ジェネリック小壺 in リムベルド 作:棘棘生命(一旦再考中)
リムベルドに着いてまず行うのは、外縁の探索だ。これまでの探索から、霊樹はリムベルドの中心に出現しやすいと分かっているからである。また、今回は教会が端に見られる。尚更雨が迫る前に、外側を探索し終えなくてはならない。追跡者と無頼漢は大雑把に目的地を示した後、走り出した。
夜に呑まれた狼や亜人たちがこちらに攻撃を仕掛けてきたが、僕が連れてきた『太陽の蛾』の霊体が橙の光線で迎撃する。然程力があるわけでもない敵はすぐ倒れ、その場に夜の靄を残して消えていく。
無頼漢が宙を見上げて言い、追跡者は彼の言葉に同調した。
「かゆい所に手が届く奴だ!俺たちもうかうかしてられねえな、兄ちゃん。」
「ああ。…聖杯瓶を取り終えたら、中央に行く。これでは体が鈍る。」
「がははっ、違いねえ!」
追跡者はほぼ剣を振るっていない現状に、焦りをにじませている様子であった。
太陽の蛾は、遠距離からの殲滅力の他にも強みがある。グノスターと同じように、ルーンを吸収するのに長けているのだ。彼女が受け継いだ『知の集約』は、ただ戦闘をしているだけで、膨大なルーンを僕たちに与える。しかもこの娘の攻撃でもルーンが増えていくのだから脅威的だ。追跡者が焦るのも道理である。
早くも中央の砦へと走る。道中行く手を阻むのは黄金カバと、僕の故郷で見かけたことのある巨大な赤狼である。赤狼は、魔術を使うことができるほどに知力が高い。しかしその知性も今では、こちらを害することにしか使われない。
僕が力を使おうと同じことだ。多くは存在ごと靄になってしまう。僕は夜を吸収していく内に気づいた。夜に呑まれ過ぎれば存在が癒着してしまうのだと。剝がすには、確固たる意志が当人から湧き上がらねばならないのである。
僕は追跡者と無頼漢の手助けをしながら、夜の靄を回収していく。大気へ溶け込む前に中に詰めていくと、今までより鮮明な記憶の断片が見える。決まって彼らは迫る夜を恐れ、擦り減りながら苦しみ、夜の一部となっていた。
中央砦へと辿り着く。この場所は不思議だ。ほとんどの場合、建物の構造も位置も変わらないのだから。まるでリムベルドにおける要石のように。
今回は失地騎士と流刑兵たちが歩き回っており、僕たちは先に砦の地下から見ておくことにした。松明で照らされた薄暗い部屋には、『鉄茨のエレメール』の分け身が堂々たる立ち姿で構えていた。各地に現れる彼の分け身は、意思がない霊体だというのに固く、どんな攻撃にも怯まない。刻まれた畏怖に、僕は壺を震わせた。
「…鈴玉狩りか。」
「お二人とも、どうする?戦うなら、援護するよ…!」
「体も仕上がってきたところだ、問題ねえ!」
「…ならば、倒すとしよう。小壺も頼んだ。」
追跡者はそう言い残すと鉤爪を投射し、部屋の奥へ一気に突き進んだ。無頼漢も彼に続き、低空飛行をする太陽の蛾と僕が最後に入る。
エレメールの分け身は赤く兜のスリットを光らせ、大剣から斬撃を自由自在に飛ばす。その刃は太陽の蛾の羽にも届き得た。墜落しかける太陽の蛾に、エレメールが追撃しようとし、無頼漢と僕がそれを防いだ。僕は高揚の香りを撒きながら滑り込む。そして火炎壺を複数近距離でぶつけることで、剣筋の勢いを殺した。
無頼漢はエレメールの大剣に吹き飛ばされるもすぐ立ち、黄金樹の枯れ枝である『グレートクラブ』と、自身の大斧を横に薙ぐ。重い連撃こそが、エレメールの分け身に膝をつかせる隙を作り出すのだ。
数十もの数、互いの武器をぶつけ合う。閉所なのも相まって、戦いは息を呑むような緊迫感を生んでいる。
追跡者が二振りの大剣を、鈴玉狩りの脳天に叩き込んだ。それと同時に、ふらりと飛ぶ太陽の蛾が凝集した橙を落とし、地下を光で埋め尽くす。
執念の攻撃は形となり、ついに鈴玉狩りの態勢が崩れる。僕たちはその間に集中攻撃をしかけ、そのまま鈴玉狩りは粒子となって消え去った。
「…次だ。夜の王を討つには、幾ら力を得ても良い。」
「こいつをこんなに早く倒せるとはな!おうよ、どんどんいくぜ!」
二人は疲れを見せず、英雄らしさを僕に見せてくれた。僕は想わず掌を叩いて喜んだ。忘れず、太陽の蛾の損傷を癒やし感謝も伝える。彼女は触角をぴくぴくと動かし、どこか得意げな思念を返してくる。
潜在していた力と夜の靄を得、僕たちは先を進む。追跡者と無頼漢はこの戦いに確かな手ごたえを感じているようであった。
中央砦で失地騎士と闘いを繰り広げていれば、リムベルドに夜の雨が降る。霊樹の元に向かうと、現れたのは鼠や大蟹、腐った亡者たちであった。それらを倒せば、大きな靄から『ミミズ顔』が死を撒き散らしながら遅れて出現する。僕や太陽の蛾に死の霧は効かない。そのため、夜渡りたちが苔薬を食べて大事を取っている間にも、拳をぶつけていった。
二日目に入る頃には、僕たちの力は最大限まで強化されていた。僕の内なる陽光も、個の探索で受け継いだ記憶の影響か輝きを増しているように感じる。加えて潜在する力を得ることと、武具を揃えることに注力し、僕たちは次の日を過ごした。
長くも短いリムベルドの探索は、もう一度夜が訪れたところで終わりへと辿り着く。大きな靄から現れたのは、重力を操る、宙からの来訪者『降る星の成獣』であった。皮膚は硬質であったが、無頼漢の打撃や追跡者の鉄杭が砕いていった。結果、僕たちはエレメールを倒すよりも余力を残して獣を討つことができた。
霊樹から液体が垂れ、雨の降りしきる暗がりの中で、正気を失った人々が苦しみ呻く。リムベルドを内包する夜は広大で、全てを弔うことはできない。僕は祈りを捧げてから、液体へ触れた。
次こそは彼らを救ってみせる。その断固たる誓いと共に。
――――――――――
夜渡りの戦士の一人、追跡者は、空間の異様さにいち早く気がついた。白化した神授塔には、青い霊液が溜まっているはずである。しかし今回は、青さを失っている。液体であるのに、力を失った屍のごとく枯れた感覚が漂う。
この状況を作り出したものが何か、追跡者は直感的に理解する。出口の真反対に佇む、不気味な黒衣が理由であると。続いて気づいた小壺旅人が、黒衣に向かってぽつりと呟く。
「…悪魔さんだ。どうしてここに…。」
「小壺と、あの霊体が言っていた魔物か。」
「へえ、あいつがな。…ここで戦うことになるとは思わなかったぜ。」
追跡者は納めていた剣の柄を右手で掴み、無頼漢は両拳をぶつけて丸々とした鎧を鳴らす。太陽の蛾も迎撃の準備をしたところで、小壺旅人が彼らを制止する。
「ちょっと待って!少し僕にお話しさせて!」
「そうか。…この前の出撃で、お前たちは不利を押し付けられたと聞いた。俺も行く。気をつけろよ。」
「ありがとう!お兄ちゃんが一緒に来てくれると心強いよ!おじちゃんも…君もお願い。」
「おう。荒事になったら任せてくれよ!」
無頼漢と太陽の蛾は遠くで様子見をし、二名は黒衣の悪魔へ言葉をかける。悪魔は、商人としての皮は擬態となっていないというのに態度を崩すことはなく、ただただ選択を迫る。それは、更なる力の提示。交換するものは夜渡りたちが、最大限まで力を得ても尚大量に持っているルーンであった。
『選択せよ』
「…僕は、悪魔さんがここにいる理由を聞きたいな。ルーンはあげるね。」
「対価とも呼べないほど、こちらに利がありすぎる…。夜の王、お前は何を考えている。」
『決まりだ』
二名の問いかけにより取引は成立し、相応のルーンが取られる。悪魔はやけに頭に響く思念を飛ばし、答えた。
自身がこの場所で力を提示する理由は、公平性を保つためであると。また追跡者には、夜を渡る者たちの戦いさえも公平であるべきだと考えている旨を。
追跡者にとっては要領を得なかったが、小壺旅人は納得していた。狂気的なまでに悪魔は平等を欲しているのを、小壺は以前の取引にて知っているからだ。
追跡者は、目の前の悪魔の底知れなさを感じていた。つかみどころがなく、例え三日目の夜に相対しても倒しきれるか分からない。分身を切ったところで、本体に何ら影響を及ぼせないと追跡者は感じ取り、剣を再び鞘に納めた。
「悪魔さん、もう一度聞かせて。ここで力を取引するってことは、あの扉の先にいる王はそれだけ強いってことだよね?」
悪魔は頷き、答えた分だけルーンを取っていく。小壺旅人は唸ったあと、提示された選択肢に悩み始めた。まるでこの夜の王を脅威だと考えていないかのように。
黒衣からの威圧感は既にない。追跡者は腕を組み、警戒しながらも無頼漢を呼ぶ。一体でも多く王を倒せるならば、使えるものは何でも使う。必ず、夜明けを迎えるために。
選択肢は三つだけでなく多くあり、対価として取るルーンも膨大である。小壺旅人は白い石の商人から、必要な物を交換した後、一時的な力を選んだ。『協力者を得る』という彼らしい力を。
追跡者は生命力を増強したが、無頼漢は船長としての慎重さを発揮して、何も取引をすることは無かった。
敵対しているはずの王の一体が夜渡りの利益になるよう動くなど、裏があるに決まっている。三名は皆、悪魔の隠された意図に思考を巡らせてはいたが、それぞれの在り方から別の選択をしたのである。
そして三名の戦士は、扉を押し世界を跨ぐ。
広がる白き灰は同じ。しかしそこは、深き海の底であった。やってきた巨大な古生物が、戦士の前で泳ぐ。待ちわびたとばかりにくるりと一回転し、眠りをばら撒く。
その王の名は、『深海の夜、マリス』。全身は透き通り、幻想を演出する。しかし蠢く触手と、それの頭部から感じられる異様さが、戦士たちの意識を凍えさせていく。
戦い始めて間もなく。マリスの核から、ぎょろりとした瞳が生える。それだけでない。浮かぶ生命は、灰に二本脚を下ろすのだ。それは変容していき、怪物となる。
マリスは目を細め、変わらず愉しむ。融け合う命が古生物の望む方向へと歪ませ、一つの可能性を示す。夜の中で生まれる命の恐ろしさ、その兆しについてを。
やがて夜の内から、戦士がやってくる。
溶け合ったあまねく命の一部、それが一時表層へと姿を現す。
夜の先触れ…
瞳と脚が生えた、不定形の怪物
戦うたびに様相は変化し、己が内に溶けた生命を顕現させる
それは孤独のみを自覚し、内なる意志に気がつかなかった
呼応するように、嵐だけが海を断つだろう
(マリスの特殊形態)