ジェネリック小壺 in リムベルド 作:棘棘生命(一旦再考中)
夜渡りたちと同様、僕も霊鷹に掴まり大空を飛んだ。霧に包まれた円卓の外、海原の上を通っていく。
こんなにも地面と離れたことはあっただろうか。僕は出来る限り水面を見ないように気を付けながら、浮遊感を楽しんだ。
霧を抜け、やがて島が見えてくる。リムベルド、何度も夜と雨が到来する地。僕は空いた右手に持った、二つの紙面を見比べた。
一方は初めてリムベルドを探索した時に書いた作りかけの地図、もう一方は準備の際に巫女から手渡された地図だ。受け取った地図はリムベルドの変化に対応する、特別な術が施された代物であり、夜渡りたちは一人一人常備しているそうだ。
確かにいつ雨が降り始めるか分からないなら、最初から地図を持っておくのが有効的だろう。
二つの地図について、前者は比較できるほど完成してはいなかったが、建造物の位置が違うように思える。だが、中心に城砦があることは変わらないようだ。この狭間の地の特異さを思い知らされた。
霊鷹はリムベルドの淵を旋回するように飛び、一向に地面へ辿り着く気配を見せない。僕は壺を傾げながら、前を飛ぶ夜渡りたちの様子を伺う。
「夜渡りさんたちは、どこに降りるのかな…わっ!?」
僕が注意を散漫していると、突然霊鷹が脚を振り払った。僕の左手は空を切る。ごうごうと音がして、急速に僕の体は地面へ近づいていく。こんな高所から落ちれば、僕は絶対に割れる。生き壺だけでなく、人間なら当然の摂理だ。
何とかしないと!僕は鞄の中から縄を取り出し、落下地点の近くの木へ巻き付けることにした。衝撃と多少の損傷は食らえど、生き延びることは出来るはずだ。
こんなときこそ冷静さを欠いてはならない。僕はタイミングを見計らって、縄を投げた。
「あ…あれ?」
縄は引っかかり、地面がすぐそこまで迫る。僕は覚悟を決め衝撃に備える。しかし、来るはずの衝撃が全くない。足は付いている。
これまで以上に、現実味の無い状況だ。僕の頭は疑問で埋め尽くされた。
体を触り、割れ目の一つもないことを確認するだけして呆けていると、僕の視界に三人の夜渡りが映った。鳥人の騎士である守護者が、僕に話しかけてくる。
「貴殿、無事なようだな。翼の無い身で、加えて初戦では慣れないものだろう。」
「…僕が何ともないのって…。」
僕の疑問に夜渡りたちが説明してくれる。曰く、円卓に集まった戦士たちは、加護を受けているのだという。だからどれだけ高所から落ちようと、着地地点さえあれば無傷で継戦できるそうだ。
戦士として巫女が認めたからこそ、この加護を僕も受けているのだ。それは僕の延長線上にも適応されると、隠者が補足してくれた。
真偽はともかく、そういった法則が働いているなら順応しよう。僕は戸惑いから立ち直り、揺れる感情を鎮めた。
追跡者が、指を地図で言うところの東方面へと向けた。隠者も地図を見ながら、追跡者に同意する。
「…ここへ向かおう。教会と大野営地が固まっている。」
「…ええ。」
「夜渡りさんたち。戦いに行く前に少し聞いてほしいことがあって…。」
三人はどこを攻めこむかを素早く判断している。僕は彼らのルート構築を把握した後、僕自身の目的について話す。皆、移動しようとしていたが、その前に僕の言葉を聞いてくれた。
「僕は、夜の雨の中でも自我がある戦士たちに会ったんだ。そういった人とは協力できるかもしれない。だから、大変だと思うけど、彼らが正気かどうかだけ確認しながら戦いたい。」
「分かった。だが、時間は限られている。俺は…容赦は出来ないからな。」
「うん。これは僕個人がすることだから。お兄ちゃんたちの手は煩わせないよ。」
僕の目的は言い終えた。隠者は頷き、守護者は余裕があれば手伝う旨を返してくれた。僕は感謝を述べ、セスタスを拳に取り付ける。
僕と夜渡りたちは地を駆け始める。忙しく、短い旅が始まった。
夜渡りたちは、道中の野犬や正気を失った兵を倒しながら進んでいく。どれも一、二撃で仕留めており、三人の戦闘能力の高さが分かる。
僕も加勢しながら、後をついていく。体を回転させたり疾走したりを繰り返すことで、野営地のある位置へと近づいてきた。野営地の中の状況を確認する。炎が人の亡骸を焼き、体の芯から燃える亡者たちが徘徊しているようだ。
加えて、火の巨人の顔を象った戦車が三台止まっている。戦車を動かす兵以外、言葉が通じる可能性はないだろう。だが、夜渡りたちが野営地に入り込んですぐに、僅かな可能性さえも潰えた。
亡者たちが叫びながら爆発し、戦車隊は無機質に砲台から火炎を放射する。僕が声を出す前に、人でなくなった化物たちは攻撃を開始した。
――――――――――
追跡者がまず、前方の戦車を相手取る。言葉を介さずとも、夜渡りたちは時に集合して一体の強敵を倒し、時に分担して各個撃破を行うのだ。守護者は、隠者と小さな壺、つまり小壺旅人に目配せすると、奥にいる戦車の元へと向かった。
小壺旅人と隠者は、残る一つの戦車を倒すこととした。隠者はまだ己の杖しか持たず、剥き出しの操縦席、戦車の弱点を突くことが出来ない。それを察した小壺旅人は、ぐっと拳を握り、隠者に伝えた。
「お姉ちゃん、僕が近づくから距離を保ってて!」
「…お願いね。」
小壺旅人は駆け、戦車の背後へ素早く回り込んだ。戦車は兵器として火力は高くとも、小回りが利くわけではない。操縦している者が決まった動きしかできないほど擦れていれば、尚更である。
小壺旅人は重心を移動させ、戦車の凹凸を掴んで上がり、頂にて右腕を振り抜く。そこは戦車の砲台が積まれた要。もう一つの弱点である。
小壺旅人は、腕を炎で焦がされながらも平然とした様子で引き抜き、後方へ跳ぶ。戦車はすぐさま爆散し、木製の車輪は砕け散った。
隠者は数瞬で強敵が討たれたことへ感情が動いたのか、ほうと息を吐く。彼女は油断することなく、亡者へ『輝石のつぶて』や『輝石のアーク』を放ち、自身が得意とする距離で戦闘を継続する。
亡者は狩られ続け、やがて追跡者と守護者が二名へ合流する。それは炎の戦車隊が倒されたことを示していた。
――――――――――
夜渡りたちが僕を案内する。向かった先には祝福と、暗く光を放つ靄があった。
黄金樹はなく導きは存在しなくとも、恵みの残滓である祝福は点在する。僕は旅路の中で習得した技術を使い、ルーンを力へと変えた。
靄のようなこれは戦車隊たちが有していた、潜在する力だという。夜渡りたちの見よう見真似で、僕も力へと触れる。すると身体能力の底上げが出来る特殊な力と、物質的な力、武具の類が浮かび上がってきた。
力の結晶が顕在するとは、何とも神秘的な現象だ。知的好奇心を刺激されながらも、僕は靄の中にある、体を持続的に癒やす力を掴み取った。
「すごい!夜渡りさんたちの強さにも、この不思議なことにも驚いてばっかりだよ!」
「…新鮮な反応だな。次は教会へ行く。聖杯瓶は持っているか?」
「ううん。でも黄金の種子とか、聖杯の雫とかはいくつか持ってるよ!確かこれを使えば、聖杯瓶の質をもっとよくできるんだよね?」
「なんと、そのようなものがあるとは…。やはり貴殿の辿ってきた旅路は、とても興味深い。」
僕が背負い鞄から物を取り出すと、追跡者は瓶を手に持ったまま動きが止まる。守護者は僕の手にある二つをしげしげと眺め、まるで初めて見たかのような反応をした。
なるほど、この地では別の方法があるのだろう。僕は追跡者の言葉を待つ。
彼は言う。夜を乗り越えるには回復手段がいくらあってもよいという旨を。
「使ってくれ。」
「ありがとう!僕からはこれを渡すね。」
彼から差し出されたもう一つの瓶を両手で受け取る。代わりに僕から皆へ、持っている黄金の種子と聖杯の雫を一つずつ渡した。使う場面のなかったこれで、探索が実りあるものになるならば。
半透明な商人の霊体が野営地におり、ルーンと引き換えに物を買えるそうだが、何か買うには足りない。僕たちは教会へと進む。
その後、マリカ教会に酷似した建造物に入り、像の前の台や木箱などから道具を拾うと、僕たちは次の目的地を考え始めた。今回は隠者と守護者が向かいたい場所を示す。教会から近い、小さな砦と魔術師塔である。
「ここに行けば…使える魔術も、増えると思う。」
「砦の頂に向かえば、現在のこの地を俯瞰して見ることもできよう。位置からして、先生とは一度別行動をするのもいい。」
短い作戦会議は終わる。追跡者は隠者に同行するという。反対に僕は守護者へついていくことにした。
合流地点は、丁度真ん中の位置にすることとして、僕たちは二手に分かれた。
守護者の横に並び、移動の最中、今までの戦いについて尋ねる。先程から行われている効率的な作戦会議は、きっと長い時間をかけて形成されたものだろう。この、戦場での連携は、基本一人旅だった僕にとって常なるものではなかったため、憧れもあったのだ。
守護者から聞ける、夜渡りたちの戦法についての話は本当に楽しく、そうしている間に砦へ到着していた。
「ここには手強い兵が多くいる。奇襲には気を付けていくとしよう。」
「うん!援護は任せて!」
彼は、繰り返される夜の中で砦の構造を熟知したらしく、迷わず砦の地下から入っていく。
そして段差を乗り越えたところで、守護者の歩みは緩やかになった。その意味が僕にも分かる。
地下には、場を埋め尽くすがごとく沢山の儀式壺が置かれていた。
「貴殿…彼らをどう見る?」
守護者は盾を構えながら、背後に陣取る僕へ語り掛けてきた。儀式壺に紛れ、手足をしまった生き壺が二、三体はいる。
異なる狭間の地、雨に飲まれながらも存在する壺。果たして同胞たちは、僕に応えてくれるだろうか。
僕は、眠る彼らにそっと近づいた。
小壺旅人
アビリティ【旅路の勲章】
強敵を倒す度、異なる地に由来する道具を使い
ランダムな効果を味方全員に付与する