく真剣な眼差しで、思わず目を逸らしたくなるほどに。
「……わっ私は芥川さんが居てくれて良かったと思ってます。」
その言葉を聞き思わず目を見開いてしまう。あの二人からも似たような事を言われたけれど、どこか現実味がなかったものだった。
後藤さんは真っすぐに物を言う。もちろん誤魔化したり世辞を言ったりすることもあるがそれが分からないほど俺は他人の機微に疎くはない。その後藤さんからの言葉が俺の胸に深く刺さっていた。
「あっあの時…もしも私が勧誘に失敗して喜多さんが断っていたら…その時は芥川さんが喜多さんを受け止めてくれた筈ですから…」
「…そうとは限らないぞ。別に俺は慈善事業主じゃない。慰めなんて面倒だったら絶対やらない」
後藤さんの真っ直ぐな言葉を向けられるのが少し恥ずかしくて良くない返しをしてしまう。コレも俺の悪い癖だな。
「あっ芥川さんは優しいから…そんなことは絶対にしないです」
……優しい、優しい?誰が?俺がか?
意味が理解できずに困惑している俺に後藤さんは更に言葉をかけてくる。
「だっ、だって…バイトのときもせっ、接客の時とかにさり気なく助けてくれるしこの前のテストだって芥川さんが教えてくれなきゃダメだったかもしれません」
「あっ、あの時は付き合いは短かったけどそれぐらいは分かったので、だから私も喜多さんを引き留められたというかあんな事言えたと言うか…!」
「だから…ありがとうございます。」
「お礼を言うならコチラの方だよ。というかこっちがお礼を言おうと思ったのに。……ありがとう、こんな俺を優しいと言ってくれて」
「は、はい。こ、これからもよろしくお願いします?」
「じゃ、戻ろっか。結構長く話し込んでたから心配されてるかもだし」
ずっと氷を出す台の前に立っていた俺はそのまま横にずれドリンクバーのラインナップを見る。ジンジャーエールのボタンを押しコップの7割ほどまで注がれるのを見てから押すのをやめる。コップにあった氷の角は既に溶け丸くなっていた。
「あー!遅いよアクト君!ぼっちちゃん!」
「何話してたの?」
「秘密」
ちょうど歌い終わったのかそれともこれから歌うのか分からないがマイクを持った喜多さんが話し掛けてきた。
さっきの内容を話せるほど俺の羞恥心は死んでいない。さっきの会話は墓まで持っていこう。
「…よし、後藤さんも歌おう」
「えっ!」
「いいわね!私も後藤さんの歌聞きたいわ!」
「うっ!!」
「ぼっちちゃんお願い!」
「あ゛っ!!」
「ぼっち、楽しみにしてる」
「ぎっ!!」
プレッシャーを掛けられた後藤さんはまた体が弾け飛び歌える状態になったのは30分以上後のことだった。
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残り時間十分の電話を取り荷物を纏め会計をしていた時。
「アクト、お金貸して」
「いいですよ」
「いやダメだよ?」
リョウさんにお金を強請られたことで反射的に二人分の代金を財布から取り出してしまっていた。…あれ?
「いや今日のカラオケは俺から提案したことだし…」
「なんでアクト君が食い下がってるの?」
「良いじゃん虹夏、アクトがこう言ってるし」
「まあコレが初めてってわけじゃないですし」
「は?……リョ〜ウ〜?」
やっべ口滑らせた。ちなみに初めて奢った時はファミレス呼び出されての昼メシ代だったはず。
「芥川君私にはあんなに注意するのに自分はリョウ先輩に奢ってるのね…」
「いやあんな食生活してたら奢っちゃうよ!ていうか俺は喜多さんと違ってお金の使い道ないから別に痛い出費って訳でもないし…」
俺の言い分に納得がいってないのか喜多さんはむ〜、と頬を膨らませコチラを睨んでいる。正直可愛いが勝っていて全く怖くない。
「あっ、わ、私もこの前リョウさんのカレーライス代立て替えてまだ返してもらってないです…」
マジか、リョウさん後藤さんからも借りてたのか。普通に多重債務者で草。将来借金で首回らなくなって死ぬんじゃないかこの人。ちなみにそれを聞いた虹夏さんはリョウさんにプロレス技を掛けていた。詳しくないから技名が分からないのが残念。
「まあまあ虹夏さん、そんなに怒らないで下さいよ。俺は貸してるんじゃなくてあげてるんで」
「もっとダメだよ!」
「取り敢えず出ませんか?」
周りの目に気づいた俺たちは喜多さんに促されそそくさと支払いを終え店から出るのであった。
「バイバーイ!」
「アクト、また奢って」
「その時は呼んでください」
「ハイ、伊地知先輩、リョウ先輩また今度」
「後藤さんも、月曜にな」
「はっ、はい。また今度…」
本格的な夏の一歩手前、一ヶ月前とは比べ物にならないほど明るい時間が増え、何となく時間の感覚が狂ってしまう。2人きりで歩く帰り道は珍しく沈黙が場を満たしていた。
「ねぇ、今日ジュース注ぎに行った時…後藤さんと何話してたの?」
…どうしよう。別に言ってもいいのだが掘り下げられたら俺がかなり恥ずかしい思いをするだろうし、そもそも言わなくてもいいことだし。
「……話せないこと?」
喜多さんは悲しそうな表情をして俯いていた。最近はこんな事ばっかりだ。喜多さんを悲しませたくないのにいつもこうなってしまう
「実は…喜多さんの事話してた」
「えっ、私のこと?」
「うん。…後藤さんはさ、喜多さんを結束バンドに引き留めてくれただろ?俺には関係ないけど、お礼を言ってたんだ」
「お礼を言うのは私なのに、ありがとね?私のことそんなに思ってくれて」
「そりゃあ喜多さんのことを一番に考えてるからな」
少し前を歩いていた喜多さんは笑みを浮かべながらこちらに振り返る。なんてことない帰り道、夕日に照らされてキラキラと輝く赤髪が俺にはとても眩しかった。
その眩しい笑顔に混じった赤色が夕日のものなのか、それとも別の感情から来るものなのかも俺には聞く勇気が無かったし、一生分からなくてもいいと思った。
何か毎回喜多ちゃんが毎回悲しい顔してるので次回から暫くは笑顔にしたいです。アクト君には頑張って欲しいですね
次回 『ギターと頭痛と口約束』
オーディションです