ジェネリック小壺 in リムベルド 作:棘棘生命(一旦再考中)
夜渡りたちと一緒に円卓へ戻ってきた。円卓内が三体の壺で埋められ、窮屈になる。大祝福の近くで待機していた様子の巫女が体をのけぞらせた。大きな壺とはそれだけで、威圧感があるものだ。
三人の夜渡りの内、守護者が前に出て、巫女へと今回の探索の成果について共有をし始めた。追跡者と隠者も彼の後ろについていく。情報を補足しているように見える。
厳格な態度を保っている巫女も、今回の探索で得た収穫については、気分が晴れやかになるものであったようだ。聞こえてくる声が、初めて会話した時よりも明るくなっているのが分かる。
待っていると隠者が二人から離れ、掌の先を僕に向けて話しかけてくれた。僕はこれ幸いと、隠者へと壺たちの今後や、守護者へ魔術を撃っていた理由、霊樹から落ちてきた液体について質問していく。
「安心して…ここにいていいよ。空いている場所は、いっぱいあるから。それじゃあ、壺さんの質問に答えるね。」
「ありがとう!皆もここにいる夜渡りさんたちや壺に、後で挨拶しに行こう!魔法使いのお姉ちゃん、お願いします。」
壺たちとサムズアップを見せ合うと、僕は隠者から疑問に思っていたことを解消してもらうため、聴覚を傾けた。
まず、守護者が攻撃によって立ち上がったことについて。これは、夜に飲まれた者や雨に体力を削られ過ぎると、体が蝕まれることが理由としてあるようだ。倒れ込んだ守護者にまとまりついていた暗い靄。それこそが蝕みであると。
夜の蝕みを取り除くことによって、夜渡りは戦闘を続行できる。だから魔術で攻撃していたのだ。
次に、霊樹から垂れてきた半透明な液体についてである。隠者は話す。あの液体が霊樹の中へ入り込むための手段である旨を。夜渡りたちが追っている存在、夜の王の元まで辿り着くにはあの樹液のようなものが必要不可欠だ。自分たちはその兆しを探し続けていたのだと、彼女は続けて言った。
「そっか!やっぱり今回の探索は特別だったんだね。これで一歩前進だ!」
「うん。とっても嬉しいことだね。」
隠者はおっとりとした様子で手を合わせた。僕の助太刀は、夜渡りたちのためになったようだ。僕は脅威に立ち向かう英雄たちの役に立てたことがどうにも嬉しく、気持ちを飛び跳ねることで表した。
知恵者である隠者に、彼女が使った魔法のことや、夜渡りの特性などを聞いてしばらく。追跡者と守護者の報告が終わったようだ。
夜渡りたちが自然に解散した後、僕は個人的に巫女から言葉をかけられる。彼女の口調には、複数の色が含まれていた。
霊樹に入るための手がかりを得られたことに対する喜び、実際に「客人」に対する労いと、未知への警戒。巫女から伝わってくる最も大きな感情は、困惑であった。
「…お客人。まずは貴方へ感謝を。それと、同族を連れてきたのか。」
「あ…ごめんなさい、お姉ちゃん。でも僕、魔法使いのお姉ちゃんのお話や今回の探索で、沢山のことを知ったんだ。夜は大いなる脅威だって実感して、少しでも皆を夜から助けたいと思った。円卓は雨が降らないし、安全だから…。」
「いや、非難するつもりは無かった。貴方はもう私たちの協力者だ。今後も夜に立ち向かってくれるのであれば、好きなように円卓を使ってくれ。」
僕が壺を下げると、巫女は首をゆっくりと横に振り、僕の行動を許してくれた。夜渡りたちから聞いた話では、彼女は皆を導く立場であり、円卓の管理人でもあるという。この温かな空間は、彼女の寛容さが作り出したものなのだと納得した。
巫女は、僕へ尋ねてくる。彼女の手には、黄金の種子が乗せられていた。夜渡りの誰かが巫女に譲渡したようだ。
「それよりこの、黄金についてだ。壺の御仁、これはどこで得た?」
「ああ!種子は、僕が旅の途中で拾った物だよ。リムベルドに似ているけれど、違う場所。僕の故郷に落ちていたものなんだ。」
「後ほど、詳しく聞かせてほしい。それと話し合いの際、もう一人呼びたい方がいる。彼については召使に呼んでこさせよう。この種子は、彼が求めている物だ。」
再び祝福の前で集合したいと彼女は話し、僕と壺たちが過ごしやすい場所を直接地図に示してくれた。巫女の心遣いはやはり温かい。僕は三体の壺の先頭を歩き、海岸へと向かった。
建物の外へ出て、霧がかった海原を見た。円卓が外界から隔てられていることを強く感じさせる景色だ。進んでいくと、ぽつりと人影が見えた。その人物は、大きめの岩を持ち上げては降ろしを繰り返している。骨を被り、白い髭を生やした筋肉隆々な益荒男。夜渡りの一人、無頼漢だ。僕は彼に近づき、声をかけた。
「おじちゃん!」
「おお、壺の坊ちゃん。戻ってきたか!」
「特訓中?」
「おうよ。腕がなまらないようにしねえとな。」
無頼漢は岩を地面に押し当て、肩を回した。そして僕の後ろを見て、豪快に笑う。
彼は気持ちの良いくらい豪快かつ、気さくな性格の戦士だ。探索の前挨拶しに行ったが、その時彼は酒を飲んでいた。そして僕に対し、席を共にしないかと誘ってくれたのだ。ここまで善良な人は希少だ。
無頼漢は海賊の頭であったため、面倒見がいいのだろう。彼のこれまでの旅路は詳しく知らなくても、戦士の在り方として完璧だ。僕は会ってすぐに、彼を見本としたいと思った。
無頼漢は僕たちの表面を見た後、ヒビがないことを指摘する。そしてそれが強者の証だと言ってくれた。
「ここには、どんどん強者が集まる。嬉しいねえ。後で俺と手合わせしようぜ。ずっと待っていると退屈だからなあ。」
「うん、やろう!おじちゃんと鍛えるのは、とても楽しそう。…皆もやる気満々みたい!」
壺たちは拳を固めて、無頼漢に同意を返す。にやりと笑った彼からは迸る闘気を感じた。
約束もしたところで、まずは僕たちの仮拠点を作ることにしよう。僕がテントの類を設営したいと話すと、無頼漢はその準備に同行してくれた。
しばらく経った。皆、体が大きく手際もよかったため、壺にとって過ごしやすい空間はもう作り終えることが出来た。僕は背負い鞄に道具をしまい込み、座り込む四名に感謝を告げる。
無頼漢は良い運動になったと言って、手をひらひらと振った後、海岸から去っていった。準備が出来たら、彼との手合わせをしよう。
時間も経ったため、そろそろ祝福前に戻ろうと思い、テントから出る。すると出てすぐの場所に、四つ腕の人形が立っていた。巫女が召使と呼んでいた、人形兵だ。ただの人形兵とは違い茶色のローブを身に纏っており、言葉を話す。落ち着いた男性の声だ。
彼は恭しく頭を下げ、僕へ挨拶をしてきた。僕も壺を下げ、お互い二回目の顔合わせを行う。
「小壺旅人サマ。今回の探索について、お疲れ様でした。また夜渡りの皆サマ方にご協力いただき、感謝申し上げます。」
「人形さんもお疲れさまです!円卓内をずっとお手入れされてて、すごいと思います!」
「いえいえ、恐れ多いことです。貴方サマもまた、通りかかっただけのこの地を、救おうとしてくださっていらっしゃいます。英雄サマ。今後はこの私に、何なりとお申し付けくださいませ。」
召使は更に深く頭を下げ、へりくだってきた。こんなに下手に出られることはなかったため、困ってしまう。
どうすればいいか、まごまごとしていると召使は頭を上げて、言葉を続けた。その内容は巫女についてであった。
「小壺旅人サマ、巫女サマがお待ちです。執行者サマも話し合いに参加なさるとか。ご案内いたしますので、私についてきてくださいませ。」
僕は壺たちに行ってくる旨を伝え、召使の横を歩く。移動の最中、僕は召使自身について尋ねたが、あまり多くを語ってくれなかった。彼が円卓の手入れをしていること、戦闘用に作られ身の回りの世話をするための実験対象に選ばれそれが失敗したこと、現在は夜渡りたちの世話をすることに生きがいを感じていること。大まかにこの三つだけを、召使は話した。
距離は短く、祝福前へと着く。巫女と、刀の達人である執行者が立っていた。
執行者。黄昏色の鎧に身を包んだ彼は、寡黙で円卓にいるときは絵を描いて過ごしているらしい。
巫女は先ほど呼ぶ人がいると言っていた。彼が黄金の種子を求めている人物なのか。僕は執行者へ挨拶をする。彼は小さく頷き、反応を返してくれた。
やってきた僕を見て、巫女が話し始める。執行者は、雄大な黄金樹を再び見るため、夜を退けようとしている。また円卓にある祝福は、執行者の記憶によって維持されていると。
「もし話したくないならば言ってくれ。無理強いはしない。」
「ううん。寧ろ話したいよ!執行者さんは、黄金樹を知っているんだね…!」
「ありがたい。では、改めて聞かせてくれるか。貴方の故郷、種子が多く落ちていたという地のことを。」
僕は鞄から沢山あるうちの一つ、黄金の種子を取り出し卓へと置いておく。今にも芽生えそうなそれは、変わらず黄金の輝きを放っていた。