ジェネリック小壺 in リムベルド 作:棘棘生命(一旦再考中)
天から舞い降りし青銅鎧の騎士たちは、フルゴールの周囲を固める。
前衛には、フルゴールと肩を並べられるほどに屈強な騎士が。後衛には、長距離を貫ける長槍持ちの騎士たち、神々へ祈りを捧げる祈祷師、弓兵などがいる。
人馬が矛となり盾となって、未知を切り拓く。そして英雄の突撃によって士気を上げながらも、手堅い勝利を掴むのだ。古めかしい戦法であっても、鍛え抜かれた体が新しきを凌駕する。小細工など、強き者にはいらないのだ。
フルゴールを中心に、神々の騎士たちは剣を掲げた。夜の内でも神々は試練を課す。この戦を奉納することで、神聖な力はより眩しく、導きとなるのだ。
強く輝き、フルゴールとその同胞は走った。相対する夜渡りと赤獅子、好敵手の元へ風を切って。
雄叫びが双方から上がり、赤獅子も捨てた盾を拾い上げてぶつかり合う。その光景を見ながら突貫する夜渡りたちは、それぞれ思う。程度は違えど、戦いへの昂ぶりを。
仕事を冷静にこなす弓手は、今最も冷静さを欠こうとしていた。こみ上げてくる闘争心。手がほてり、番える矢も膨らんでいるような感覚を覚える。
無頼漢が出場した狭間杯、夜の王エデレとの戦闘でも感じた高揚だ。鉄の目の口角は、布の裏でゆっくりと上がり、光の弓を弾くフルゴールを見据えた。両腕さえあればフルゴールは弓を扱い、近距離遠距離共に隙無し。
鉄の目にとって、同じく弓手であることは、運命的にも感じられた。
「…この場に連れて来たかったぜ。」
鉄の目は幻視する。弓手の脳裏に浮かぶのは、豪快な仲間の海賊。彼がいれば全身が血塗れになろうと、楽しくて笑っていただろう。鉄の目はそう信じて疑わなかった。
「あんたも…楽しそうだな。」
「ハッ…目に物見せてやろう。」
雷の矢を放ちながら、鉄の目は復讐者と肩を並べる。復讐者は短く笑うと跳躍し、赤みを帯びた雷『古竜の雷槍』を放った。人形の口元は吊り上がり、敵が的の大きさを喜ぶ。
武器同士が鍔迫り合い、激しさを増す。神々の騎士はフルゴールも含め、九名。かつての聖戦に比べれば僅かであろうと、集った全てが英傑である。
フルゴールと神々の弓兵たちは、光の矢を天に放ち地面を針の筵にする。それを炎で燃やし撥ね除ける、赤獅子たち。そして、卓越した技量によって悉くを弾いた夜渡り、執行者。
三位一体の彼は、獣の諸相を使わずにいた。何故なら執行者の記憶に、鮮明に映る光景があったからだ。
それは絵描きの記憶ではなく、坩堝の騎士の記憶である。かつて主と共に駆けた戦場は自由で、良き風が吹いていた。
人員は違えど、今あの時と同じ風が吹いている。フルゴールら神々の騎士から、見知った好敵手である赤獅子たちから、また己と同じく夜を渡る仲間から。
「…。」
執行者の横に、並ぶ影がある。執念で再び戦場に戻った、坩堝の騎士だ。執行者は彼から感じる。早く切り結ばねば、飢え死にそうだという渇望を。
ゴッドフレイという主、圧倒的な暴を失った故に、久しく感じていなかった渇きである。執行者は妖刀を掲げ、金色に光る天に刃を透かす。
強き者と戦えることに歓びを。二人はそれぞれの技を以て戦いに酔い、満たされる。
フルゴールが、剣に光を生やして両刃剣とし、戦士たちを刻んでいく。巨大な槍を持った神々の騎士たちは薙ぎ払いと突きで盾を剥がし、祈祷師は祝詞を以て、聖なる光とささやかな癒しとを同胞に分け与える。
そんな中、命を大きく削られながらも、祈りを捧げた小壺旅人は今。復讐者の技により、辛うじて体力を取り戻していた。グラディウスの背中から、協力者たちを再度召喚し、神々の騎士たちに肉薄する。
霊体と言えど質量を持っており、攻撃はフルゴールに迫るほど重い。勇ましく召喚に応じた五つの生き壺たちは、まるで柔らかなパンのように撫切にされていく。サムズアップしながら戻っていく壺たち。彼らはどこか満足気であった。
小壺旅人の心には、光が灯っていた。フルゴールの同胞の強さを知れたのは、人馬の英雄が諦めなかったおかげであるからだ。
諦めない心こそが、英雄を英雄たらしめる。御伽噺のような展開が目の前で起こっていることに、彼の心からはとめどなく希望が湧き出でる。
「フルゴールさん…!貴方たちと戦えることを、誇りに思うよ!」
壺は、くるりと回転して地面に立った。巨大な騎士の剣技を、セスタスをつけた拳で受け流し舞う。戦いの中、小壺旅人は内から燃えるような熱を感じ始めていた。デーモンが混沌の炎より、グラディウスの煉獄の炎よりも温度が高く、しかし痛さの無い灼熱。
夜とは可能性の力だ。可能性を色濃く宿し、運命を変える力。その力が濃縮され、望みを叶えられるほどに強まればどうなるか。
神々の騎士の一人と、小壺旅人の演武は速く、もっと速くなっていく。
小壺旅人は、相対した夜の王たちに希望を見た。気高き者たちや、高みに至るため、ひたすらに努め続ける者たち。彼らは巻き込まれた立場でありながら、懸命に夜へ向き合っている。
彼はその在り方たちに対し、尊ぶべきだと、そう思った。
小壺旅人の視界を、ぼんやりと橙色の光が包み込んだ。それによって、彼の味方をする戦士たちの傷が、瞬く間に癒えていく。徐々にそれは熱く、眩くなり、灰の世界を照らした。
「僕の…太陽だ。」
夜の雨で狂った者たちの無念、凝縮した夜の蝕みが可能性を示す。元より温かさを秘めていた『器の夜』へ、白夜を齎すように。
夜のヴェールを解けば、陽光は照っている。星々は自ら光を放ち、空にそれを届ける。
太陽の蛾がいち早く知り望んだ、太陽の兆し。器の夜がどう在るのか、決定づける光が芽を出した。
フルゴールは小壺旅人を見、しばし天を仰いだ。
彼は分かっていた。この戦場に集った戦士たちは皆、戦いに理由を持っていると。そして自身の信仰よりも、相対する好敵手の方が新しく、未来にずっと続いていることも。
フルゴールたちが信奉する神々は、雷によって姿を隠した。長く、淀みを溜め込むほどの時間を。だからフルゴールを裏切った同胞は、隠れた神々に絶望していた。
帰ってくるかも分からない神に、全面の信頼を置けるはずもない。道理を知るフルゴールは、仲間への絶望と同時に、信仰の脆さと報われなさを知ったのだ。
だが、目の前の戦士たちはどうか。赤いサーコートの戦士たちは、亡き主に戦いを捧げることを叫んでいる。少し小さな三名の戦士は、神を必要とせず芯を持ち。小さな丸い存在は今、己の内に神を顕現させた。
神との向き合い方は、時代と共に変わっていく。
ならばずっと古いままで止まった己は、これまで通り信仰を絶やさず、後人を想おう。そうフルゴールは誓った。
神々の騎士たちと、赤獅子含む夜明けを望む戦士たちは、聖光と炎雷をぶつけあう。両者数の差はあれど互角である。しかし、均衡は徐々に崩れていく。小壺旅人の内から鈍く輝く陽光が、癒やし続けていることも要因の一つであっただろう。
それ以外。想いはどちらも強く、力も申し分ないほどに上澄みであった。だが、フルゴールの意図を察した霊体たちは、相手を殺すための術ではなく、演武のように振舞った。
光の大槍を突出したり、聖なる祈りを力に変えていくのはそのままに、卑怯な手だけを必ずしないようにした。そうすると、全力で技を見せ合ってから、一体ずつ撃破されていく。
消滅する寸前、神々の騎士達はフルゴールを称えた。よくぞ信じ続けたと、重く真剣な面持ちで。
フルゴールはかつての仲間たちを見送りながら、戦闘を続ける。やがて最後の霊体、フルゴールと同じく前衛を張った同胞が消えたとき、人馬の英雄は空を駆けた。
優雅に駆けた彼は、上空にて、戦士たちに向け光の太矢を番える。三日月のような金色が浮かび、フルゴールは己の限界まで弓を引絞る。
赤獅子騎士たちは大弓を取り出し、鉄の目も彼らに倣った。聖なる光矢と、重力と嵐が混じり合う矢たち。それらは交差し、光矢が地上に来る前フルゴールへとぶつけられた。
フルゴールは、ふわりと四つ脚を灰に降ろす。そして粒子を体から舞わせながら、戻ってきた左腕を天に掲げた。剣を握った右腕はゆっくりと力を失い、巨大な武具だけを灰の上に突き立てていく。
聖戦は終わり、人馬は神々に殉じた。最期に己の生きた証を、戦士たちへ刻み付けて。
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もはや微弱になった夜の気配が、夜渡りたちの手に掴まれた。復讐者は守護者から頼まれていた、夜の力が混ざる刃片を、鉄の目は聖なる力の込められた剣をそれぞれ手に入れる。
戦いの終わりには、夜の王を屠るために戦う復讐者でさえ、清々したような表情はしていない。戦士たちは皆、『夜の王』ではなくフルゴールに敬意を表したのだ。
鉄の目は、赤獅子の勝鬨を聞きながら、小壺旅人を見つめた。この幼き壺はいつも、血肉沸き立つ戦いをくれる。まるで、各々の望みを理解しているかのように。
フルゴールが遺した、強い祝福を帯びた幅広剣を触り、柄をぐっと握った。熱に浮かされ、柄にもないことを彼は思う。
彼の後見人は手紙で書き、夢想した。施設の申し子たちの定め、それを夜の力によって覆すことを。
後見人に鉄の目は心中で応える。それは不可能ではない。この円卓で望めば、望みは叶うと。
もはや彼は薄暗い殺しではなく、陽光の温かさと闘争を望んでいた。
聖なる人馬騎士の剣
神々の騎士、フルゴールが遺した力
夜を克服し、望む聖戦を遂げた騎士の剣
猛き戦士は、いつの世も現れる
己を信じることこそ、英雄を英雄たらしめるのだと
初めから武器として装備でき
鉄の目が装備する場合、光弓へと変形する
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小壺旅人
【アーツ】白夜
敵の『夜の蝕み』を吸収する効果に加え、
周囲の味方を含め、一定時間HPをとても大きく回復し続けます。