ジェネリック小壺 in リムベルド 作:棘棘生命(一旦再考中)
執行者は僕の取り出した種子をじっと見て、次に僕の体へ顔を向けた。言葉がないのに、動揺が強く見られる。
僕と執行者が椅子へと座り、召使人形はお辞儀をした後円卓の外へと去っていく。彼はこの話し合いに関与しないようだ。
巫女と執行者の準備が整ったのを確認し、僕は故郷、狭間の地のことを話し始めた。
エルデンリングが壊れ、黄金樹は形を保ちながらも循環機能を停止した。それを修復するため、一人の褪せ人の戦士がデミゴッドたちから大ルーンを集め、そしてエルデの王となった。だが彼は、狭間の地には残らなかった。完全律を見出した知恵者にこの地を任せ、冷たい夜のデミゴッドと旅の仲間たちを連れて空へと旅立ったのだ。
しかし完全に放ることなく、偉大なるエルデの王は、数十年周期で旅路から戻ってきて、狭間の地の様子を確認しにきていた。だから僕も彼に出会ったことがある。戦いの祭りにて王と手合わせできた思い出は、僕の中でも一か二を争うほど大きな出来事だ。
僕は伝える。名前も土地の状態も違うが、僕の故郷もまた「狭間の地」と呼称されていたことを。そして夜に飲まれた人々の中に、僕が知る人物が含まれていることについても。
巫女は胸元に拳を当て、溜めた言葉を放った。
「異なる世界…。夜の影響を受けず、歴史が進んだ狭間の地…。なるほど、そういうこともあるのか。」
「信じてくれる?」
「ああ、勿論だ。これほどの数の種子が祝福を失わず、残っているとは思えない。」
奇跡的に見つかっても二つとないだろうと、巫女は続けた。巫女が言うには、夜は人だけでなく異なる世界をも飲み込んでいるという。リムベルドを探索していると、別の世界で死んだ夜渡りたちが虚ろにこちらを攻撃してくるのだとか。
夜とは、なんと強大な力なのだろう。神秘に包まれた現象のことを、僕は興味深く聞く。
執行者は、円卓に置いた種子に注意を引かれているようだ。僕がそっと種子を彼の掌へ置くと、執行者ははっと顔を上げた。彼の口元は小刻みに震え、僕に許可を求めているようだった。
「どうぞ!執行者さんにとって必要な物なら、持っていってほしいな。」
僕がそう伝えると、執行者は種子を掌で包み込み、深く頭を下げてきた。この円卓における大祝福は、彼の記憶によって維持されていると説明があった。ならば、その記憶が薄れないようにしなければならないだろう。
最初、聖杯瓶の質を上げるための術として渡しただけの種子が、更に価値あるものになったことを僕は喜んだ。
「壺の御仁。祝福が消えかけてしまったら、彼の出番がやってくる。そのとき黄金樹を知る貴方にも、手伝っていただきたい。鮮明な瞬間を以て、導きを絶やさないようにしなくては…夜に挑むことさえできなくなってしまうのだ。」
「力になれることがあるなら、喜んでするよ!執行者さん、そのときはよろしくね!」
巫女は息を漏らし、執行者は僕の言葉に小さく頷く。また一つ、夜渡りたちへの一助を担える。
こうして簡易的な情報共有は終わり、僕は執行者と庭園へ歩いていった。執行者から伝わってくる感情は明るく、彼は庭に戻ってすぐ絵筆をとった。
最初に会ったとき、彼が向かっていた真っ白なキャンバスには、黄金樹が描かれる予定であったらしい。彼の筆運びは楽しげで、僕は壺を揺らしながら少しずつ黄金樹の輪郭ができていくのを楽しんだ。
僕たちの近くには追跡者と無頼漢がいる。追跡者は木の近くで武器の手入れをし、無頼漢は酒を呷りながら機嫌よく笑う。無頼漢は酒のつまみとして、描かれる絵を眺めているようだ。
心地よい風が吹き、時間は過ぎていく。そろそろ無頼漢との手合わせをしようかと思ったとき、召使人形から夜渡りたち全員へ伝えられた。夜の気配、その一つへの導きがあったと。
次の探索が始まる可能性は高い。僕は一旦海岸に戻って、休んでいる壺たちにまた出立するかもしれない旨を話し、円卓へと戻った。
僕が戻ったとき、円卓には夜渡り六名が集まっていた。巫女は皆が揃ったことを確認すると、夜の王について話す。逸話に残された獣。その獣が行う狩りは、複数の影で向かう者を取り囲むという。今までは微弱な導しか捉えられなかったが、一気に気配が濃くなったという旨を、巫女は話した。
「皆に、姿なき主の声を伝えよう。幾度も唱えた導きだ。『罪を贖う者よ 三度の夜、この地は衰減する 集え、そして、殺すのだ 夜の王を』」
厳かな調子で巫女は言い、続いて組み合わせについて夜渡りたちに伝える。
追跡者、無頼漢、執行者。彼ら三人に僕がついていけばいいようだ。作られた二組の内、これから協力する三人の元へ僕は近づく。
「追跡者のお兄ちゃん、今回もよろしくね。それにおじちゃんと執行者さんも!僕、頑張るよ!」
「…ああ。期待している。必ず辿り着こう。」
「こんなに早く、坊ちゃんの戦いぶりが見られるとはなあ。仲間も連れていくのか?」
無頼漢は僕の体の表面をぽんと叩くと、笑う。僕は三人に気合い充分であることを見せると、彼の問いに答えた。
「うん!壺の皆も夜を終わらせたい、他の壺やまだ正気の人たちを助けたいって思っているから。」
「やるなあ!他の壺っていうと、大剣の兄ちゃん。城砦か?」
「…そうだ。雨が一時的に止むならば、探索しよう。」
追跡者が無頼漢の言葉に答える。夜渡りは皆、リムベルドの地形を詳しく把握しているようだ。無頼漢と執行者も、僕の目的へ協力してくれることを態度で示してくれた。
あくまで、夜の王の討伐を第一に。僕は夜渡りたちが準備を終える前に、壺たちへ話をつけに行った。
海岸で体を動かしている壺たち。僕はやはり探索に出ることになったと話した。壺たちは腕を組んだ後、僕の岩の掌に何かを置いた。それは指であった。
三本の指は紐で括られ、仄かに温かさを感じる。僕はその一本一本に壺たちの思念が入り込んでいると分かる。
確かに、霊体である方が小回りは利くだろう。僕はリムベルドに着いたら指を使って呼ぶことを伝えた。
壺たちは言葉なくとも、戦いへの意気込みをジェスチャーで表す。僕は大事に指を握り、探索へと赴いた。
四羽の霊鷹が飛び、霧を越え、リムベルドの上空へと僕たちはやってきた。今回は振り落とされる前に僕自ら手を離し、夜渡りたちの着地地点へ合流する。
彼らはそれぞれの得物で、正気を失った貴人たちを倒していた。僕は、彼らの背後から輝石魔術を使おうとする貴人を倒し、辺りに敵が残っていないことを確認した。
「夜渡りさんたち!最初はどこに向かう?」
「…。」
執行者が地図に印をつけ、僕たちへ見せる。ここから北東にある教会だ。
隠者に聞いた話だと、夜渡りたちは円卓に戻る際、元々持っている力以外をリムベルドへ置き去りにするらしい。ルーンだけでなく、聖杯瓶の量や武具、道具の類もだ。
そうなると、やはり聖杯瓶を強化することが先決なのだろう。追跡者と無頼漢が同意し、僕は彼らへついていく。
それから僕たちは二つの教会を巡り、廃墟を探索することにした。夜の王である獣の逸話には、聖なる力が狩りを阻むとあったためだ。見えてきた廃墟には、雪深い典礼街オルディナや火山、モーグウィン王朝などで会話したことのある種族が徘徊していた。
黄金樹に祝福されなかった、僕たち壺と同じ人造の種族、しろがね人だ。
「しろがねの人たちも、夜に飲まれているんだ…。どうにかお話できないかな?」
「…試してみるといい。」
「ありがとう!ちょっと偵察しに行ってくるね!」
「いけるか…?いやあいつら、遠くからチクチク矢を撃ってきやがるしなあ。」
無頼漢はしろがね人たちを観察しながら大斧を立て、髭を触る。執行者はいつでも戦えるように抜刀していた。
三人に声を以て状況を伝えることを話し、僕は走った。
僕は廃墟に入ってすぐさま、足の動かない第一世代のしろがね人と、蛙のような貌の第二世代に向かって声を張り上げる。僕は夜を終わらせるため、苦しみを取り除くために来たと。
第二世代の真っ黒な眼からは表情が読めず、緊迫した空気が漂う。
僕の交渉は、放たれた矢によって決裂する。僕は飛んできた矢を摘み、その方向を見た。第一世代のしろがね人、卓越した技量の弓手。人基準で美しいその顔は虚ろでありながら、黒目があらぬ方向を向いていた。
「…なら、僕が貴方たちを弔うよ。輝かしき太陽は我が内にあり!」
残念ながら夜の影響は長く、強すぎたようだ。尋常でない精神力がなければ、黄金樹の影響を受けないしろがね人だろうと、等しく狂う。
僕は震え続ける三本の岩指に念じ、円卓にいる大きな壺たちの霊体を呼び出した。僕の信念が形になった故か、彼らはただの白き霊体ではない。金と橙が混ざった、正に想像上の太陽がごとき輝きを放っていた。
僕の後ろから三人の夜渡りが合流する。追跡者が呟き、片刃の潰れた大剣を振り抜く。
「…いくぞ。」
弓手のしろがね人たちは矢をつがえ、足のある第二世代は一斉に走ってくる。僕は拳を合わせて、近くの弓手に拳をぶつけた。
――――――――――
先陣を切ったのは執行者であった。高速で迫る複数の矢を刀で正確に弾き、火花を散らせた得物をそのまま弓手の体に突き刺す。彼はジェスチャーにて、弓手は任せるように伝えた。
走っていく執行者、それに続くのは追跡者だ。第二世代のしろがね人を撫で切りにしながら、たくさんいる蛙顔を見分け、親玉へと接敵する。しろがね人の武器ごと叩き斬る威力は、執念に燃えていた。
無頼漢は自身の大斧を剛力で振るったり、得意とする格闘戦で敵を捻じ伏せ、制圧していく。大斧と呼称されながら、その扱われ方は叩き潰す大槌のごとく。無頼漢を相手取ったしろがね人は皆、地面へと伏せることとなる。
大きな壺たちは霊体であることを活かし、損傷を気にせず強靭の低い弓手たちを吹き飛ばしていく。矢を番えようとも、近付かれれば終わりだ。機械的に行動する彼女らは、消滅をもって一時的な安息を得た。
小壺旅人は廃墟の中を駆けまわり、正気を失った敵を見極めて脳天を撃ち抜いていく。しろがね人の顔の造形は、どちらの世代もパターンが多くない。このわけは人造種族だからであろうか。
小壺旅人にとって彼らは、褪せ人の王の治世が始まってからようやく人権を獲得した隣人である。ミケラやモーグの加護を得たしろがね人はもう苦しみを抱えることはないのだろうと、彼は思っていた。だがこの地では、迫害の後、夜の雨に晒され続けるという仕打ちを受けている。それが彼らが生まれたことに対する罰であると、小壺旅人は思いたくなかった。
「一緒に行こう、しろがね人さんたち。もう二度と、夜の雨に苦しまなくていいように。」
旅人は戦士たちの断片を集め、自らの内に入れていく。彼らが流した白銀の血から、永遠と続く苦しみの念が混ざった。
小壺旅人は旅路の中で考えた。狭間の地の外では、黄金樹も特別な月もない。神の実在も知らぬ人々が、何になら救われるだろうか。彼は一つの答えを出した。輝く、父のような太陽こそが、皆を照らし暖かな日差しを送るのだと。
だから彼は己の中に太陽を見出した。いつか詰めた戦士たちと共に、太陽に相まみえようと。
やがて三人の夜渡りの協力によって、しろがね人の集団は倒される。彼らが持っていた力が、隠されていた祝福と共に顕現した。
――――――――――
僕は潜在する力から、聖なる力を秘めた鉄球拳を取り出した。夜渡りたちもそれぞれ取り出し、聖なる力が付与された武器を担ぐ。
「…次はここの坑道に向かう。」
「おう!風向きは今のところ最高だ。全部ぶっ倒していこうぜ!」
「おー!」
無頼漢の元気のいい掛け声に、僕は片手を天に向けて応えた。作戦会議の後、執行者はすぐさま目的地へ走る。
僕たちも彼に続き、松明で照らされた坑道の入口へと突き進んだ。