ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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心強い壁

 近寄る僕の気配に気がついたのか、通路脇でただの儀式壺に扮していた同胞がぶるりと身じろぎする。

 僕は出来る限り敵意が無いことをアピールしながら、その生き壺へと語りかけた。僕が同族であること、もし言葉が届いているならば共に行きたいという旨を。

 

 

「壺の皆、聞いて!僕は皆と同じ旅の壺だよ。僕はまだ、擦り減る雨を詳しく知らないけど、皆を苦しみから逃がしたいと思ってる。それで、もっと多くの壺たちを夜から連れ出して、一緒に戦いたいんだ!」

 

 

 王が即位する前の狭間の地において、壊れた律の影響をほとんど受けなかったのが、僕たち壺だ。ならば、黄金樹がないこの状況においても、耐え忍べているのではないか。僕は微かな期待を持っていた。

 大きな生き壺は立ち上がり、僕たち壺特有の前傾姿勢でじっと動かない。

 

 周囲を確認すると、もう二つの壺も目覚めており、僕と守護者の方を向いているのが分かる。しばらく緊張状態が続き、守護者が左腕の力を抜いたときそれは解けた。

 

 

「どうやら…彼らに想いは通じたようだ。」

「皆…!」

 

 

 大きな生き壺三体は、壺を一度縦に傾けた。直後彼らから思念が漂ってくる。

 夜はずっと長く、繰り返している。小さな同胞よ、夜明けをもたらすことはできるか。

 

 彼らの重く岩のようになった思念に強く応える。必ずや災いを取り除くと。すると生き壺たちは僕の傍に近寄ってきて、それぞれ拳を掲げた。

 

 僕は旅人だから通りすがりだからと、無責任になるつもりはない。この地で壺たちが脅威に晒されているなら、尚更だ。

 僕の目指す英雄とは、身のこなしは軽やかでありながら、約束は重く受け止め詰め込める壺である。口先や気持ちだけにならないように、何より己の内のみにある標、温かい太陽に恥ずかしくないように。僕は自ら定めたこの地での目的を更に固めた。

 

 

 僕と守護者、生き壺三体は円を描くように陣取り、上階に続く階段の前で作戦を練る。守護者が地図の中心、大きな砦を指し示した。彼は嘴を触りながら言う。

 

 

「城砦には、この砦よりもさらに手強い兵が現れる。そして時折、壺たちも出現するのだ。私たちは、探索の最後に城砦へ向かうことが多い。貴殿…壺殿が声をかければ、彼らとも協力できるかも知れぬな。」

「やってみるね!きっと皆、耐えているはずだから。」

「うむ。では、上階に向かうとしよう。」

 

 

 今回は守護者が先陣を切ってくれるようだ。僕は並んだ生き壺たちに、まだ正気を保っている戦士には交渉したい旨を話しておき、守護者の後へ続く。

 

 木製の階段の先には本棚が配置されており、輝石の結晶がそこかしこに付着している。そして輝石頭の魔術学徒たちが四人、こちらに向かって攻撃を仕掛けてきた。

 知性は夜の雨によって擦り減り、部外者を殺すだけしかできなくなったかつての知恵者たち。僕は虚ろな彼らに立ち向かう。

 

――――――――――

 

 鳥人騎士は斧槍で、輝石魔術師の体を貫きながらも、息の合った壺たちの動きに目を見張る。自然と小壺旅人の攻撃を援護するように、魔術師を回転で吹き飛ばしているのだ。質量の暴力に、魔術師たちはなすすべなく地面へ背をつけ、終いには投げ飛ばされて力尽きていった。

 守護者は壺たちのチームワークに心を動かされたが、小壺旅人の言動にも着目していた。大きな壺が味方をしているのは、小壺旅人が同族を助けたい気持ちを、実際に行動へ移したからだと彼は考えていた。

 裏表なく真摯に語りかけ、戦いを回避した。これは夜渡りが選ばない択であり、忘れかけていたものであると。

 

 彼からも学ぶべきことがある。守護者は元来の誠実な性根から、小壺旅人に敬意を込め特別な呼び方をすることにした。

 

 掃討は終わり、保管されていた物品を漁った後、五名は最上階へと向かった。かつて魔術学院の一部と繋がりを持っていた結晶人と、魔術師二人が砦の外を意思無く眺めていた。

 五名は相対する者たちの虚ろさを理解し、迎撃を行うことになる。結晶人がチャクラムを振り回し、跳躍した。

 

 

「皆!結晶人はヒビが入ってから、畳みかけよう!」

 

 

 続けて、小壺旅人は守護者に言う。自分が、分散して輝石魔術を飛ばしてくる魔術師たちを倒すと。横から攻撃を受けないように各個撃破するのだ。

 守護者は役割を理解し、結晶人の注意を引く。地面を切りつけながら転がされるチャクラムをガードし、少しでも表面を傷つけるために、つむじ風を巻き起こす。周囲の木箱が砕け、風に舞った。

 

 大きな壺たちは、魔術師の逃げ場を無くすように立ち塞がり、小壺旅人の攻撃を確実に当てさせる。小壺旅人が杖の先端を手刀で斬り落とした後、魔術師の胸部を貫く。一人、二人と着実に倒し、横槍が入る可能性は無くなった。

 

 壺たちは、結晶人との戦いに入った。一対五の圧倒的に有利な状況へ持ち込み、全方位から結晶人を猛烈に殴りつける。凄まじいラッシュの果てに、結晶人の硬質な体へ小さなヒビが入る。それが命取りであった。

 ヒビが広がり、全身が弱点へと変わる。結晶人は再び跳躍することもできず砕け、持っていた力を残して四散した。

 

――――――――――

 

 結晶人が力尽きたところに、暗い靄が出現する。野営地にて戦車隊を倒したときにも見た、潜在する力だ。僕は逡巡することなく、攻撃力を高める力を掴み取る。

 守護者も力を継承し、奥の部屋へと進む。部屋内の机には、戦略を練っていた形跡が記された地図が広げられていた。彼は机の地図を調べ、情報を夜渡りたちへ共有する。

 

 

「杖も拾っておこう。先生なら、上手く使ってくれるだろうからな。」

「そうだね!僕が持っておくよ。合流した時に、お姉ちゃんに渡すね。」

「壺殿、恩に着る。」

 

 

 僕は杖を鞄にしまい込み、他にも追跡者が使えそうな武具を拾っておく。守護者曰く、建物の構造は同じでもしまわれている武器は訪れるたびに違うという。リムベルドはどこまでも混沌としている。

 部屋から出て、僕は壺たちに対し次の建物へと向かうことを話す。壺たちは快諾してくれ、一緒に砦を降りていく。驚くべきことに、壺たちは僕と協力することを決めたことが要因か、高所からの落下をものともしなくなっていた。

 

 そして魔術師塔と砦の中間地点へと僕たちはやってきた。しばし待っていると、魔術師塔の方面から追跡者と隠者が走ってくる。二人は並ぶ壺たちに驚いていたが、敵にはならないと僕が説明したところ、共に戦うことに理解を示してくれた。

 

 

「…味方になるなら、心強い。」

「とてもすごいね。この調子なら、今回こそ…手がかりが見つかるかも。」

 

 

 隠者は手を叩いた後微笑み、僕が渡した杖をしまい込む。杖を見て更に笑みを深めていたのを見る限り、有用であったようだ。

 夜渡りたちは作戦を立てる。次に向かうのは、城砦に近い廃墟だと満場一致で決まった。

 

 

 だがそのとき不気味な予感がした。リムベルドの外から暗雲が立ち込める。

 作戦は変更だ。廃墟ではなく、大教会へと。雨に打たれないよう、僕たちは雲の無い空を目指して移動を開始した。

 

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