ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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Chapter2
円卓


 僕の意識が再び浮上した時、目の前は全く別の景色に変わっていた。椅子が巨大な卓を囲むように並び、その中心には眩い黄金がある。

 導きだ!僕は大きな祝福に驚き、反射的にぐいと体を持ち上げた。その際力を入れ過ぎていたようで、いつの間にか座り込んでいた椅子の肘掛けが、みしりと音を鳴らす。

 

 

「ここは…。円卓そっくりだ。」

「…驚いたな。この場所を最初から知る者とは。」

 

 

 雰囲気は違うが、この空間も僕にとって既視感を覚えさせるものだった。

 旅路の途中訪問した、王都ローデイル。そこには、ひっそりと旧き円卓があったのだ。

 

 エルデの王は、新しい円卓で神を討つための力を練ったと聞く。その円卓と、ローデイルに有った空間とは同じ構造をしていたとも。

 僕がぽつりと呟いた言葉を拾うように、感情を押し殺したような声が背後からした。僕は振り返る。白いフードを被り、目を隠すように銀の装飾を付けた女性が立っていた。

 

 僕は椅子から降り、彼女に壺を傾けて挨拶する。

 

 

「こんにちは、お姉ちゃん。僕は旅の途中の壺。追跡者のお兄ちゃんから、ここに案内してもらったんだ。」

「…ほう。貴方が…。」

 

 

 白フードの女性は僕に顔を合わせた後、横へと首を動かす。追跡者が女性の元に歩いてきたからだろう。

 追跡者は静かな口調で話す。僕をここに連れてきたわけについて、先ほどより感情の乗った調子で。

 

 二人の会話を聞いていると、少しずつ分かってくる。

 女性は巫女であり、この円卓の管理者であること。

 彼の討とうとしている『夜』へ、対抗できる人員は非常に少なく、手掛かりを集めるのにも時間がかかっていること。夜は幾度もやってきて、この狭間の地を荒らし尽くしていることを。

 

 現在、追跡者も含めて『夜渡り』と呼ばれる戦士の内、戦えるのは六人だという。彼らは選りすぐりの強者であり、最善を尽くしてはいるが、あと一歩が及ばない。夜の王、災いの元凶まで辿り着くには欠けているピースがあるのだと。

 女性、巫女は小さく頷き、口元に拳を持ってくる。

 

 

「貴方が秘める力を見たのだ。彼についてはよく分かった。…だが彼は罪人ではない。選ばれた者でないのに、夜を屠る使命を帯びることが出来るかどうか。」

「…お姉ちゃんたちは、夜に困っているんだね。僕も元は戦士の壺。本分は忘れていないし…それに、旅の途中で手助けをするのは当然のことだよ。」

 

 

 巫女の決断を迷っているような口ぶりに、僕は口を挟む。自らが在り方を決められる時代に生きていても、僕は継承の果てに高みへたどり着くため作られた、戦士の壺だ。旅人としての道を選んでも本質は変わらない。

 雨と夜の脅威の断片を、僕は身を以て知った。抜け落ちる力に、正気を失った君主の姿。

 あの災いを止める手助けならば、喜んで行うつもりだ。

 

 巫女は僕の言葉を聞いた後、フードを深く被り直す。

 

 

「…そうだとしても、私は客人として貴方を迎えるとしよう。ようこそ円卓へ。」

 

 

 貴方の同胞も喜ぶことだろう。彼女は少し和らげられた声音で、そう言葉を続けた。

 

 許可が下りた。僕は安心感を得た後、大きくヒビの入った体を修繕するため、まずは空いている場所を巫女に尋ねる。巫女は掌を左の道へと向け、示す。

 

 

「訓練所には物が多くある。好きなように使ってくれ。それと…手が借りたいならば、召使がいる。奴はあちらにいるから声をかけるといい。」

「ありがとう、巫女のお姉ちゃん!お兄ちゃんも僕のことを話してくれてありがとう!」

「…気にするな。」

 

 

 巫女と追跡者に言葉をかけ、僕は鞄の紐を握る。

 修繕するのは鞄もだ。僕はキズを押さえた状態で訓練所へと歩いていった。

 

 

 ごうごうと音を立てて、薪木から炎が舞う。

 僕は今、円卓の雰囲気の不思議さを感じながら、体の表面を焼きながら修復中である。正面が終わったため、残るは背面だ。背中を炎に預けて、僕は訓練所に置かれた武具や打ち込み台の類を、のんびりと眺めている。

 

 

「やっぱり、ここは狭間の地なんだな…。」

 

 

 鞄の破れたところを針と糸で縫い直していると、ぼんやりと思う。黄金樹の無い狭間の地。孤島のごとき、リムグレイブに似た名前の土地、リムベルド。巫女の話を聞いていて、確信に至ったのだ。

 

 今まで得てきた知見が、全てひっくり返されるような異常事態。だが僕は戸惑いはあれど、恐怖はなく、寧ろわくわくしていた。

 これこそ、僕が望んでいた旅路。未知と、まだ見ぬ強敵との戦いに僕は震えていた。

 

 じゅうじゅうと音を立てる壺の表面を撫でる。割れ目は無くなっており、寧ろ戦いの前よりも固く丈夫になっているのを感じる。僕は炎から体を出し、あらゆる手段を使って消火した。訓練所から立ち上っていた煙はやがて無くなった。

 準備万端だ。僕は次に、同胞に姿を見せることにした。

 

――――――――――

 

 夜渡りの一人が、訓練所の入口から小さな壺を見ていた。

 先ほど、巫女から夜渡りたちに向けて連絡があったからだ。

 円卓に客人がやってきた。その人物は、私たちの戦いへ加勢するという旨を話してくれたと。

 

 その夜渡り、翼の国で生まれ鳥人騎士となった『守護者』にとって重要なのは、小さな壺が新たな群れに加わるのかどうかである。群れに入らず、危険分子となり得るならば、守るために矛を振るおう。

 

 鋭い猛禽の眼光。彼の近くには、大きな黒いとんがり帽子を被った女性が、ゆったりと構えていた。

 

 他の夜渡りたちは、知らせを聞こうと思い思いの時間を過ごす。長い戦いを乗り越えるため、己の士気を高めるために。

 

――――――――――

 

 僕は祝福の浮かぶ場に戻り、巫女と追跡者に手を振ってから、先ほど巫女に教えてもらった方向へと進む。

 建物の構造は知っている物とほぼ同じだが、置いてある物品が余りにも違うため、毎度新鮮な気持ちで内装を眺めている。

 ふと僕の近くで鎖帷子の擦れる音がする。横に追跡者が立っていた。

 

 

「…俺も商人に用がある。ついでに案内しよう。」

「うん、よろしくね!」

 

 

 追跡者は柱に手を当てながら部屋を跨ぎ、僕は後ろをついていく。

 蝋燭で照らされた廊下だ。外から光と風が入ってきて、修復した壺を撫でる風が心地よい。追跡者は、僕に視線を向けると、僕の体について訊いてきた。

 僕は自身の修復技術のことを話す。追跡者はおおと小さく声を上げた後、掌を廊下の奥へと向けた。

 

 確かに壺だ。商人としての生き方を望んだらしいその壺は、メダルを正面に飾りつけている。こういった在り方も、素敵だ。僕は同胞の選んだ道を誇らしく思った。

 僕が手を振りながら近づくと、かかかと音を立てて手に持ったボードへ何かを書き込み、僕に見せた。

 それは飛び回る壺の絵だ。商人の小壺も、この出会いを喜んでくれているらしい。

 

 

「…この出会いに感謝を!」

 

 

 僕は小壺商人の手を握って振り、気持ちを伝える。僕の後ろでそわそわとしている追跡者が印象的だった。

 

 

 僕は同胞との対話を行っていく。小壺商人は喋らない壺であるようだ。だが感情表現は絵で適確に表されるため、滞りなく交流は進んだ。

 僕は交流の中で、小壺商人が売っている物について聞く。これに関しては追跡者が詳しく教えてくれた。

 

 彼は遺物『閉じ込まれた景色』を売っているのだと。それも夜渡りたちがそれぞれ戦いの中で見た情景を思い起こされるものだという。夜によって存在が擦り切れていく夜渡りには、この景色が次の戦いを好転させる鍵になると、追跡者は話した。

 

 小壺商人に追跡者が通貨を支払う。寒色のルーンのごときそれは彼の小さな手に収まり、その対価として綺麗な石が十個ほど、追跡者の手に置かれた。

 直後兜に手を当てて、追跡者が唸る。渡された景色があまり良いものではなかったのだろうか。

 

 

「その通貨を手に入れたら、お兄ちゃんに渡すよ。落ち込まないで。」

「…ああ。」

 

 

 小壺商人との交流は一旦区切りがつき、また話そうと僕は手を振る。商人も手を振り返してくれる。

 

 ここには、他にも人がいると聞いた。多くが追跡者と並ぶ強さを誇る戦士であるとも。この地におけるデミゴッドを倒せる実力者。それは英雄と呼んで差し支えないだろう。

 期待が高まり続けるばかりだ。是非、話を聞いてみたい。

 

 僕が円卓の周辺を探索するため単独行動をしようとしたとき、僕の前に背の高い戦士が立ちふさがった。鳥類の脚。僕は壺を傾け、知らぬ種族の戦士が全貌を確認する。

 大盾と斧槍を担ぎ、厚い鉄鎧を着こんだ猛禽類の騎士。僕が知りたがる、夜渡りの一人であった。

 

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