ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

16 / 50
夢のよう

 突然に開催された祭典、狭間杯。その舞台に二人の漢が並ぶ。

 大斧を担ぎ、白い角の兜を被った筋肉隆々の海賊、無頼漢。

 相対する戦士は、『一撃の闘士』。彼と同じく大斧を得物とし、蛇の装飾が取り付けられた兜で顔を覆っている。それでいて、鍛えた上半身を惜しげもなく見せている、闘士らしい装備の強者だ。

 

 僕と鉄の目、召使人形は観客席にて、三者三様の方法で無頼漢を激励する。無頼漢は無言で片腕を上げ、自信に満ちた調子で構えた。コロセウムに闘技の開始を知らせる音が、重く鳴り響く。

 両者は見合った後、互いの拳を振り抜いた。

 

 

 開始とほぼ同時に、幼子の歓声が弓手の真横で発せられた。小壺旅人は落ち着きなく観客席から体を乗り出し、押せ押せと無頼漢を応援し始める。

 鉄の目は、小壺旅人の声援に背中を押されるような気分を感じながら、心を沸き立たせていた。

 元より強者だと思っていた無頼漢が、その強さを二回りは大きい闘士相手に発揮している。この試合は慣らしのようなものに見えるほどの圧倒。

 

 あの漢の力は、どこまで天井知らずなのか。期待を裏切らない無頼漢に対し、鉄の目は思わず、喜びから来る笑みをマスクの下でこぼしていた。

 

 

「おじちゃん、そこだ!やった、いいのが入った!」

「いいぞ…!」

 

 

 鉄の目は拳をぐっと握って、試合のに熱を入れる。無頼漢の大振りだが隙をカバーする動きに、一撃の闘士は、自慢の大斧を満足に振ることが出来ていない。そのためか、一撃の闘士は小回りの利く技を使うことにしたようだ。大斧の柄に括り付けた鉄球を振ったり、魔力を込めた右腕で握撃をぶつけようとしたり。

 

 だがその程度の小技で、無頼漢は倒れることはない。己の肉体こそが盾であるとばかりにそれらの技を真っ向から受け止め、カウンターを見舞う。まともに反撃をくらって、膝をつく闘士。無頼漢は、右足で闘士の胸部を蹴り上げ、大きく振りかぶった大斧で殴りつけた。闘士はこれによって大きな傷を負ったようだ。

 召使人形は四本ある腕で拍手し、彼を称賛する。

 

 

「さすがでございます、無頼漢サマ!」

「もう少しだ…!」

 

 

 鉄の目が真剣な調子で呟く。

 そして一撃の闘士は大きくダメージを受けた体を起こし、賭けに出る。その呼び名の通り、大斧を無頼漢の脳天めがけ、全力で叩きつけようとしたのである。

 無頼漢の大斧にその一撃は相殺される。威嚇のように歯を見せて笑った無頼漢は、そのまま闘士の大斧を押し出し、気合いを込めて腹へ拳を突き出した。直撃し、しゅうと音を鳴らす無頼漢の拳。

 

 しばらくして、ごとと重い音が鳴り、一撃の闘士は倒れ伏す。無頼漢の勝利である。

 

 左腕が再び空に突き上げられ、無頼漢は三名の観客に自身の勝ちを宣言した。三者それぞれが無頼漢を称え、一度目の試合は終わった。

 

 

――――――――――

 

 石碑から戻ってきた僕は、無頼漢の前で飛び跳ねて再度彼を称賛する。鉄の目も興奮冷めやらぬ様子で、静かに構えてはいるが、無頼漢が鉄の目に話しかけたときには、直球な賛辞を送っていた。

 無頼漢が試しに石碑へもう一度触れたところ、反応を示さなかった。

 

 このことについて。召使人形曰く、現在は別の参加者が戦っているのではないかとのことだ。無頼漢はまた石碑が反応した時は、全力で試合に臨む旨を話した。

 

 

「お前ら、応援ありがとよ!…おし、次も勝ってやるぜ!」

「次も応援は任せて、おじちゃん!…やっぱり戦祭りって、見るのも楽しいや…。」

 

 

 無頼漢が卓に向かうのを僕は見送る。そして僕は、高揚から気持ちを呟いた。

 表現としては特別なことはない。だがその呟きは、背後に立っていた鉄の目に拾われる結果となった。

 

 

「…あんたも、祭典に参加したことがあるのか?」

「うん!僕の故郷で、百年に一度開催される戦祭りに。僕はまだ小さいけど、結構勝ち進むことが出来たんだ。僕の誇りの一つだよ!」

「興味がそそられるな。あんたについては、巫女や夜渡りたちから聞いている。未だ夜に蝕まれていない、凄腕だと。」

「ううん、そこまでじゃないよ…!でも故郷には、英雄がたくさんいたから、その分目標にしている人はいっぱいいるんだ。いつか僕も、夜渡りさんたちや英雄たちみたいにおっきくなりたいなあ…。」

 

 

 僕は鉄の目の言葉に対し慌て、両手を正面で振る。

 鉄の目は小さく息を漏らした後、僕のことをじっと見てくる。僕が話し出すのを待っているみたいだ。僕は彼の期待に応えるため、話し始める。「狭間杯」、奇しくも同じ名前を冠した、英雄ばかりが集まった祭りの話を。

 

 

――――――――――

 

 ある可能性を辿った、狭間の地。この地では、戦いの祭りが開かれている。狭間の地全域は勿論のこと、かつて隠されていた影の地、あるいは狭間の外からも強者が集まるのだ。

 戦いは特定の存在に捧げられるものではない。己の実力がどこまで通用するのかや、自身が持つ信条のためなど参加者が個々に目的を持つ。それでも時代を経るごとに、この催しそのものが神性を帯びていた。

 

 本格的に旅人を志す前、小壺旅人は複数ある壺村の代表として、祭りに出場していた。この幼き壺が選出されたのは、他でもない。純粋に実力を持っていたからだ。

 壺とは己の拳のみを使う者が多いが、小壺旅人は搦め手も使って戦術の幅を広げている。修行の成果もあって、小壺旅人はこの時代における上澄みにまで登り詰めていた。

 

 大々的に行われる故、戦祭りには予選があった。嵐が吹くリムグレイブ闘技場、大壺が守るケイリッド闘技場、黄金樹の威光を感じられる王都闘技場、新造された中央闘技場の四つにて、それは行われた。小壺旅人は壺であるため、ケイリッド闘技場を選んで勝ち進み、本選に出場できる約千名の内の一名になった。

 

 

 時は来た。狭間の地の中心に新造された巨大なコロセウムにて、約四千名で勝ち抜き戦が始まったのである。一月ほどかけて行われる試合だ。

 小壺旅人は祭りにて、様々な戦士と拳を交えた。葦の地や蛮地など外の世界の戦士たち。騎士トロル、赤獅子の戦士、王都軍の騎士など狭間の地の精鋭たちと。中には、最初の王ゴッドフレイと共に遠征し、祭りのため戻った坩堝の騎士たちとも戦った。

 相対した戦士たちと小壺旅人はほとんど互角の戦いを演出し、僅差で勝利をもぎ取っていった。

 

 戦いの中で、小壺旅人にとって大きな転機が訪れる。そのきっかけはデミゴッド同士の戦いを見たことと、王と試合相手として相対したことである。

 

 小壺旅人は幸運であった。デミゴッドは力技量共に高みにおり、並みの才能や努力で辿り着くことのできない境地に達している。そのため怖気づき、素質がある戦士が挫折することも珍しくはないのだ。だが、小壺旅人は憧憬を強め、己を高めることを更に望んだ。諦めない素質を彼は持っていたのである。

 

 

 そして小壺旅人は偶然、王の対戦相手になった。デミゴッドも王も祭りの中では平等であり、戦いを免除できる権利の類は存在しない。

 旅路から一時的に戻り、全盛期を更新し続けている褪せ人の戦士。小壺旅人は王に勝つことこそ叶わなかったが、拳を届けることは出来た。

 

 一度攻撃が当たり、また一度攻撃を避けることが出来れば、いつかどんな相手も倒すことが出来る。

 試合後、小壺旅人が王から受け取った言葉の一つだ。

 

 この出来事は、小壺旅人の根幹の一つとなった。強敵に臆せず、戦いを楽しみながら挑み続ける胆力。それこそが英雄に辿り着くための確かな心構えだと教わったのである。

 

 

――――――――――

 

 僕は、楽しかった戦祭りについて語り終える。戦いや英雄の話ならいくらでも話せるが、鉄の目を楽しませるだけの話はできたと思ったからだ。

 鉄の目は、僕の話を真剣に聞いてくれ、適切なタイミングで質問を行ってくれた。普段は冷静な彼が饒舌に話してくれたのは、距離を縮めることに繋がったのではないかと思い、僕は嬉しくなった。

 

 

「また聞かせてくれ。やはり…あんたは強いだろうな。共に戦えるときを楽しみにしている。」

「うん!鉄の目さんとまた、こんな感じでお話ししたいな。楽しい話を思い出したら来るね!」

「了解だ。次を待っている。」

 

 

 鉄の目は深く頷くと、崖近くに座り風に当たり始めた。僕は彼に手を振ってから、海岸へ戻る。彼の雰囲気は、祭典前より柔らかくなっているように感じた。

 

 

 その後僕は追跡者の“挑戦”、小壺商人が売っている『景色の原石』購入に同行したり、隠者と守護者の読書会に参加したりなど、穏やかな時間を過ごした。追跡者の得た景色については今回も微妙であったらしく、僕も探索後に所持していたマークを使って、彼に役立ちそうな物と交換した。

 

 それからしばらく経ち、巫女からの招集がかかる。つまり出撃の時間である。

 

 

 集まった面々に対し、巫女が夜渡りたちの名称を唱える。追跡者、無頼漢、鉄の目。その後残る三人も。今回僕は前者の三人に同行することになった。

 グラディウスを以前倒したとき、追跡者と無頼漢の二人とは協力した。僕は、初めて協力できる鉄の目に挨拶をする。 

 

 

「考えていたより早く、共に行けるようだ。よろしく頼む。」

「鉄の目さんと肩を並べられるんだ…嬉しいな!お兄ちゃん、おじちゃん、今回もよろしくね!」

「…俺もだ。お前の力、今回も期待している。」

「おう!丁度体があったまってるからなあ。ますます腕が鳴るぜ…!」

 

 

 追跡者と無頼漢、鉄の目は僕に返してくれ、その後夜渡り同士で言葉を交わしていた。

 夜渡りたちが準備をし始める。僕は壺たちと三つ首の狼に出立を伝えに行った。

 

 そして、海岸で待機している壺たちと、元気よく走っている狼は僕の言葉を聞き、それぞれが対応してくれる。

 壺たちは僕に渡した岩の指にもう二本を結び直し、まるで人の手のような形になったそれを再び渡してきた。狼は賢く、僕の言葉を理解しているようで、岩の五本指へ前脚を押し付けた。

 これによってグラディウスの口から洩れる烈火と同じ熱が加わる。僕はこの時点で確信する。グラディウスが望んで僕へ力を貸してくれることを。狼もまた、夜の先を見ているのだ。

 

 力を合わせ、共に夜明けを迎える。僕は協力者たちの想いを集め、リムベルドへと向かう。

 

 

――――――――――

 

 霊鷹から降りた三人の夜渡りと小壺旅人は、長い時間をかけて確立された定石どおりに建造物を回っていく。

 教会で回復手段を確保した後、封牢や坑道、二つの廃墟に向かって敵を倒しルーンを得ていく。

 

 小壺旅人はその際に交渉を忘れず行うが、実は結ばなかった。雨の中で正気を保っていられる者は僅かであり、毎回その対象がリムベルドに出現するとは限らないからである。

 擦れて狂ってしまった敵を、小壺旅人は新たな協力者を召喚し対処していった。

 

 三つ首の獣と五体の大きな壺。物量は戦術として有効的であり、特に黄金に輝くグラディウスの霊体は小さくなっても尚、高い機動力と攻撃力で敵を一掃していく。夜渡りたちは効率を重視し、それぞれ小壺旅人とは別の場所を攻め落とす。その後合流し、探索を続行するという流れになった。

 

 小壺旅人は探索の中で、鉄の目の戦法を見る機会があった。弓手らしく身のこなしは軽く、そして誰より鋭い。鉄の目は、戦士たちの支援を行いながらも、特別なダガーで敵に傷をつけてマーキングし、弱点を狙い撃つ。

 

 

 そして雨が迫り、戦士たちは霊樹の下で待機する。今回組んだ四名は、程度の差はあれど全員戦いの中で昂ぶる性格だ。

 無頼漢は拳と拳を合わせて、暗い靄が降りてくるまで気合いを入れ、鉄の目と追跡者は己の得物を調整して時を待つ。小壺旅人は、夜の王やリムベルドのことを考えながら道具の準備をしていた。

 

 靄が降り、大量のネズミが姿を現す。戦士たちはネズミの突進へ冷静に対処し、夜へと返していく。

 

 

「…そろそろ来る。お前たち、気を付けろよ。」

 

 

 追跡者が辺りを警戒しながら言い、無頼漢が威勢よく声を張り上げて応える。鉄の目は小壺旅人の近くで矢を番えていた。

 やがて濃い靄が広範囲にかかる。靄から異形が飛び出した。

 

 

――――――――――

 

 此度の探索にて、小さな壺はあることを知る。

 

 ただ夜明けを目指すだけではなく、戦士としての真の高揚を。

 

 御伽噺は、現実となる。

 




Chapter? 追憶…
小壺旅人の記憶の中にある、戦祭りの一部を追体験できる。
隠し要素として、王となった褪せ人との会話と、不明な遺物の取得がある。例外的にChapterが進んだ後も再び戦うことができる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。