ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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夜渡りたち

 見下ろしてくる騎士に対し、僕は背を覗きこむ。そこには一対の翼があった。

 僕にとって翼がある種族と言えば混種だが、頭部の造りや脚の形からして違う存在だ。まさに鳥人と呼ぶのがふさわしいだろう。

 僕は、夜渡りの殆どが狭間の地の外から来たということを、巫女と追跡者の話から知った。新たな種族との会合を喜びながらも、僕は壺を下げ元気よく挨拶をする。

 

 すると、鳥人騎士から漏れ出ていた威圧感が無くなった。その後、背の高い騎士は屈んで、僕へ目線を合わせてくれる。精悍な顔立ちで鋭さがあるが、目の奥は柔らかく穏やかな印象を受けた。彼は低く落ち着いた声で話す。

 

 

「貴殿は礼儀正しいな。使命を持たぬ者でありながら、私たちに加勢してくれると聞いている。共に戦えることを心強く思っているぞ。」

「夜渡りの、鷹のお兄ちゃん。会えて、とても嬉しいよ!」

 

 

 僕は彼と話しこみ、彼が『守護者』であることを聞いた。彼は夜渡りや巫女、召使のことを新しい群れであると認識しているようで、それを守る盾になることを望んでいるようだった。

 盾となるための鍛錬は欠かさず行っているとのことで、手合わせを所望する旨を言うと、快く引き受けてくれた。

 

 その誇り高い在り方を知り、猛禽類そのものの顔を見ていると、かつてストームヴィルに君臨した『嵐鷹の古王』が思い起こされる。

 加えて、御伽噺の中の一節に現れた、嵐を起こす嘴の竜も頭に浮かぶ。その竜と名を失った王との物語は、黄金のゴッドウィンが古竜と友誼を結んだ出来事と似た部分があり、とても好きな話だ。

 守護者は突風を起こすことで攻守を兼ねることが出来るらしく、その点でも伝承と御伽噺の王が被って見えた。

 

 僕がそのことを話すと、守護者は背から生えた翼を少し動かした。

 

 

「それほど偉大な存在と重ねられるとは…。貴殿は、色々な話を知っているようだな。また聞かせてくれるか。…私には学ぶべきことが沢山あるのだ。」

「もちろんだよ、鷹のお兄ちゃん!そのときは、楽しんでもらえると嬉しいな。」

「うむ。私からも、他の者に伝えておこう。貴殿の人となりをより知っていれば、話しやすくなるだろう。」

 

 

 僕はサムズアップをし、守護者の顔から険が完全に取れていることも確認する。彼にとって円卓の住人は家族のようなものだ。いきなりやってきた訪問者に対して、警戒をするのも当然のことだろう。短い話の間で、少なからず信頼してもらえたことに安堵した。

 

 そして僕は、守護者の円卓での過ごし方を聞き、彼が『先生』と呼ぶ夜渡りと、他の夜渡りたちがいる大体の場所をメモに記した。僕は残る彼らに話しかけるため、円卓内を練り歩く。

 

 

 その後僕は、夜渡りたち全員に挨拶をして回った。身のこなしを重視した鎧とフードを装備した『鉄の目』、海賊らしい肉体を多く見せる服を着た『無頼漢』、体にぴったりと張り付く形の鎧である『執行者』、そして闇のように暗い肌ととんがり帽子が特徴的な、先生こと『隠者』。

 

 彼らは個性的であり、鉄の目からは任務に対するひた向きさを、無頼漢からは鍛えられた肉体から迸る豪快さと戦いへの情熱を、執行者からは描き始めようとしているものへ静かなる執念を、隠者からは霧中のような捉え切れなさをそれぞれ覚えた。

 

 また彼らには得意分野があり、鉄の目は弓、無頼漢は巨大な武器、執行者は刀、隠者は魔術と見事に被りがない。

 僕ら生き壺は、拳を使った格闘を得意とする。硬質な体と岩の拳に勝るものはないからだ。

 しかし、だからこそ僕は戦術の幅を広げたい。僕は純粋な戦士ではなく、旅人である。一つの戦法を究めるのもいいが、何でも使うのが性に合っているのだ。

 

 僕が知りたいと思う個々の夜渡りの力、それが見られるのは戦場だ。僕は彼らが戦いへ向かうまで、待つことにした。円卓で、とても有益な情報が書かれている書物を読みながら。

 

 

 静かな時間が流れている。

 僕は今、僕の横幅よりも大きい巨大な図録を広げていた。僕が知っている狭間の地とは違くとも言語は同じであると分かったため、壺を近づけて図録の内容を一言一句逃さずに読んでいく。

 ぺらりと紙をめくる音が三つ。僕を含め、近くにいる守護者、隠者の三名が出している音だ。

 

 この図録の存在については、隠者が教えてくれた。僕が壺一倍知識欲を持っていることを察してくれた隠者は、彼女の読書スペース近くに置かれている本を薦めてくれたのだ。

 隠者の薦めは適確で、僕が知りたいと思っていた情報を詰め込むことが出来た。知れば知るほど謎は深まり、リムベルドの全貌は見えてこないが、その方が楽しくもある。

 

 

「魔法使いのお姉ちゃん、少し聞きたいことがあるんだけど…。」

「…どうしたの?」

「ここの、飛竜アギールの技にリムグレイブについての記述があるんだ。昔リムベルドは、リムグレイブって名前だったのかな?それが知りたくて。」

 

 

 僕は守護者の邪魔をしないよう、静かに椅子を降りて隠者に話しかける。声音がどこか幼げな彼女は、僕の質問に対してじっと考え込み、真なることは分からない旨を返す。

 

 

「だけど、この祈りはリムベルドに現れた。貴方の考えは、間違いでないかも。」

「…うん。ありがとう、お姉ちゃん。」

 

 

 隠者はふんわりと話したが、僕は彼女が知恵者であると理解している。きっと多くを知っているはずだ。

 情報を明らかにしないのには、理由があるのだろう。もしくはリムベルドの成り立ちについて調査することに、関心がないか。

 リムベルドは夜が来るたび様変わりするという。ただ確かなことは、変化する構造の中でも現れるものに規則性があるということだ。それが図録に記述された情報である。

 僕は断片的な情報群から、この狭間の地が辿った歴史を推察していく。再び静かな空間に、紙の音だけが響いた。

 

 

 書物を読みふけっていたとき、円卓内外に巫女の言葉が伝えられる。夜渡りたちが、リムベルドへと降り立つときがやってきたのだ。

 僕は円卓に向かう守護者と隠者についていき、続く巫女の言葉を待つ。

 

 巫女は夜渡りたちそれぞれに顔を向けながら、追跡者と守護者、隠者の通称を唱える。続けて呼ばれる名前は、鉄の目、無頼漢、執行者であった。三人一組を作ることで、効率的に探索を行うようだ。

 そして最後に彼女は、僕へ視線を投げかける。巫女は僕の気持ちを確かめているようだった。

 

 

「僕も行くよ。準備万端、しっかり装備は持っているから。」

「ああ、すまないお客人。私たちには余裕がなくてな。…だから引き止めることは出来ない。貴方は、こちらの三人と共に向かってくれ。」

 

 

 巫女は顔を伏せてから言い、僕を追跡者たちの組へ加わるように指し示した。

 確かに円卓に滞在してからは、彼ら三人と過ごす時間が長かった。連携を取るなら、少しは理解が深い組へ入れることにしたのだろう。僕は近くに寄り、円卓を出立する準備を共に行う。

 

 鷹の霊体が崖近くでホバリングし、夜渡りたちを待つ。戦士たちは慣れた様子で霊鷹の脚を触り、力強く掴んだ後体重を預けた。

 

 

 調査を行い、リムベルドの状態について実感がわき始めた中、僕は考えたことがある。

 夜に飲まれた人々は、果たしてただの獣なのか。

 

 赤獅子の人々はそうではなかった。強靭な精神力がそうさせたのだろうが、僕は他にも正気を保ち続ける戦士はいると信じている。

 僕はそういった、意思を持ち続ける者を夜から連れ出したい。叶わなければ、せめて義を重んじる戦士からの継承を。

 

 夜渡りたちとは違う、僕個人の目的。それを達成することを念頭に置きながら、僕は準備を終えた。

 

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