ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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英雄へ

 赤い何かを拭ったような印は、地変が起こったリムベルドの南東部近くに付けられていた。行きとは別のルートを通り、敵を倒しながらその謎めいた場所へと赴く。

 しかし近づけばそこには、大きな野営地があるばかりだった。ダフネが鼻を鳴らした後、剣闘士に似た霊体フレデリックを呼び出す。彼女は、場を制圧するのに躊躇することがない。

 

 野営地の内部が見えてくる。その瞬間、僕の感情は大きく揺れ動く。

 何故ならそれは、僕が望み続けた再会であったからだ。

 

 

「赤獅子さんたち…!」

 

 

 僕がリムベルドに迷い込んで初めて遭遇した、気高き赤獅子の戦士たち。僕が試しに交渉したことを、まさかあの夜の王は叶えたというのか。確かにそうであれば、不自然な地図の状態にも説明がつく。

 彼らが、あの時会った戦士たちと同じ集団かは分からないが、赤獅子は例外なく強い心を持っている。幾千も襲い掛かる雨にも、耐え続けられるほどに。

 

 ダフネがいつの間にか得ていた『大竜爪』を担ぎ、走っていく。攻撃させてはならない。僕は彼女に追いつき、大きな声で留める。

 

 

「待って、お姉ちゃん!僕が先に行く!」

「どけ。奴らも夜に飲まれているだろうが。」

「ううん、赤獅子の戦士は雨に屈したりしない!」

「…愚図りおって。なんだ…?」

 

 

 僕が腕を広げて前に立つと、ダフネは苛立ちながら呟き野営地を睨みつける。僕の視界の先には、じっとこちらを見つめる兵士と雑兵がいた。虚ろになりかけてはいるが、彼らにはまだ意識がある。

 ならば、助けられる。あのとき見殺しにしてしまった彼らを、逃すことができる。

 

 ダフネが怪訝な顔を僕に向ける。瞬間僕も驚き、壺の表面を触った。辺りから線状の闇が寄り集まり、壺の中へと入り込んでいくのだ。この不可解な現象に慌てふためいていると、鉄の目と執行者も僕たちに合流する。彼らは、僕が叫んだ文言と今の状態に戸惑っているようだ。

 僕の中に入っていく闇は、野営地の中から来ている。しばらくして勢いが落ち、最後は墨で水を汚すように現象は止まった。

 

 

 ゆっくり、ラダーンの兵士たちが近づいて来た。そして赤獅子騎士も。

 彼らの足取りはもはや虚ろではなく、臨戦態勢を取る夜渡りたちに手で制し、戦うつもりは無い旨を示した。

 僕も引き寄せられるように近づき、赤獅子騎士が空に向けて広げる掌を見る。そこには「硬矢のタリスマン」があった。僕が渡したタリスマンだ。

 

 

「赤獅子騎士さん…また会えたね…!」

「…こういうこともあるのか。」

 

 

 僕は感極まって赤獅子騎士の手を握り、ぶんぶんと振る。彼は豪快に笑う。夜の中での疲弊が無かったかのように。

 鉄の目が最初に弓を降ろしてくれ、執行者も納刀してくれた。戦闘に入る雰囲気ではなくなったのを察してくれたようで、ダフネも渋々巨大な武器を背に引っ掛ける。

 僕は弾むような気持ちのまま、野営地の中の戦士たちに声をかける。彼らがまだ正気を保ち続けていたことに喜びと敬意を払いながら。

 

 

 僕たちは、野営地全体から集まってきた赤獅子の戦士たちに顔を合わせ、現在の状況について確認する。彼らの意識は明瞭か、リムベルドに再び出現するまでどこにいたのか。

 すると、赤獅子騎士三人が口々に答えてくれる。先ほどまでぼやけていた思考は万全になったことと、夜に飲まれていたときは時間が止まっていたことを。

 彼らは破砕戦争末期の時代のまま、夜の中で固定されていた。だから夜については詳しくなく、時間を繰り返していることにも気づけずにいたようだ。

 

 このリムベルドにおいてラダーン将軍は既に亡く、狭間の地にまともな命はない。だが彼らは悲壮な状況でありながらも、武器を掲げた。

 この炎を、亡きラダーン将軍に捧げる。赤獅子は戦いの中で猛り、戦いに殉ずると。彼らの誓いには諦観の念など全く含まれていない。

 

 僕は改めて、赤獅子の軍勢の輝きを思い知る。これこそ英傑。永劫語り継がれるべき戦士の在り方だ。

 

 

「…つまりあんたたちも、俺たちの戦いに加われるということか?」

「…!」

 

 

 鉄の目の問いに、一人の赤獅子騎士は力強く頷き、兜の内で笑う。

 夜の王という強者と、戦わずして何とするか。騎士が言うと、兵士と雑兵も、おおと雄叫びを上げる。ダフネはこの熱気の内にあって頭を押さえていた。

 

 

「なんだこいつらは…。私は、夜の王に報いを受けさせに来たのだぞ…。」

「赤獅子さんたち…!貴方たちと一緒に戦えるなんて、夢みたいだよ!支援は任せて!」

 

 

 僕たちはしばらく話した後、野営地のすぐそばにある『腐れ森』を見やる。赤獅子はマレニアの腐敗に対抗し続けた。腐れは彼らの宿敵とも呼べる。

 これもまた、巡り合わせだ。僕はリブラの公平さに一時の感謝を思いながら、剣の欠片と岩指に祈る。坩堝の騎士と、大きな壺の同族たちを召喚した。

 

 坩堝の騎士に赤獅子の軍勢は反応し、久しぶりだなと言って、軽く掌で肩を叩く。

 赤獅子の主ラダーンは、エルデの最初の王ゴッドフレイに憧れた。だから、ゴッドフレイの配下である坩堝の騎士が、赤獅子と関わりがあってもおかしくはない。

 坩堝の騎士は懐かしそうに彼ら全員に視線を向けた後、握った拳を赤獅子騎士にぶつけ返す。どのような繋がりかは分からずとも、彼らはまた通じ合い、肩を並べた。

 

 

 僕たちは腐れ森へと入っていく。巫女や隠者、召使人形が出撃前に説明していたことを思い出す。

 腐れ森は外なる神によって変異したが、森に残された者は抗う術を模索した。そして森のどこかには加護が秘められていると、彼女たちは話した。

 

 壺は腐敗を喰らわない。僕は仲間となった赤獅子たちが炎によって抗っている姿や、苔薬で腐敗しないようにしている夜渡りたちの様子を伺う。

 次に、接近する森の者たちを見た。森に生きる者たちは腐敗の眷属が主であったが、巨大な蟻や腐敗した犬などもおり、全体的に蟲の多い場所である。また驚かされたのはこれらとは違う種族、祖霊の民が森にいたことである。

 祖霊の民は全身を腐敗に侵されていた。僕の故郷では美しい地下世界にて、儀礼を執り行いながら生きていた。比べてしまうと悲惨さがより濃さを増す。

 

 祖霊の民は小さな野営地で蹲っており、僕たちを見るなり襲ってくる。口から腐敗を撒き散らし、目は濁っていても尚、彼らは祖霊の頭蓋を手放すことはなかった。

 

 探索と戦いが、短い間に目まぐるしく変化していく。戦士たちもこれ以上腐敗に耐えながら行動するのは難しい。そんな行き詰まった状況で救いの手が差し伸べられた。森の奥部で砦を発見したのだ。砦の周囲は腐敗の霞が炎で遠ざけられていた。

 またこの形状の砦は幾度も入ったことがある。決まって頂にある小部屋にリムベルド全域の情報が記されていることも覚えている。

 この砦が例外であるかは分からないが、もし定石通り腐れ森の情報が書かれているなら、状況は一気に好転する。腐敗の影響を受けやすい夜渡りに先へ行ってもらう。そして近くに感じる強き者の気配が近づいてこないか、赤獅子の軍勢と見張りながら後に続いた。

 

 砦内には、腐敗を免れた君主軍がいた。そして彼らに対して僕が呼びかけたとき、またしても線状の闇が僕の周囲に集まってくる。よく視認すればそれは、兵士たちの体から出てきていた。

 僕の推測が真実味を帯びる。これは夜の蝕みなのではないかと。君主軍の面々は一度頭を押さえて苦しそうにした後、石レンガの下にいた兵士一人と頂に座り込んでいた兵士長がぼんやりと辺りを見回す。ただ虚ろなだけでなく、人間の温かさが彼ら二人から蘇ってきているのを感じる。

 

 赤獅子の戦士たちがどよめき、騎士の一人が僕の蓋をぐりぐりと荒く撫でてくれた。原理は分からずとも、僕の行ってきたことが実を結びかけている。僕はこの不可思議な力に震えながらも、夜から逃れた彼らのもとへ一歩踏み出した。




協力者
破砕戦争の英雄たち

夜に抗い続けた、古き時代の英雄たち
彼らの勇猛さと炎は消えることなく
新たな戦場で燃え盛る

主に赤獅子の軍勢を召喚する
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