ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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Chapter4
それぞれの目的


 円卓に戻ってきた僕は、夜渡りたちの報告を横で聞きながら、巫女に視線を向けていた。彼女は、僕や夜渡りたちに気配を手に入れたことへ感謝を述べていた。しかしどうも落ち着きがなく、それを口調や仕草だけで隠しきれていない。

 三人の夜渡りたちが解散した後、僕はそれとなく聞いてみることにした。すると、巫女の口から飛び出してきたのは、謝罪の言葉であった。

 

 

「すまない、お客人。私は貴方に対し、危険に晒すような真似をしてしまった。これも私の迷いのせいだ。どうか許してほしい。」

「ううん、大丈夫だよ!巫女のお姉ちゃん、僕は決めた。夜渡りさんたちみたいに強くなくても…ただ協力するだけじゃなくて、夜明けのために全力で頑張るって!だから客じゃなくって、僕も仲間になりたいんだ。」

 

 

 僕が望みを伝えると、巫女は顔を上げて尋ねてくる。彼女の瞳は隠されているが、信じられないものを見るような表情を作った。彼女は『罪人』を強調する。巫女にとってはその事実が重要であるようだ。

 

 

「ありがとう。しかし、夜渡りの戦士は罪人だ。…貴方は巻き込まれなくてもいい。それでも、今までより一歩、歩み寄ってくれるのか。」

「もちろんだよ。罪人だっていうのはよく分からないけど…貴方たちは皆、英雄だもの!僕は夜渡りさんたちのように、成長したいんだ!」

 

 

 僕の回答にふうと息をついた後、巫女は秘めていた言葉を口にした。それは僕にとってとても喜ばしいことであった。

 

 

「そうか…。貴方には二度も、夜の王の討伐を手伝ってもらった。例え円卓に呼ばれていなくとも、貴方は心強い仲間だ。そして…貴方も、夜渡りの戦士だと考えたい。」

「え!そんな、いいの?僕、もっともっと皆さんの力になるよ!」

「改めてよろしく頼む、壺の御仁。」

 

 

 僕は熱い気持ちを込めて、差し出された巫女の手を握る。巫女は、僕が探索に行っている間、考えを巡らせていたらしい。また頭の中で判断を繰り返していたところ、情報共有に漏れが発生してしまったのだと。

 まだ交流した時間は短いが、巫女は頭が回る女性だと思っている。そんな彼女がミスをすることもあるのだなと、僕は巫女に人間らしさを感じた。

 

 僕が巫女に対して、困ったことはないかと聞いていく。巫女は円卓の管理者であるため、悩みを抱えているはずだ。巫女はしばらく考えた後、それぞれの夜渡りから、戦う目的について聞き出した上で手伝ってほしいという旨を話す。

 

 

「それと召使も、円卓の管理に入り用な品を頼んでくることがある。そちらも手伝ってくれるだろうか。」

「うん!今からでも聞いてくる!」

「御仁、無理はしないでくれ。ん…貴方は、どうしたのだ。」

 

 

 僕が巫女と話し続けていると。頃合いを見ていたのか、円卓の近くで座り込んでいた追跡者が、再び近くへ歩いてきた。

 追跡者は右手に何かを持っているようだ。僕は彼の手を覗き込み、それが何なのかを知る。

 

 懐中時計だ。古びてこそいるが、意匠からして高貴な人間の持ち物だろう。追跡者は巫女にそれを見せると、彼女はそっと彼に手を伸ばす。

 

 

「それは…。お願いだ、その時計は私が失くしていた物…どうか渡してもらえないだろうか。」

「ああ。そのつもりで来た。…これはきっと、お前の物なのだろうと思っていたからな。」

「へえ!お兄ちゃん、それってどこで見つけたの?」

「景色と共に見つけた。お前にも分かるだろう。帰還する際、得ている景色だ。」

 

 

 僕の質問へ彼は律義に答えてくれた。確かに、僕の鞄にはいくつもの景色がしまわれている。探索の終わりに得た景色だ。説明しがたいあの場所にて、巫女に関連する重要な品を見つけ出すとは。追跡者の持つ第六感とは凄まじい導きだと、僕は尊敬の念を深める。

 

 巫女の手に懐中時計が置かれる。彼女は、開かれ針が見えるそれを掌で大事そうに支えると、再び蓋を閉めた。胸元に懐中時計を持ってきて、はあと息を漏らす。

 

 追跡者は僕に話す。巫女は戦う術を失ってしまっていただけであり、同じ夜渡りの戦士でもあると。僕は脱ぎ捨てられる白いフードを見ながら、呆けていた。

 

 

「ありがとう…覚えていてくれたのね。…堅苦しいのはもうやめにしましょう。私も戦う。夜の王を倒す者として。」

 

 

 フードの中の服は、貴族然とした煌びやかな装飾の衣服。それでいてどれだけ動いても邪魔にならないような軽装であった。布一枚で、ここまで雰囲気が変わるものなのか。

 

 僕は呆けながらも、巫女の言葉に対して不思議と既視感を覚えていた。

 しばらくして思い出す。エルデの王の英雄譚における終盤。最初の王、ゴッドフレイが、行儀のよい振りをやめたときのセリフによく似ているのだ。

 

 人間基準で華奢な彼女の体が、途端に筋肉隆々の戦士のように見えた。気合いを込めれば蒸気まで出るのだろうか。

 いや、何を考えているのだろう。僕は壺を振って、妄想を頭から追い出し正気を取り戻した。

 

 

 追跡者と共に、巫女から話を聞く。彼女は懐中時計を依代にした技を使うらしく、技量に特化した戦士のようだ。強き旅人になるには、力だけではなく技量も必要だ。僕は巫女がリムベルドの探索を行う際、その戦い方を見せてもらおうと思った。

 

 また巫女としての役目をこなしていた時は口調さえ変えていたそうで、砕けた調子で彼女は話してくれる。夜渡りの戦士という側面を出せるようになったことが理由だろうか。距離を縮めやすくなるのは喜ばしいことである。

 

 

「次の導きがあったときは、私も戦う。だけど貴方たちは、それまでゆっくりしていてもらって構わないわ。戦い続きで疲れているでしょう。」

「…そうさせてもらう。小壺はどうする。」

「まだまだ気持ちは元気だから…とりあえず、夜渡りさんたちにお話を聞いてくる!お兄ちゃんも、何か手伝ってほしいことがあったら言ってね!」

「ああ、分かった。俺も、召使人形にでも聞いてみるとしよう。」

「本当に無理はしないでね。ありがとう。」

 

 

 僕たち三名は解散し、それぞれの時間を過ごすこととする。

 まずは隠者に聞いてみよう。神秘的な彼女が、どれだけ僕に手伝わせてくれるかは分からなくとも、交流をすることはできる。

 

 僕は海岸へグラディウスと壺たちに感謝を伝えに行った後、円卓に戻って隠者へと話しかける。彼女は本棚の前に立ち、何かもわからない文献へ目を通していた。

 

 

 白銀の髪を掻き分けた隠者は、腰を曲げて僕へ視線を合わせる。柔和に微笑んだ隠者は、僕が話をしたがっているのを察してくれているようだった。

 

 

「魔法使いのお姉ちゃん、何か困っていることはない?僕、何でも手伝うよ!」

「えらい子ね。それなら、お願いしようかしら。」

「うん!…大事な話なら、声を小さくするね。誰にも言わない。」

「隠すようなことじゃないわ。探している子がいてね…。」

 

 

 隠者は困りごとについて話す。彼女は人を探しており、それは大事な存在だという。更にこそりと聞くと、その存在は純粋な人間ではないようだ。

 これは僕が壺だから話してくれたことだろう。僕たちのような種族は狭間の外では魔法生物の区分に当たるらしく、隠者はその魔法生物に深く関わりがあるそうだ。

 

 リムベルドに、隠者の探している存在が潜んでいる。だから彼女はこの地へやってきたのだ。

 

 

「お手伝いさんに調べ物をしてもらおうと思っていたんだけど、壺さんもいるなら心強いわ。あの子を、きっと見つけられる。」

「『かじりやさん』か…。手がかりから見つけたいね。」

 

 

 僕は隠者がつけた愛称を口にし、その見た目について考える。グラディウスやエデレのように、鋭い牙を持っているのだろうか。どんどんと想像する姿が恐ろしいものに変わっていってしまったため、一度思考をリセットした。

 たくさん文献を探してみると僕は返し、他四人と、召使人形の困りごとを聞きに行く。話してもらったことを忘れないようにと、思考を整理し記録帳を取り出して準備は万全となった。

 

 

 そして順々に回り、五名の話を聞きに行く。結果、夜渡りそれぞれの性質が違うため、対応も違った。召使人形については不思議と会うことが無かった。追跡者と円卓のどこかで話しているのだろうか。

 

 無頼漢については、特訓と話の相手になってほしいという軽い頼みをされた。執行者は絵を描きながら、無言で悩みはないと首を振り。鉄の目からは特に背景を聞かせてもらえなかったが、リムベルドの探索の手伝いを頼まれた。

 

 守護者からの頼みは開示された事情を考えると、最も重い。無頼漢が手慰みに修理した兜。それを守護者は押し返したらしい。その理由は、彼がかつて統率していた『群れ』を思い出すからだという。守護者の片翼が傷ついている理由を、僕は知った。

 

 狭間の外、遠い西の世界で起こった紛争に、守護者の『群れ』は関わっていた。守護者の同族は呪いを宿した武器に翼を奪われてしまい、国の存亡が危ぶまれるほどに数を減らしてしまったと。

 呪いの武器、イクタルス。この恐ろしい武器について記述された書物を、召使人形が見つけたという。守護者は呪いが再び次の被害者を生まないよう、調査したいのだと言った。

 

 

「それで、リムベルドのどこかに『鍵』があるかもしれないんだね。うん、探しに行こう!」

「その通りだ壺殿。恩に着る。弓手も用があるならば、共に探索へ赴こう。」

「…よろしく頼む。」

 

 

 守護者と鉄の目が合流し、探索へ向かう準備を開始した。そのとき、ゆったりとした歩みで隠者が近くにやってくる。守護者が目を見張る中、彼女は自身も同行したい旨を話した。

 

 

「お手伝いさんにお願いしようとしたら…お話しする前に疑われちゃったから。証拠を持ってこないと。」

「先生がですか?これまでの貢献は、計り知れないというのに。…先生の疑いが晴れるのであれば、力を合わせましょう。」

 

 

 守護者の言葉に、鉄の目も頷くことで同意する。隠者も二人に協力する旨を話し、準備をし始めた。

 目的は違えど、お互いを助け合える心持ち。僕はまた一つ、夜渡りから学んでいきたいことが見つかった。

 

 こうして隠者を加えた僕たち四名は、リムベルドで目的を果たしに行く。霊鷹に掴まり、僕たちは崖から飛んだ。

 

 

――――――――――

 

 巫女の導きが、夜の王への道を示す。反対に導かれない時、夜の気配を辿ることはできない。

 此度の探索は、使命ではなく個人のため。夜明けとは逸れたそれぞれの思惑が、表層に浮かび上がる。

 

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