ジェネリック小壺 in リムベルド 作:棘棘生命(一旦再考中)
坑道の中心には霊脈が上っており、青い色の風が閉塞感を緩和している。夜渡りたちは躊躇うことなく、霊脈に体を包み込み地下へと降りていった。何度やっても高所からの落下は恐ろしいものだ。保険のための紐を用意し、僕も彼らに続く。
坑道のいたるところに石掘りたちがいる。僕らに目もくれず、目の前の岩盤を削り続けているようだ。夜渡りは石掘りの間を通り抜け、最深部へと辿り着く。すると狭い空間に、トロルがぼんやりと立ち呆けていた。トロルは物音がしただけで暴れ回り、手足を投げ出すようにして木製の仕切りを破壊しようとする。
この巨体では外へ出ることも叶わないだろう。僕は壺たちを呼び出さずに三人へ加勢し、知性を失ったトロルの頭部に飛びつき叩く。
トロルは頭を振って咆哮し、ずしんと重い音を立てて倒れ込む。すかさず執行者が回り込んで刀を突きさし、更に頭部へ損傷を与える。消滅するトロルのいた場所には、潜在する力が出現していた。
力の内には、武具と巨大な鍛石が浮かんでいる。この鍛石はただの坑道では得られず極地に産する、かつての巨人戦争でも使われた石だ。
意識がある頃、あのトロルはこれで武器を鍛えていたのだろう。僕は鍛石を取り出し、夜渡りと共に奥部の木箱を見る。
「これで、このエモノが鍛えられるってもんだ!坊ちゃんも武器に使うのか?」
「うん!僕たち壺はこの体が武器だから、拳を強くしようと思ってる!」
「がはは!なるほど、壺っていうのは、そうやって強くなるもんなんだなあ!」
無頼漢が木箱から物をしまい、一つだけ僕に手渡す。それは、トロルから得た物より二回り小さい鍛石であった。
彼はぽんと僕の蓋を叩き、言う。
「箱から出てきたブツだ。商人を見つけたら、使ってくれよ。」
「おじちゃん、ありがとう…!大切に使うね!」
僕は無頼漢の厚意に感謝し、背負い鞄へと鍛石をしまう。
旅路の途中、ゲルミア火山でブートキャンプを行ったことがあるが、そのときにも鍛石を使った強化は絶えず行ってきた。質の高い石を使えば、僕は更に固く強くなれる。例えそれが一時的な強化であっても、僕は力を高められることにわくわくしていた。
それから僕たちは坑道を出て、廃墟や大教会、封牢などを巡り大敵を倒した。特に大教会では神託の使者たちがおり、会話こそ成り立たなかったが、それらの内から出てきた力には聖なる武器が含まれていた。装備は順調に集まっている。
僕たちが次の建造物へ向かおうと小会話をしていると、リムベルドに暗雲が立ち込めてきた。あれは雨が迫る前兆だ。広がっていく雲を見ながら、僕たちは出現した霊樹に向かって走る。
やがて霊樹の周囲は雨で満たされ、僕たちは根本付近で集合する。壺たちを呼び出して待機していると、地面に落ちる闇の中から僕と同じくらいの背をした亜人たちが現れた。彼らは甲高く叫んだ後、動物的な知性によって団結し襲い掛かってくる。
亜人は元々原始的な文明であったが、言語を介し話せる知性は持ち合わせている。それでも僕たちに接敵する亜人たちの感情が虚ろなのは、完全に夜に飲まれているからだ。
リムベルドに来る前乗っていた船のことを思い起こす。彼らは無事だろうか。それとも僕と同じように、夜へ巻き込まれてしまっただろうか。
僕は何とか感傷にひたらないようにして、槌を持った亜人の攻撃をかわす。そして目の前の敵の攻撃をいなすため、集中した。
亜人たちは、身を守る術が己の肉体か貧弱な木盾しかない。夜渡りたちそれぞれの得物で難なく掃討され、最後に強敵が現れる。亜人の女王が一人と、剣士だ。
剣士は、剣聖と呼べるほどの技量であった。瞬く間に刀で空間を切り裂き、執行者に接敵したのである。
だが執行者も同格以上の腕だ。彼から練られた殺気を感じたかと思えば、刀で剣聖の攻撃を全て弾き返したのだから。執行者の刀からは妖気が漏れ出し、畝っている。正に妖刀だ。
亜人の女王はかつて魔術学院に贈られたであろう輝石杖を振り、『結晶散弾』を繰り出す。ぴしりと音を立てて無頼漢の体に結晶がぶつかるが、彼は物ともせず重みを乗せた体術で、亜人女王を怯ませた。
「こっちのデカいのは任せろ!俺がぶっ潰してやるぜ!」
「…。」
「…そうか。小壺、剣士を相手取るぞ。」
「分かったよ、お兄ちゃん!すごいや…連星剣の使い手か…!」
執行者は僕と追跡者に視線を向けた後、無頼漢に合流する。壺たち二体にも向かってもらう。執行者の術は、まだ一端しか見ることが出来ていない。達人同士の戦いを間近で見たくはあったが、剣聖を相手取るのも良い。
ゆらりと構える亜人の剣聖に、僕と追跡者、そして残る一体の壺は攻撃を行う。虚ろであろうと、武が体に染みついている達人に対して攻撃を待っていては、主導権を握られる。
先手必勝。僕は、岩の腕を薙ぎ払った。
――――――――――
まず、大きな壺が剣聖の前へと飛び出した。亜人の剣聖は跳躍し、目にもとまらぬ斬撃を大きな生き壺へ放つ。ががと霊体の表面が削られ、壺は体勢を崩した。
大きな壺が囮の役割を果たしている内に、小壺旅人が亜人の剣聖の後ろへ回り込んで腕を掴み、拘束された亜人へ追跡者が鉄杭を放つ。まともに一撃を受けた亜人の剣聖は、体に炎を点けながら転がり、鎮火した瞬間に斬り返した。
だがそれも大きな壺が盾となり、二名へと届かない。攻撃を受け続けた壺は消滅することになったが、サムズアップをして何ら問題ないことを示す。その証拠に、小壺旅人が持つ指には熱が発せられ続けていた。
追跡者は戦いの中で敵の弱点を見抜き、亜人の剣聖が飛び上がった瞬間、鉤爪を突き刺し地面へと引きずり戻した。技量のみで対処できないほどに、小壺旅人と追跡者は攻撃の手を緩めず、畳みかける。
剣聖の持つ得物の刃先が零れ、砕けた。追跡者は再び鉤爪を引っ掛けて距離を縮め、炎を纏った大剣で袈裟切りを放った。
その間。無頼漢と執行者、また二体の壺は、亜人女王の動きを阻害し続けていた。結晶散弾が放たれたら懐に潜り込み、無頼漢が脚を叩き潰す。
執行者が全身へ力を込めると、膨らんだ。鎧と一体になった体を、巨大な獣へと変化させたのだ。坩堝の諸相、獣。執行者は雄たけびを上げると、普段の技量に寄った戦法とは全く違う、獣の戦い方で引き裂いた。
壺たちは拘束を主軸とし、無頼漢と執行者が大ダメージを与える。亜人女王は怯み続け、亜人の剣聖が倒れ伏すときとほぼ同じくして力尽きた。
――――――――――
亜人の強者二人を倒した後、僕たちは互いの健闘を称える。遠目からであったが、執行者の秘技を見ることが出来て、とても有意義な戦闘だった。亜人たちの粒子を掴み、壺の中へ入れることで少しでも連れていく。
しばらくすると、今までの探索とは違う事象が起こる。雨が引き、隠されていた祝福が出現したのだ。
同時に霊樹が上空から消え、代わりに恐ろしく強い気配がリムベルドに現れた。僕は夜渡りたちに作戦を聞く。
彼らが目指すのは城砦。リムベルドの中心である。
城砦に向かう途中、僕たちは野営地や教会に立ち寄り、力を得た。野営地は獅子の混種が占拠していて、混種たちと共に攻撃を仕掛けてきた。
野営地付近には半透明な霊体の商人がおり、獣のようになってしまった彼らを倒した後、取引を持ちかけた。
「霊薬まで売っているんだ…。夜渡りさんたち、何か必要なものはある?…僕が何とか値切ってみるよ。」
「…ぬくもり石だ。ルーンに余裕があればで構わない。」
ひそひそと聞くと、追跡者が要望を口にした。それに沿えるよう、僕は交渉を始める。
商人の霊体は僕を見ると、ぬくもり石の他に物品を買うならばと提案してきた。僕はラインナップを見て、ぬくもり石二つと一緒に、小さな鍛石を二つを選択する。取引は成立し、商人の霊体はルーンと物品を交換した。
僕はぬくもり石を追跡者に手渡し、商人の横に置かれた鍛冶台へ壺を向けた。
手元にあるのは、合計四つの鍛石。背負い鞄から作業用の槌を取り出し、台に寝そべった僕は、鍛石を腕や体へ磨り潰すように叩きつける。
体が熱くなり、硬化していく。僕はガラス状の破片で全身が補強されたことを確認すると、迸る熱情から拳を握りしめた。
――――――――――
追跡者は武器を強化した後、小壺旅人の様子を見た。先ほどと違い、壺の表面には鍛石の色が混ざっている。
小壺旅人は掌を握ったり開いたりを繰り返し、童らしい声で笑った。
「ふふ、これでもっと強くなれたよ!次の、根っこの下で出てくる敵も任せて。絶対、夜の王へ会いに行こう!」
「…ああ。」
漂ってくる手練れの雰囲気は更に濃くなり、追跡者は少なからず高揚していた。一族の無念を晴らすため夜を追いかける内、彼は強者と会合することに楽しさを感じ始めていたのだ。そうでなくては、使命に押しつぶされてしまう。追跡者は小壺旅人の前を走り、先を行く無頼漢、執行者と決めた目的地へと急いだ。
城砦。夜が繰り返されても変わらず、夜渡りにとって手強い敵が出現する建造物。今回いるのは、四体のトロルであった。魔力の炎で満たされた巨大な壺を投げてくる厄介な敵。
だが今回、追跡者は苦戦することを加味しても余りある価値を見出していた。壺投げトロルがいるとき、手足の生えた壺も出現する。それは、小壺旅人の目的を果たせることと同義だ。
追跡者は瓦礫の山を登り、壺を投げるトロルの足元を切り刻む。暗黙の了解で、執行者と無頼漢は散らばりそれぞれ別のトロルを相手取っている。追跡者の傍では小壺旅人が、近づいてくる流刑兵相手に奮闘していた。
体力の高いトロルも近づかれれば暴れ回ることしかできない。時間はかかったが雑兵は全て掃討された。城砦は制圧され、夜渡りたちと小壺旅人は壺の同胞を共に見つけ出す。トロルの近くに一体、城砦に入ってすぐのところにもう一体。
長い間耐えてきた壺二体は、召喚された金色の壺たち、小壺旅人の念話を聞き、夜へ立ち向かうことを表明する。
またしても夜は訪れ、雨の勢いは強まっていく。城砦の頂と地下は探索できずとも、戦士たちは鉄壁の守りを得て、夜へと挑む。
――――――――――
獣の遠吠えは近く、扉の先から響く。
獣は乾いた灰の上で、戦士たちを待っている。