ジェネリック小壺 in リムベルド 作:棘棘生命(一旦再考中)
エデレの口腔から響いた鳴き声に聴覚を傾けた後、僕は擬態を解いた。その音色からは、振りまくような狂気は遠のいており、僕たちに向けたプレッシャーのみが伺えたからである。
この竜の鳴き声から複雑な意図は読み取れない。だが分かった。エデレは、僕たちを頂点に君臨する存在として迎え撃つつもりだ。
これは、エデレから課せられた一種の試練であり、介錯でもある。竜は息を荒げながらも命乞いをせず、だからといって食欲に支配をされてもいない。それは彼がかつての栄光を、僕たちに見せようとしているということ。
僕はエデレの偉大さを取り戻せたことに、喜びを感じながらも構えた。
竜が望むまま、闘争を捧げる。そして戦いの後、僕はエデレの一部を詰めるだろう。いつか共に、彼の故郷へ巡り合いたいと願っているがために。
大きく空に向けて鳴いたエデレが、雷雲を呼ぶ。緩やかに、死闘は再演される。
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追跡者は、様子の変化したエデレに対して、慎重に距離を詰めていく。小壺旅人の策に戸惑いはしたが、戦闘の継続に支障はないと、彼は考えた。夜の王を討ち、一族の無念を晴らす。その目的は不変であるからだ。
しかし戦いとは一筋縄でいくものではない。追跡者は、エデレの動きを何とか眼で追う。鎧に雷が掠るが、間一髪でエデレの薙ぎ払いを避けた。
強き者と戦えることに最も価値を見出す無頼漢とは違い、追跡者は勝利することを第一に掲げている。暴力は読みやすいが、これは先ほどまでとは違う。避けるので精一杯だ。彼は、緊張で自身の体がこわばっていくのを感じた。
徐々に逃げ場を奪われながら、追跡者は後方へ回避を続ける。その過程で、小壺旅人と位置取りが重なるタイミングがあり、彼は質問を投げかける。あの黒き竜の理性を取り戻させたのは何故かと。追跡者は意図を察してはいたが、今一度確認したかったのだ。
「ずっと苦しんで、暴れ回って死ぬなんて悲しすぎると思ったんだ。」
「…お前の考えは理解している。だが、何れ相容れない王に出会うだろう。どちらに立つか、選ぶときが来る。」
追跡者は、小壺旅人から危うさを感じていた。この小さな壺は、多くに対して想いを注ぎ込む。故に感情が引っ張られやすいのではないかと。
彼が夜明けを望む者であり続ける。追跡者は、その前提が揺らぐ決定的な出来事が、近いうちに起こることを予感していた。
小壺旅人はエデレの攻撃を避けながら、その合間に追跡者へ話す。自分は変わらず夜渡り側につきながらも、自身の目的を果たすと。
小壺旅人は続けて言う。夜の王は望んで王になったのではない。ただ強かっただけであり、多くと同じように夜に飲まれているのだ。だから夜の王にも手を伸ばしたい。そして想いだけでも夜から助けたいのだと彼は力強く答えた。
追跡者はその言葉を聞いて、少し安心した。彼は独自の価値観を以て、夜明けを見据えている。彼と道を違えることはないのだと思ったのだ。
「あの竜は、全力で踊ることを望んでる。僕たちを殺そうとは思っていないけど…。エデレさんは手を抜くつもりはないみたいだよ。」
「…ああ。確かに殺気は感じるが、先ほどと比べれば微弱だ。なら…少しだけ、この高ぶりに身を任せるとしよう。」
「舞踏と見立てるか。面白いな。」
「お兄ちゃんに…鉄の目さん!うん。全力で行こう!」
追跡者が頷き言うと、後ろから鉄の目がやってきて同意する。小壺旅人は彼ら二人の熱意に感化され、拳をぶつけた。
想いを一つに。夜渡りと、その協力者によるエデレの攻略が始まった。
竜に戻ったエデレの攻撃は秩序だっており、一撃一撃が意味を持っている。紫電はただ放出されるのではなく、戦士たちが最も無防備なタイミングで解放されるのだ。
二刀持ちを止めて、慎重に盾を構えた追跡者の目の前でエデレが消える。次の瞬間、竜は夜渡りたちの死角から姿を現し、最小限の動作でタックルを行った。
それを受け止めたのは無頼漢。エデレの固く閉じられた顎にしがみつくようにして地に立ち、質量の暴力を全身で感じながら彼は好戦的に笑う。
「ふ…うおお!」
無頼漢は、受けた攻撃を自らの闘争心を高める術とする。闘気を纏った彼は大きく溜めた左拳を、エデレの腹部へと命中させる。エデレは小さく鳴いた後、またしても突風の中に姿を消し、戦士たちの傷を広げるほどの咆哮を放った。
鉄の目はそれを高速で避けるが、エデレの注意が彼に向けられた。翼を使った低空飛行で急速に接近し、脚の叩きつけによって、鉄の目の体を夜が蝕む。
「僕が助けるよ!狼さん、別行動しよう!」
グラディウスは了承の意を込めて喉を鳴らすと、首元に鎖で繋いだ大剣を口に咥える。その後、首を横に傾けるようにして跳躍し、エデレの頭部を切り裂いた。
小壺旅人は戦士たちに周知し、倒れている鉄の目に駆け寄る。そしていくらか脱力した拳を連続でぶつけ、鉄の目を蝕みから逃した。鉄の目は救助に短く感謝を述べると、エデレの動きを観察しながら、鋭く矢を放っていく。
「なるほど、こういう技もあるのか。」
「竜さんのこと?」
「ああ。己の肉体を理解しつくした動き。強者が至れる領域だ。」
鉄の目の呟きを小壺旅人が拾うと、彼はその優れた観察眼でエデレを評価する。鉄の目は冷静沈着ながらも、どこか言葉尻に熱が入っているようだった。
その様子に小壺旅人は思う。この戦いが、夜渡りたちにとっての大きな糧となり、次の王を討つことに繋がる。英雄は現在の力に満足することなく、絶えず成長し続けているのだと。
小壺旅人は鉄の目と離れた位置で構え、突貫する。更に研ぎ澄まされ、壺の身では回避がままならなくなったエデレの攻撃。小壺旅人はこのままでは臆すると判断し、回避を捨てることにした。鍛えた体で受け止め反撃して、着実に損傷を蓄積させる戦法へと切り替えた。
追跡者と無頼漢、小壺旅人の三名がエデレに張りつき、グラディウスの霊体と鉄の目が中距離、時に近距離から攻撃を続ける。
エデレの力任せでない動きに最初は翻弄されていた戦士たちであったが、まず追跡者が第六感を駆使して適応し、他の戦士たちも対応する術を磨いていく。突風が巻き起こればすぐさま離れ、突進は懐に潜り込み反撃の機会とする。
理性あるエデレは、大口を開けることはない。だがもし開かれた場合、それは大技を放つときだ。
攻防が続き、突然竜が大きく下がった。空を見上げて咆哮する。エデレの呼吸は不安定で、受けた傷の深さを物語っていた。
翼から竜巻を起こしながら、紫電を口に充填する。そして頭部が地面と水平になったのと同時に、戦士たちの立つ場所が眩く光る。戦士たちが回避しようと考えた次の瞬間、圧縮された紫電が広範囲かつ直線状に爆発する。
その一撃でグラディウスが霊体を維持できなくなって帰還し、追跡者は夜に蝕まれる。無頼漢と鉄の目も体力が大きく削がれ、絶体絶命の状況だ。
そして小壺旅人も、初めて夜に蝕まれ、追跡者の横で割れかけていた。
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僕の聴覚、視覚が何かに覆われているかのようにぼんやりとしている。僕の視界の隅で、無頼漢と鉄の目が動いているのが見えた。僕も加勢しなければ。そう思って体を起こそうとしているのに、押さえつけられているように重い。辛うじて動かせる指を使って、二人の近くへと進んでいく。
僕の横で追跡者も倒れている。そのことから気づく。僕は今まさに夜に蝕まれているのだと。
このまま夜に取り込まれれば、僕が僕でなくなる予感がひしひしと伝わってくる。夜渡りやリムベルドの人間は、この感覚を味わい続けていたのか。
僕は英雄たちの精神の強さに圧倒され、唐突に眠気が襲ってくる。体をじくじくと刺してくるような不快感はそのままなのに、意識が泥濘に沈んでいくのだ。
「お兄ちゃん。僕、嫌だよ…。夜に飲まれたくない。でも、なんだか…。」
「坊ちゃん、しっかりしろ!大剣の兄ちゃんもだ!」
「…もう少しだ。」
すると僕たちの近くに二人がやってきて、張り上げられた声を聴く。無頼漢と鉄の目が腕を動かすのと比例するように、僕の意識は急速に戻っていく。夜に掴まれた手足が逃れ、自由な現世へと。
僕は起き上がり、追跡者の方を向く。彼もまた膝を地面について、じっと僕を見ていた。僕たちは頷き、満身創痍のエデレに立ち向かった。
エデレの動きは時間が経つほどに鈍化していったが、狂気に堕ちる様子はなかった。寧ろ意識がクリアになっているようで、頂にある生物としての野生の勘が戻っていくようであった。
僕たちにぶつけられる技巧はどれも上手かった。互いに避け、技を繰り出す。エデレと僕たちは、演舞をしているかのように完成されていった。
だが、戦いの終わりはやってくる。エデレはよろめき、追跡者の追撃によって脚が動かせなくなる。エデレは低く唸ってから、首を小さく震わせる。しばらくして、その震えは止まった。
竜は死期を悟っていた。だが最期まで誇り高くあろうと、恐怖を押し殺したのだ。
夜の気配がエデレの外に漏れだし、夜渡りたちはそれを掴む。僕は消えそうになっているエデレに語りかけた。
「エデレ…爵の名にふさわしい方。僕は貴方を少しでも継承したい。」
僕の言葉を理解したのか、エデレは小さく首を縦に振ってくれた。
僕はエデレの顎に生えた、最も大きい牙たちを拝領する。一つは僕の中へ。もう一つは、僕の武器として。
エデレは消滅する間際、大きく鳴く。僕はエデレの記憶を見ながら、輝かしい過去を想い、誓った。
この牙に恥じないよう、僕は強き旅人となる。また、英雄へ至る旅路の中で、竜の公爵のことを決して忘れないと。
僕の中で竜の断片が鼓動する。貪食ドラゴン、古竜、エデレの竜血が混ざり、僕の力となる。
「…帰るとしよう。気配はまだ夜に灯っている。」
追跡者の言葉に僕たちは同意し、灰の広がる地を去る。雷雲はもうなく、穏やかな凪が世界を包んでいた。
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追跡者は帰還する前、此度の探索にてある物を見つけていた。もう擦れて記憶は不確かになったが、どこか懐かしさを感じる物品。彼は手繰り寄せ、それを握る。
古めかしく、精巧な懐中時計。追跡者は、円卓にある熱と懐中時計を重ね合わせた。
遺物
公爵の牙
戦いの後に継承した、エデレの牙
遺物儀式により、竜の力の一端を振るうことができる
夜に沈んだ竜は、一時の安息を得た
そしてその一部は、再び高みへ向かう
基本性能:
特色 青色
大きさ 大
遺物効果:
致命の一撃強化+2
致命の一撃で、竜の力を付与する(エデレの紫電と竜巻を、武器と体に纏わせる)
致命の一撃で、アーツゲージ蓄積増加