ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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人形

 リムベルドに降り、レディが掌を見せてきた。彼女の手に乗せられていたのは、古くなって薄汚れたフレームであった。装飾は簡素で、この品からは、あるべきものが抜け落ちているかのような感覚を覚える。

 

 

「これは、商人が仕入れていた物よ。このフレームの持ち主が、今リムベルドにいるわ。」

 

 

 レディは説明を続ける。これを買った際、巫女としての力によって、夜に飲まれた者との繋がりが感じられたと。

 彼女はその後、僕が夜から色々な種族を逃れさせているのを見てきたことが、積極的に動くきっかけになったと言った。だがこれはレディの元来の性質によるものだろう。僕たちに分かりやすいよう、助ける理由付けをしただけだ。

 そのことを追跡者と無頼漢は分かっており、頷くことでレディの意向に理解を示した。

 

 

「…戦って正気に戻すまでだ。」

「そうなるな!まあ今回は、四人もいることだ。そう手間もかからんだろうよ!」

 

 

 無頼漢が夜渡りたちを見た後、僕の後方に視線を向け、にやりと笑う。リムベルドに着いてからすぐに召喚した『太陽の蛾』の霊体。彼はこの新しい協力者に、期待をしてくれているみたいだ。

 僕が右手を掲げると、金色に染まった彼女が前脚をつけ、思念を飛ばす。蟲に表情の類はないが、燃えるような協力の意思を感じとることが出来た。

 

 そうしてレディを先頭に、リムベルドの端、砦と廃墟が隣接して出現している場所へとやってきた。砦にいた兵士たちは叫びながら襲ってきたが、練度の高い強者はいなかった。難なく木製の階段を上って、砦の頂へと辿り着く。この先の崩れた足場から、廃墟へ向かえそうだ。

 

 

 各々が祝福の残った部屋にて準備をしている中、僕の思考は少しだけぶれていた。僕の中身について考えていたのだ。

 僕は円卓に戻ってすぐ、己の中身を確認した。待機していた同胞にも視認してもらい、その結果ある事実が発覚する。それは僕の中身が屍肉ですらない、不可思議な物質へと変化しているということであった。

 粘性があるが掬い出す事はできず、鏡に反射する色は紺に近い黒。影の地における『石棺の大穴』に沈む、泥濘のようであった。

 

 こうなったことについて、僕は心当たりしかない。きっと理由は、リムベルドで倒した者たちの断片を詰め続けたからだ。

 だからといって体に不調があるわけではなく、リムベルドの探索に来てからは寧ろ快調だ。記憶もぼやけていないし、蝕まれたときのように眠くもない。快調であればあるほど、夜渡りたちを上手く支援でき、夜明けを見るのも早くできる。

 つまるところ、今の僕の状態はよく分からない。夜という事象に詳しいレディや隠者に聞いて、解明するのが良さそうだ。

 

 僕は思考を一時中断し、夜渡りたちが準備を終えたのに合わせて動き始めた。

 ここからでも見える。廃墟には、小さな人影が立っている。

 

 

――――――――――

 

 廃墟に近づくと、レディの持つフレームが反応する。追跡者は廃墟の中を覗いた後、大剣に雷脂を塗った。平時は豪快に笑っている無頼漢も、神妙な顔つきである。

 

 

「うん…?白い、お嬢さんに見えるな。」

「…見た目で判断するなよ。何か特異な技を持っていてもおかしくはない。」

 

 

 廃墟の真ん中で微動だにせず立っているのは、少女のような姿をした何かであった。特に目が良い者であれば、少女の体は作り物であり、球体関節が露出しているのが分かるだろう。『夜の偶像』、リムベルドの夜に飲まれた人形は、視線を虚空へと向けている。

 

 

「あのお人形さんが、お姉ちゃんの探し人だよね?」

「ええ、間違いないわ。」

「そうだよね。不思議な感じだけど…早く連れ帰ろう!僕が先に行くよ。」

 

 

 戦士たちは様子を伺い、一番に前へ出たのは小壺旅人であった。彼は夜渡りたちにゆでカニを配り終えると、小さな両拳を合わせ、太陽の蛾と共に廃墟内へ入っていく。

 

 

『…報いを受けろ。』

 

 

 ぎょろりと人形の眼が、小壺旅人を捕捉する。次の瞬間、夜の偶像の周囲に白い靄が浮かび上がり、形を成した。それぞれ姿が全く違う、三体の霊体だ。それらは人形と共に、戦士たちへと襲いかかった。

 

 

 夜の偶像を中心とした激しい戦いが、この小さな廃墟にて起こった。数で言えば五対四の戦いであり、夜渡りたちは霊体を、小壺旅人と太陽の蛾は人形を相手取る。

 小姓の姿をした霊体『ヘレン』は、レディと技巧に富んだ演舞を繰り広げた。刺剣と短剣は素早く空を切り、両者互いの攻撃をひらりとかわす。

 その間追跡者と無頼漢はそれぞれ、巨大な骸骨の霊体『セバスチャン』と、フードを被った大槌持ちの巨体『フレデリック』に攻撃を仕掛けていた。セバスチャンは体力が高く、動きは遅くとも追跡者の怒涛の連撃に倒れない。フレデリックも、剣闘士のような出で立ち通り豪快な攻撃を無頼漢に放ち、善戦する。

 

 そして集団の長とも言える夜の偶像は、ほぼ何もできず追いつめられていた。

 広く薙ぎ払う爪撃は、小壺旅人の冷静な受け流しとラッシュによって隙を作ることになる。祈祷『三なる光輪』を放とうと後ろへ下がっても、太陽の蛾が橙色の魔力弾を放ち、無防備なところに直撃するのだ。

 

 手詰まりになった人形が、何とか太陽の蛾に向かって光輪を放つ。しかしそれを相殺するようにして、巨大な陽光が落ちた。太陽の蛾が、小壺旅人の内から見出した太陽の魔法である。小壺旅人はそれに見惚れながらも、人形がまだ戦おうとするかを油断せず見定める。

 はじける橙に押さえつけられて、夜の偶像は地面に突っ伏す。彼女は動けなくなるまで、小さく呟き続けていた。

 夜の王を許さない。報いを必ずと。倒すべき存在を見失っていても、その名前だけは残り続けていた。

 

 

――――――――――

 

 人形を倒れ伏したのと同時に、三体の霊体は姿を消す。太陽の蛾も役目を終えたことで、一度還ってもらう。戦闘後すぐにレディが駆け寄り、人形の体を持ち上げた。

 その人形は、白と紫を基調としたドレスに身を包んでいた。造花であろう頭飾りがつけられていて、小柄である。また人形の顔には黒い筋のような痕がついており、驚くべきことに瞼を閉じている。その様子は、まるで肉の通った人間であるかのようだ。

 レディが黒い痕について、呟く。

 

 

「これは、夜の蝕みが憑りつき続けている証拠よ。何とかしないと、また飲まれてしまうわ…。」

「そいつはまずいな。だけどよ、ここには壺の坊ちゃんがいるぜ。坊ちゃんも、治すコツみたいなもんを掴んできたんじゃねえか?」

「…なるほどな。」

「ええ!?」

 

 

 無頼漢の言葉に、追跡者とレディが振り向く。僕がしてきた対処など、間接的な手法ばかりだ。打開策が思いつくわけでもない。

 

 

「…自信はないけど、このお人形さんや夜渡りさんたちのために、頑張ってみる。」

「ありがとう、壺さん。ここで何とか処置をして…帰ったら魔女様にも聞いてみましょう。」

 

 

 レディが微笑み、僕の方へ少女の人形を近づけてくる。彼女もまた、僕が解決できると思っているように見える。

 それでも、無頼漢や夜渡りたちの信頼に応えたいと思う気持ちは強くある。とりあえず僕は少女の人形の頬から、夜の蝕みを掬い取り、壺の中に詰めてみる。僕ができるのは、継承することだけだからだ。

 すると濃密な記憶の断片が、僕の中に融けていった。僕は掌を夜渡りたちに向け、記憶を見る旨を伝えると意識を暗転させた。

 

 

 記憶の断片の中で意識を取り戻した僕は、随分と立派な屋敷の中にいた。長い廊下はぴかぴかに磨かれていて、インテリアも内観に華を添えている。

 しばらく歩いていき、ある廊下の突き当たりに肖像画が見えた。僕は棚の上に腕を伸ばして、額縁を覗いてみる。白髪交じりの厳格そうな男性が描かれており、その名も記されている。

 

 

『エドガー・"ブラックコート"・ノーザンクラフトさん…。長いお名前。貴族様なんだね。』

 

 

 肖像画の人物へ感想を呟く。そして棚から降りた後、廊下を右に曲がったところに淡い光が射しこむ部屋があることに気づいた。僕は進んでいき、その部屋の奥から幼い声が楽しそうに発せられているのを聞いた。

 

 

『お化粧をしましょうね、ダフネ。そうしたら、もっとかわいらしくなるわ。』

『…お人形さんだ!』

 

 

 僕は、黒髪の少女が人形と遊んでいるのを視認しながら近づき、人形の固まった顔を改めて確認する。そこに意思が宿っている様子はない。彼女は僕たち壺と同じように、ある段階で意思を持ち始めたのだろうか。

 僕は部屋に置かれている紙や本を確認し、情報を得た。

 

 黒髪の少女はクロエという名前であり、幼く無邪気な女子であること。人形にダフネという名前を付けて、可愛がっていることだ。それ以外はぼんやりとしているため、人形の記憶には残っていない部分なのだろう。

 これだけははっきりと分かる。ダフネは意思を持つ前から、クロエとの時間を大切にしていた。でなければ、ここまで鮮明に残るはずがない。

 

 クロエが人形の頬をゆっくりと愛情深く撫でた。それを見届けて、僕の意識は浮上する。これこそが解決法に繋がると信じて。

 

 

――――――――――

 

 夜渡り三人は、座り込んだ小壺旅人を確認しながら、雨の迫り具合も気にしていた。小壺旅人がこのようにぼんやりとして動きが鈍くなる様子は、ここにいる全員が見たことがある。戻ってくるまでに時間がかかるとも。

 そして追跡者とレディが、今までの様子とは違う部分にいち早く気づく。追跡者は第六感で、レディは知見から。小壺旅人の蓋に向かって、人形から暗い靄が流れている現象についてをだ。これは夜の靄そのものである。

 

 

「…人形に張りついた妙な気配が、薄くなっている。だが、小壺の方は変わっていないな。」

「ええ、不思議な現象だわ。壺さんについても、魔女様に話さないとね。」

 

 

 無頼漢は然程違いを感じられず、大雑把に問題なしと考えていた。生きている壺自体、無頼漢にとって摩訶不思議な生物なのだから当然のことであった。

 

 しばらくして、小壺旅人は意識を取り戻した。縁を触りながら、壺を横に振る。そして戻ってくるなり彼は対処方法についての考えを共有する。

 

 

「このお人形さんは、ダフネっていう名前だった。あと僕の手はごつごつしているから触れないけど…お姉ちゃんが頬を撫でてあげれば、戻ってこられるかも!」

「分かったわ。なら私が触れるから、壺さんが呼びかけてあげてくれるかしら。」

「うん!」

 

 

 小壺旅人は大きく壺を縦に振ってから、声の調子を記憶の中の少女クロエに似せた。幼い彼の声は人間の女性にも間違うほどで、物真似も得意だ。

 彼の故郷リエーニエにある最も古い壺村において、ホスローの名を冠する壺の英雄も、声を真似するのが上手かった。例え別の村出身であっても、小壺旅人は彼の英雄に倣って、発声練習なども特訓の内にいれていたのである。

 

 柔らかくレディが人形を撫で、小壺旅人が語りかける。すると、ぴくりと作り物の瞼が動いた。その後ぼんやりと人形は目を開き、周囲をゆっくりと見渡す。ほうと、二人の戦士の男から息が漏れた。

 少女を模した人形は、起き上がる。その後発した声は可憐でありながら、威圧的であった。

 

 

「…お前たち、何者だ。何故私を膝に置いている…。」

「よかった!ダフネお姉ちゃん、元気になったみたい!」

「くう…なんだその、珍妙な壺は…。ダ…フネ…?」

 

 

 人形は小壺旅人を視認した後、頭を押さえてレディの体に倒れ込む。レディは冷静に分析し、優しく人形を抱き上げた。夜の蝕みは表面に出ておらず、処置は完了したと。

 

 夜渡りたち三人と小壺旅人は、救助を終えて円卓へと戻る。再び意識を取り戻せば、人形の様子に翻弄されると予感しながら。




『太陽の蛾』
攻撃パターン…
1.陽光の魔力弾 発射
グノスター戦を参照。ダークソウルに登場した「月光蝶」に似ている。

2.太陽落とし
橙色に光る巨大な弾を地面へ落とす。ダークソウル3に登場した「巡礼の蝶」の攻撃に似ているがエフェクトの弾け方だけで、色味はもっと明るい。
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