忘れてなんかやらない   作:アゲアゲ太郎

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そろそろ前書きに書くことないなったです
アニメ5話の内容です


第六話 ギターと頭痛と口約束

「え〜諸君!」

 

 下北沢にあるライブハウス、スターリーでバイトをしていた俺たちに店長さんが茶封筒を持って話しかけてきた。

 

「お待ちかねの給料だぞ」

「やった〜!」

 

 皆で口を揃え歓喜の声を上げる。いつの間にか拍手が湧くほど全員のテンションが上がっていた。ちなみに俺もそのうちの1人である。

 

「ありがと〜」「ありがとうございます」「ありがとうございますっ!」

「はい、ぼっちちゃんの分」

「あ、ありがとうございます…」

 

 皆口々に店長さんへ感謝の言葉を述べ、茶封筒を受け取っていく。たぶんあれに給料が入ってるんだろうな。

 

「はい、これアクトの分」

「え?あ、はい。ありがとうございます」 

「なんだ?不服なのか?」

「いやそういうわけじゃなくて…ほんとに給料貰えるんだな、と」

「当たり前だろ!さすがに無給で働かせたりしねぇよ」

「いや、いつの間にかバイト入ってたしずっと手伝いみたいな感覚で…」

「いつの間にかって…お前ちゃんと履歴書出してただろ」

「は?」

「は?」

 

 瞬間、スターリーに沈黙が降りる。店長さんを含めた皆が驚いたような表情をしているが1人だけ冷や汗をダラダラと流し俺から目を背けているやつがいる。

 

「はぁ…喜多さん。さすがに履歴書偽造までしてるとは思わなかったぜ」

 

「ち、違うのよ!芥川君をバイトに入れたいって学校で話したらさっつーと太宰君が…」

 

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『履歴書書いちゃえばいいじゃん』

『僕アクトの個人情報全部知ってるよ』

『で、でも流石にそれは……』

『大丈夫大丈夫!僕が言ってるんだからアクトが言ってるようなものだよ!』

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「って言ってたのよ!」

「だとしても決行する喜多ちゃん行動力凄いね!?」

「俺は別にいいんだけど…」

 

 そういえば祐希って初めて俺にシフト表送られてきたとき一緒にいたよな?てことは裏で喜多さんと繋がってた事がバレるのを恐れたからアイツは深く追求してこなかったのか。

 

「まぁそんな事よりも俺はこれにいくら入ってるのか気になる…」

「そんな事で済ませて良いことかなぁ?」

 

 「いや本人がいいんならいいんだろうけど…」とかなんとか呟いている虹夏さんを尻目に俺はさっきからずっと目を奪われている封筒の封を開ける。

 気持ちが逸っているからか思わず雑な動きで封筒の中に指を入れてしまった。中にある紙幣を親指と人差指で摘み上に引き上げる。出てきたのは高校生は日常生活で見る場面が少ないであろう1万円札3枚。

 

「うっひょー何買おうかな〜」

 

 テンションが上がり思わず声が零れ出る。何買おうかな〜、先月出た新作ゲーム買っちゃおうかな〜!それとも漫画大人買い?

 初めて給料という形でバイトの成果が目の前に現れ、得も言われぬ達成感に包まれる。

 

「せっかくのところゴメンだけどライブ代徴収しまするね!」

 …そうか、そういえばライブ代のためにバイトしてるんだった。

「それでは聞いてください。さよなら諭吉」

 

 虹夏さんの発言を聞いた後藤さんがギターを取り出し唐突に弾き始める。やっぱコイツ面白いな

 

「俺は出さなくていいんですか?」

「アクト君は結束バンドのメンバーじゃないし気にしないでいいよ」

「アクトが出してくれるんならノルマ代が減るからだしてくれてもいいよ」

「何でそんな上から目線なの」

「リョウさんにはいつもお金あげてるでしょ」

「あげてるの!?」

 

 もうそろそろ貸した金額が5桁に到達しそうです。あげた額はもうとっくに5桁に到達してます。言わないけど。

 

 

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「アルバムってそんなにお金かかるんですか!?」

 

 ライブ代の事でよほど心を痛めたのかお尻をゴミ箱に突っ込み地面にうなだれている後藤さんの頬をリョウさんと共に棒で突っいていると、机の方からそんな喜多さんの声が聞こえてきた。

 

「じゃあ夏休みバイト増やさなきゃですね」

「そうだね〜皆で海の家とかでバイトしちゃう!?」

「いいですね!」

 

 海の家という言葉を聞いた瞬間後藤さんが慌てて飛び起き必死にスマホをいじくり出した。肩から覗いてみれば金貸しについて調べているらしい。危ないから早く止めようとした時リョウさんが後藤さんに話し掛ける。

 なんとオリジナル曲ができたのだとか。音楽にあまり興味がないのでよく分からないが作曲が簡単にできるものではないという事ぐらいは知ってる。

 

「曲できたって本当ですか!?」

「いいね!早速聞こうよ!」 

 

 全員がすぐに机まで移動し、リョウさんのスマホを中心にするようにして皆が集まる。画面に映る三角が押され音楽が流れ出した。

 

 

 

「…かなり良くない?」「はい!とっても!」「凄いですね」

「ぼっちの歌詞見てたら降りてきた。」

 

 そんな事を言いながらリョウさんが後藤さんを撫でている。その場面を見て喜多さんが動かないはずがなく、すぐにギターを取り出し褒められようと練習の成果を報告している。可愛いな。

 

「じゃあライブ出してくれるようにお姉ちゃんにお願いしてくるね!」

「まだだったんですか?」

「うん!でもすぐ出してくれるよ!ねえ?お姉ちゃーん!」

「いや、出す気ないけど。」

 

「え」

 

「「「え…」」」

 

 

「え…なんで?オリジナル曲もできたのに」

「それはこっちには関係ない」 

 

 途端に重苦しい空気が漂い始める。…なんだか友達とはしゃいでたら先生がやってきて怒鳴られてるみたいだ。

 

「あぁ、集客できなかった時のノルマなら払えるよ」

「お金の問題じゃなくて、実力の問題。」

「この前は出してくれたじゃん」

「あれは思い出作りに特別にな」

「思い出作りって…」

 

 遠目からでも虹夏さんの手に力が入っているのが分かった。握り込んだ事で服にシワができている。

 

「普段はデモ音源審査とかやってんの知ってるだろ?5月のライブみたいなクオリティじゃ出せないからな」

「出せないって、それじゃあ」

「一生仲間内で仲良しクラブやっとけ」

「ーーっ、未だにぬいぐるみ抱かないと寝れないくせにぃ〜!!!」

 

 店長さんの言葉を聞いた虹夏さんは捨て台詞を吐きながらスターリーから飛び出していった。…さっきの本当なのかな?だとしたら店長さんを見る目が変わるんだが。

 

「さっきのってこの写真?」

 

 リョウさんがスマホを取り出し店長さんに見えるように掲げている。そのスマホの中にはくたびれたぬいぐるみを抱きながら眠る店長さんが写っていた。仲間だ。

 

「いいから追いかけましょう!ほら後藤さんも!」

 

 心配そうな顔をした喜多さんが慌てて飛び出していく。その後をリョウさんが付いていき続いてスターリーから出ていった。

 

「ぼっちちゃん待って」

「えっ、えっええ…はい」

 

「ライブに出たいならまずオーディション。1週間後の土曜にやるから虹夏に伝えといて…何してんの?」

「精一杯服従の意志を示そうと…」

 

 呼び止められた後藤さんはあまりの店長さんの威圧感からか、犬のように腹を天井に向け、地面に寝転がっていた。小動物みたいで可愛らしい

 

「…早く行かないと見失うんじゃないの?」

 

 店長さんからの伝言を受けとった後藤さんはワン!という返事をしてぐちゃぐちゃなフォームの走りで虹夏さんたちの後を追いかけていった。事故とか遭わないか心配だ。…ていうか店長さん後藤さんの写真撮ったよな今。もしかして事案か?

 

「…お前は行かなくていいの?」

「俺は…結束バンドじゃないですし、追いかける資格もないですよ」

「…」

 

 いつの間にか居たPAさんと店長さんにジッ、と見つめられる。たとえ美人2人でもとてもじゃないがいい気分にはならないな。みつめられる気まずさについ家の鍵についているキーホルダーのリングに指を通し、くるくると回す。

 

「何でそんな目で見るんですか、何か言いたいことあるんですか?」

「はぁ…いや何でもない。オーディションの日お前も来いよ。」

「なんでですか?」

「なんでって、はぁ…まあ良い。取り敢えず来いよ」

「なんなんすかホントに」

「分からないなら良いんじゃないですか?」

「…なんか怖い…」

 

 結局訳がわからなかった俺はチャリン、という音をたてて綺麗に手の中に収まった鍵をポケットに入れ、みんなが戻ってくるまでの間にバイトの準備を黙々と進めるのだった。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「あっちぃ~……あれ虹夏さんじゃん」

 

 梅雨も開けはじめ本格的な暑さが顔を出し始めた7月。蝉の声はまだ耳障りになるほど大きくないが、日に日に大きくなっている気がする。

 バイトの時間まで特にやることも無く暇だったのでスターリーに向かっていると買い出しから戻ったのか両手にビニール袋を引っ提げた虹夏さんが視界に入った。

 

「虹夏さん、こんにちは。持ちますよ?」

「おー!アクト君。じゃあ片方持ってくれると嬉しいな」

「片方なんて言わず両方持ちますよ」

「流石にそれは申し訳ないかな〜」

 

 なんて平和な会話を交わしながらスターリーへ続く階段を2人で降りる。そういえば7月下旬には期末テストだよな…オーディション終わるまで話題には出さないけど喜多さんたち大丈夫かな…

 ガチャリという音を立てて開く扉を踏み越えスターリーの中へ入る。ふわりと感じる涼しい空気が肌に当たり汗が冷えて気持ちいい。

  ドサッ!

 さらに階段を降りた俺たちの目に飛び込んできたものは下はズボンのスーツに身を包み髪型をマッシュにした(恐らく)喜多さん、後藤さん、リョウさんだった。

 ちなみにさっきのドサッ、という音はあまりの驚きと呆れに虹夏さんが手に持っていたビニール袋を落とした音だ。

 

「え?何その髪型?何やってるの?」

「バンドマンとしての成長を見た目で表現!だそうです…」

「やっぱりリョウか…」

 

 虹夏さんから呆れを含んだ声が聞こえてくる。こうしてみると全員華奢だな…なんというかスーツを着ると普段気にしない肩幅とかが良くわかって女性なんだな、と思ってしまう

 

「飲酒、喫煙、女遊びをして髪型はキノコヘアー、それがバンドマン!」

「イメージがコテコテすぎる!それにお酒もタバコも二十歳になってから!」

「…じゃあ俺はあと楽器弾ければバンドマンになれますね!」

「アクト君マジでやってるの!?」

「はは、冗談に決まってるじゃないっすか」

「芥川君が言うと冗談に思えないわ…」

 

 なんだか心外だ。俺ほど冗談を吐きそうな人間もそういないだろう。俺の発言の六割は嘘と冗談だからな。…てかリョウさんピアスしてたんだ

 

「あ、あの…私女遊び無理です…私と遊んでくれる女の人が居ません!」

「大丈夫。ヴィレヴァンの前でギターケース持って気だるげにしとけば誰か来る」

「うんうん、いざとなったら俺が紹介するよ」

「コラコラ偏見に満ちた情報を教えない!アクト君も変な冗談言わない!」

「でも成長って目に見えないし判断基準ボンヤリしてるし…」

「いーや!ハッキリしてるよ!とにかくお姉ちゃんを納得させれば良いんだよ」

 

 まぁリョウさんの言いたいことも分かる。成長なんて曖昧なもんどうやって示せばいいのか分からない。

 

「上手く行けばいいんだけどな…」

 

 不安が入り混じった俺の独り言は誰にも届かず空中でバラバラになった。

 

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 ついにやって来たライブオーディション当日。メンバーでもないのに緊張で全然眠れなかった。そして結束バンドの皆は今スタジオに入り最後の練習をしていた。

 だからといって皆に混じってスタジオにいるなんて真似はしない。それは俺部外者だからってのもあるし、自分の体質を理解してるからってのもある

 

 ガチャリ、と扉が開き喜多さんが出てくる。

 

「どしたの?喜多さん」

「ちょっと飲み物買おうと思って」

「俺もついてくよ」

 

 スターリーを出て近くの自販機まで歩いて行く。隣には喜多さん。こうしてもう一度一緒にいられるなんて、4月の頃は思いもしなかった。  

 

「喜多さん何買うの?」

「そうね…これにしようかしら」

 

 喜多さんが指さしたお茶を迷い無く購入する。電子決済は便利だな。財布出す必要ないし

 

「奢りなんて悪いわ、私が出すわよ」

「気にすんなよ。これは…そうだなオーディションの見物料ってことで」

「…ふふ。じゃあ約束。ちゃんと見ていてね?結束バンドを、私を」

「当たり前じゃん。なんのためにスターリーでバイトしてると思ってんだよ」

 

 喜多さんと手にあるものと同じお茶を買う。ガコン、と取り出し口に落ちたペットボトルのお茶を取り出し、蓋を開ける。ゴクゴクと流し込んだ冷たいお茶の感覚が気持ちいい

 

「じゃあ喜多さん。がんばれ」

「ええ…!頑張るわ!」

 

 時間にしてあと1時間弱、いよいよオーディションが始まる

 

 

 

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 俺がお手洗いから帰るともう既に結束バンドの皆はステージに上がり、機材の最終チェックをしていた。皆心なしか硬い表情をしている。これに合格出来なければ8月のライブに出れない。その事実とプレッシャーがここに来て重くのしかかっているのだろう。

 

「結束バンドです!じゃあ、『ギターと孤独と蒼い惑星』って曲!やりまーす!」

 

 虹夏さんの声からも緊張している事が手に取るように分かる。大丈夫だろうか…。いや信じろ!皆が努力しているところを俺は一杯見てきてるじゃないか!

 そして演奏は始まる。もう止まらないし止められない。3分にも満たない試験が始まる。

 

 虹夏さんのドラムから四人の音が合わさり、ギターもベースもドラムもボーカルも全てが合わさり曲が作られていく。

 サビに入ってから後藤さんのギターのキレが上がっていく。体調は最悪だ。むき出しの感情に殴られひどい頭痛に襲われる。だけどそんなの関係ない。ちゃんと見なきゃ、結束バンドを、喜多さんを。

 

 演奏が終わり全員が頭を下げ感謝の言葉を並べる。

 

「良いんじゃない?…て言いたいところなんだけど。ドラム力入りすぎ、ギター2人下向き過ぎ、ベースは自分の世界に入りすぎ…でも、まぁお前らがどんなバンドかは分かったけどね」

 

「アドバイス…ありがとうございました」

 

 店長さんの厳しい指導で全員の肩が下がる。そりゃ落ち込むのは分かるがもう少し喜ぶところじゃない?今のとこ

 

「え…何そのリアクション」

「いや…だって」

「だからお前らはどういうバンドか分かったって。この喜ぶとこだから」

「たぶん合格って事ですよ」

「だからそう言ってんじゃん!合格だよ、合格!」

「店長さんもう少し素直になれないんですか?」

「うるせぇ、減給するぞ!」

 

 ステージの上ではえー!と驚きの声が上がっている。まぁだろうな。店長さんの分かりづらさは世界レベル。もはやギネス取れそうなくらいだからな。

 

 合格の嬉しさからか喜多さんが後藤さんに抱きついている。微笑ましい光景に少し口角が上がる。今すげぇキモい顔してるな、絶対。ていうか後藤さんそこ変われ。

 

 すると突然後藤さんは顔を青くし口を手で押さえステージ横に走っていった。危機を察知した俺は自分がもし吐いたとき用に持っていたバケツを持って急いで後藤さんに駆け寄る。

 

 まあ当然距離もあったので間に合うはずもなく後藤さんのダム決壊を目撃することになった。喜多さんはビックリして後藤さーん!と叫んでいる。

 

「うん…やっぱ面白いなコイツ!」

 

「アクト君そんなこと言ってないで片付け手伝って!」

 

  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 まだまだ明るい帰り道を喜多さんと隣り合わせに歩いて行く。それにしてもノルマチケット5枚を宣告された後藤さんの顔は傑作だった。ブツブツと父母妹犬と呟いていたけれどもしかして犬も連れて来る気か?面白いから全然いいけど。

 

「ねえ芥川君」

「どうした?」

「今日の演奏、あんまり良くなかった?」

「え?」

 

 何でそんな事を聞くのだろう。あの演奏はとてもいいものだった。特に喜多さんはギターを初めて約2カ月とは思えないくらいの完成度だった。

 

「何で?めちゃくちゃ良かったよ?」

「いえ…勘違いならいいんだけど、私たちの演奏聴いてるとき、その…顔が険しかったから」

 

 …まさか気づかれているとは。しかし顔が険しかったのは演奏のせいじゃない。全部俺の問題だ。

 

「ちょっと頭痛がしただけだよ。気にするほどのことじゃない」

「そう…なら良いんだけど」

「あ、そうだ…ちゃんと見てたよ。結束バンドを、喜多さんを」

「!」

 

 飲み物を買った時の会話を思い出したのか今更顔を赤くしている。あの時は緊張からか自分が言ってることが良くわかってなかったんだろうな。

 

「うう…恥ずかしいから忘れてちょうだい」

「絶対忘れてやらない。だって…約束したからね」

 

 見てるよ、君が許してくれるなら、ずっと

 

 

 

 




ここからは考えも何も無い行き当たりばったり連載です
まあなんとかなるか!

 次回 『熱に浮く』

    アクト君、風邪を引きます
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