ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

45 / 50
太陽あれ

 紫の小爆発が続く深海にて。夜渡りたちは、そよ風を感じた。それは気のせいではなく、段々と風は強くなり、海を呑む渦のごとく寄り集まっていく。目の前で吹き荒れ始め、風は暴風となる。

 また夜の王が為す攻撃か。追跡者と無頼漢の二人は警戒していたが、すぐにその風がマリスの光線を弾いていることに気がついた。また彼らが知らぬ、戦士の雄叫びも。

 

 

『うおおおおおお!カタリナ騎士ジークバルト、助太刀するぞ!』

「よお…良い風が、舞い込んできたかもしれねえな…!」

「ああ。…俺たちも行くぞ!」

 

 

 回避しながらも彼らは互いの距離を縮め、示し合わせる。そして進む。うるさいほどに大気を唸らせる力の元へ。

 濁った水面に、閃光が走る。暴風はついに、嵐となっていた。

 

 嵐の刃が深海を両断する。刃は兆したちを撃ち落とし、一筋の光を差しこませた。

 マリスへ二つ目の感情を与える。大樹を倒すことのできる力。またはマリスが溶け込ませてしまった、空を裂く剣が。それは悦楽だけでなく、畏怖を覚えたのである。

 

 

――――――――――

 

 英雄ジークバルトのすさまじい雄叫びを聞き、体の芯から湧き上がる想いがあった。強大な敵にも臆せず挑む胆力、共に戦う者を奮い立たせる熱き闘志。

 あの人が語った物語のまま、彼は目の前で僕たちに力を貸してくれている。そしてジークバルトに並び立つ、物語の終わりを見届けた最後の灰の英雄も。

 

 僕の中の核が、ばくばくと激しく脈打つ。言葉が出て来ず、体の力も抜けそうだ。物語の存在だと思っていても、ずっと憧れ続けていた彼らに会うことができるなど、夢の中にいるようだ。

 彼らの存在が、初心を忘れかけていた僕に、活を入れてくれた。

 

 

 僕は英雄になりたい。戦士としてただ強くなるのではなく、多くを助けられる旅の英雄になるんだと誓った。しかしそれは、旅の目的の一つに過ぎない。

 知りたいと思ったのだ。この世界の広大さを見て、僕たち生き壺の意味を。定められた生でなく、僕自身がどこまで足跡を残せるか試したくなった。

 

 僕は夜を渡る英雄たちや、史実、御伽噺に登場する存在のように、重い使命を背負っていない。だから彼らのような美しい在り方を持つ人に出会ったら、少しでも僕が背負って軽くしたいと思った。物語を終え、その先を彼らが心置きなく生きられるように。

 

 僕をこねた壺師の母は、夜の帳が落ちるたびに話してくれた。僕の中身には、自身のために生涯を使えなかった英雄が入っていて。だからその人の分まで、自由に生きなさいと。

 物心ついてから、その英雄のことを詳しく知って僕は悲しくなった。復讐に身を捧げるしかなかったことも、その英雄自身の心にも。

 

 啜り泣きの半島にある村で育った僕は、雨に慣れ親しんでいた。村に居続けることは停滞となる。涙に例えられる雨から、僕の内にいる英雄を連れ出すこと。そうして少しでも多くの悲しみを無くすこと。その想いが原動力となり、僕の始まりになった。

 

 

「灰の英雄様、ジークバルトさん…。ありがとう。僕も、見ているだけじゃいられない!」

 

 

 僕は祈り、内なる陽光を輝かせる。マリスそっくりな生き物だらけの空に、僕の体から抜けた太陽が浮かぶ。光源は弱くとも、それは灰の地面を照らして、見えなかったものまでを浮き彫りにした。

 確かに力を感じる武器。それは僕が改良し身に着け続けていた、鉄鋲を埋め込んだ武具と同じ形をしていた。

 

 僕は手を伸ばしてそれを拾い上げ、右拳に取り付ける。それだけで僕の拳に、まるで風が宿ったかのような感覚がした。僕は拳に力を込め続ける。するとごうごうと音が鳴り響き、ある瞬間からさらに激しくなった。

 出撃前、追跡者と無頼漢にした御伽噺の一節を思い出す。

 『嵐だけが大樹を倒す』。ジークバルトの古き友、巨人の玉座の前に書き込まれた助言を。

 

 

「嵐の力…。僕も貴方たちみたいに…。」

 

 

 僕は腰を落とした。次に拳を手刀の形とし、勢いよく縦に薙ぐ。すると、凄まじい速さで光刃が飛び、マリスに似た生物の一部を消散させた。

 僕は驚いて掌と前を交互に見てしまった。視界の先で英雄が振り返る。

 

 

『見事だ貴公!…我が剣よ。約束より前ではあるが、応えてくれ!』

『貴公も持っているとは、奇遇だ。』

『なんと、不思議なこともあるものだ…!もう一振りもここにあるとは!』

『…受け継いだ剣だ。その真価も知っている。』

 

 

 二人の英雄の会話を聞いて多幸感に包まれながら、僕は一歩後ろに立つ。もうこの、灰が積もる世界は暗くない。何故なら彼らと、夜渡りの戦士たちが希望の光を示してくれたから。

 無頼漢と追跡者がこちらに向かって走ってきた。顔は見えないが、無頼漢は驚きつつも嬉しそうにしていた。

 

 

「がはは!そっくりな鎧を着た奴がいやがる!」

『お、おお…今度は、同郷の騎士が!驚きで目が回りそうだよ!ウハハハハ!』

「本当にいるんだなあ…!おっしゃあ、やってやろうぜ兄弟!」

 

 

 合流するとすぐに意気投合したのか、英雄ジークバルトと無頼漢は拳をぶつけ合った。カタリナ騎士が並ぶ姿は、見ているだけで中身が熱くなる。英雄同士の会合とは、ここまで笑いがこぼれてしまうものなのか。

 追跡者と灰の英雄が、顔を見合わせた。灰の英雄は彼の鎧のことを知っているようだ。兜に手を当てて、じっと覗き込んでいる。よく見ればスリットの隙間は塞がれているのに、どういうわけか追跡者を視認できているようだ。

 

 

『貴公。突然だが…獅子騎士アルバートの名を知っているか?』

「知らないな。ここにいる小壺ならば、可能性はある。どうだ?」

「僕知ってる!アルバートは大斧使いで、フォローザ獅子騎士団の甲冑を着ているんだ!お兄ちゃんが着ている鎧だよ!」

「そうか。…お前たちは、別世界から来た者たちのようだな。」

『なるほど、貴公が火の宿主か。遠く離れた道を歩んでいるなら、道理だ。だがこの小壺…奇妙な生き物は知っている…。面白い。』

 

 

 興奮して喋りすぎた。慌てて言葉を留めると、灰の英雄が視線を向けてきた。僕に注目するなど畏れ多いことだ。僕は何度も壺を下げ、気にしないように伝えた。

 

 遠くから、英雄たちとは違う視線が刺さる。マリスの核に生えた、大量の瞳であった。不気味なそれに睨みつけられても、もう怖くない。僕は右手に力を込め直し、灰の英雄たちが刀身の折れた大剣を構える姿を視界に入れた。どんどんと風が集まっていくのが見える。

 あれが物語に登場した『ストームルーラー』なのか。僕に目はないが、しっかりと記憶に焼き付けておく。

 

 

「…この嵐が、奴を討つ力になるか。」

「兄ちゃん、坊ちゃん、武器は持ってるみたいだな。見せてやろうぜ、俺たちの風をよ!」

「必ず倒す。浮かんでいる王の分け身全てを、叩き落とすぞ。」

「うん!僕も、やっと力になれるよ!…お兄ちゃん、その剣って?」

 

 

 無頼漢は大斧を横に構え、追跡者は大剣を兜の前に立てる。彼が持つ剣には、螺旋状の棘が入っているようで、刀身からは何をせずとも暴風が感じられる。美しい武器だ。

 僕が尋ねると、追跡者は律儀に答えてくれる。

 

 

「ストームルーラーというようだ。銘だけが知れた。」

「ありがとう、お兄ちゃん!すごいな…。」

 

 

 僕はもはや感嘆の声だけが漏れていた。リムベルドだけでなく別世界の歴史さえ、夜は飲み込んでいる。僕が知っている剣と同じ名前である、この『ストームルーラー』も、伝承を持っているのだろう。それだけの神秘性と迫力が、大剣にはあった。

 そうしているとマリスに似た生物がまた空を埋め、マリスから小爆発が再び飛んでくる。濁った空によってマリスが厄介さを増すならば、それを晴らすのみだ。

 

 太陽の蛾が僕の背に張りつき、自身の重みを感じなくさせてくれた。僕は四名の英雄に高揚を覚えながら、拳へ嵐を纏わせる。巨人となったマリスを大樹と見立て、薙ぎ倒すために。

 英雄ジークバルトが、僕の伝えた名称を諳んじ、決意を示す。僕も彼と共に唱えた。太陽の戦士として、ずっと心の内で思っていた言葉を。

 

 

『夜の王に、太陽あれ!』

 

 

――――――――――

 

 

 英雄たちが、嵐を解き放つ。白き閃光を伴った刃と、青い光を帯びた光波。そして追跡者が頭上から叩きつけるようにして放つ、古き嵐。

 夜の中で再び顕現した伝説は、兆したちを紙屑かのように簡単に切り裂いていく。常に悦楽に浸っていたマリスも、一変した戦況に余裕を見せることはできなかった。

 

 祈るようにして蹲っていた紛い物の巨人。急速に進化したマリスが動き始める。夜の王と、英雄たちの大技のぶつけ合いが幕を開けた。

 

 

 マリスは動くたび『兆し』を生み出し、作られた腕の先から半透明の触手を撒き散らす。膨張することを自身の意志では止められず、しかしそれが攻撃に転じていれば、広範囲を殲滅できる力にも捉えられるだろう。核がある頭部からは濁った飛沫が放たれ、地面を紫の光線が這う。

 

 英雄たちはそれを、巧みに前転して避け、隙を見て得物を構える。一気に放つのではなく、交互に嵐は撃たれる。持続的かつ潮の満ち引きのように、緩やかで時に激しく攻撃が為される。マリスの核目がけて狙いすまし、外膜を通り抜ける振動で、マリスを窮地へと追い込んでいく。

 ついに衝撃がマリスの態勢を崩した。無理やり固めたような膝を立てた後、マリスは地面へ手をつく。灰の英雄は機を逃さず近づき、嵐を近距離でぶつけ始めた。

 

 

『一気に畳みかける。』

「続くぞ。」

 

 

 追跡者は左腕に取り付けた鉤爪を飛ばし、高速でマリスへ接近する。そうして灰の英雄と共に、大剣を振り下ろし続けた。

 無頼漢とカタリナのジークバルトは少し離れた位置で構え、マリスが起き上がったときに追撃する。重い、抉るような音がして、マリスは今度こそ地面へ倒れ込んだ。

 

 その間、小壺旅人は支援しながらも攻撃に集中していた。早く風を集めることこそ、マリスを討つのに繋がると理解しているからだ。拳から飛び出る小さな青き風の剣は、射程こそ短いが素早く連撃となる。幼き壺は危険を顧みず、積極的にマリスの足元へ飛び込んでいった。太陽の蛾は、飛沫を橙の技で相殺し壺の身を守る。息のあった連携が、同じ夜を共有した者であることを意味していた。

 

 立ち上がったマリスは、先ほどの緩やかな様子が嘘であるかのように、激しく力を暴れさせた。技と呼べるものは何一つとしてない。核から放たれる光線は乱雑に周囲を爆発させ、生成した腕を細長くし、鞭のようにしならせた。マリスの思考の程度は著しく下がっている。恐れおののくことを知ってしまったが故に。

 

 英雄たちは慎重に立ち回る。ただ暴れ回るだけの巨体から攻撃を受けるなど、歴戦の戦士には起こりえないことである。

 

 マリスが腕から生やした触手をくねらせ、体へべたりと張り付けた。次の瞬間、マリスの周囲が大きく爆発する。英雄たちは吹き飛ばされこそしたが、聖杯瓶または、不死人の宝エスト瓶を飲み、体勢を整える。

 次は当たらない。それを繰り返す。強敵相手であっても、見て覚えれば必ずや勝利へたどり着ける。戦闘に長けた英雄たちの知見は、奇しくも一致していた。

 

 

 技のぶつけ合いは激しく。やがて体を通り抜ける嵐に、マリスが限界を迎える。古生物であった何かは最後に、孤独の内では知り得なかった感情を学んだ。

 マリスは、恐れを歓迎した。濃密な夜に触れ、自覚した興味と悦楽を満たしたために。それが自我を持ったとき、去来していたのは、意思への憧憬であった。

 

 夜の気配が灰の上に零れ落ちる。夜明けを望む者たちはそれを手にし、協力者たちは分からないままにそれを見守る。

 狭間の外、交わるはずの無かった世界の英雄たち。一時の協力も、間もなく終わる。

 

 

――――――――――

 

 

 マリスが消滅するのを見届け、夜を吸い取った。僕は改めて感謝を述べようと、灰の英雄と英雄ジークバルトの方を向く。その時、僕はずんと喪失感を覚えた。彼らの体が段々と透けていっているのだ。マリスが倒されたから命を落とすというわけではなく、召喚の類であったようだ。

 彼らの体は白い霊体のようになっており、しばらく経てば完全にいなくなってしまうだろう。 まだ話したいことはたくさんあるのに。確かに英雄との会合は奇跡的であった。だがお別れするには早すぎる。

 

 そんな僕の焦燥は吹き飛ばされた。いつの間にか座り込んでいただ英雄ジークバルトが、笑いながら提案したことによって。

 

 

『貴公ら!手強い相手に、見事だった!残っている時は少ないが、祝杯といこう!』

「がはは、祝いの酒とは良いもんだ!こっちも…ほれ。良い酒を持ってきてるぜ。音頭は任せた、兄弟!」

『これを貴公に渡そう。こちらはもう持っている。折角だ、飲めそうに見えないが貴公にも。』

「感謝する。」

「うう…!」

 

 

 灰の英雄から手渡されたものは、ひんやりとした樽のジョッキだった。これは間違いなく、英雄ジークバルト謹製の酒だ。そして僕は、ジョッキの上に置かれた金色のメダルに、じんと感情がにじむ。灰の英雄の在り方は尊く、まるで太陽のようだ。

 英雄ジークバルトはうんうんと頷いた後、ジョッキを片手に言う。僕はその言葉を心に刻み付けるために、じっと待った。

 

 

『貴公の勇気と、我が剣、そして我らそれぞれの使命に―――太陽あれ!』

 

 

 

 それから僕は、英雄たちと言葉を交わし、勇気をもらった。短い時間ではあったが、それを感じさせないほどに僕は幸せに包まれた。彼らの話は内容は覚えているが、僕の方は何を話そうにも頭が回らなかった。

 

 そして別れの時はやってくる。完全に二人が消える前、僕から贈り物をした。足しにはならないだろうが、僕の持てる力全てを込めた『ヒビ壺』のお守りだ。

 

 英雄たちの使命の達成を願って。僕は彼らに無い胸を張れるよう、努力する。夜を明けさせ、いつか彼らのような温かい太陽の戦士へなれるように。

 

 僕は心を新たに、太陽の蛾と夜渡り二人の後を追う。また一歩、夜明けに近づいた。きっと決戦はもうすぐだ。




遺物
太陽のメダル

戦いの後に譲渡された、輝かしいメダル
わずかに熱を帯びた、なによりの名誉の証

異なる世界においても、太陽の戦士は語られ
その後継もまた、己の太陽に辿り着く

基本性能:
特色 黄色
大きさ 大

遺物効果:

周囲の味方を含めHPをゆっくりと回復
雷の武器、祈祷を強化(雷属性の武器、祈祷であれば与ダメージ増加)
アーツゲージ蓄積増加+3


遺物
先触れの瞳

戦いの後に遺された、夜の先触れの眼球
しとりと湿り、瞳の奥には深海が映る

古生物は孤独を自覚し、故に形を失くした
変わらず、夜は宙にある

基本性能:
特色 青色
大きさ 大

遺物効果:

全ての魔術を強化
最大HP上昇
最大FP上昇
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。