ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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新たな夜渡り

 少女の人形が再び目を覚ました場所は、円卓の控え室にあるベッドの上であった。頭を押さえながら体を起こした彼女は、向かいの机前で、複数人が集まっているのに気がついた。

 

 人形は、それぞれの特徴を把握する。猛禽類の顔をした背の高い戦士に、大きなとんがり帽子を被った魔女。それとうっすら記憶している、銀の頭飾りをつけた女に、壺に手足の生えた奇妙な見た目の奴。やつらは何か話しているようだと、耳をそばだてた。

 

 

「先生。容態はどうでしょうか。」

「…内に夜はまだ残っているけれど…しばらくは問題ないと思う。」

「壺さんのことについても聞きたいわ。蝕みを吸いとっていたように見えて…。」

「あっ!目が覚めたみたいだよ!」

 

 

 小壺旅人の言葉が、人形にかけられる。他三人も人形の方を向き、体の調子はどうかと言う旨をそれぞれ尋ねた。

 断片的な情報からでも人形は理解する。彼女らがこの場所に自身を連れてきた。そして先ほどの会話は自分のことを話題にしていたのだと。

 人形は威圧的な口調で返す。この話し方こそが、彼女の自然体であるからだ。

 

 

「かび臭い場所だ。体の調子は悪くない。だが…何故私を助けた。」

「それは、私たちとあなたの目的は同じだからよ。ここにいる夜渡りの戦士たちは、夜の王を討つために集まっているの。」

 

 

 レディが淀みなく理由を説明する。人形の呟いていた恨み言についてと、この場所、円卓の在り方を。

 人形は聞けば聞くほどに納得していった。ほとんどの者に利害の一致があり、協力することで目的を達成できる可能性が高まるため集まっているのだ。自分としても、復讐を成し遂げるには手数が少なかった。ならばこの集いには、価値がある。

 人形、復讐者はレディの説明を最後まで聞き、提案を呑むことにした。夜渡りの戦士として、夜の王討伐に加わることを。

 

 

「なるほど。…この利用価値を、手放すのは愚かだな。だが馴れ合うつもりは無い。戦いに出るまでは、私の好きにさせてもらうぞ。」

「うむ。問題ない。同志となれることを、喜ばしく思うぞ。」

「ふん…。」

 

 

 守護者は声音を明るく言い、復讐者は鼻を鳴らす。隠者はその様子を、口元を少しばかり上げて見守っていた。

 続いて話しかけたのは、小壺旅人であった。彼は復讐者の加入に喜んだ後、自分の素性について記憶ははっきりしているかを聞いた。復讐者は、人形であるのに眉間に皺を寄せる。

 

 

「夜に飲まれると、記憶が擦り減るみたいだから…。聞いてもいい?」

「…壺の小僧。私は誉れ高き人形師の一族、ノーザン家の娘だ。覚えておけ。」

「ううん、そっか…。魔法使いのお姉ちゃん、ダフネお姉ちゃんの状態は…。」

「おい。なんだ、その含みのある言い方は。それに何故私の名前を知っている。」

 

 

 小壺旅人は不明瞭に返すと、隣に座っていた隠者に話しかけた。復讐者の機嫌は悪くなり、声にも苛立ちが混じった。

 復讐者の疑問に、小壺旅人はすぐさま答えた。生きている壺とは血肉を継承することで、高みを目指す存在だと。その性質の副産物として、取り込んだ存在の記憶の断片を見ることも可能であると彼は話した。

 

 

「記憶を覗かれたとは…良い気分はせんな。…それで、記憶の中のこの子はどうであった。名は…思い出せんが、記憶においてもかわいい子だったろう?」

「う…。…可愛いし、綺麗だったよ!貴族様みたいなドレスだもん!」

「ふん…そうだろうな。」

 

 

 小壺旅人は、人形の体がただの入れ物であるかのような話しぶりに確信する。まだ復讐者の記憶は混濁しているのだ。彼は壺の正面を隠者に向けて、彼女と示し合わせた。

 また夜の蝕みが広がったとき、隠者が対応する。ここにいる四名は、復讐者の経過観察をしようと考えを同じにした。

 

 

 復讐者が夜渡りに加わってしばらく。守護者から復讐者に対し、一つの依頼を出した。夜の者が使う武器の回収である。

 円卓の戦士として完全に受け入れられるためか、ついでに片付けるつもりかは分からずとも、彼女は頼みを受けた。

 

 

――――――――――

 

 僕は、リムベルドの探索を挟みながら時間を過ごしていた。夜渡りの戦士たちの用事であったり、僕自身の目的を果たすためであったり、理由は様々だ。

 夜の王を倒すための出撃でなくとも、グラディウスや太陽の蛾、戦いを得意とする壺二体は召喚に応じてくれる。おかげで毎度探索はスムーズに進められ、リムベルドに出現する建造物についても理解が深まってきた。

 だが、中々助け出せる人間は見つからない。倒し、弔いとして詰めるのみの日々が続いていた。

 

 

 そして現在。僕は円卓の浜辺にて、遠くを見つめる人形ダフネに話しかけていた。彼女の夜への恨みは強く、原因となっている夜の王へ向ける憎しみもまた強い。

 彼女が、夜の王であったグラディウスや、僕から生まれた太陽の蛾の正体を知れば、怒りを募らせることになるだろう。彼らの在り方を否定されないよう、僕はその話題だけは絶対に避けることにする。

 保護した霊クラゲを浮かばせていると、ダフネが呟くように言った。

 

 

「お前も死霊を連れているか。」

「うん。ダフネお姉ちゃんは、ファミリーの皆と戦うんだもんね。仲良くなるコツはある?」

「仲良くだと?あやつらは、我が家の霊体に過ぎん。」

「でも僕たちと戦ったとき、息ぴったりだったよ!仲良くないと、あそこまで連携出来ないと思う!」

 

 

 ダフネは面倒そうに溜め息を吐くと、弦楽器のリラを奏でた。小姓のような見た目の霊体がすぐそばに現れる。

 そして指さし、この霊体に聞くよう僕に言った。

 

 

「そんなにも知りたいのであれば、話すがいい。ただし、私から離れたところでな。」

「…うん、分かった!ありがとう、ダフネお姉ちゃん!」

「…行ってこい。」

 

 

 ぶっきらぼうに言い捨てると、ダフネは再び海を見る。ヘレンと呼ばれた霊体は僕に手招きすると、少し離れたところに立った。人間らしい仕草を見る限り、意思は残っているようだ。

 その後、ジェスチャーや試しに僕が渡した羊皮紙を使って、ヘレンは色々なことを教えてくれた。面倒見の良さを感じる。

 

 やはり僕が想像していた通り、ダフネとファミリーの関係性は、主従というより信頼で結ばれた仕事仲間に近い。言葉を発せなくとも、ダフネの現状を把握している。それでいて、この問題を乗り越えるのは彼女自身の意志が重要だという構えであるようだ。

 彼らも心強い味方だ。僕は筆談の最後に、ヘレンへこれからの戦いでは頼りにしている旨を伝えた。

 

 そして戻ってきたヘレンを見て、ダフネはもう一度リラを奏で、霊体を還す。ダフネは長話やただの雑談を好まない。

 僕は礼を伝え、有益な話題を見つけたら話しかけることにした。

 

 

 次に僕は円卓の中へ向かうため、階段を登ろうとした。夜渡りとの交流に加え、巫女へ出撃するのはいつになるか聞くためだ。

 しかし僕は、周囲に違和感を覚えた。普段の円卓とは何かが変わっている。考えた後、思わずあっと声を漏らした。円卓の下にもう一つある階段。その先の、いつもは閉じられている扉が開いているのだ。

 聴覚を傾けると、話し声が聞こえる。僕は音を立ててはならないと判断し、気づかれないようにゆっくりと階段を下りていく。

 

 

 扉の先は埃っぽく、円卓の温かさとは打って変わって、冷たく乾いた空気が漂っている。話しているのは巫女と、鉄の目のようだ。それとは別に、聞いたことのない声もする。

 二人が何故ここに集まっているのか。それに三人目の声は、いったい誰のものなのだろう。僕はだんだんと好奇心が高まってきて、通路の陰から部屋の様子を伺う。

 

 白い根が張り巡らされていて規則正しく棺が並ぶ、霊廟のような部屋だ。そこには聞こえた声通りの二人と、鉄の目によく似た服装の男性がいた。その男性は床に深く座り込んでいる。

 

 

「…俺たちは普通に殺せない。」

 

 

 男性は呟き、鉄の目が持つナイフを見る。そのナイフはすぐにしまわれた。

 鉄の目が請け負った暗殺か。僕は鉄の目の仕事がどのようなものか把握しているため、緊張しながら声が漏れないように状況を見守る。

 男性は、鉄の目が所属する『施設』の人間が不滅である理由を知っていると言った。その理由を聞きたければ、夜の力が混じった『聖律の刃』を持ってくるように続ける。

 

 聖律と聞くと、僕の頭には黄金律原理主義が思い浮かぶ。その騎士であった、ダリアンとデヴィンの名は強者として聞いている。かつてこの主義を掲げていた者は、『死に生きる者』を許さず狩り続けていた。

 その繋がりと、不滅という言葉を聞くと、施設の人間が死に生きる者なのではないかと連想する。もしそうなら鉄の目と会話する接点をまた作れるため、嬉しい知らせである。死に生きる者や霊体と、僕たち壺の内肉を詰めた個体は相性が良いと、村の壺師から聞いたことがあるからだ。

 実際旅の中で出会った、意思のあるスケルトンとはすぐに仲良くなれた。更に英雄へ近くあれるなら、僕の旅においてこの上ない価値となるだろう。

 

 僕は、巫女と鉄の目が話しているのを聞いた後、霊廟を立ち去る。今彼らに事情を聞くのは悪手である。剣呑な雰囲気からして、男性が仲間に加われるかは怪しいが、彼らの取引はまだ続く。その間に説得してみよう。

 

 

 それから僕は庭園に向かい、追跡者や執行者、無頼漢、戻ってきた鉄の目に対し、話しかけて回る。鉄の目からは先ほどまであった鋭さが消えており、普段通り弓の手入れを行っていた。巫女は霊廟から戻るのが遅く、出撃のことを聞くことができなかった。

 

 だが聞く必要はなかった。しばらくして、巫女が夜渡りたちを集めたからだ。

 今回巫女はリムベルドには向かわないようだ。今回相対する夜の王の情報を伝えた後、組み合わせの一つとして執行者、鉄の目、復讐者が選ばれ、僕はその三人についていくことになった。

 

 寡黙な達人と、戦い以外については元より必要以上の会話をしない弓手。加えて復讐に燃えるダフネ。奇妙な空気になるかと思いきや、特段軋轢を生ずることも無かった。

 鉄の目とは浜辺にて会うこともあるようで、執行者に関してはダフネが絵の出来について褒めることもあるようだ。

 僕は気持ちが穏やかになるのを感じた。馴れ合うつもりは無いと言いながらも、円卓の一員として彼女は馴染み切っている。

 

 

「準備は万全か。」

「うん!あと今回は執行者さんと一緒に戦えるから、坩堝の騎士さんも来てくれるって!」

 

 

 僕は声をかけてくれた鉄の目に返事をし、坩堝の騎士から受け取った剣の欠片を見せる。古い聖性を宿しており、坩堝の騎士と霊的な繋がりを持った物品だ。これがあれば、彼も協力者としてリムベルドに立てる。

 執行者はじっと僕の手を見つめ、ダフネはそっぽを向いて、準備が完了したことをそれぞれ伝えた。

 

 僕たちは『闇駆ける狩人』に対して、戦いを挑む。彼の王が、どう夜に向き合っているかを自分自身で理解するため、僕は霊鷹に掴まりながら考え続けた。

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