ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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Chapter7
真の夜明けへ


 三組に分かれ出撃した夜渡りたちは、それぞれ位相のずれたリムベルドにて終点に辿り着き、目的を達した。夜の気配、元凶への道を照らすための灯火を、得ることができたのだ。

 打ち倒されたのは別のリムベルドから混合し、深き夜から姿を現した王たちである。復讐者、レディ、執行者の三名は知性の蟲の似姿と。守護者、隠者、鉄の目の三名は更に歪み、捻じれた竜の爵と対峙することになった。

 レディと鉄の目は異なる場所にいながらも、同じく強い感情を持った。以前死闘を制した王へ、再び相対したことに。

 

 だが、覚えた激情の性質は違った。レディは夜という現象に対して悍ましさを覚え、ぞっと背筋を凍らせた。王でさえ夜に囚われ、永遠に戦い続けることを彼女は理解したのだ。

 早く使命を果たさなければいけない。レディは決意を固めた。

 

 反対に鉄の目は、闘志を燃やした。夜の中で生きれば、戦いも続く。仲間と共に脅威を狩り続ける、自分の望むものがここにはあるのだ。

 夜渡りとして目的は果たすが、それはそれだ。この予期せぬ再戦を受けて、鉄の目は確信していた。元凶を倒したところで、完全な夜明けを迎えることはできないと。

 ならばこの長期戦を楽しもう。彼の思考はどこか楽観的であった。

 

 リムベルドという土地を基点にした夜の特殊性。知恵者ならば推し量ることができても、掌握しきることはできない。

 夜の中に入り込む前。夜を渡る戦士と王、そして狭間の地の民達は皆、一つの個体であった。彼らはリムベルドと同じように何千何万にも分かたれ、複製される。同じ姿形、性質を持ちながらも、それらは別の選択をするのである。

 ある夜渡りたちは、力が十全にあれど夜の王に敵わず、まるごと夜に呑まれ。また、ある夜渡りたちは仮初の夜明けを迎えて、魂の一部をリムベルドの外へ飛ばし。そして一部の夜渡りは、己の信じる道のため夜の中に残り続ける。分かたれた存在の数だけ、可能性も分化するのだ。

 

 

 小壺旅人の滞在する円卓も、仮初の夜明けへと近づく。夜の王たちの気配が凝集し見えずにいた導きが、英雄たちの戦いによって再び輝きを取り戻したからだ。しかし、これで長きに渡った戦いが終わるのか。戦士たちは疑問を抱いている。

 そんな中、ふらりと剣士が倒れた。突然の不調だ。彼は無頼漢の手により、控室のベッドに運ばれた。その後、円卓の面々が彼の体調を診るため、ベッドを囲む。戦士たちは、仲間の身を案じながら時を過ごす。

 

 調律の魔物との取引は、副産物を齎した。一時過剰なまでに高められた生命力は、脳を活発に働かせた。そのため、マリスが溶け合った生命たちを強く感じ過ぎてしまったのだ。

 彼は夢の中で、垣間見た。王冠のように尖った兜、空洞になった胴体。三つ腕の、騎士のような外見をした異形を。

 それは夜を象る、世界の敵。変貌した彼自身であった。

 

 剣士は、脂汗をかきながら目覚めた。自身が何故その道を辿ったのか。そのわけさえも理解し、終わらぬ悪夢に魘される前であった。

 

――――――――――

 

 僕の視界の隅で、追跡者が目覚めた。彼はがばりと勢いよく上体を起こし、兜の隙間から荒い息が漏れている。僕はすぐさま木製の容器を手に持った。冷やしておいた水だ。

 共に控室で彼が目覚めるのを待っていた、無頼漢と巫女も動き出す。

 

 

「お兄ちゃん、目が覚めたんだね…!どうぞ、この水を飲んで!」

「ああ…。すまない。」

「まだ起き上がらなくてもいいんじゃねえか?無理すんなよ。」

「そう、無理はしないでね。何か持ってきてほしいものはある?私が用立てるわ。」

 

 

 追跡者はぐいとベッドに手をつき、立ち上がろうとする。それを僕含め三名で留め、追跡者を座らせた。

 無頼漢は声を潜めて言う。巫女は先ほどまで導きを読み取っていたため、白いフードを被ってはいるが、厳格そうな演技はしていない。無頼漢に同調した後、ハラハラと落ち着かない様子で、追跡者の体調を確認し始めた。

 

 

「いや、見ずとも大丈夫だ。面倒をかけたな。」

「そうかい…。調子が戻ったら一杯やろうぜ。声をかけてくれよ。」

「分かった。…それでも休んでいて。皆に伝えたら、またすぐに戻ってくるわ。」

「僕もついてるよ!しばらくはこの部屋で調べ物があるから、食べ物が欲しかったら言ってね!」

 

 

 僕たちの要望を彼は聞き入れてくれ、立ち上がろうとする脚を脱力させた。小さく頷くと、ベッドに腰かけたままで虚空を見つめる。

 追跡者はだいぶ参ってしまっているようだ。魘されていたことだけが原因とは思えない。

 僕は席を外す無頼漢と巫女を見送った後、羊皮紙を握って椅子に飛び乗る。そしてしばらく様子を伺い、タイミングを見計らって、それとなく聞き出してみることにした。

 意識を取り戻す前、追跡者の口から飛び出した人名。おそらく彼の家族についてを。

 

 

 僕は追跡者と雑談をする。主に先の戦いについてである。

 文献を調査しながら、机の上に置いた物品を一つ一つ手に取ってみる。マリスとの戦いの後得た三つ。英雄ジークバルトが作った酒、太陽の戦士を象徴する金色のメダル、マリスの核から無数に生えた瞳の一つ。どれも僕の感情を激しく揺さぶる戦利品だ。

 

 

「本当に、夢みたいな体験だったな…。」

「…まさか小壺が話していた、戦士そのものと出会うとはな。お前と共闘するとき、いつも驚かされる。」

「あはは!あの方たちと会えたのは、悪魔さんの力なのかもしれないね。このまま夜明けに向かうまで、対立しなければいいんだけど…。」

 

 

 追跡者は首を横に振る。そして、机の上に置かれた羊皮紙を指し示した。そこには僕たちとは違う組が遭遇した夜の王についてがまとめられている。僕たちが戦ってきた夜の王によく似た存在である。

 解釈によっては、今までの戦闘が徒労であったと結論付けることになる、恐ろしき事実。僕は壺を傾け、追跡者の意見に賛同する。

 

 

「うん。夜渡りの皆さんが戦った夜の王についても、考えないといけないね。」

「そうだ。…そして、話しておきたいことがある。秘めたまま、裏切るわけにいかない。」

「…お兄ちゃんの考え、聞くよ。」

 

 

 追跡者は僕から視線を外すと、重い口ぶりで話した。裏切りという誠実な彼から聞くことが無いと思っていた単語に驚く。決意を固めた様子の彼に向かい合い、話しだしてくれるのをじっと待った。

 

 そして僕は、彼から飛び出してきた言葉に、更なる驚きを覚える。追跡者が戦う理由は知っていたが、出自の深くまで聞いたことはなかった。無理やりに聞き出すのは、記録者や学者など情報を生業にしている者が行うことだと思っていたからだ。

 彼の大切な人を知る。そしてその人が、夜の終わりと密接に関わることも。

 

 控室の外に視界を傾けた。彼女も自身の定めを知っているはずだ。

 語る彼から、時折迷いが見える。当然のことだ。彼は目覚めた瞬間から、絶えず決断を迫られているのだから。

 僕は考えを巡らせるが、やはり出てきた結論はぶれることが無かった。

 

 夜明けを迎えるとき、犠牲を出すなどあってはならない。追跡者も彼女も、未だ夜に囚われている魂も解放されるべきだ。

 

 

「お兄ちゃん、選択肢は一つじゃないよ。円卓を消さないように、夜を無力化する方法を見つけ出そう!」

「…策はあるのか。」

「作戦って言えるほどじゃないけど…悪魔さんと戦ってみるんだ。それにまだ会ってない夜の王とも。まだ僕は、夜について知らない事ばかりだから。僕の中での決戦は、悪魔さんとの勝負になると思う。」

 

 

 僕はリブラのことを思い浮かべる。悪魔は、選択肢の外側を許容した。そして先の戦いでは、僕たちにとって明らかに少ない代償で、大きな価値をくれた。つまりリブラの考える価値は不変であり、僕たちは気の持ちようで幾らでも軽くすることができる。融通も利く。

 あれだけの力を行使できるのに僕たちを害さないのは、悪魔が公平さだけでなく、交渉の形を取りたがっていることに他ならない。自身の公平さを証明できる相手を欲しているのだ。

 

 膨大なルーンに上乗せして、別の代償を提示することができれば。リブラからより大きな価値を受け取れる。夜を観測し続けた悪魔から、情報を得ることができるだろう。

 追跡者は僕の考えを頷きながら聞いてくれた。その後彼が反論をすることはなかった。

 

 

「相対する奴が俺自身となれば…俺の戦いは徒労に終わる。ならば、お前の模索に俺も乗るべきだ。」

「お兄ちゃんも協力してくれるなら心強いよ…!行こう!」

 

 

 僕は椅子から降りた後、追跡者と握手する。彼の手からはもう、迷いを感じない。まだ標的は見えていないが、より根源へ。元凶とされた夜の王よりも奥にいる事象へと、矛先を向けたのだ。

 

――――――――――

 

 追跡者と小壺旅人が、真の意味で目的を一つにした頃。守護者と無頼漢も、目的へと近づいていた。

 守護者は、多くの同胞を殺し自身の翼を蝕んだ元凶を見つけ出した。無頼漢は再び狭間杯の舞台へ上がる。

 夜は、暗い復讐の色に染まることもでき、暗がりに隠れた未練へ導く手にもなれるのだ。

 

 またリムベルドでは、悪魔によって更なる異変が引き起こされる。溶け込んだ命が自由意思を得て、余興はついに仕上げに入った。

 

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