ジェネリック小壺 in リムベルド 作:棘棘生命(一旦再考中)
小壺旅人が、ふらつきながらも立ち上がる砦の戦士に声をかけた。彼らは敵の侵入を許したかと身構えるが、後ろに控える赤獅子たちに気づき、動きを止める。君主軍の上澄みと言えど、ラダーンの下で戦った一騎当千の強者相手には分が悪い。
しかし砦を守ろうとする意思は固く、騎士大剣を抜いた兵士長は腹をくくったようであった。赤獅子騎士の一人はじっと彼ら二人を見つめた後、手を宥めるように突き出した。
人数差がありすぎる。戦うにしても今は休戦すべきだという旨を、別のラダーン兵が言う。
この言葉を聞き、君主軍の二人も砦の状態を理解したようだ。兵士長と兵士は矛をおさめ、目の前の集団が何のためここへやってきたのかを尋ねる。
「僕たちは、この土地の夜明けのために頑張ってて…。そのために森にある加護を探してるんだ!」
それに対し、小壺旅人が拙くも説明していく。夜という大いなる脅威についてと、現在腐れ森が局所的に出現していることを証拠も踏まえて。君主軍の二人は普遍的な夜のみ知っており、体を蝕む現象は理解しないまま飲まれていたようだ。小壺旅人に続いて、戦士の集団はこれは真であると、説明を補強していく。
そのため彼らは、集団が恩寵を見つけ出さなければならないわけを理解し、納得した。
だがその次になされた提案、夜明けへの旅路についてきてはくれないかという願いには、首を振る。
この砦、灯台は腐敗の瘴気を払うための火を掲げている。全滅してしまえば、この腐敗を誰が食い止められるのか。
数を減らしても尚、彼らは与えられた使命を果たすつもりであった。
小壺旅人は残念そうに壺を傾けると、無理やりに連れ出すことはしなかった。使命や誇りこそ、知性ある種族の礎であると、彼は考えているからだ。
もう一度出会えるかは分からずとも、小壺旅人は手を振り、再会を望む。赤獅子と再び巡り合えたのだ。例え夜の内から解放することができた後も、可能性はある。
その後戦士の集団は、君主軍の二人に小部屋へ案内された。広げられた地図から、周辺の手がかりと、腐れ森の加護がどこにあるかを知る。加えて戦士の集団は厚意から武器や道具を融通してもらえ、準備を整えることができた。
正気に戻った君主軍の二人は勇ましく、腐敗と夜の雨に抗う決意を示す。忍耐の炎は、灯台の頂で未だ燃えている。
――――――――――
僕は振り返らず、砦を後にした。使命に殉じることは、何よりの名誉である。僕のような旅人には、得難いものだ。
苦しくとも、ずっと彼らのことを覚えておこう。共に行くことは叶わずとも、火口にいた監視者たちと同じように。
加護の場所は砦の北側であり、すぐに辿りつくことができた。捻じれた樹木の上にあり、それを奉るように海老のような見た目の腐敗の眷属が、周囲を囲んでいる。
じじと時々鳴く眷属たちは僕たちに気がつき、拡散する蟲糸を放ってきた。腐敗の眷属は、この環境で生を全うすることを望んでいる。だからこそ外敵に容赦はしない。
「僕が押さえるよ!皆、樹の上に行って!」
僕は彼ら独自の高い知性を感じ取りながらも、眷属の前に立ちはだかり壺の同胞を再び呼ぶ。土地を荒らしている立場ではあるが、腐敗の中動き回るのは危険だ。悪戯に傷つけず、この場を通してもらおう。
壺たちと僕が動き回ることで眷属たちの注意を引く。蟲糸は鋭く僕たちを抉ろうと追尾してくるが、『鉄壺の香薬』を各々が使用し、『高揚の香り』を撒けば凌げる勢いだ。僕は柔らかく製作していた『眠り壺』を合間に投げ、眷属たちを行動不能にしていく。
その間に腐敗に耐えきれぬ戦士たちは、樹木の上へ走り加護を得ていく。そして最後のラダーン兵が加護を得たのを確認した後、僕は壺たちに壁になってもらい、回転しながら移動する。
地図に記した森の気配、夜に飲まれた強者たちに挑むために。
森に点在する気配は、六つあった。僕たちは腐った野犬や亡者を倒しながら進み、開けた場所を悠然と動く二体に接近する。金色の大槌を持った貌の無い巨体『黄金樹の化身』と、太った蛇のごとき異形の樹『爛れた樹霊』である。
じっとそれらを観察していると、哀しみが湧き上がる。
これら二体は黄金樹に由来する存在だ。どちらもエルデンリングが砕けた後確認され、黄金樹の化身は小黄金樹を守るように、爛れた樹霊は墓地や地下にて肥大化した姿を現した。動きはすれど、刻まれた人々の真似事に過ぎない。
彼らは、黄金樹の生きたいという意志の代弁者である。僕はその想いがこの時代まで届かなかったことに、痛みを覚えた。
夜明けの先で、黄金樹は再び芽吹く。僕はそう信じて、弔う。
鉄の目と執行者は、黄金樹の代弁者たちと何度も戦ったことがあるようで、作戦をすぐさま立てた。
黄金樹の化身は大槌を振って重い一撃を放ったり、光線を発射するなど多様な攻撃手段はあるが、動き自体は読みやすい。反対に爛れた樹霊はよく動き、攻撃は突進やブレスなど変則的である。
これらのことから、赤獅子たちと執行者が黄金樹の化身を相手取り、ダフネと鉄の目、僕たちが爛れた樹霊を押さえることとなる。
雄たけびを上げながら、赤獅子の軍勢は執行者と共に走っていく。ダフネは鼻を鳴らした後、右手に『大竜爪』を、左手に雷を帯びた聖印を持ち、言い放つ。
「…ふん。あやつらが戻る前に終わらせてやろう。小僧ももう少し召喚しろ。一気に叩くぞ。」
「うん!皆、行こう。」
ダフネはリラを奏でた後、即行で祈祷『雷の槍』を投げる。その後大竜爪を地面に叩きつけるようにして、ぐぐと気合いを入れた。ダフネの豪快さは、無頼漢や猛々しき戦士を思わせる。
僕は彼女に頼もしさを強く感じながら、祈りを捧げる。そして元々出てくれていた壺たち二体に加え、グラディウスの霊体を召喚した。消耗を押さえるため一時帰還してもらっていた坩堝の騎士にも来てもらう。
場は、金と橙色で埋め尽くされた。協力者たちは爛れた樹霊を認めると、それぞれの得物を以て挑む。
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白いドレスを纏った人形、復讐者は接近戦を仕掛けた。両手持ちにした大竜爪で化物を殴る。その合間に、共闘している金色の霊体たちを見ていた。
復讐者は、周囲で起こる戦闘に対し、出ない汗がじんわりとにじむような心地であった。一日目の夜でも感じていたこと。夜渡りの戦士とは、これほどまでに敵を圧倒できるものなのか。
特に、金色の霊体を召喚している小さな壺だ。奴は理解の範疇にないことばかりしでかす。突然商人が提示した選択肢以外のことを口走ったり、やかましくむさ苦しい戦士の集団を味方につけ始めたり、挙句の果てには夜の蝕みを吸い取ったりなどもした。
復讐者のファミリーとの長い旅において、確かなことがあった。夜に飲みこまれた者は正気に戻ることはないという事実である。その前提を覆し続けられているのだ。顔には出ずとも、彼女の思考は混乱で埋め尽くされている。
そのときふと、復讐者の思考に断片が混じる。
この力が近くにあれば。きっとあの夜、ぬくもりを失うことはなかった。
「なんだ…この感覚は。」
戦闘の最中であるのに、復讐者は頭を押さえてしまう。暴れ回る爛れた樹霊は、動きの止まった彼女を噛み砕こうと大きく樹で出来た口を開ける。
そのとき、状況を俯瞰して見ていた鉄の目が樹霊の狙いに気づき、大弓から嵐の宿った一矢を放った。怯む樹霊。その隙を狙って、小壺旅人と協力者たちが四方八方から攻撃する。
「大丈夫か。気をつけてくれ。」
「…ああ。」
鉄の目に空返事をした復讐者は、顔をしかめ思う。
利用価値があるなどと、考えている場合ではない。奴の、面妖な壺の力は未知数だ。目を光らせておかねばならないと、復讐者は考えを新たにした。
しばらくして黄金樹の化身は、赤獅子の軍勢と執行者の技量の前に倒れた。爛れた樹霊も同じ頃、濁った金色を噴出させて戦い敗れる。
残る強敵は四体だ。
竜贄を為した故に人から竜に変わった『溶岩土竜』。
黄金樹の外にあり、腐れ森に残った民の信仰対象である『祖霊』。
儀礼を為し、鳥の守護者となった祭司たちを羽とした『死儀礼の鳥』。
そしてリムベルドのどこにも現れ、命を刈り取る咎人の分体『鈴玉狩り』。
戦士の集団はそれら四体に対し、手分けをせず一斉攻撃を仕掛け力を得ていった。強き者と言えど、知性を失っているか夜に飲まれた者の残滓である。騎士三、兵士八、雑兵八の赤獅子の軍勢、復讐者や小壺旅人の霊体召喚による圧倒的な兵量は、短時間での制圧を可能とした。
特に強い二体、死儀礼の鳥には聖なる力を、鈴玉狩りには波状攻撃をぶつけることで消耗が少ないままに撃破していく。
霊樹が空中に現れ夜が訪れた後、相対した『僻地の宿将』についても同じである。雷と氷嵐を使い、二体の失地騎士を召喚する戦法は、将と呼ぶにふさわしく、多数を相手取ることに長けていた。
しかし赤獅子の騎士を頭に小隊が作られ、失地騎士の霊体は各個撃破される。かつて山嶺の砦を守っていた宿将は、赤獅子たちの知る人物であった。旧き英雄に対策もされていた将はなすすべなく、倒れることになる。
そして彼ら戦士たちは皆、腐れ森から霊樹の先へ赴く。赤獅子たちは夜の王の強さに昂ぶり、夜渡りたちはそれぞれの目的のため一致団結する。その中で、夜渡りとして巫女に受け入れられた小壺旅人は、寧ろ気持ちを落ち着かせていた。
彼はもう理解している。夜の王の在り方に統一性はないが、共通して夜へ強い影響を受けた者たちであると。
『夜駆ける狩人』。断片的ではあるが得た情報から、かつてのエデレのように気高い戦士だと、彼は考えていた。
小壺旅人は思う。夜の中にあっても尚、神聖な力を振るえる戦士を失いたくはない。それでも腐れ森の兵士たちのごとく、夜の王は誇りを貫くだろうか。幼き壺は考え続ける。
戦士の集団はまだ知らない。狩人の内にある絶望が、如何程に深く闇に沈んでいるかを。
だが彼らの団結は温かく、光を放っている。戦いの中で、戦士は通じ合うのだ。