ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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識らぬ夜

 夜渡りたちは、突然現れ加勢した太陽の蛾に警戒を強めた。しかし、すぐにそれは解かれる。小壺旅人がグラディウスの霊体に支えられながら復帰し、彼女の考えを話したからだ。

 幼き壺と同じく、太陽を望む生命。血肉を共有した者たちは、深き繋がりを得た。まだほんの数舜に過ぎなかったとしても、確かな絆がある。

 

 

「まさかあの蟲の一部が、此方の立場を取るとは。」

「きれいね。あの虫さんも…壺さんのお友達も。」

 

 

 守護者と隠者がそれぞれ感想を言い合い、レディは小壺旅人の表面に損傷はないか確認して回る。戦いの最中とは思えないほどに穏やかな時間。坩堝の騎士は盾を構えながらも、気が抜けかけていた。

 

 太陽を望む蛾は優雅に飛び、陽光を想った橙の魔力弾を放つ。生みの親、空を飛ぶ翅へと。彼女の裏切りに、翅は虫の知性を働かせ、無機質に決断を下す。そして共に旅をしてきた、友の近くへと舞い降りる。

 白くなり、どのような攻撃も通さぬ守りの態勢を続けていた鋏は、それに気がついて天然の得物を振り上げた。

 

 グノスターは二匹で一つ。翅は鋏の上に重なり、全力で戦う。彼らは更なる自然の美しさを、戦士たちに見せた。合わさった二匹が、灰の世界に緑を到来させたのだ。草花が生え、空は終末の赤から底知れなさを思わせる青へと変わる。

 

 生存本能と進化の旅は終わらない。夜の中に適応したグノスターと、新しき虫。どちらが次の旅路を行くに相応しいか、この緑の上で決まるのである。

 

 

――――――――――

 

 僕は視界いっぱいに広がる美しき光景へ、びりびりと感情を震わせた。これが夜の識が持つ力なのか。

 役割を分けていた二匹が、今一丸となった。グノスターが最も注意を向けているのは、太陽の蛾だ。

 太陽の蛾が選択した道に対して、グノスターからは怒りも悲しみさえも伝わってこない。だが知性は伝わる。強い敵意はなく、全力で僕たちを倒そうとする策が。

 

 戦いの中でこそ、彼らの選んだ道を知ることができる。僕はグラディウスの背に乗りながら、剣の鎖を腕に巻きつけ突貫した。

 

 

 グノスターの攻撃は、今まで以上に苛烈なものとなった。守りを重視していた鋏が、背中の翅に見せるように高速で突進をし始めたのだ。翅は、鱗粉を撒いたり魔力の追尾弾を放ったりするだけでなく、青白い光の柱を空から凄まじい速度で落としてくる。

 光線を連続して喰らい、一体の壺が還った。前半戦の激しさによって、壺の霊体の数は三つまで減ってしまっていたが、もう二体しか場に残っていない。それでも尚壺たちは、恐れることなく果敢に挑む。

 

 僕たちの陣取りは、先ほどとほぼ同じだ。守りにおいて双璧を為す、守護者と坩堝の騎士が前衛を務め、大きな壺が鋏の周りを囲む。

 レディは隠者から聖印を渡されたようで、二人ともが遠方から攻撃を放る。加えて、太陽の蛾が空から光線を放ち援護している状況だ。

 僕とグラディウスは、支援よりも積極的に攻撃を行う。グノスターを切りつけ、零れた少量の体液を詰めていく。

 

 

 蟲に残る記憶は、通常ならば微弱である。しかし知性の蟲においては、並みの種族を越えるほどに、濃密な記憶を抱えていた。僕は半分に分かたれた意識から、グノスターの長い旅路を知る。

 彼らは砂漠に変わっていく森を飛び出し、夜へと順応した。夜の雨の降り続ける世界がどんなに険しくとも、生きることを、進化し続けることを諦めなかった。

 その純粋な在り方の、何と美しいことか。

 

 想像していたのに、僕はグノスターを討つことへ躊躇いを感じ始めている。彼らの旅路を途切れさせたくない。僕は旅人として、彼らの在り方に強く共感してしまったのだ。夜が続くことで、苦しみ続ける生があるというのに。

 僕は大いに悩んだ。そして、グノスターから得た記憶の断片の一つに、答えを見つけ出す。それは旅の始まりであった。

 

――――――――――

 

 かつてグノスターの生きた秘境の森では、野生の掟が支配していた。

 適者生存。強いだけでは、長きを生き残ることなど出来ない。しかし生存に適したどの要素を持ち得ても、一種類の生命が頂に立つことは難しかった。

 そんなとき、森に異変が起きた。

 滅びゆく楽園にて、空を我が物とする翅と、地上にて無敗であった鋏が出会う。彼らは争い、その果てに互いの得物が有効打にならないことを理解していた。

 

 好敵手であるからこそ、虫らしからぬ信頼を持った。天地を互いが支え合えば、敵う者などいない。

 旅は様々な景色を見せ、雨に湿る世界に同胞を失くしながらも、その度に適応した。屍の中に一匹でも残ればいいと、彼らは死を恐れなかった。

 

 彼らは夜の王になることを望んでいたわけではない。今でも夜の王とは何か、知らずにいる。だが夜を生き残る術を誰よりも識っているのだ。

 進み続ける意志を持っている気高き虫たち。だからこそ夜は彼らを、王と認めたのである。

 

――――――――――

 

 僕は意識を統合し、太陽の蛾に視線を合わせる。記憶を見続けたことで、グノスターの考えが少しは分かった気がする。

 彼らは僕たちに対して生存競争を仕掛けている。勝てば二匹が旅を続け、僕たちが勝てば太陽の蛾へと旅を引き継ぐ。そうやってグノスターは命を繋いできたのだ。

 

 

「なら僕は戦って…貴方たちの旅を見届けるよ。そして僕は、皆やあの子と一緒に行くんだ。陽の降り注ぐ世界へ!」

 

 

 僕はグラディウスの炎と、デーモンから継承した混沌の炎をかけ合わせ、壺に宿す。今の僕は、火の玉だ。

 この一撃を、果たしてグノスターは耐えられるか。僕は全力で短い足を伸ばして跳び、太陽の蛾の後ろ脚で掴んでもらう。次の瞬間、浮かび上がった僕は急降下し、翅と鋏両方に灼熱のボディプレスを食らわせた。

 

 じゅうと音を立てて、鋏の硬い装甲が融ける。そのまま僕の体は鋏の右鋏角を貫通し、文字通りの満身創痍を作り出した。翅の片羽も燃え、バランスを崩させる。

 

 

 それでも彼らは止まらない。鋏は地面を叩いて岩を突き出し、片方の鋏角で守護者や坩堝の騎士に殴りかかる。翅は三つもの光を頭上に灯し、戦士たち全員へ光柱を落とし続けた。

 グノスターの猛攻は、体力が残り僅かであった壺を全て還らせ、隠者とレディを夜に蝕ませる。

 

 その時、坩堝の騎士に守りを任せて、守護者が隠者とレディに向かい大技を使った。暴風を起こして跳び上がり、夜の蝕みを一気に消し飛ばす『救世の翼』だ。技を放った後も周囲に見えない防壁を張り、戦士たちを守る彼の姿は、高潔な騎士そのものだった。

 

 

「今の内だ、貴殿ら!」

「今こそ、使いましょう。魔女様もお願いね。」

 

 

 守護者が声を大きく言い、レディが再演を行いながら隠者に促す。隠者は小さく頷くと、手を滑らかに動かし舞いながら『血魂の唄』を放つ。グノスターへ、血の烙印と半透明な似姿が重なった。

 

 飛沫を上げる蟲の体の近くで、時計の針は巻き戻っていく。見事なまでの畳みかけにグノスターの損傷は拡大し、ついには脚が折れる。二匹は最期まで寄り添い、夜の気配を残して消え去った。

 

 夜渡りたちが気配をつかみ取っている間。僕は二匹の粒子が、太陽の蛾へと向かうのを視界に収めていた。太陽の蛾はその力を一身に受け、ゆっくりと僕の蓋に降りてくる。

 僕たちは未だ草木に覆われた世界を離れ、円卓へと帰還する。

 

 彼らの旅路は終わらない。僕が、太陽の蛾が、彼らと共に新天地を見るのだから。

 

 

――――――――――

 

 リムベルドにて、黒い渦は姿を消した。だがそれらはいつか、再び生を受ける。美しい蟲の子と共に。

 

 気配によって隠されていた夜が、少しずつ貌を見せ始める。

 夜の王はまだ多く、新たなる夜への在り方も生まれようとしていた。

 

 可能性を色濃く宿し、運命を変える力。資質は隠され、戦士たちに提唱する。夜明けを望むか、それとも己のための結末を望むのかを。

 




器の夜

継承を絶え間なく行い発生した、小さな夜
幼い生き壺の中身
夜の蝕みを、器の内に濃縮する

夜は万物を引き寄せ飲み込む
その性質はまだ弱くとも受け継がれている
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