ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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異なる世界

 濃霧から現れた兵士たちは、有無も言わせず僕らに斬りかかる。僕は右腕で振り下ろされた大斧の柄を押さえ、相対する兵士たちの精神状態を理解する。彼らは虚ろであった。

 

 兵士たちに視線を向けていた追跡者は、気がつけば僕の横から消えていた。いや消えたと思うほど、一瞬の内に遠くへ跳んでいたのだ。

 僕は、追跡者の左腕から伸ばされた鉤爪が戻るのを見た。杭を地面に突き立てて、高速移動をしたということだろう。凄まじい機動力だ。

 

 

「すごいな…!僕も力を示さなくちゃ。」

 

 

 正気でなく、倒すしか現状を打破する方法がないならば、戦うまでだ。僕は背負い鞄から素早く、武具を取り出す。厚手の革に鉄鋲を埋め込んだ、拳を補強する武器セスタスだ。

 手にそれを装着し、ぐっと拳を強く握る。次に両腕を正面で交差させ、壺の身に気合いを入れた。

 

 

「同胞と、我が拳、まだ見ぬ黄金の太陽に、この戦いを捧げん!」

 

 

 そして僕は、この壺生の中で見出した誓いを諳んじ、地面を駆けた。

 僕のいた狭間の地には輝く月のみがあれど、僕は太陽の熱を知っている。偉大で全てを抱擁する陽光。伝承と御伽噺にしか存在が無くとも、確かに僕の内にその温かさはある。

 

 

 追跡者がケトルを被った兵士たちに剣を振るのを確認し、遠くから矢を放つ流刑兵の方へと向かう。僕の大きさは大抵の人より小さく、戦法も懐に潜る形になる。だからこそ奇襲をかけるのは難しくないし、防御の下を叩くことも可能だ。

 僕は拳を限界まで固く握り、流刑兵の顎を狙ってアッパーを仕掛ける。遠くばかり視認していた兵には僕の一撃は防ぎ得ぬものであったようで、大きくのけ反った。

 兵が怯み、出来た隙を僕は見逃さず、体勢を立て直される前に素早く背後へ回り込む。そして僕は両拳を重ねて脚のバネで跳び、後頭部を強かに殴りつけた。

 

 最後にうつ伏せになった兵の胸部を、大きく振りかぶった拳で貫く。その瞬間手ごたえはあれど、次第に薄れていった。流刑兵の一人はぴくりと動いた後、霧のように消える。

 まずは一人。僕は兵士たちの立つ場所を素早く見定め、次の闘争へ赴く。

 

――――――――――

 

 追跡者は雑兵を切りながら、小さく感嘆の声をあげる。彼の視界の隅で、同行した小さな壺が動き回り、鮮やかに敵を掃討しているからだ。

 兵と比べて、二回りも三回りも小さい体躯であるのに固く、俊敏である。足腰や急所に向かって迷いなく放たれる拳は重く、追跡者のペースよりは遅くとも、出現した兵の数は短時間で減っている。彼の観察眼からして、失地騎士を相手取っても、さほど苦戦しているようには見えない。

 

 一人で戦うときよりも随分楽だと、彼は思った。追跡者は、守りの固いもう一方の失地騎士の後ろを取り、背部を板金ごと叩き切る。

 

 

 その後も追跡者は、卓越した剣術とクローショットとを織り交ぜ、掃討を続ける。襲い掛かってくる兵の数は減っていき、やがていなくなった。

 準備に時間がかかる、正に切り札と呼べる鉄杭の一撃を温存できたことに小さな喜びを感じながら、彼は近づいてくる小壺を迎える。

 

 

「…手練れだな。」

「お兄ちゃんこそ、すごい戦士だね!敵が出て来なくなったし、これで終わりなのかな…?」

「いや。…ここからだ。」

 

 

 追跡者が声をかけると、小壺は両掌を上に掲げるようにして褒め返した。

 次に彼は小壺の疑問に、否と返す。広く、更に濃い霧が地上に降り注いだからだ。現れたのは、幾度か相対したことのある巨体であった。

 追跡者が距離を取りながら構えたとき、夜に飲みこまれたそれに対し、小さな壺が強く反応する。ぷるぷると壺を揺らし、幼い声でぽつりとこぼした。

 

 

「…ゴドリック様?」

 

 

 複数の腕が生えた異形の老人『接ぎ木の君主』という名称のみが分かるそれは、叫ぶ。狂気的に、獣のごとく。

 追跡者は起こされる突風を小盾で防ぎながら、剣先を接ぎ木の君主へ向けた。夜の王を討つための前座として、目の前の怪物を殺す。

 

――――――――――

 

 僕は目の前の歪な姿をした存在に、自身の認知を疑う。条件を整理し、どれだけまじまじと観察しても、彼はデミゴッドの一人、ゴドリックその人であると僕の直感が告げている。

 巨躯には接ぎ木という、他者から体の一部分を取り、接いで力とする技術が使われている。それに手に持っているのは大斧、黄金の一族であることを示す象徴だ。

 

 他の黄金の一族ではないかとも思った。僕が知っている分だと、かつて英雄クリストフによって封牢に閉じ込められていたゴドフロアも、同じように接ぎ木を行っていたはずだ。だが僕の記憶にあるゴドリックの顔と一致しているのだ。

 

 若干呆けていると、目の前で大斧がぶんと風を切る。そして僕の横を追跡者が走る。数舜彼から向けられた視線は、困惑の色を含んでいた。

 

 

「違う…。僕の知っているゴドリック様じゃないみたいだ。」

 

 

 接ぎ木に狂ったゴドリックは、確かに多くから恨まれた。最終的に彼はエルデの王に倒され、彼が根城としたストームヴィル城は褪せ人の戦士ネフェリ・ルーが統治することになった。

 しかし狂おうと、彼の中には僅かな情もあった。土地を失った兵や騎士を受け入れ、仕えさせたのだ。その過程でゴドリックは、僕たち生き壺も丁寧に扱った。

 確かに生き壺を匿った理由に、接ぎ木の技術を高めるためという打算はあっただろう。しかし最低限、君主としての威厳は、ずっと残っていた。狂気から解放されたその後は言うまでもない。

 

 だが、目の前のゴドリックはどうだ。もはや、王族の成れの果て、『王族の幽鬼』と変わらない。

 第六感が同じ存在だといっていても、その在り方は全くの別物だ。

 

 僕は様子見を止め、暴風を避けながら突貫する。接ぎ木の状態は過去の記憶にある通りで、万全と言ってもいいだろう。デミゴッドに敵うかは分からないが、この存在を愚弄された彼は鎮めなくてはならない。

 それに僕は強く思った。僕の知らない何かであっても、デミゴッド相手に拳を振るえるのは名誉なことだと。

 

 

「…ゴドリック様、覚悟!」

 

 

 

 ゴドリックは狂った笑い声を上げながら、ぐるりと回転して大斧で地面を叩く。その度に土が抉れ、衝撃波が舞う。僕は両腕を使った跳躍でそれを避け、ゴドリックの頭部に張りつく。目の焦点はあっておらず、ただ暴れ回るだけだ。

 見ていられない。僕は拳を頭部にぶつけ、接がれた腕で引き剝がされる前に着地する。

 

 

「お兄ちゃん、僕が引き付けるから、お願い!」

 

 

 獣のような叫びを上げたゴドリックは、本能的な怒りのまま僕を追ってくる。僕は何とか回避を挟みながら、少し離れた場所に立つ追跡者へ声を上げる。僕の意図は正しく伝わったようで彼は頷き、左手にも大剣を持って、二刀での剣技をゴドリックにぶつけた。

 

 ゴドリックの一撃一撃は流石に重く、回避をしていてもキズは増えていく。深いヒビがつけられる度、火山で鍛えた僕の体も悲鳴を上げるのが分かる。

 

 僕はぼろぼろになる背負い鞄を放り、ある道具を取り出す。それは調香瓶だ。

 旅の中で得た手先の技術であっても、僕は有効活用する。瓶の蓋を開け、僕の割れた場所に粒子を流し込む。『鉄壺の香薬』。僕たち壺を素材とし、使用者の全身を鉄とする術だ。生き壺のことは僕たちが最もよく知っている。同胞を割らず、同じ効果を得ることは難しくとも不可能ではない。

 鉄となった僕の体は強力な一撃を防ぎ、反撃の狼煙とする。

 

 

 硬いこと、すなわち攻撃力が上がったということだ。僕は攻撃の衝撃を殺すことは出来ずとも、何とかゴドリックの懐へと潜り込む。腹部を打ち、体を回転させることで、微細にでも傷口を広げていく。

 追跡者は大きく踏み込み、切り上げる。態勢を崩したゴドリックに、すかさず追撃をたたみかけた。

 

 がこんと音がし、次の瞬間追跡者の左腕から炎が上がる。重く深く抉る鉄杭が発射されたのだ。

 あがった炎はゴドリックの周囲を延焼させ、継続的に損傷を拡大させていく。

 

 

 ゴドリックが苦しみ始めた。僕は再びゴドリックの姿に驚愕する。彼の背部からは、光る坩堝の諸相が顕現していたからだ。

 この似姿は、坩堝さえも接いだのか。僕は表面に打撃を受けながらも、その光る尾が広範囲を薙ぎ払うのを何とか避け、追跡者の近くに合流する。

 

 

「お兄ちゃん、どう対処する?」

「…俺が先陣を切る。尾が消えるまで、これで体力を戻しておくといい。」

 

 

 追跡者は地面に温かい石を置き、再び突撃する。確かにこの石は、活力を取り戻させてくれる。

 彼の頼もしさに胸を焦がしながら、僕はセスタスを素早く調整し、捨て置かれた鞄を回収して今有効的なものを探す。

 戦闘に使えそうなもので、残っていたのは火脂と火炎壺二つだ。僕はそれをセスタスに付与し、ゴドリックに火炎壺を投擲した後、坩堝の尾による振り下ろしを前転で回避した。

 

 

「…もう少しだ!」

 

 

 ゴドリックは追跡者の猛攻によって消耗しており、動きも遅くなっている。僕はもう一つの火炎壺を放り、全力で拳を頭部に命中させる。

 

 それとほぼ同時に、追跡者の鉤爪がゴドリックを引き寄せた。重低音が森に響き渡り、二度目の鉄杭が叩きつけられる。

 

 接ぎ木の君主は弱弱しく声を上げながら、膝から崩れ落ち、粒子を出しながら消えていった。粒子はまるで夜に融けるように、すぐさま見えなくなった。

 

 

 死闘は終わる。

 僕はヒビばかりが入った体を押さえながら、追跡者に壺を傾けた。早く体を直さないと、割れてしまいそうだ。

 彼はじっと僕を見た後、上空を眺める。半透明な樹木の根はいつの間にか姿を消していた。雨はまだ変わらず降り注いでいる。

 追跡者は呟くように言った。

 

 

「…途切れたか。」

「お兄ちゃんの敵はもういなくなったの?」

「いや。だが、これ以上は手掛かりが無くなった。」

 

 

 彼は続けて言う。一度戻らなくては、導きは再び姿を現さないと。

 雨は降り続け、現状はリムベルドを探索する手段がない。僕は追跡者の言葉を待った。

 

 

「…当てがないならば、お前も来るといい。その戦いぶりは貴重だ。」

「ありがとう、お兄ちゃん!このままだと割れちゃいそうで不安だったんだ。」

 

 

 渡りに船だ。僕は彼についていく旨を伝える。

 追跡者は小さく声を漏らした後、森の中心へと進む。そこには靄のような何かがあった。

 

 彼は僕を手招き、近付くように言う。僕はそれに従い、その不思議な感覚に身を任せた。

 




小壺旅人

ある可能性を辿った狭間の地から迷い込んだ、旅する生き壺
黄金樹や月を敬うと共に、知らぬ太陽を信奉している

防御力、身のこなしに優れている
特にHP、スタミナ、筋力の能力値が成長しやすく
鍛石を使えば各種能力値、カット率も上昇する


得意武器:拳
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