ジェネリック小壺 in リムベルド 作:棘棘生命(一旦再考中)
「こんにちは!連なるものって、僕たちのこと?」
「…とぼけても無駄だ。お前と、夜の識の新生。お前たちから強い夜の気配を感じるぞ。」
「なるほど、そういうことなんだ…。…お姉さん、一旦お話ししようよ!僕もこの子も、攻撃するつもりはないから!」
僕は右掌で敵意が無いことを表し、もう片方で太陽の蛾も宥める。翅を広げた彼女から漂ってくる波動は、次第に落ち着きを取り戻していく。
隠者は、目の前の女性を『輪の魔女』と言った。かじりやさんと称する魔法生物に影を食われ、戦場で命を落としたはずの旧い友だと。
僕は隠者の驚きは最もであると思ったが、同時に旧友さえ手にかけた獣を危険視していないことに違和感を覚えた。その後、隠者が続けた言葉で一応の理解をする。
「あの子はただ、怯えていただけだった…。でもそれに、応えてあげられなかったの。」
「お姉ちゃんはすごいね…。僕だったら、そんなにも愛を深く持てないよ。」
隠者にとって、『かじりやさん』とは自らが生み出した子どもだ。それが彼女が人為的に作ったものであったとしても。旧友を奪った事へ憤りや憎しみを抱くより、自責の念を想ったのだろう。
確かに僕も、家族とも呼べる生き壺の同胞は大切だ。だがもし同胞が狂い、他の友や仲間を殺そうとすれば、僕は覚悟を決めて倒す。出会いは一期一会だからこそ、道半ば心を一つにした仲間を大切にする。それが旅する者としての僕の在り方だ。
人それぞれ大切にするものの優先順位は違う。僕は考えを真っ新にすると、腕を組んで眉をしかめている輪の魔女の方を向いた。
「輪の魔女さん。貴女は夜の王側についているんだね。やっぱり貴女にも、夜の中で為したいことがあるの?」
「幼い声に反して、変に落ち着いているな…。そう、当たり前のことだ。我は王の歩みを支えねばならぬ。夜の王の慈悲により、再び命を得たのだから。」
輪の魔女は朗々と語り出す。自身の今の状態について。魔女は、かじりやさんの一部となっている。幼子の想いが流れ込み、隠者に対する私怨よりも、夜を持続させることに思考が向いていると。
聞く限り、幼子は、夜の王の一体となっている。それは大いなる脅威に適応し、今でも影を喰らっている。
僕はもやもやとした気分になった。彼女はその幼子に殺されたというのに、間接的にではあるが味方をしようとしている。だからといって、幼い獣に純然な愛を注いでいるわけでもなさそうだ。
輪の魔女の目的は果たして、彼女自身の想いなのか。混ざっているから、想いが歪められているのではないだろうか。
僕は、静かに聞いている隠者を視界に入れた後、輪の魔女へ考えを話す。まとまっていないけれど、僕の今為そうと思っていることを。
「貴女はとっても義理堅いんだね。…でも僕は、今の夜じゃ苦しむ人が増える一方だと思ってる。だからといって、夜をただ終わらせるのはいけないと思うんだ。」
「日和見主義というわけか。」
「ううん。きっと、選択肢は二つじゃないんだ。僕はそれを見つけ出す。輪の魔女さん、貴女もかじりやさんの一部じゃなくて、一人の魔法使いに戻してみせるよ。」
「戯言を…。」
輪の魔女は、更に怒りを込めた瞳で僕を睨む。だが彼女の怒りは空虚だ。自身が死したことへの憎悪を、隠者にぶつけるしかできない。きっと、獣に齧られて死す前の彼女は、隠者と同じように偉大な魔女であったはずだ。亡霊のごとく、夜に縋らせていては彼女の心は満たされない。
「かつての同志よ、手を引け。お前に少しでも、行いを悔いる心があるのならばな。」
最後、輪の魔女は隠者に向かって吐き捨てるように言い、姿を消した。彼女が模した召使人形は、地下廟にいる。輪の魔女は人形を壊さず、安置させた。僕はそれだけで、彼女の心に悪はないと思った。
その後僕は、隠者と共に召使人形を介抱し、不思議な物を見た。かつて狭間の地に潜んでいた大いなる存在に近く、それでいて僕にとって全くの未知。幼子は輪の魔女を使い、母である隠者へ物を届けたのだ。
そのときの隠者の顔は、大きな帽子の影で見えなかった。
――――――――――
小壺旅人と隠者が秘密の内で、夜の王に続く者と会合してしばらく。円卓に、またしても来訪する者があった。
亡霊の商人、自身をまともな命ではないと卑下する男である。
円卓の見回りを日課としている鳥人騎士は、彼を最初に見つけ、警戒しながらも円卓へ通した。その後訓練所の近く、姿見が置かれた部屋の隅で、亡霊の商人は商いを始めようとしていた。
鳥人の鋭い目が、部屋の入口から覗く。それに気づいた商人は卑屈に笑いながらも、守護者に頭を下げる。
「おお、救世主様!ここまで連れてきてくだすって、ありがとうございやす!あっしはしがない商人に過ぎやせんが、中々役立ちますぜ!」
「ふむ…。」
守護者は、商人の様子から悪意はないことを読み取る。少々怪しい部分はあるが、それも個性の一つだと守護者は考えることにした。
守護者の頭には、ここ最近の円卓についてが浮かぶ。一気に戦士が増え、騒がしくなったこの場所。守護者は加入した多くに対して様子を伺ったが、疑いは瞬く間に晴れることになった。仲間がリムベルドでの戦で絆を深めたというのだから。
群れの仲間は信用している。また話せば、加入した彼らは竹を割ったような性格であり、群れを守る者として、戦士として参考になる部分が多々あった。
考えている内に、守護者は気づいた。やってきた彼らは皆、小壺旅人と接点があることを。狼や大きめの綺麗な蟲も、幼い壺に付き従っている。あの小さな体に、どれほどの求心力が秘められているのか。また小壺旅人に学ぶことができたと、守護者は目を閉じ一人頷いた。
「――へえ!君は、元々色んなところで珍品を探してたんだね。…あっ鷹のお兄ちゃん!見回りお疲れ様!そちらの霊体さんは?」
「壺殿。壺の商人殿も一緒か。…丁度いい。こちらは先ほど来訪した商い人だ。」
守護者は声のした方を向き、床を見る。大きな鞄を背負った小壺旅人と、メダルを正面に垂らした小壺商人が並んでいた。小壺旅人は、高速で描かれる小壺商人の絵を正確に読み取り、交流を図っていたようだ。
商いを営む者同士交流できるかもしれないと、守護者は亡霊の商人を紹介する。亡霊の商人はぺこぺこと頭を下げ、笑う。
「へへへ…以後お見知りおきを。そうだ…あっしからお近づきの印に、こちらをお納めくだせえ!効果はホンモノでさあ!」
取り繕った後、亡霊の商人が取り出したのはボロ布であった。商人はこれをお守りだと言い、守護者と二つの小壺へ押し付けようとする。守護者はじっとその布を見、一瞬躊躇したが、見た目で判断するものではないとして、手を差し出した。
「…受け取ろう。」
「へへへへ…気に入っていただければ、何よりで。他の皆様にもお配りさせていただきやすよ!」
「…商人さん、ありがとう!」
すると小壺旅人は慌てたように手を伸ばし、守護者よりも早くお守りを手に取った。隣の小壺商人も落ち着かない様子で、お守りを確認している。
途端に、守護者の羽が逆立つ。一つだけならば何も感じなかった布切れから、異様な雰囲気を感じ取ったからだ。そして彼は、円卓の大祝福近くまで駆け足でいく小壺たちの後を追った。
――――――――――
僕は隠者のことから立て続けに起こる危機に、中身をバクバクと振動させていた。この大量のお守りから、明らかに濃い夜が漂っている。歪められた想いが力を為しているように。
ついてきてくれた守護者と小壺商人に、僕は見解を話す。目利きの小壺商人は、僕と意見を同じくした。守護者は振り返り、殺気を漏らしている。今にも霊体の商人へ切りかかりに行きそうだ。
真面目で誠実な守護者にもこのような一面があるのかと、僕は驚いた。
「お兄ちゃん!あの商人さんは、悪気があったわけじゃないから…許してあげて。」
「だが、危険因子は排除せねば。」
「危険になんかならないよ。だって夜渡りさんたちは強いもの!でも、この布には触れないでおいて。僕が話してくる!」
「…承知した。私は先生を呼んでこよう。」
守護者の腕から力が抜ける。彼の仲間を想う気持ちは人一倍強い。だからこそ怒りにかられたのだろうが、その激しささえ彼は制御できる。僕は守護者に尊敬の念を強めると、もう一度霊体の商人の元へ向かう。お守りを一つ手に取り、どこでこの力を宿したか聞き出すために。
霊体の商人は変わらず、恭しく頭を下げてくる。僕はこのお守りについて褒めながら、遠回しに聞く。これだけ効力のあるお守りは、何かしらの術に秀でた者しか作れないだろうと。
僕は気づいた。この布には強い感情が乗せられているほかに、僕の知る気配も込められていることを。
すると商人は引きつったように笑い、嬉しそうに話す。
「実はあっしは、ここに来る前から、救世主様方のことを知っていやした。それで何か助けになれないかと!そんなあっしの悩みを、叶えてくれた方がいらしたんでさあ!」
「…それって、黒い布を被っている人?」
「なっ…。へへへ…救世主様もお知りになられるんで…?」
商人は狼狽したように、小さな声で聞き返してきた。僕は壺を傾け、肯定する。
やはり、彼からは多くを聞き出さなくてはならない。再び影を見せた魔物に近づくため、僕は言葉を紡いだ。